仕方ないやん、楽なんやし(こら)
「……っつ……はあぁぁぁ……終わったぁ……!」
とエウクレイデスが両手を上げた直後、手伝っていた妖精達も諸手を上げた。
手術開始から、約数時間。ようやく、怪我を負っていた艦娘達の手術が終わったのである。
「さて、後は全員を上げるわよ!」
「はい!」
エウクレイデスの言葉に妖精達は頷き、艦娘達を一人ずつストレッチャーに移し、エレベーターで上げていく。
そうして、エウクレイデスが最後の一人、黒潮と上がって見たのは、待っていたらしい艦娘達の嬉し泣きの顔だった。
その艦娘達は、手術が終わって戻ってきた艦娘達を見て、嬉しそうに駆け寄っていく。
そんな中、一人の艦娘。不知火が
「エウクレイデスさん、ありがとうございます……! もう、半ばまで諦めていました……! 本当に、ありがとうございます……!」
と涙を流しながら、頭を下げた。
それに続くように、他の艦娘達も頭を下げた。
それを見たエウクレイデスは、恥ずかしそうに頬を掻きながら
「いいわよ、私がやりたいようにしただけなんだし」
と言って、帰っていく艦娘達を見送った。手術したばかりの艦娘達は、完治するまで数日間を要するだろうが、問題ないだろう。
そう判断し、エウクレイデスは自室に向かおうとした。
その時、一人の艦娘が新たに近づいてきたことに気付いた。
額に巻いた鉢巻きに、長いピンク色の髪が特徴の艦娘だ。その艦娘は、エウクレイデスに近寄ると
「今回は、怪我した子達の治療……ありがとうございます……私は、工作艦娘の明石と言います」
と名乗りながら、頭を下げた。
工作艦、明石。
第二次世界大戦時に、長い間帝国海軍を支えた補助艦艇だ。直接的な戦闘ではなく、艦艇の修理に特化していて、連合軍では優先撃沈対象に指定されていた。
「私は、私に出来ることをやっただけよ」
エウクレイデスがそう言うと、明石は俯きながら
「本当なら、私があの子達を治さないといけないのに……禁止されて、艤装は没収されて、何処かに隠されて……」
と言葉を漏らした。どうやら、無力感を感じているようだ。
そんな明石の頭に、エウクレイデスは手を置いて
「話しは聞いてるわ……あんただって、辛かったでしょう……むしろ、あんたは自分に出来ることをやった……そうでしょう……?」
と問い掛けた。
「それは……はい……出来る限りの修理をして、見送りました……」
「だったら、誰もあんたのことを恨んだり怒ったりしたいわよ……胸を張りなさい」
明石の言葉を聞いて、エウクレイデスはそう言って明石の背中を軽く叩いた。
その後、エウクレイデスは明石に治療した艦娘達の術後観察を任せ、部屋で休むことにした。
そして、数日後。
「いい? 外しますよ?」
明石はそう問い掛けると、黒潮の頭に巻いてあった包帯をゆっくりと外した。
それを感じ取ったのか、黒潮はゆっくりと両目を開いた。
「あ……」
「どう?」
明石が問い掛けると、黒潮はゆっくりと周囲を見回してから、自分の体を見て
「見える……見えます……!」
とその両目から、涙を流した。
その直後、ベッド脇に立っていた不知火は、感極まった様子で黒潮を抱き締め、周囲に居た姉妹艦達は喜んだ。
エウクレイデスが治療した、延べ35名は、全員治った。
「明石はん……うち……もう二度と……治らんかと……!」
「ごめんね……何も出来なくって……感謝の言葉は、あの傭兵部隊に言って……」
黒潮に謝ると、明石は窓から外を見た。
その視線の先では、二隻の白亜の巨艦が静かに佇んでいる。
その二隻の周囲には、数十人の艦娘達が集まっている。
スピリッツのことは、既に周知されている。異世界からの傭兵とあって、やはり珍しいようだ。
そんな時、アークエンジェルの前足が彷彿させる部分が開き、中から赤い装甲の人型機が出てきて
『こちらに接近してくる輸送船を確認した……そちらのデータベースでは、おおすみ型というタイプのようだが……』
と言って、ある方向を見た。
確かに、一隻の大型輸送船がゆっくりと近づいてきていた。
多目的輸送船、おおすみ型の一隻だ。側面の番号から、大本営所属の二番艦のようだ。
その輸送船はゆっくりと港に停泊すると、階段を下ろした。
すると、その背後に一人の艦娘を従えた白い軍服を着た人物が降りてきて
「初めまして……今日付けでこちらの提督になります、榊原祐輔と言います……すいませんが、何方か案内をお願いしても?」
と声を上げた。