「パラオ艦隊総秘書艦の吹雪から緊急! おおしお、艦橋付近に被弾。提督を含め、多数の負傷者が出た模様!」
「艦をおおしおに寄せて、医療班待機! 近くに直衛以外の部隊は!?」
通信士妖精の報告を聞いたエウクレイデスは、操舵士妖精に指示を下すと、CIC担当妖精に問い掛けた。CIC担当妖精は、機器を操作してから
「トライアド以外ですと……ジェミニ隊が近いです!」
と報告した。
「ジェミニ隊におおしおの周囲に展開するよう通達! それと、全隊に通達! 一気に前線を押し上げて!」
「了解!」
エウクレイデスはモニターに映るアイランドを見て
「……やっぱり、簡単には攻略出来ないわよね……」
と呟いた。そもそも、拠点攻略戦は相手の三倍の戦力が必要とされている。その意味では、スピリッツとパラオ艦隊の戦力は、相手より大幅に少ない。
そこは士気の高さと練度の高さで補ってはいるが、やはり数の差は如何ともし難い。おおしおが被弾したのも、スピリッツの形成した前線ラインを突破したハイザックがマシンガンを撃ったから起きたことだった。
そのハイザックは直ぐに撃破したが、おおしおに一発命中してしまった。
「……何機か鹵獲して、自戦力化するのもアリかしらね……」
そう考えたエウクレイデスだったが、一旦その考えを頭の端に追いやり
「各機体の弾薬と推進材の状況は?」
とCIC妖精に問い掛けた。
「平均約6割残っています。あ、フェニックス隊が推進材の補給を要請してきました」
「着艦を許可します。整備班に推進材を補給する準備をするよう伝えて」
「了解!」
スピリッツはデータリンクで全員の機体状況を確認出来るようにしており、それで素早い修理や補給を可能としていた。少数戦力故に、直ぐに前線復帰する必要があったからだ。
「だけど、少し違和感を感じるのよね……」
エウクレイデスは、サブモニターに表示されているこれまで確認出来た敵の戦力を見て
「……ワンオフ機が一機だけ……?」
と首を傾げた。ワンオフ機は確かに強力だが、前世界での記憶を振り返ると、単機で行動していたのは中々無かったように思えた。
そう考えたエウクレイデスは、CIC担当妖精に策敵範囲を広げるように指示を出そうとした。その直後
「本艦正面、距離30000に新たな敵の反応確認! これは……ヤークトアルケーです!」
とCIC担当妖精が報告してきた。
「遅かった!」
エウクレイデスが声を漏らすと同時に、メインモニターにCG補正された敵機の画像が表示された。
「……なるほど、あの世界での機体構成なのね……データリンクで即時に全隊に共有! そして、パラオ艦隊に通達! あいつに手出し無用! あいつとは、こちらが交戦すると! あいつからの攻撃は、絶対に回避するように通達!」
「了解!」
通信妖精が返答した直後、エウクレイデスが大きく揺れた。
「何事か!?」
「ヤークトアルケーからの攻撃です! 艦右舷に被弾! 損傷軽微! 戦闘行動に支障無し!」
「アンチビーム爆雷と粒子撹乱幕を展開! これ以上の攻撃を許すな!!」
副長妖精の指示を受けて、ミサイル発射菅から次々とミサイルが発射され、空中で爆発した。そこにビームが到達した直後、そのビームが拡散した。
「以後、適宜両弾を発射。本艦からの攻撃は、実弾に限定! 牽制で構わない! 撃ちまくれ!」
多目的支援艦たるエウクレイデスは、アークエンジェルに比べて対ビーム装甲はそれほど成されておらず、場合によっては致命傷になりかねない。
しかしその分、様々な攻撃方法と支援武装が充実している。
「医療班から通信! 降下準備良し! 医療カーゴを使うとのことです!」
「許可します! 直衛MS隊に通達! これから医療班が降下する! 何としても護りきれ!」
「了解!」
医療カーゴと言うのは、スピリッツで採用した支援装備の一つで、災害派遣を要請されたりした際に運用した装備で、内部には高度な医療機器が配備されている。
医療に支障がでないようにと、衝撃吸収用の外装、マイクロウェーブによる電力供給機を採用しており、危険地域での医療を続行出来るようにされている。
まさに、こういった場所でその力を発揮する装備だ。
「ヴァルキリー隊、ヤークトアルケーと交戦開始!」
「任せるしかないわね……」
ヴァルキリー隊、スピリッツの第二小隊で、その実力はフェニックス隊に互するもので、変幻自在の部隊戦闘が持ち味である。
「敵部隊接近! 深海艦隊です!」
「対艦ミサイル発射! 防衛ラインを突破させるな!」
CIC担当妖精からの報告を受けて、副長妖精がすぐに指示を下した。
第二幕が開く。