私に勇気を下さい   作:小将

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零れ落ちる本音

なんだろうこの気持ちは、久しく忘れていたような感じだ。目の前にいるステージに佇んむ彼女がもの凄く輝いて見える。

覚えている、私はこの感情に覚えがある。そう、この感情は......渇望だ。

 

「ごめんあこ!先に帰るね!」

 

「えっ、ゆうゆう?」

 

その感情を自覚した私は自分を抑えられなかった。ライブハウスから出てただひたすらに走った、()()を求め、ある場所を目指した。

走っている今の私はどんな顔をしているだろうか、苦しい顔?疲れた顔?興奮した顔?こんな自問自答に意味はない、だって私は自覚しているから今の自分がどんな顔をしているか、決まっている、飛びっきりの笑顔だ!

 

 

目的地であるおばあちゃんの家、到着と同時に目的のものを求めた。

 

「おばあちゃん!私のギターどこにある?」

 

私の呼びかけに対し、リビングの方からおばあちゃんが出てくる。

 

「あら、夕祈急にどうしたの、今日は来る予定だったかしら?」

 

「いや、来る予定はなかったんだけどちょっとね。それより私のギターどこにある?」

 

「それだったらいつもの部屋に置いてあるけれど、本当にどうしたの、何かあったの?」

 

「ごめん、後で説明するか、心配しないで」

 

そう言い残し私は言われた部屋を目指す。

階段を登り、見覚えのある部屋の前、勢いよくとびらを開ける。

特にこれといってものが置いてある訳でもない部屋、その部屋の隅の方、スタンドに掛けてある青いギターが私を呼ぶ。

直ぐに手に取り手短にチューニングを済ませる。そのまま感情に任せて弾く。弦を抑える感覚、ピックで弦を弾く感覚、耳に届く音、その全てが今の私には心地よく感じた。決して上手いとは言えないような演奏、だけど止められない、だって今私は1番音楽を欲しているんだから。

 

ーーーーーーーー

 

私には2人の姉がいる。

1人は天才、どんなことも1度見聞きしてしまえば出来てしまう。自分の欲求に忠実で、自分にも他人にも嘘をつかないで、今までの人生で挫折や諦めなどした事の無いような本当の天才。

1人は秀才、1度見聞きしれば出来るなどといった天性のものはない、だけど、それを補って余りある心の強さ。こちらは挫折も数多かったことだろう。だが諦めはただの1度もなかった、そんな心の強さを持っている。

 

だったら私はどうだろう、天性の才能もなくて、ただただ平凡な才しかなく。強靭な心なんてなく、あるのは吹けば飛んでしまうような弱くて脆い心。

ねぇ、私には何があるの?何が出来るの?

........あの2人に負けないところはあるの?

分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

...........分かんないよ。

 

いつからなのかな、こんなことを考えるようになったのは、少し前までは仲のいいただの姉妹だったんだけどなぁ。日菜姉がなんでも出来るのなんて当たり前だった、それを見ていつも悔しがっていた紗夜お姉ちゃんも見慣れたもの、そんな2人を苦笑しながらもいつも追いかけていた私、そこにこんな醜い感情はなかったのに。あぁ、前は本当に楽しかったなぁ、本当に。

 

 

そんなことをひたすらに考えているうちに私は欲することを辞めた。

望んでも手に入らない才能も、心の強さも要らない。負けないところなんて要らない。楽しかった過去なんて当てにしない。.........私に意味なんて要らない。

 

そうやって私、氷川夕祈は出来上がってしまった。

自分を諦め、嘘をつき、自分の心を欲求をひたすらに偽って上っ面だけを作り上げて、本当は一緒にありたいのに2人と共にいることではなく、2人の後ろでただ眺めていることを選んだ。心の弱い実に私らしい選択だ。

 

 

 

 

それなのにあの歌声は、彼女の声は私の心の否応なしに開かせた。どうしてだろう、あれほど悩んで決めて、何も欲しないって決めたはずなのに。私の欲求なんでどうでもいいとそう思ってたのに硬い蓋を心にしてたのに、心の蓋を開けるだけでは飽き足らず、心から感情を溢れさせた。

ダメなことだって今も思っている、欲しても無駄なんだとも思っている。だけどしょうがないじゃないか、押し留めていたものが溢れて飛び出したのだ、もう止めることは出来ない、ならばあとはその欲求に従うのみだ。

 

ーーーーーーーー

 

弾き疲れて寝てしまっていたらしい、窓の外に月が見え部屋の中も薄暗い、随分と長く眠っていたらしい。

ただ覚えている、私は衝動的に音楽を求めた、音楽を欲した、彼女の隣に立ってみたいと憧れたのだ。

憧れ、昔諦めたはずの感情だ、諦めたはずの。だけど!自覚してしまったから、少なくともこの欲求だけは騙すのはやめだ。

 

「私.....音楽をやりたい。湊 友希那、彼女の隣に立ちたい」

 

その夜、嘘だらけの私からひとつの本音がこぼれ落ちた。

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