加賀です。今回このコーナーを担当します。さて今回はル級さんの過去後編ということで、ちょっと暗い感じですが私は元気です。
え?私の出番、ですか?今回はほとんどないですけど・・・
・・・頭に来ました。ちょっとそこに正座なさい。いいですか?そもそも・・・(割愛)
そういえば、あなたの名前をまだ聞いてませんでしたね」
名前?そんな大層なものは私にはない。あるのは艦として識別用の、戦艦ル級というモノだけだ。
「なら、私がつけてもいいですか?」
「・・・アァ・・・」
「そうですねぇ・・・優・・・花・・・うん、優花はどうでしょう?」
いいんじゃないかな、というか、私には何が何なのか分らなかった。
「これからよろしくお願いします。優花さん」
そういうと彼は、屈託のない笑顔をこちらへ向けてくる。それに対して、私はぎこちなく笑い返した。
ナカヤマに助けられてから早くも一か月が過ぎた。
別にこれと言って変わったことはなく、昼間は一人で、朝と夜は二人で過ごす日々だ。
彼は私が退屈しないようにとたくさん本を持ってきてくれた。
一人の時はもっぱらそれを読んでいた。
が、どれだけ本を読んでもナカヤマへの気持ちはわかりはしなかった。
「・・・僕の顔に何かついてます?」
「イや・・・」
顔が熱を持つのを感じながら、視線を手元の本に落とす。彼は頬を掻くと、炎の中に薪をくべた。
「うん、骨がくっついてますし完治です」
ここでの暮らしに慣れ早3か月。ようやく目標だった足の骨折が完治した。
「これで海に戻れますね」
そう笑顔で言う彼を見て、胸のあたりが少し―ズキン―と痛んだ。
「アの・・・モウすこシイても、イイかな?」
彼は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔に戻り
「なら、僕の家・・・といっても診療所なんですけど、そこに行きましょう」
「アリガトウ・・・」
当初の予定とは違うが、この気持ちを知ることや、もっと人間を知ることは今後に役立つと考えた結果だった。
「ナカヤマ、これはここでいいのかい?」
「うん、そこでお願い」
半年もすると、私は言葉で円滑なコミュニケーションをとれるようになっていた。
今はナカヤマの助手をしながら勉強に励んでいる。
「えーっと、あとは・・・うわっ!」
足元の段ボールに引っ掛かり、転びそうになる。
「おっと・・・大丈夫ですか?」
「・・・はい」
ナカヤマに抱き寄せられ、事なきを得る。
しかし、ここでまた別の問題が発生した。心拍数がかなり上がっていた。
「顔が真っ赤ですけど・・・」
「ホントに大丈夫だから!」
心配そうにこちらをのぞき込むナカヤマを振りほどき、必死に顔の前で手を振りながらキョウハアツイナーなどと棒読みでつぶやく。
彼は不思議そうな顔をしていたが、やがて部屋へ戻って行った。
「やっぱり恋なのかな・・・」
まだ赤い顔で、うつむきながら呟く。
胸がどきどきしたり、ズキズキ痛むのは恋だ。
この前読んだ本に書かれていた。
「でもどうすればあの鈍感マンに気が付いてもらえるのかな」
一緒に住んでいて分かったが、すぐに洗濯物をため込むし、実験ばっかりしてるし、髪を結んでいてもほどいていても全く気付いてくれない。
しかしそれは、ナカヤマも一緒であった。相手が人間でなくても関係ない、そう思っていた。
深海棲艦と人間の恋、実るはずのない禁断の恋が始まるかに見えた。
ドラマなら、この後苦節の末にゴールインするだろう。
しかし、現実は非常である。
『離島の派遣医師、敵勢力を匿う!』
村に私のことがバレてしまったのだ。
彼の言いつけを破り外に出てしまった私は、自身が海の平和を乱す悪だということを忘れていた。いや、忘れたかった。
見られたのはたった一人だったが、恐怖は伝染する。
今では村の住人4238人すべてが私の敵である。
「待ってください!優花は・・・彼女は危険ではありません!」
