高久大佐が来てから、約一時間後。演習が始まった。
なお、双方の艦隊編成は以下になる。
祐輔艦隊
旗艦、長門改二 LV98
金剛改二 LV94
赤城改 LV94
蒼龍改二 LV94
秋月改 LV78
神通改二 LV95
高久艦隊
武藏改二 LV93
加賀改 LV89
比叡改二 LV90
翔鶴改二甲 LV90
摩耶改二 LV88
大井改二 LV78
双方共に、バランスは良い編成になっており、どちらが勝つか分からない。
だが祐輔は、あることに気付いた。
(駆逐艦娘が居ない……それに、全員……目に光が無い……暗い……)
羽黒もだが、今演習に参加している艦娘達の目に光が見られなかった。
『ではこれより、演習を開始します!』
という大淀の宣言の後に、高久艦隊を映していた映像が消えた。演習中の公平さを保つためだ。
「蒼龍さん、赤城さん、偵察機発艦」
『了解!』
『彩雲発艦!』
祐輔の指示に従い、蒼龍と赤城は偵察機を発艦開始。
そして、秋月が前に出た。
『念のために、直援隊も上げます』
赤城はそう言って、今度は烈風を発艦させた。防空のためだ。そこに
『偵察機から報告! 敵艦隊発見! 方位038!』
「……回り込んでください。面舵」
『承知した。艦隊、面舵!!』
祐輔の指示を聞いて、長門が復唱する形で指示を下し、それに従って祐輔艦隊は舵を切った。
その頃、高久陣営では
「いいな、武藏……指示した通りにやれ……やらなければ、分かっているな?」
『……分かっている……』
高久の言葉を聞いた武藏から、辛そうな返事がされた。そして高久は、組んだ両手の上に顎を乗せて
「あいつを始末した後は、手を回してうやむやにし、ワシが新しく提督として着任……そうすれば、昇進は間違いなしだ……たかが一般の出の者が……どんな手を使ったのか分からんが、貴様らのような者は警備府程度で満足していればいいのだ……最前線や防衛の栄光は、ワシらのような軍家出身が担うべきなのだ」
と呟き、低い声で嗤い始めた。
そして演習は、激戦の様相を呈し始めた。長門と武藏は互いに主砲で砲撃を繰り返しながら蛇行運航を続け、少しでも有利な位置を取ろうとしていた。
だがそれを、切り込んでいた神通が阻害し更に、味方艦隊に雷撃を放とうとしている大井に砲撃を行っていた。
しかし大井も、高いレベルというだけあって神通の砲撃を回避し、神通を狙って魚雷を放った。
だがそれを、神通は海面に砲撃を撃ち込むことにより魚雷の進路を変えさせた。
魚雷というのは、意外と海流の影響を受けやすく、横から強い海流を受けるとフラフラと流されてしまうのだ。
そして、神通の砲撃により大井の魚雷はあらぬ方向に流されていった。
そんな中で、赤城と蒼龍は艦載機を発艦させて、状況の打開をしようとしたが、そこに敵の艦載機が飛来し、二人が発艦させた艦載機と二人に襲いかかってきた。だが秋月が対空砲撃を開始。
敵艦載機の迎撃を始めた。
一進一退の攻防が続き、何時均衡が崩れるのか分からなかった。
その時、長門は武藏の主砲が一基、角度が外れていることに気付いた。その直後その主砲が火を噴き、放たれた砲弾は長門の遥か頭上を通り越した。
(何処を狙って……)
と長門がいぶかしんだ直後、祐輔の居たテント付近で爆発が起きた。
通信からは、爆発による轟音の後にノイズが流れてくる。
「なっ!?」
『提督!?』
長門達は、武藏がやったことに気付いて思わず動きを止めた。
「武藏、貴様!?」
『……許せなどとは言わない……』
長門がオープンチャンネルで呼び掛けると、武藏から沈んだ声が返ってきた。
しかも武藏は、主砲を長門に指向してきた。恐らく、実弾だろう。模擬弾しか積んでいない長門には、かなり辛い戦いになる。
その時だ。
『長門さん、僕は大丈夫だよ』
「祐輔か!?」
通信で、祐輔の無事な声が聞こえた。
そして、まさか無事とは思っていなかったらしい武藏も驚きで固まっていた。
すると、長門が
「そうか……吹雪のクライン・フィールドか!」
と祐輔が無事な理由に気付いた。
クライン・フィールド、それは限界突破。通称、ケッコン・カッコカリを果たした艦娘のみが扱える特殊な力場で、駆逐艦娘ですら戦艦の主砲を防げると言われている。
そして、祐輔の初期艦娘である吹雪は、その限界突破艦娘である。
『何をしている、お前達! 早くその小僧共を始末しろ!』
「高久大佐か!」
『でなければ、姉妹達がどうなるか、分かっているか!?』
高久大佐のその言葉で、どうなっているか長門は察した。高久大佐は、姉妹艦娘を人質にしているのだと。
『分かったなら、さっさと……』
『高久艦隊に通達します、もう彼の命令に従う必要はありません』
高久大佐の言葉を遮り祐輔の声が聞こえ、その直後に演習場に甲高い警笛が聞こえた。
警笛の聞こえた方向を見れば、高久が乗ってきたたかすみがゆっくりと近づいてきていたのだが、その甲板上に大人数の艦娘達が居た。
『なっ!?』
『お疲れ様です、川内さん』
そう、彼女達を解放したのは、潜入を果たした祐輔艦隊の川内だった。
演習が始まる少し前、川内はたかすみに潜入を開始した。たかすみ内外に居た警備兵の無力化に多少の時間は掛かってしまったが、それでも無事に、川内はたかすみに潜入を果たして調査を開始した。
そして、ある一区画に彼女達が閉じ込められていることに気付き、スピリッツに協力を仰いで、解放に成功したのである。
『そうか……もう、大丈夫なのか……』
姉妹艦を含めた艦娘達が解放されたことを知った武藏は、長門に指向していた主砲を待機状態に移行させて、両手を上げた。
それに続く形で、高久艦隊は全員動きを止めた後に両手を上げた。
『そして、高久大佐……今しがた、貴方に逮捕状が出されました……』
『な……』
祐輔の発言に、高久大佐は言葉を失っていた。
そこに、通信マイクが拾ったらしく、ドカドカと足音が響き
『な、なんだ、貴様らは!? 放せ、放せぇ!?』
と高久の怒声が、離れていった。恐らくは、憲兵に拘束されたのだろうか。
少し間を置くと、祐輔が
『さて、高久艦隊の皆……今まで、辛い思いをさせて、ごめんね……しばらくは、ウチに居ていいからね』
と努めて、優しく言葉を掛けた。
この後、高久艦隊の艦娘達は涙ながらに抱き締めあったのだった。