アークエンジェルの通信を受けて、副長妖精は直ぐ様二隻のエンジンを始動させた。
「ピッチ角5! 離水上昇! 最微速!」
「了解!」
副長妖精の指示を受けて、アークエンジェルの操舵手はアークエンジェルを海から離水させた。
その僅か後に、エウクレイデスも離水を開始した。
それを視界の端で確認しつつ、副長妖精は
「レイグ隊にアークエンジェル艦長の迎えを」
とCIC妖精に指示を出した。
それを受けて、CIC妖精は
「レイグ隊に通達、泊地に居られるアークエンジェル艦長の迎えを!」
と格納庫に待機していたレイグ隊に通達した。
すると、MSカタパルトが起動し、レイグ隊が出撃。アークエンジェルを迎えに行った。
「CIC妖精、敵深海悽艦艦隊は観測しているか?」
「はっ! 距離、38000に敵艦隊を捕捉! 総数は……優に60を越えています!」
数の上では、圧倒的に不利だろう。
しかし、副長妖精は慌てずに
「ECM起動! 敵艦隊のレーダーを無効化開始!」
と指示を下した。
スピリッツの二隻は、本来はこの時代どころか世界にすら無い艦と装備を有する部隊だ。
その機能は、オーバーテクノロジーの塊。
「敵艦隊のレーダー並びに通信周波数を特定完了。その周波数帯にECMを集中させます!」
恐らく今頃、深海艦隊はレーダーと通信が一切効かないで焦っていることだろう。
しかし、だからと言って情け容赦を掛けるつもりは毛頭無い。
「遅くなりました」
そこに、アークエンジェル艦長が帰還。艦長席に座った。
「現状は?」
「敵艦隊、距離約38000の位置に布陣。その総数は、優に60を越えており、数での不利は否めません」
アークエンジェルの問い掛けに、副長妖精はキビキビと戦況地図を表示させながら答えた。
すると、サブモニターにエウクレイデスと祐輔の顔が映り
『一応、MS隊は何時でも出せるわよ?』
『この通信機、凄いですね……雑音が殆どしないですよ……っと、こちらも現状編成出来る艦隊は編成完了しましたよ』
と告げてきた。
それを聞いたアークエンジェルは、少し間を置いてから
「今回は、我々だけでやりましょう……我々だけの力で、どこまで行けるのか判断するいい材料です」
と判断を下した。
『え、本気?』
「はい……提督殿、艦隊はこちらの防衛線を突破され、接近を許したら防衛をお願いします」
『……了解しました。恐らくですが、今回の敵艦隊は姫級が指揮していると思われます』
「姫級?」
祐輔の告げた姫級を知らなかったアークエンジェルとエウクレイデスは、揃って首を傾げた。
そして祐輔は、二人に姫級のことを説明した。
通常の深海悽艦は、イロハ歌になぞらえて名付けられている。
駆逐イ級や軽巡洋艦へ級、雷巡チ級、空母ヲ級、戦艦ル級等だ。
しかし、それらとは比較にならない程に強力かつ特殊能力を有しているのが、姫級と呼ばれる個体なのだ。
『全部で何種類居るかは判明していませんが、尤も大久確認されているのは、戦艦悽姫と呼ばれている個体です……他に、姫級より若干能力が低いのが鬼級と呼ばれています……今回は、恐らく姫級かと』
「分かりました。留意します」
そこで祐輔との通信を終えて、アークエンジェルは戦況図を見て
「MS隊、全機発進! 敵に立て直す暇を与えるな!」
と号令を下した。
場面は変わり、深海艦隊。
「何ガ起キテイル!? レーダート通信ガ一切使エナイデハナイカ!!」
一人の姫級が、苛立ちを隠しもせずに喚いていた。
彼女こそが、今回の深海艦隊の旗艦たる空母悽姫である。
そこに、副艦らしい戦艦タ級が近寄り
「原因不明デス……考エラレルノハ、人間共ノ新兵器カト……」
と告げた。
通信が使えなくなっているので、艦隊の密度を上げて口頭で話すしか無くなったのだ。
「チイ……今ノパラオノ提督ハ無能ダカラ容易ク攻略出来ル筈ダガ……」
空母悽姫は上司たる南方悽姫の命令を受けて、パラオ泊地の攻略作戦を開始したのだ。
しかし、ここに来て不穏な空気が流れ始めてきた。
一旦後退するのも手だが、何の成果も上げずに後退したら、南方悽姫からの粛清は避けられないだろう。
南方悽姫の冷酷さと厳しさは深海悽艦の中では、有名な話だ。
どうするか考えていた時、艦隊の前方にて見たこともない閃光が走り、爆発が起きた。
「ナンダ!?」
「ワカリマセン!? ナニガ起キタ!?」
とタ級が声を上げた直後、空母悽姫の前に居た軽空母ヌ級が閃光に貫かれて吹き飛んだ。
「我々ハ、何ト戦ッテイルンダ!?」
それが、空母悽姫の最後の言葉だった。
空母悽姫は、全身を焼かれて蒸発した。