時刻は朝、場所は教室。ホームルーム前の生徒たちが登校してくる少しうるさい位の現在、まだ眠いため目を軽く擦りながら自分の席に着いた私の前には、私と正反対に朝から元気そうなあこが腕組をして立っていた。
「さあゆうゆう、昨日のことについて話してもらうよ!」
案の定この要件だ。そりゃあそうだろうね、昨日は突然だったもんね
「あ〜昨日ね、ほんとごめん。なんにも言わないで行っちゃって」
「も〜、ゴメンとかはいいの!それよりも、あこはゆうゆうがなんで帰っちゃったか教えて欲しいの」
なんでか、ほとんど衝動的に行動しちゃってたから口で説明しようとするとすごく難しいなぁ。まあ、正直に言えばいいだけか。
「ちょっとね、急にギター引きたくなっちゃって」
「ギター?めずらしいね、ゆうゆうからやりたいって言うの」
「なんかあのトリで歌ってた人の歌声を聞いたらさ、いてもたってもいられなくて......」
「...友希那」
「え?」
「湊友希那!最後に歌ってた人の名前!」
湊友希那、覚えているのは当たり前だ。なんせ私が目標に定めた人物なのだから。でもまさかあこの口から彼女の名前が出てくるとは思わなかった。
「あこってあの人のこと前から知ってたの?」
「ううん、知らなかったんけどね。あの人すっごくカッコよかったから調べて、それで名前分かったの」
「あこも、あの人のこと気になっちゃったか〜」
当たり前か、カッコイイ好きのあこが、あんなにカッコイイ人を見逃すはずがないしね。
「もっ、てことはやっぱりゆうゆうも?」
「まぁね〜、急にギター弾きたくなるぐらいには夢中かもね」
「それって相当だよ!?」
あこが驚いようにツッコミを入れてくる。
「え、そんなに?」
「うん、そんなに。あこもね友希那さんの歌を聞いた後にドキドキして、すっごくドラムが叩きたくなってゆうゆうと同じ気持ちになったよ、けどお姉ちゃん達もいるしちゃんと我慢したんだよ!」
あこは思ったことをすぐ行動に移したりしがちに見えるけど、案外しっかりと周りを見ていて行動は大人だから流石と言ったところだ。
それよりもあこも私と同じで楽器に触れたかったというのは驚いた。
「ごめんごめん、それよりもあこもドラム叩きたくなったの?」
申し訳ない気持ちは本当だが、軽く謝りつつ私は気になることを問いかけた
「うん!あこってお姉ちゃんみたいにカッコよくなりたくてドラム始めたでしょ。けど、友希那さんの歌を聴いたらね、お姉ちゃんと同じくらいカッコイイって思って、あの時のお姉ちゃんに憧れた時と同じ気持ちになってすごくドラムを叩きたいって思った!」
同じだ、憧れたんだあの人に。
「そっか、じゃあさ、あこはどうしたい?」
けど、まだドラムが叩きたいってだけのようだ
「どう?ドラムを叩いてその後....」
「私はね、決めたよその先の事」
だから示してあげる、そこから先にある気持ち、私と同じ気持ちを
「私は、友希那さんの隣でギターを弾きたいんだ。あの人の歌に魅せられて夢中になって憧れたんだ。そんな憧れと肩を並べたい、その憧れを目指したいんだ。あこは違う?憧れただけで終わり?」
違うよね、あこは私みたいに嘘つきじゃないもん、道が見えればとことん走っていく、私の知っているあこは...
