艦隊これくしょん・傭兵魂を継ぎし艦   作:京勇樹

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傭兵動く

その日、大本営に激震が走った。

それが起きたのは、明け方だった。明け方、憲兵達が同時に複数の提督達。通称、主義者達に対して一斉検挙に動いたのだ。

罪状は、艦娘に対する不当な扱いが主たる罪状。

他に、命令不服従、資材の横領など様々な罪で検挙されていった。中には激しく抵抗する者も居たが、重傷を負わせながらも検挙された。

元帥の一大検挙作戦が始まったのだ。

 

「報告します! 主義者並びに主義者に連なる者達の一斉検挙は順調! 現在、約7割を検挙しました!」

 

「ふむ……死傷者はどうなっているか?」

 

「はっ! 幸いにも、双方に死者は出ていません。しかし、双方に重軽傷者が多数出ており、詳細な人数は只今集計している最中であります」

 

報告にやってきた一人の憲兵の報告に、元帥は一度頷いた後

 

「分かった。引き続き、ことに当たってくれ。くれぐれも、死者を出さないように」

 

「はっ!」

 

元帥の指示に、その憲兵は敬礼した後に元帥の執務室から退室。それを見送った元帥は、窓から外を見上げて

 

「これを、後の歴史家達がどう取るかは分からんが……これで、国内が安定してくれることを願うが……」

 

と呟いた。そこに、湯飲みを乗せたお盆を持った大和が来て

 

「一息入れてください、元帥。起きてから、気を張りつめぱなしではないですか」

 

と忠告してきた。

元帥が目覚めてから、早数時間。元帥はその間ずっと気を張りつめ続けていた。何時如何なる不測の事態が起きても、即座に対処するためだ。しかし、今まで一度もそう言った報告は聞かない。

だから大和は、休息を入れるように促したのだろう。

 

「すまんな、大和」

 

大和から湯飲みを受け取った元帥は、一言言ってからお茶を飲んで、本当に少しだが気を緩めた。

その時だった、ドタドタという忙しい足音が響き

 

「元帥! 緊急事態です!」

 

と一人の海軍兵が、入ってきた。

 

「何事だ」

 

「はっ! トラック泊地に、深海艦隊の大規模侵攻を確認! 第三トラック泊地からの通信が途絶しました!」

 

「なんだと!?」

 

予想外の報告に、さしもの元帥も腰を上げた。第三トラック泊地は、トラック泊地の中では比較的新規の拠点だが、それでも規模の大きい拠点だった。

そこからの通信が、完全に途絶えたとなれば、かなりの大規模侵攻だと分かる。

 

「大至急、付近の艦隊と拠点に救援を打電! 今、トラックを失う訳にはいかん!」

 

「はっ!」

 

元帥の指示を受けて、その兵士は走り去った。それを見送った元帥は、大和に

 

「大和、場合によっては、彼らに要請する可能性がある。用意を頼む」

 

と告げた。

少し時は遡って、場所は変わってトラック泊地。

 

「くそ! 何故今、深海共が攻めてくる!」

 

『議論している時ではない! そちらの艦隊は、どうなっているか!?』

 

『ダメだ! 奴らの数が多すぎる! 第三艦隊からの通信が途絶! 第四艦隊も、壊滅状態だ! これ以上は、戦線の維持が……があぁぁぁぁ!?』

 

「牧本中佐!?」

 

金瀬が呼び掛けるが、返ってくるのは虚しいノイズのみ。金瀬は歯噛みしながらも

 

「金城大佐! 出せるだけの全艦娘を出せ! 今は四の五の言っている場合ではない!」

 

『わ、わかった! 全艦隊出撃させる!』

 

そこで、金城大佐との通信は終わって、金瀬は執務室から飛び出した。

 

「今ここで、死ぬ訳にはいかない! 私こそが、帝国海軍を率いるのに相応しいのだ! 艦隊など、幾らでも建て直しが効く!」

 

金瀬はそう言いながら、ある場所へと一目散に駆けていく。その途中で

 

「何処に行く気で?」

 

と声を掛けてくる一人の艦娘。

今となっては、唯一の戦艦娘、霧島である。

 

「決まっている! 私は脱出する! ここで死ぬ訳にはいかんのだからな!」

 

金瀬の言葉に、霧島は深々とため息を吐いた。そして

 

「ご存知かと思われますが、敵前逃亡は重罪ですが」

 

と首を傾げた。しかし、金瀬は

 

「何を言うか! 私のような歴史ある軍人の家系の者は重要なのだ! その為なら、あらゆる犠牲は問われず、罪も問われることはない! いや、問わせない!」

 

