「ナンダ……何ガ起キテイル……」
深海悽艦トラック泊地攻略艦隊の旗艦たる姫級。空母水姫は、言い様の無い不安に駆られていた。
今回のトラック泊地攻略作戦は南方悽姫の肝いりで発令された作戦であり、投入された戦力は事前に調査したトラック泊地の全戦力を優に上まっていた。その証拠に、途中まではかなりの速度でトラック泊地の戦力を削り続けていて、後一歩で陸地に対して攻撃命令を下せる段階まで進行した。
だがある時を境に、突如として最前線を担っていた駆逐級と軽巡洋艦艦隊との交信が途絶。更に、海中の潜水艦艦隊の過半数が消息を断った。
潜水艦艦隊に関しては、ある一隻からの通信が途絶える直前に
『見タコトナイ敵ガ海中ニ』
という言葉を最後に、通信が途絶。そこから加速度的に潜水艦艦隊の損害が上がっていき、今や残り三割強しか残されていない。
「何故ダ……アソコの提督達ハ、私腹を肥ヤスコトシカ出来ヌ愚物ダッタハズダ……」
それもまた、事前の調査で分かっていたことだった。トラック泊地に居る三人の提督は、揃いも揃って録な指揮を執れない者達ばかりで、自分の欲求のために艦娘を食い物にしているか、艦娘を使い捨ての道具程度にしか考えていなかった。
「ツッ……第八水雷戦隊ノ信号ガ途絶……通信ガ効カンノガ、コンナニ腹立タシイトハ……!!」
空母水姫は苛立たしげに、ギリッと歯を鳴らした。
そこに、副官を勤める防空悽姫が近寄り
「ダメネ……レーダーノ殆ドガホワイトアウト……何モ見エナイワ……逃ゲルコトヲ考エタ方ガイイワ」
と溜め息混じりに告げた。
それを聞いた瞬間、空母水姫は防空悽姫を睨みつけて
「逃ゲルデスッテ!? アンナ能無シ共カラ逃ゲロト言ウノカ!?」
と怒鳴りつけた。しかし防空悽姫は、雰囲気を変えずに
「今ナラ、一度後退スレバ艦隊ノ再編ガ出来ルワ……特ニ最前衛ノ艦隊……モウ、壊滅ヨ……タマタマ見テイタヲ級ノ話デハ、見タコトナイ敵ガ居タラシイワ……」
「見タコトナイ敵……ダト?」
防空悽姫の報告に、空母水姫は困惑そうに眉をひそめた。
「エエ……コチラの艦載機ヲ優ニ超エル速度デ飛ビナガラ光ノ弾ト剣デ砲弾ヤ艦載機ヲ撃墜シ……瞬ク間ニ残骸ヲ築イテイク」
「……ナニヲ言ッテイル……?」
防空悽姫の報告に、空母水姫は理解出来ないという表情を浮かべながら首を傾げた。しかし防空悽姫は
「マア、無力ハナイワ……私ダッテ、信ジラレナイワ……ケド、ソレナラ納得出来ルノヨ……貴女、私ノ対空火力ハ知ッテルワヨネ?」
と問い掛けてきて、空母水姫は思わず頷いた。防空悽姫はその名前の通り、防空能力が非常に高い深海姫級である。それを成しているのが、常識外れなまでに高い対空火力にあった。
その対空火力は、深海全級の中でも郡を抜いてトップランクに位置しており、かつて一度艦娘艦隊と交戦した際、艦娘艦隊が放った艦載機は約九割が撃墜・撃破されて、帰還したのはほんの僅かという記録が記されている。
「コノ私デスラ、ソイツラヲ撃破処カ撃墜スラ出来ナカッタワ……」
「バカナ……!?」
防空悽姫の話を聞いて、空母水姫は固まった。嵐と表現出来る防空悽姫の濃密な対空砲撃ですら、撃墜出来ない相手。そんな戦力がトラック泊地に居るなんて、空母水姫は知らなかったし、情報は無かった。
「シカシ……無様ニ逃ゲルナド……!」
空母水姫の脳裏に過ったのは、少し前にある警備府に襲撃をしに行ったが無様に負けて逃げ帰ってきた重巡洋艦悽姫を無惨に引き裂いた南方悽姫だった。
南方の深海悽艦の勢力に属する深海ならば、誰もが知っていること。南方悽姫は、何よりも敗北して生きて帰ってきた者を見下し、役立たずとして残忍に処刑する。
そうやって、恐怖による一極統制を敷いているが、南方悽姫自体がかなり強いために誰も逆らえないのだ。
「ダガ、コノママ戦ッテモ」
防空悽姫がそう言った直後、二人の前方数百mの位置で激しい水柱が上がった。
「ナンダ!?」
「何事ダ!?」
二人が視線を向ければ、親衛隊として配備していた戦艦級の一体が上半身と下半身に両断されていた。
『敵の首魁と思わしき個体を捕捉した……フェニックス1よりスピリッツに通達する! 奴らを蹂躙せよ! 生かして帰すな!!』
『了解!!』
赤い人型機、フェニックスガンダムの指示を受けて、約30に迫るガンダム達が二体の姫級達に迫っていった。