「隣で一緒に...うん、あこもやりたい。友希那さんの隣でドラムを叩いてみたい!」
それでこそ、私と正反対の大親友だよ。
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4限が終わるチャイムがなる。つつがなく授業も終わり、周りではグループで購買に行ったり、作り席をくっつけたりして昼食を取ろうとしているところ、あこは一目散に私の元へと着て弁当箱を広げた。
急いできた理由は察しがついているので、直ぐに話をふる
「じゃあさっきの続きをしよっか」
「うん!」
先程の話はチャイムがなって途中でおあずけになってしまった為ずっと話したかったのだろう、いつもよりも食い気味に返事をしてくる。
とは言ったもののどうしようか、あこのこと焚き付けちゃったのは私なんだけどなんにも思いついてないし
「とりあえず探すしかないか」
「そうだねー、けどどう探そうか?」
そっちの方もノープランの為返事は咄嗟のものになる。
「と、とりあえずライブハウスでまた歌うかもしれないからそこの確認をしようか」
咄嗟とはいえ無難すぎたかな
「おぉ、確かにー、流石ゆうゆう」
あこは気に入ってくれたみたいだ。あこが満足してくれたなら私の発想も悪くなかったのかな
「じゃあ早速今日の放課後にでも聞きに行こっか」
「あ、それならお姉ちゃんも用があるって言ってたから一緒にいこうよ」
「そうなんだ、じゃあ放課後に待ち合わせだね」
「よーし、けってーい!じゃあ、早くお昼食べちゃってお姉ちゃんの教室に行こう!」
トモちゃんとの待ち合わせ場所の高等部の校門、私は1人でトモちゃんとあこを待っていた。あこは日直の仕事があるから先に行っててと言われ、トモちゃんはまだ着いていない。
周りでは私と同じで待ち合わせをしている人や帰宅している人がチラホラと見られる。
少し待っていると何人か知った顔も通っていく、家の手伝いがあるからと急いでいるつぐちゃん、バイトに行くらしいモカちゃん、二人からトモちゃんも日直の仕事で遅れているとのこと、姉妹揃ってこんな所でも仲がいいのか。そして
「あっ、ゆうちゃーん!」
羽丘の高等部に通っている日菜姉がここを通るのは必然的だった。
私を見つけた日菜姉は周りの目なんか気にせずに子供のように駆け寄ってきた。
「ゆうちゃんが高等部の前にいるなんて珍しいね、もしかしてあたしに用?あれ、けど今日は用があるって連絡してきたよね、もしかして高等部に用があるの?だったら言ってくれれば...」
大抵の人はこの日菜姉のテンションにびっくりしてしまうだろうが流石にもうびっくりはしない、伊達に何年もこの人の妹はやっていない。
「落ち着いて日菜姉、私は用があってトモちゃんとあこを待ってるだけだから、日菜姉は今帰り?」
「そうだよー、あっそうだ!これからねー....」
「ちょっと日菜ー、待ってよー」
ん?なんかギャルっぽい人がこっちに向かって走ってきてるけど日菜姉の友達?なんかああいう人と付き合いがあるのは意外だ。まあ、日菜姉自体が意外性の塊みたいな人なんだけどね
「あっ、リサちー。もう遅いよー」
「え〜違うって、日菜が早すぎるんだよ。で、その娘は?」
「あっ、そうだ!紹介するね、この娘は私の妹のゆうちゃんだよ!」
「どうも、ゆうちゃんこと氷川夕祈ですよろしくお願いします。えっと...」
「あぁ、私ね。私は今井リサ、気軽に下の名前で呼んでもらっていいよ〜。」
「はい、改めてよろしくお願いしますね、リサさん」
「うん、よろしくね〜夕祈。」
なんか、思ったよりも真面目そうな人だな〜、世の中見た目で判断しちゃ良くないね
「それで〜、日菜姉を追いかけてたみたいですけどどうかしたんですか?」
「それはね、ちょっと日菜に頼まれ事があってね、これから一緒に行こうとしてたんだけど、日菜ってば急に走って行くんだもん、びっくりしちゃったよ〜」
あぁ、なるほど納得です。
「なんか日菜姉がすいませんでした」
「あ、いいっていいって、別に怒ってないし。このぐらい慣れっこだよ」
「そういうことなら。で、用事って....」
「あっ、そうだよ!リサちー早く行こ!」
「えっ、ちょっと日菜!?」
突然走りだした日菜姉にびっくりしているリサさん。ほんと姉がすいません
「ゆうちゃーんまた後でねー!」
「じゃあアタシもいくね、またね夕祈。 待ってよ日菜ー」
少し先で手を振っている日菜姉を追いかけるリサさん。見送る私は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。ほんっと日菜姉は日菜姉だな〜。
さて、私はもう少し働きものさん達を待つとしますか。