「敵艦、離脱を確認……ダメです、ロストしました」
「……ミノフスキー粒子濃度は?」
「変わらず戦闘濃度です」
CIC妖精の報告に、アークエンジェルは
「付近の部隊とは、レーザー通信。後は信号弾を駆使して連絡を」
と指示を出した。その後アークエンジェルは
「……杞憂で済めばいいんですが……」
と呟いた。
場所は変わり、パラオ泊地の司令部。
「パラオの方々の避難状況は?」
「今現在、約9割完了。お年寄りの避難に手間取ってます」
祐輔からの問い掛けに、涼華が答えた。
それを聞いて、祐輔は
「避難誘導が終わった地区から、人手を回して対処してください。場合によっては、泊地からも出してください」
と指示を出した。
その指示を受けた涼華は下がり、祐輔は通信で入る状況を確認しながら
「……順調過ぎる……」
小さく呟いた。確かに、艦隊が通信不能になった事から、パラオ市民達の避難を開始した。だが実は、初期に沿岸部に敵の攻撃が着弾しており、パラオ守備の量産型MS隊が広域展開。量産型MSが捕捉した敵を撃破している。
だが、それからは敵の攻撃も無く、敵も見つけてはいない。
「しまった……!」
ある一つの可能性に祐輔の頭の中で行き着いた直後、甲高い警報音が鳴り響いた。
「報告!!」
「パラオ第三区画の地中から、突如敵が現れたそうです!!」
「地中から!?」
祐輔としては、探知外の遥か上空から奇襲してくると予想していたが、予想外の地中からの襲撃。
「近くに量産型MS隊は!?」
「広域展開している為に、最低でも数分掛かる距離です!」
パラオに配備され始めた量産型MSは、まだ予定している数の約3割程の数だ。一応スピリッツから教えられてるとはいえ、MSの運用に関してはまだまだ素人の域を出ない。
はっきり言ってしまえば、運用を間違えてしまったのだ。本来ならば、パラオ本島内に少数残すべき処を、祐輔は全機を広域展開してしまったのだ。
(敵への対処が、間に合わない!)
と内心で焦った時
「第三区画に……新たなMS……スピリッツのトライアド隊です!」
「え!?」
通信将校からの報告に、涼華が驚いていた。祐輔も声に出してはいないが、同じように驚いていた。
実はアークエンジェルは、パラオ本島から離れる前に、パラオ本島にトライアド隊を待機させていたのだ。
この世界では、宇宙開発は全然進んでいない。
辛うじて人工衛星が打ち上げられている位で、その人工衛星の精度もまだ低い。
それを考えると、わざわざ海上で艦娘艦隊を狙うより、直接大気圏降下でパラオ泊地を攻撃した方が大打撃を与えられる筈だ。
何故しないのかと考えたら、奇襲という答えしかない。
だからアークエンジェルは、トライアド隊を待機させたのだ。
「第三区画の綾波からの報告では、トライアド隊は地中から現れた敵を撃滅中。との事です!」
その報告を聞いた祐輔は、少し考えてから
「第三区画のシェルターのメイン隔壁閉鎖後、充填封鎖! 第三区画シェルターの人達を、秘匿通路で第一と第二、第四区画の各シェルターの分散避難! 綾波には、何人か第三区画シェルターに入るように通達!」
と指示を出した。
場所は変わり、パラオ第三地区。
地区から現れた敵機、ジオグーンをトライアド第一小隊は次々と撃破していた。
トライアド隊は小隊単位で別れて、パラオ全域に居た。
第三区画辺りは第一小隊が担当していて、数の多いジオグーンを圧倒していた。
ジオグーン
水中用MSのグーンをベースに、地中をモグラのように進み、相手陣地を奇襲する為の機体である。
故に、対MS戦闘は考慮されておらず、実際に地上に出たジオグーンは、トライアド隊からしたら最早ただの的同然だった。
ベースとなったグーンもだが、水中での機動性を重視した設計のため、地上での機動性は劣悪と言っても良い。
『民間人に被害を出させるな!』
『了解!!』
次々と現れる敵MSを、トライアド第一小隊は撃破している。少し前に、第二小隊も上空で交戦を開始したと通信が来ている。
上空の敵MSは、ディンタイプ。
ディンタイプと言ったのは、通常のディンとディン・レイヴンだからだ。
このディン・レイヴンというのは、地球連合軍から奪取して得たミラージュ・コロイドの技術を応用して開発したステルス仕様のディンであり、特務隊仕様とも呼ばれる。
後にディン・レイヴンをベースにした、AWACSディンが開発されている。
『この第三地区のシェルターは、どうなった?』
『隔壁を閉鎖し、硬化材による充填封鎖をするようだ』
硬化材による充填封鎖。
二重にある隔壁の間に、約20分少々で固まるコンクリートのような特殊な材料を流し込むことで、非常に強固な壁にする。
空間の広さによるが、過去の実験では大和型の主砲の直撃にすら耐えた。
完全に硬化すれば、破砕するのは困難だろう。しかし逆に、施設の完全復旧には最低でも半年は必要となる。
充填封鎖を決意する程に、祐輔はある考えに行き着いた。そしてそれは、アークエンジェルも同じだった。
『……まさか、本当に……このパラオを占領する気か、リボーンズ……』
リボーンズ達は、このパラオを占領して、足掛かりにするという予想だった。