「ぐっ……被害、報告……」
黒煙満ちていく艦橋、その艦長席で倒れるように座っていた祐輔は、意識が回復すると痛みを堪えながら問い掛けた。しかし、誰からの返事もない。うめき声が聞こえることから、生きているのは確かだが。
「う……ぐっ……」
祐輔は右側の視界が赤い中、体を起こし始めた。しかし、全身、特に右下腹部に激痛が走った。見てみれば、鉄片が突き刺さっている。
「下手には……抜けないか……」
そう判断した祐輔は、鉄片を抜かずに受話器を持ち上げて
「こちら艦橋……誰か」
と繋がっていることを期待して、声を発した。すると、ノイズ混じりだが
『こちらCIC! 提督、御無事ですか!?』
と副長として乗っている、男性の声が聞こえた。
「無事とは、言い難いな……僕を含めて、負傷者多数……大至急、衛生兵を……」
『分かりました! 大至急、第一衛生班を送ります! 以後、こちらで操舵を引き継ぎます!』
副長はそう答えながら、どうやら近くに居たらしい兵に衛生兵を艦橋に向かわせるように指示しているのが聞こえてくる。祐輔は、それが一段落したのを見計らい
「それで……艦の被害状況は……」
『はっ! 先の被弾で、レーダーに一部不調が見られます! 更に装甲の一部に破孔も確認。被弾の際の衝撃で、負傷者も多数居ます!』
それを聞いた祐輔は、僅かに思考し
「艦後退……態勢を……ぐっ……」
『提督!?』
痛みが全身に走り、意識が遠くなっていく中で祐輔は、思考の片隅で
(いけない……血を、流し過ぎた……)
と真っ赤になった下半身を見ながら、意識が途切れた。
祐輔が意識を取り戻した頃、うずしおから動ける艦娘達で編成した艦隊が、おおしおに向かっていた。
「ダメです! おおしお艦橋と通信が繋がりません!」
「くっ!? 私達が居ながら、こんなことになるなんて!?」
鳥海からの報告を聞いて、何時もは冷静な加賀も見るからに慌てていた。普段なら、矢を弓につがえたまま航行するなんて、しないことをする程に。
「つっ!? 対空レーダーに感アリ! この速さは……マラサイやハイザックとやらではありません!」
と鳥海が指差した先から来るのは、オレンジ色の粒子を撒き散らしながら接近するガラッゾの姿。その侵攻先には、おおしおが。
「対空砲撃!! 奴をおおしおに近づけさせるな! 弾幕を張れ!!」
長門の号令の直後、艦娘達は出来うる限りの火力を前面に投射した。それは、濃密に形成された弾幕。普通の艦載機ならば、容易く撃墜出来ただろう。しかしガラッゾは、その弾幕を容易く回避。巨砲を構えた。その狙いは、おおしお。
長門達は必死に砲撃を集中させるが、当たらない。万事休すかと思われた。その時
『させると思うか!』
そのガラッゾを、フレスベルグが思い切り蹴った。蹴られたガラッゾは、そのまま海に落ちた。
『今のうちに接触し、接触回線を開け!』
「ありがとうございます、フレスベルグさん!」
吹雪が礼を述べた直後、フレスベルグは海中から出てきたガラッゾと共に上空に登っていって、激しい戦闘を開始した。
そして、吹雪が艦の外壁に触れて
「こちら、吹雪です! 誰か、応答願います!」
と接触回線で、通信を試みた。すると、少し間を置いてから
『吹雪総秘書艦ですか!? こちら副長です!』
と副長と通信が繋がった。
「副長さん、状況を教えてください!」
『被弾により、一部装甲の破損とレーダーに不調。それと、提督を含めて負傷者多数出ています!』
その報告に、吹雪は息を飲んで
「祐輔さんは無事なんですか!?」
と問い掛けた。
『油断出来ない状況です。先ほど、衛生兵達が艦橋から搬送しましたが、右下腹部に鉄片が突き刺さっていて、出血多量。今最善を尽くしていますが……医薬品が足りません。被弾の際の衝撃で、医薬品にも損害が出ています』
吹雪は副長からの報告内容を、手早く手話で周囲の艦娘達に教えると
「分かりました! 少々お待ちください!」
と告げてから、主砲に一発の砲弾を装填し、空に撃った。吹雪が撃ったのは、赤い発炎弾。空中に、煌々と赤い炎が灯った。その直後
『こちらエウクレイデス! 赤い信号弾を確認しました! 何がありましたか!?』
とエウクレイデスの通信士妖精から、通信が来た。
「おおしおが先の被弾により、祐輔さんを含めて負傷者多数! 医薬品にも損害が出ており、満足に治療が出来ない状況です!」
『了解しました! 至急、そちらに向かいます!』
「副長さん、エウクレイデスと通信が出来ました! 今こちらに、来てくれるそうです!」
『助かります! 今から、負傷者の移動を開始します! それに伴い、おおしおの後退を開始します!』
「分かりました! 私達で護衛します!」
吹雪は副長との通信を終えると、味方全体の通信回線を開き
「こちら祐輔艦隊の吹雪です! おおしお被弾により、後退を開始します! 艦娘艦隊はおおしおの護衛、スピリッツの皆さんは、戦線の押し上げをお願いします!」
と通信を飛ばし、通信回線を閉じた。そして、内心で
(祐輔さん……どうか、御無事で!)
と思いながら、後退を開始した。