「うるせぇ!そんな言葉が信じられるか!きっとスパイか何かだ!」
「そうだ!深海と人間は所詮敵同士なんだ!」
「そいつは海の悪魔だ!」
「死ね!化け物!」
村人の投げた石の一つが頭に当たり、そこからは青い血が流れだす。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
戦いの時ですら感じたことのない恐怖。うずくまり、震えるほかなかった。
「私の息子はあいつらに殺されたんだ・・・!」
震えながら刃物を手にした老婆が、こちら目がけて走ってくる。
あぁ、陸で死ぬとは思ってもみなかった。目を閉じ、震えていると、何かに刺さる音がした。
「あぁ・・・」
「そんな・・・」
村人たちは驚いたように声を上げる。私も恐る恐る音がした方向に目を向ける。
「ナカヤマ・・・なんで!!」
「君に死んでほしくなかった・・・」
「だからってこんなこと・・・」
目から涙がとめどなく溢れる。
「僕のために・・・泣いてくれるんですね・・・」
「あたりまえだよ・・・一番大切な人なんだから・・・」
「ありがとう・・・ございます・・・」
「もう喋らないで・・・今手当を・・・」
止血を試みるが、傷が深く血は流れ続けている。
「耳を・・・」
耳を口元に持っていくと、かすれた声で
愛してます、
と最後の力を振り絞りそう言った。私も、と言いかけたところで彼はすべての生命活動を停止した。
これからどうする、彼の復讐として、こいつらを自爆覚悟で皆殺しにでもするか。
いや、彼は共存を望んでいた。
そんなことをしても喜んではくれない。
こいつらは共存できないと言っていた。ならば共存することこそ復讐だ。私は彼だったものを抱き上げ、後方の海へと姿を消した。
「という訳で、私はもう誰も失いたくないんだ」
重たい過去を、ハンバーガーでも注文するかのように軽く語った彼女。しかし、その瞳は泣いていた。
「ただ、君たちが税金泥棒なんて言われを受けるのも耐え切れない。だから、戦争を再開したという事実さえあれば、君たちはそんなことを言われないで済む」
「そちらのメリットがあまりに少ないが・・・」
訝しげに尋ねる提督。ル級、いや、優花はその問いに微笑んだ。
「メリットはあるよ?艦娘と人間と深海の共存なんて最高の復讐だからね」
「そうか・・・で、平和な戦争とか言ってたが・・・」
「内容は、チェスとかオセロとかでもいいんだ。戦った、という事実があれば」
「言ってることめちゃくちゃだな・・・」
苦笑いし、コーヒーを口に運ぶ。
「・・・艦娘としては、この申し出はどうなんだ?」
「私も仲間を失いたくないし、賛成」
「わ、私も、できれば戦いは・・・」
加賀と山風が答える。現場に到着した金剛四姉妹もおおむね同じ意見だった。
「瑞鶴・・・お前は?」
「たとえ航空戦だろうと、ボードゲームだろうと、私は負けない!」
威勢が良くて結構なことだ。
「そういえば、深海棲艦って陸に上がれるの?」
「余裕・・・」空母ヲ級がそう言ってどや顔を見せる。
「なら、話し合いたいこともあるし、今日は鎮守府に泊って行ってもらおう」
「じゃあ宴会だね!」
「待て、なぜそうなる」
「和解に乾杯ってところかな」
「宴会・・・ウッ頭が・・・」
「山風?」
とりあえず、あとのことは帰投してから考えよう。
「忙しくなりそうだな・・・」
そう呟くと、報告書を破り捨てた。
「・・・さすがにこれは、まともに書けないよな・・・」
この世界では第二次世界大戦後に深海棲艦の登場、長らく海の平和は脅かされていたが、20年ほど前に艦娘の開発が行われ、徐々に海を取り戻している。というような感じです。
艦娘が生まれるまでは、自衛隊が多数の犠牲を払いながらも均衡を保っていました。
さて、深海棲艦と和解に向けて進んでいく鎮守府一行だったが、そこへ現れる不穏な影・・・
おっと、先まで読みすぎましたね・・・