と声高に叫んだ。

それを聞いた霧島は、呆れた様子で

 

「聞いた私が愚かでしたね……」

 

と告げた。次の瞬間、艤装を展開し、金瀬が進もうとしていた道の天井を砲撃。道を塞いだ。

 

「貴様! 何を!?」

 

金瀬は驚くが、霧島は無視し更に砲撃。今度は金瀬が来た道を塞いだ。そして、その場から身を翻すと

 

「では」

 

とだけ言って、今自身が通った道の天井を砲撃し、道を塞いだ。それにより、金瀬は極狭い範囲に閉じ込められてしまった。

 

「おのれ、兵器ごときが……!」

 

金瀬は悪態を吐きながら、窓に駆け寄った。

しかし、今居るのは最上階たる三階。しかも、施設の都合上で崖の上に建っていて、遥か下には海が見える。

いくらなんでも、無事に済むとは思えない。

 

「おのれ……おのれぇぇぇぇぇ!!」

 

金瀬はどうすることも出来ず、ただ怨嗟の声を上げることしか出来なかった。

そして時は戻り、海上。

 

「霧島! 残弾は!?」

 

「後、残り2割というところ……ね!」

 

瑞鶴からの問い掛けに、霧島は敵からの砲撃を手の甲で弾き飛ばしてから告げ、砲撃を撃った。

その数十秒後、遠く離れた場所から爆発音が聞こえてきた。どうやら、直撃したらしい。

 

「瑞鶴は!?」

 

「私は……次が、最後……になるみたい」

 

瑞鶴はそう言いながら、矢筒から最後の矢を取った。

その時だった、風切り音が耳に入り

 

「瑞鶴、回避!!」

 

と霧島が忠告するが、間に合わなかった。

 

「ぐっ!?」

 

「瑞鶴!?」

 

瑞鶴に、砲撃が直撃。瑞鶴が着ていた服は破け、カタパルトは破損。更には、徐々に傾斜を始めた。どうやら、浸水が始まってしまったようだ。

 

「瑞鶴、後退を!」

 

「いいえ……最後まで、発艦を続けるわ……」

 

霧島は後退するように促すが、瑞鶴は首を振って矢を弓につがえた。そして、思い出したように

 

「瑞鶴から、全妖精に通達……発艦要員以外は、即座に退艦……発艦後、発艦要員も退艦せよ」

 

と告げた。

 

「瑞鶴!?」

 

「ごめんね、霧島……さっきの砲撃で、スクリューが死んだ……後退出来そうにないの……だからって、霧島が牽引するのも無し……でないと、霧島まで沈む可能性が高すぎるから……」

 

霧島の呼び掛けに、瑞鶴は何処か諦めた表情でそう言った。

 

「これが、私の最後の発艦よ……この子達を打ち出す……発艦だけは全うする……必ず、空へ……上げてあげるから……! 今まで負け戦続きだったけど……今度は……私の勝ちだ……!!」

 

彼女の言う負け戦とは、彼女と出撃した僚艦が敵の攻撃で沈んでいったことだ。戦闘としては勝っているが、それでも瑞鶴にとっては負け戦だった。

しかし今回、彼女の僚艦たる霧島は未だに健在。

更に言えば、今彼女が発艦させようとしているのは、彼女の中でも最精鋭の零式戦闘機62型爆戦。

爆撃と対空戦もこなす傑作機と呼べる機体だ。

 

「行って……! 私達のために……!」

 

瑞鶴はそう言いながら、その矢を放った。

放たれた矢はカタパルトの上を通り、無事に発艦。空中で12機の戦闘機になって、空へと上がっていく。

それを見送り、霧島に

 

「霧島……退艦した子達……お願いね……」

 

「瑞鶴……!」

 

瑞鶴から降りていく小舟には、妖精達が大勢乗っている。それを回収するために、霧島は片膝を突いた。その時、再びの風切り音が聞こえてきた。

 

「瑞鶴!」

 

「……翔鶴姉……皆……今から、そっちに行くね……」

 

瑞鶴は自身に迫ってくる数発の砲弾を見ながら、そう呟いた。

その直後、全ての砲弾が光りに貫かれて爆発した。

 

「……え……?」

 

訳が分からず茫然としていると、空中を見たことのない人型が飛んでいった。

 

「今のは……?」

 

『こちら、傭兵部隊スピリッツ……これより、貴艦達を援護する!』

 

霧島が呟くと、味方のオープンチャンネルでそう聞こえてきた。

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