良ければ、御協力ください
「失礼します! 第一トラック泊地遠征艦隊、第一遠征艦隊の副艦の吹雪です!」
エウクレイデスの艦長室に入ると、吹雪はそう名乗りながら敬礼した
すると、艦長席に座っていたエウクレイデスが
「そんな堅苦しくなくていいわよ。あたしはエウクレイデス。宜しくね」
と言いながら、軽く頭を下げた
するとエウクレイデスは、吹雪に
「取り敢えず、状況を聞かせてもらえる? さっきは、旗艦の要請で部隊を出したけど、何が起きたのか把握してないのよ」
と言った
すると吹雪が
「旗艦?」
と首を傾げた
その直後、壁面のモニターが点灯し
『モニター越しでごめんなさいね。私が、当艦隊の旗艦のアークエンジェルです』
とアークエンジェルが名乗った
「は、初めまして! 第一トラック泊地遠征艦隊、第一遠征艦隊副艦の吹雪です!」
初めて見た設備に、吹雪は緊張しながらも名乗った
どうやら通信らしいが、吹雪が知っている通信は音声のみの代物だ
『それでは、状況を知りたいのです。なぜ、ああなっていたのですか?』
アークエンジェルからの問い掛けに、吹雪は訥々と語り出した
吹雪達は先日、彼女達の提督
向かった先は、確かに大量の資材が回収出来る場所だったが、その近くには深海悽艦の大規模拠点があり、見つかれば強力な艦隊が差し向けられるリスクがあった
それを承知で、楠田提督は艦隊を派遣した
何故ならば、楠田提督にとって駆逐艦娘は捨てゴマに過ぎないからだ
だから、深海悽艦艦隊と遭遇した際に救援を要請して幾ら逃げようが、救援が来なかったのだ
そして逃げ続けていた途中で、旗艦だった時雨が被弾し中破
もうダメかと、諦めかけた
そこに、スピリッツが来たようだ
(トラック泊地……私の記憶通りなら、WW2時の旧日本軍の拠点……)
吹雪の話を聞いたエウクレイデスは、かつての世界での歴史を思い出した
しかし、やはり深海悽艦というのは聞いたことがなかった
「深海悽艦とは、なんなんですか?」
「それは……」
エウクレイデスの問い掛けに、吹雪が説明をしようとした時
『エウクレイデス艦長、旗艦殿が面会を求めてます』
と廊下に居たらしいフレスベルグから、連絡が来た
それを聞いたエウクレイデスは
「許可します」
と入室を許可した
すると、ドアが開いてジャージ姿の時雨が入ってきた
「時雨ちゃん! 大丈夫なの?」
「吹雪。うん、大丈夫だよ。ここの治療技術は凄いね……あっという間に、傷みが引いたよ」
心配した吹雪が問い掛けると、杖を突きながら時雨は入室し
「治療していただき、感謝します。第一トラック泊地遠征艦隊、第一遠征艦隊旗艦の時雨です」
と言いながら、敬礼した
それに返礼しながら
「改めまして、エウクレイデスです」
とエウクレイデスが名乗り、アークエンジェルはモニター越しで
『モニター越しでごめんなさいね。私が、当艦隊の旗艦のアークエンジェルです』
と名乗った
そしてアークエンジェルは、時雨に
『先程吹雪さんにも問い掛けましたが、深海悽艦とはなんでしょうか?』
と問い掛けた
その問い掛けに、時雨はゆっくりと語り始めた
深海悽艦
それは、今から数年前
西暦2008年、ビキニ環礁近海で初めて確認された謎の人類に敵対的な存在
そして初めての犠牲は、その近くを通った海運船だった
海運船は複数の深海悽艦からの砲撃を受けて、沈没
それに対して、アメリカは海軍を派遣
現れた深海悽艦を討伐しようとした
しかし、何故か近代兵器では大した損傷を与えられず、結果派遣されたアメリカ艦隊は、文字通り全滅
その後、国連の名の下に世界各国の海上戦力を、最低限の自衛戦力を残して結集し、一大海戦を挑んだ
だが、結果は惨敗
国連艦隊は、全滅
その後、深海悽艦によりシーレーンはほぼ完全に掌握され、最早打つ手なしと思われた
そこに現れたのが、艦娘だった
艦娘というのは、WW2時に建造された数多の艦艇の名前と魂を受け継いで生まれた存在で、深海悽艦とまともに戦える唯一の存在でもあった
特に日本は数多くの艦娘が現れ、今や国連からの命令で世界各国に拠点を建設し、そこに提督と多くの艦娘を派遣
海上戦力を担っている
「それで、貴女達はその内の一つ。トラック泊地の所属……ってわけね」
「はい」
「その通りだよ」
エウクレイデスの言葉に、吹雪と時雨は僅かに顔を歪めながら頷いた
その二人の表情を見て、アークエンジェルは
(その提督とやらと、少し話をするべきでしょうね)
と思った
その時、エウクレイデスが
「ここからトラックとなると……少し時間が掛かるわね」
とサブモニターに表示させた海図を見た
スピリッツならば、深海悽艦と互角以上に戦える
しかし、無駄な戦いは避けるべきだろう
それを考えると、迂回路を通ることになり、多少の時間が掛かってしまうのだ
「あの……こんなことを頼むのは筋違いかもしれないんですけど……」
「その……僕達を……泊地の仲間を、助けてほしいんだ」
吹雪と時雨の言葉に、アークエンジェルとエウクレイデスは険しい表情を浮かべた
その頃、第一トラック泊地の提督執務室では
「くどいぞ、大淀。たかが駆逐艦を助けるために、主力艦隊は動かせん」
「ですがっ!?」
と二人の人物が、言い争いをしていた
一人は、日本帝国海軍の提督を示す白い軍服を着た太った男
楠田陸道
そしてもう一人は、長い黒髪に眼鏡を掛けた少女
軽巡洋艦娘の大淀だ
「決めたことだ。駆逐艦など、幾らでも替えが効く木っ端のために、主力艦隊の救援など出すか。資材の無駄だ」
「しかし……!」
提督の言葉に、大淀は尚も食い下がった
しかし、提督は
「《命令だ、大淀。救援は一切出さない》いいな」
と言って、大淀が置いた救援要請の書類を破いて捨てた
艦娘は、提督の命令に逆らえない
それを知っているからこそ、楠田はそう言ったのだ
「……承知……しました……」
そもそも、今の時点で時間が掛かり過ぎた
最早、生存は絶望的だろう
廊下に出た大淀は、遠征艦隊の編成表を見ながら
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
と涙を流したのだった