「貴方が……新しい提督?」
と問い掛けたのは、偶々港に来てアークエンジェルを見ていた長良型一番艦娘の長良である。
本来は元気溌剌で活発な娘なのだが、以前の提督のせいでその印象が無くなっている。
「はい。本日付でこちらに転属となります、榊原祐輔少将です」
祐輔はそう言いながら、軽く頭を下げた。
その直後、周囲に居た艦娘達は驚いていた。
まさか、少将が転属になるとは思っていなかったのだ。
「あ、一応前に受け持っていたのは、横須賀鎮守府です」
「横須賀!?」
祐輔の告げた鎮守府の名前を聞いて、更に驚愕の声、上がった。
日本国内三大鎮守府。それが、呉、佐世保、そして横須賀である。
祐輔はその内の一つの、横須賀鎮守府にて少将だった。
それはつまり、祐輔は日本国内に於いては高い戦力を有していた筈である。
その時、輸送船から次々と艦娘達が降りてきたのだが、改二艦娘達が何人も居る。
「か、改二だ……」
「初めて見た……」
改二艦娘達を見て、パラオの艦娘達は驚いていた。
噂でしか聞いたことのなかった改二艦娘が、ゾロゾロと降りてきたからだ。
「それで、案内は……」
「お待たせしました!」
祐輔が周囲をみまわしていた時、執務室のある建物から、大淀が走ってきていた。
そして、荒くなっていた呼吸を整えると
「榊原祐輔少将! これより、ご案内いたします!」
と敬礼してきた。それに対して、祐輔は
「ああ、そう固くならないでください。僕、まだ若手の提督ですから」
と告げた。
すると、遅れてやってきた加賀が
「確かに、貴方は若そうだけど……幾つ?」
と問い掛けた。その問い掛けに対して
「あー……今年で20になりますね」
と返した。
それを聞いて、加賀は固まった。つまり祐輔は、まだ19歳ということになる。
19時で少将というのは、破格の階級だ。
「それでは、これより執務室にご案内を……」
「ああ、いえ……僕が案内してほしいのは施設や皆さんの寮のほうです」
「……へ?」
祐輔の言葉が予想外だったために、大淀は間抜けな声を漏らした。
そして、十数分後。
「話には聞いてましたが……予想以上に酷いですね……食堂で出されるのは、レーションのみ……寮はまるで、牢屋……」
艦娘寮を見た祐輔は、溜め息混じりにそう呟いた。
そして、壁に手を触れて
「この壁も……よく見れば、強化コンクリート……窓も少し強く叩けば」
と言いながら、窓を強く叩いた。その直後、シャッターが轟音と共に閉じられた。
「……電気が流されてるシャッターが降りる仕組み……まったく、無駄なことに金と資材を使ったな、前の提督は……」
そのシャッターを見て、祐輔はまるで吐き捨てるように前の提督を酷評した。
それら確認し終わった祐輔は、大淀に
「それでは、講堂に行きましょう。全艦娘を呼んでください」
と告げて、移動を始めた。
そうして、暫くして
「ねえ、確か台、なかった?」
「有った……高そうなの……」
講堂に集まった艦娘達の中で、数人が小声でそう話していた。
すると、その間を通った祐輔が
「今しがた、捨ててきました。邪魔でしたので」
と言いながら、帽子を直した。
いきなり現れた祐輔に、喋っていた艦娘達は固まるが、祐輔はそのまま壇上に上がった。
そうして、講堂に集まった数十名の艦娘達を見渡して
「皆さん、初めまして。僕は今日付けで転属してきました、榊原祐輔少将です。元帥の指示により、この泊地の建て直しを行います」
と宣言した。
だが、信じているのは一握りの艦娘のみで、殆どの艦娘は怒りの感情が籠った目で祐輔を睨んでいる。
それに気づいているからか、祐輔は帽子を取り
「そうは言っても、信じてはくれないでしょう……ですから」
その場で正座。
そして
「たいへん、申し訳ありませんでした」
と深々と頭を下げた。
つまり、土下座をしたのである。
それを見て、殆どの艦娘は目を見開いた。まさか、提督が土下座するとは思っていなかったようだ。
「今回の事は、大本営の不始末……引いては、僕達海軍本部の選定規準の甘さが招いた事……この程度で許されるとは、到底思っていません……ですが、今一度……後一度だけ、僕達を信じてくださいませんか……もし、一度でも信じられないというのであれば、殺されるのも仕方ないこと……彼女達には、決して手出しはさせません……」
祐輔がそう言うと、壇上の前に立っていた祐輔が連れてきた艦娘達は、直立不動で俯いた。
数多居る改二艦娘、それは幾度の実戦を乗り越え、艦娘達と絆を育んだ証拠。
「……今はまだ信頼した訳ではないけれど……その改二の娘達に免じて、信用はするわ……横須賀の守護神さん」
誰もが沈黙していた中で、一歩前に出た陸奥がそう告げた。
「陸奥さん……お姉さんは、あの艦ですか?」
頭を上げた祐輔は、陸奥にそう問い掛けた。
その問い掛けに、陸奥は無言で頷いた。
それを見た祐輔は
「……長門さんのことに関しては、元帥より聞いています……艦娘長門という存在に関しましては、個体差はあれど強い光に過敏な娘は多数居ます……僕の艦隊の長門さんも、そうです」
と告げた。
すると、一人の祐輔艦隊の艦娘が前に出た。その強い意志を湛えた目に武人を思わせる雰囲気は、間違いなく長門、それも改二だった。
「……私がこんなことを言っても、信じてもらてないかもしれんが……祐輔を信じてやってはくれんか……祐輔は、そんじょそこらの提督とは違う……一度は光によって目が見えなくなった私に、根気よく付き合ってくれた……」
と長門は、語り始めた。
「それに私は……リビングデッドらしい……」
「リビングデッド……!?」
長門の告げた言葉を聞いて、大淀は驚いていた。
リビングデッド、分かりやすく言えば動く死体だろうか?
実を言えば、過去から同じような個体が何人も現れていた。
ビッグセブンの一隻だった戦艦長門の記憶を強く継承し、クロスロード作戦による影響なのか、戦いに固執する。
「私は、なんの為に
その気高さに、誰もが沈黙した。
そして、その長門を率いる祐輔。
否、長門だけでなく幾多の改二艦娘を率いる祐輔。
その実力は、確かだろう。
そして何より、改二になるには艦娘との信頼が必要になる。
ならば、信じてみよう。そう判断したのか、泊地の艦娘達は一斉に敬礼した。
それを見た祐輔は、立ち上がり
「ありがとうございます……これより、暫くの間は僕の艦隊の娘達が周辺海域の哨戒と迎撃を行います……皆さんは、輸送船内部の部屋で休んでください……その間に、設備の建て直し及び修復を行います!」
と宣言した。