タンカーを曳航してから、約二週間後。パラオにトラックからの船舶運用要員が到着。改めて、タンカーはトラックに向かった。
それを、執務室から見送った祐輔は
「さて……何処であの拘束具が下ろされるのか……」
と呟いた。実は、祐輔は発見した拘束具は敢えて一度見逃すことにした。しかし、その全ての蓋裏に超小型の発信器を隠してあり、それは夕張が開発した専用モニターの地図上に表示されるようにしてあるのだ。
祐輔としては、最低で二人程度であってほしいと願っている。しかし、最悪の場合はトラックや最前線の提督の誰かが使っている可能性があった。
それを考えると、一つだけに発信器を着けるという訳にもいかなかった。超小型発信器の開発には、夕張と明石、更にはスピリッツの技術妖精が尽力しており、かなりの力作と言っていた。
祐輔はその発信器の性能を信じ、時を待った。
事態が動いたのは、それから約一ヶ月後だった。
「これは……ラバウル、タロワ、タウイタウイ、ブルネイ……どこも、最前線を担い、更には高い戦果を挙げている要所ばかり……まさか、こんなにだなんて……」
反応のある場所を見て、祐輔は絶句した。反応のある場所は、何処もかしこも、最前線を担う要所だったからだ。
「これは、予想以上に根深いかもしれない……大淀さん、大至急長官に繋いでください」
「はい」
祐輔の指示を受けて、大淀は通信室に向かった。それから、十数分後
『……まさか、最前線の四か所にとは……』
「は……完全に予想外でした……」
祐輔の言葉に、元帥は同意するように頷いた。そして、少しすると
「こうなると……他にも怪しい拠点がいくつもありますが……」
『確かに……私から陛下に上申し、かの部隊を動かす』
元帥の言葉を聞いた祐輔は、驚いた表情で
「まさか……あの?」
と聞くと、元帥は頷いた。それを聞いた祐輔は、少し間を置いてから
「ではこちらは、何時でも動けるよう準備しておきます」
と敬礼した。それを聞いた元帥は
『頼む。こちらも、なるべく早く確実に情報を入手するように指示しておく』
「はっ」
それを最後に通信は終わり、祐輔は通信室を退室した。そして、執務室に向かいながら
「……別に聖人君子になるつもりはないけど……一人でも助けたい……泣いてる子達を……」
と呟いた。事態が大きく動いたのは、それから更に10日程が経ったある日だった。パラオ泊地のある浜辺に、一人の艦娘が流れ着いた。あまりにも酷い損傷を負った艦娘で、むしろよく轟沈しなかったと言える程だった。
そして、その艦娘の所属はブルネイ泊地。
そう、拘束具が下ろされた拠点の一ヶ所だった。
明石と夕張の検査の結果、拘束具は投与されておらず、練度はおおよそ10程。そして、傷の原因は味方たる艦娘の攻撃と分かった。
「明石さん、夕張さん、確かなんですか?」
「はい、間違いありません」
「深海棲艦の武装には、14cmは無いんです」
二人の報告を聞いた祐輔は、眠っている艦娘。ドイツの空母艦娘。グラーフ・ツェッペリンを見た。
元々白い肌は、負傷による出血が原因なのか更に白くなっていた。
「……彼女が目覚めれば、何らかの情報を得られるとは思いますが……」
「それなんですが、彼女の艤装のブラックボックスのログを解析出来ました。彼女は、ブルネイ泊地から脱出を図り、そこから多数の艦娘に追われたようです」
「そして、14cm砲が多数直撃する中で彼女は一つの賭けに出た……自身の艦載機の一機を使って防御と共に、煙幕を形成。振り切ったんです」
それを聞いた祐輔は、グラーフ・ツェッペリンを見て
「勇敢で、清廉潔白……ドイツ艦娘の美徳ですね……恐らく、拘束具を使用しているのを見て、逃走を図った……それを、提督が拘束具を投与した艦娘達に追撃させた……というところですか……」
そう言って、ベッドの傍らの台に居るグラーフ・ツェッペリンの妖精達を見た。その妖精達も心配していて、泣いているのが祐輔にも分かる。祐輔は、そんな妖精達の頭を撫で
「大丈夫、彼女は必ず目覚めますよ」
と優しく告げた。その時
「う、ぐ……こ、ここは……」
と声が聞こえた。見てみれば、グラーフ・ツェッペリンが目覚めていた。
「良かった、目覚めて」
「私達が分かりますか?」
目覚めたグラーフ・ツェッペリンに、先に明石と夕張が問い掛けた。グラーフ・ツェッペリンは、妖精達に抱きつかれながらも
「あ、ああ……明石に夕張だな……そちらの提督殿は……」
「初めまして、グラーフ・ツェッペリンさん。僕は、ここパラオ泊地の提督を勤めます、榊原祐輔と言います」
「パラオの提督……ここは、パラオなのか……」
「はい……今から数日前、貴女はここパラオの砂浜に流れ着いていました……」
祐輔の説明を聞いて、グラーフ・ツェッペリンは驚いた表情を浮かべ
「数日……!?」
「はい……酷い損傷でしたが、良かった……傷が完全に癒えるまで、ゆっくりしてください」
「待ってくれ……! 私の艤装の、秘匿倉庫……そこに、ブルネイ泊地の提督の、不正の証拠が納められている……!」
祐輔が立ち上がった時、グラーフ・ツェッペリンが手を伸ばし、祐輔の服を掴んでそう言ってきた。
「ブルネイ泊地の提督の不正の証拠が!?」
「ああ……それだけでなく、他の拠点の提督も絡んでいるらしい……私には、日本語を読むのはまだ難しい……妖精達……秘匿倉庫から、シュヴァルツツヴァイを彼等に渡してくれ」
グラーフ・ツェッペリンの指示を受けて、妖精達は敬礼。そして、明石と夕張に抱えられて、グラーフ・ツェッペリンの艤装が納められているドッグに向かった。
それを見た祐輔は、グラーフ・ツェッペリンに
「グラーフ・ツェッペリンさん……僕は、貴女の勇敢さに敬意を表します……貴女のおかげで、我が海軍の汚点に気付くことが出来ました……今は、ゆっくりと休んでください……必ず、動きますから」
そう言って、グラーフ・ツェッペリンの手を優しくベッドに寝かしてから退室した。