「なに、あの空飛ぶ人型……こっちの味方、なの?」
と困惑していたのは、第三トラック泊地所属の駆逐艦娘の潮だった。彼女は仲間の海防艦娘と一緒に対潜水艦戦闘をしていた。
途中でソナーが、異様な反応を報せてきて、対処を迷っているうちに海面にその姿を現した。
「潮さん、どうするんですか?」
「……味方みたいだから、攻撃しないで」
対馬からの問い掛けに、潮は僅かに考えてからそう判断した。海中から現れた二隻が、沈んだと思っていた仲間達と一緒に現れたからそう判断したのだ。
でなければ、砲撃していただろう。
「潮姉さん、来るよ!」
「ん、爆雷投下!」
佐渡の報告の聞いた潮は、海防艦娘達にそう指示を下して、自身も爆雷を投げた。数秒後、巨大な水柱が上がると同時に、鈍い悲鳴が聞こえてきた。更に数秒後には、海面に深海潜水艦の残骸が浮かんできた。
「撃沈と判断します……一度、燃料と弾薬類の補充に帰投します」
『了解!』
潮の判断に海防艦娘達は従い、後退を開始した。それを見た潮は、後退戦闘を開始。どうにも少し前から、レーダーが上手く動いてないようだが、それでも砲撃を敢行。当たったらしく、爆発が起きた。
「問題は、ここから……!」
此れまでの経験から、怖いのは後退戦闘だと潮は思っている。特に殿を担っている場合は、攻撃が集中してくるのも分かっている。
その結果、海中、海上、上空の三次元攻撃が潮に殺到してくる。
「くっ!?」
潮は駆逐艦としての高い機動力を活かし、砲撃、雷撃、爆撃を回避していく。しかし、濃密な攻撃は完全に回避しきれず、徐々に潮の華奢な体にダメージを蓄積していく。
『潮さん!』
「構わないで、後退して!!」
通信で日振が心配してくるが、潮は一喝。わざと大きく動いて、敵の意識を引き付ける。だが
「あぐっ!?」
間近で航空機の爆弾が爆発し、潮の動きが一瞬止まった。その直後、潮の居た場所近辺で激しく水柱が乱立する。
『潮さん!!』
『潮姉さん!?』
『返事して!!』
海防艦娘達が次々と呼び掛けてくるが、潮には答えられなかった。威力からして、重巡洋艦級の砲撃が潮に直撃。潮は大破し、最早まともに動ける状態じゃなかった。
「あ……」
明滅する視界を何とか動かし、潮は海防艦娘達が大分離れたことを確認し
「みんなは……逃げて……ね……」
と呟きながら、急降下してくる数十の爆撃機や放物線を描いて飛んでくる敵砲弾を見た。
「素敵な出会い……したかったな……」
潮はそう呟きながら、ゆっくりと目を閉じた。その直後、目を閉じていたというのに、凄まじい明るさを感じて、更には連鎖する爆発音を聞いた。
だと言うのに、何時まで待っても身を焼く熱さと激しい衝撃を感じない。
それを不思議に思った潮は、ゆっくりと目を開いた。
「あ……れ……敵機と……敵の砲弾が……」
そして見えたのは、晴れ渡る青空だけ。迫っていた爆撃機や砲弾が一つも無い。
「どう……して……?」
『間に合ったか』
海面に浮いていた潮に、一機の人型が近づいてきて、優しく潮を抱き上げた。
その黒い機体は
『あまり動くな……傷に障るぞ』
と言って、頭を斜め上に向けて機銃を撃ち始めた。その機銃により、迫ってきていた敵の爆撃機は引きちぎられて、更には盾から撃った
『トライアド1よりマザー。負傷者を一名救助……至急治療の必要性を認む』
『マザー了解。トライアド1はマザー2に着艦。残りのトライアド中隊は援護』
黒い機体。フレスベルグは、指示に従って、味方と共に後退を開始した。どうやら潮を気遣っているようで、少しずつ速度を上げていっている。
「だ……め……です……敵が……」
潮はフレスベルグの装甲に手を当てながら言うが、フレスベルグはそんな潮の手を優しく握り
『安心しろ……仲間は、他にも居る』
と告げた。その直後、似た意匠の頭が特徴の人型機が、次々と潮達の頭上をフライパスしていき、敵陣に突撃していく。
『フェニックス1より、レイグ、ブリュンヒルデ隊に通達する!
『了解!!』
勇ましい声が聞こえると、空を幾筋もの閃光が走っていく。その閃光が当たった敵の戦闘機は当たった部分が蒸発し、力なく墜落していく。深海悽艦の場合は、穴を穿たれて倒れる。一種の異様な光景に、潮は言葉が出なかった。
その間にも、フレスベルグはマザー2。エウクレイデスに着艦。駆け寄ってきた妖精が引いていたストレッチャーに潮を優しく乗せた。
『推進材と弾薬の補給を頼む』
フレスベルグをそう言うと、先とは違う妖精がビシリと敬礼した。中々微笑ましい光景だが、潮は
「貴方達は……なんで……助けて……くれるの?」
と問い掛けた。するとフレスベルグは、潮に頭を向けて
『依頼だからというのもあるが、助けたいと思ったからだ……人を助けるのに、理由が必要か?』
と問い掛けてきて、潮はその言葉に衝撃を受けた。今まで居たトラック泊地では、艦娘は兵器という扱いで、人として接してもらうことは一度もなかった。
『さて、仲間が待っている……行かないとな』
補給が終わったらしく、フレスベルグはゆっくりとカタパルトに歩いていく。
「私達が……人……」
フレスベルグを見送りながら潮はポツリと呟いたが、気付かぬ内に頬を涙が流れた。