「……第一遠征艦隊がか……」
「はい……KIA認定されました……」
大淀からの通達を、長門はベッドに横たわったまま聞いていた
その長門の両目は、マスクで覆われている
長門は、片手を上に上げて
「こんな体でなければ……提督の命令を無視してでも、助けに行ったものを……っ」
と悔しそうに言った
それを聞いた大淀は
「……今提督は、新たな駆逐艦娘の健造に行っています……」
と言った
それを聞いた長門は
「……もう、300人は越えるか……」
と呟いた
それを聞いた大淀は、頷き
「最近……夢に見るんです……散っていった子達の最後の顔と言葉を……」
と声を震わせた
それを聞いた長門は、より強く自身の無力感を感じた
軽巡洋艦娘、大淀
通信機能と指揮能力が高められた艦娘で、艦娘の中でも人一倍記憶力が優れている
だから、覚えているのだ
沈んだ艦娘全員の顔と言葉を
「もう、これ以上は……っ」
「大淀……」
大淀が膝を突いてベッドに額を突いたのを感じた長門は、大淀の頭に優しく手を乗せた
それが、今の彼女に出来る精一杯のことだと思ったからだ
その時、甲高い警報が鳴り響いた
それが意味するのは、緊急事態
『緊急警報発令! 緊急警報発令! 近海に所属不明勢力を確認! 戦闘可能な艦娘は至急展開せよっ!』
と放送で、提督の指示が下された
その直後、廊下でバタバタと足音が響き渡る
近くに居た艦娘達が、走っているようだ
大淀はまだ艤装が無いために、戦闘参加は出来ない
だから、大淀は
「私は、指揮管制室に行きます……」
「ああ……」
この医務室は、もう少ししたら地下に収容されるだろう
そうなる前に、医務室から大淀は出た
大淀が居なくなったことを感じた長門は、揺れを感じながら
「私は……無力だ……っ」
とベッドを叩いた
この鎮守府で最高戦力なのは、間違いなく長門である
噂でしか聞いたことない改二どころか、大和型は居ない
だというのに、出撃出来ないことが悔しかった
場所は変わり、指揮管制室
指揮管制室は地下にあり、その特性的に安全性が高い場所だった
すでにそこには、提督の姿がある
提督は大淀に
「早く敵を特定しろ! この役立たず!」
と怒声を飛ばした
大淀はそれを聞き流しながら、素早くコンソールを叩いていた
「なにこの反応……推定サイズが、優に300mを越えてる……つっ! 所属不明艦二隻、急速浮上! 海面に出ます!!」
大淀はそう言いながら、檀上の椅子に座っていた提督に視線を見た
再び場所は変わり、鎮守府近海
そこに、艦娘達は展開していた
「ソナーに感アリ! 正面に浮上してきます!」
と言ったのは、軽巡洋艦娘の由良だ
彼女は対潜能力が高いので、鎮守府で待機していたのだ
そんな彼女の目元には、隈がある
面倒見のいい彼女が、駆逐艦の死に何も感じない訳がなかった
「了解したわ……全艦、攻撃態勢!」
と指示を下したのは、長門の妹たる陸奥だ
以前は優しい笑みを浮かべる女性だったが、最近は険しい表情になっている
彼女は、姉の長門を人質に取られていて、駆逐艦娘を見殺しにすることしか出来ないことを恥じていた
そんな彼女率いる艦隊の前の海面が、大きく盛り上がった
そして海中から、白亜の巨艦が二隻出てきた
「白い……艦……」
「綺麗……」
展開していた他の艦娘達は、その二隻を呆然と見ていた
その時、一隻から次々と何かが射出された
それを見た陸奥は
「対空戦闘、用意!!」
と指示を下しながら、レーダーからの情報に驚いた
「この速度は……!?」
レーダーからの情報を信じるならば、相手は空母艦娘が主力として使う零戦21型を越える速度で動いている
「照準が、追い付かない!?」
陸奥は驚きながらも、予想照準をしようとした
その時
「待ってください、陸奥さん!」
と一人の重巡洋艦娘
古鷹が止めた
「古鷹?」
「あの先頭の人型……時雨ちゃんを抱き抱えてませんか?」
古鷹は目が良く、先頭を飛んでいた人型
フレスベルグが、時雨を抱き抱えていることに気付いたのだ
そしてフレスベルグは、ある程度近付くと
『そちらの艦娘……時雨殿を含めた艦娘達を、返還する』
と言って、抱き抱えていた時雨をゆっくりと海面に立たせた
すると時雨は
「陸奥さん、古鷹さん! 第一遠征艦隊は、無事だよ!」
と手を振った
「し、時雨なの……本当に?」
まさか生きてるとは思っていなかった陸奥は、呆然と呟いた
すると、時雨の隣に吹雪が近寄り
「はい! 私達は生きてます! 全員無事です!」
と言った
すると、古鷹はそんな二人に近寄り
「無事で、良かった……本当に、良かった……」
と抱き締めた
そして、フレスベルグを見て
「貴方達が、助けてくれたんですか?」
と問い掛けた
その問い掛けに、フレスベルグは
『そうなるが、判断を下したのは我等の旗艦だ』
と返答した
その時だった
『なにをしている、貴様らは!! なぜ敵を撃たない!』
と怒鳴り声が聞こえた
全員が視線を向けてみれば、肩で呼吸している提督の姿があった
どうやら、指揮管制室から走ってきたようだ
「しかし提督! 彼等は第一遠征艦隊を助けて……」
『第一遠征艦隊は全員轟沈している! 生きているわけがない! つまり、そいつらは偽物だ! 深海棲艦が化けているんだ! その人型も、艦載機だ! 撃滅しろ! これは、《命令》だ!』
古鷹が最後まで言うまえに、提督はメガホンを使ってそう命令した
その直後
「い、嫌……だ……ダメっ」
陸奥の背後に居た空母艦娘
翔鶴が、腕を震わせながら弓を構え始めた
艦娘は、提督の命令には逆らえない
だが彼女達は、精神力を総動員して抗っていた
しかし、攻撃するのも時間の問題だろう
だが
『……すまんな』
フレスベルグがそう言った直後、フレスベルグの装甲が開き、緑色の光が溢れた
そしてフレスベルグは、無造作に腕を振るった
すると、陸奥を含めた艦娘達の艤装が、分解された
「な、なにが……!?」
時雨達が驚いていると、フレスベルグが
『戦闘力を奪っただけだ……』
と言って、提督の方を見た
だが、提督の姿は無い
どうやら、逃げたようだ
『……バカめ……俺達だけの訳がないだろ』
その時提督は、地下最下層のシェルターに向かっていた
そこならば、通路を封鎖してしまえば最も安全だからだ
「なんなんだ、あいつらは! だが、ここまで来れば!」
と提督は、シェルターのドアのパスワードを解除
中に入り、ドアを閉めた
そうしてシェルターの奥に向かおうと、背を向けた
その直後、背後に異様な熱を感じて振り向いた
「なっ!?」
そして提督が見たのは、赤熱化したドアだった
赤熱化したドアは、ドロドロに溶けて目前に一機の黒と金が特徴の人型が居た
「き、貴様は何者だ!?」
提督は混乱しながらも、拳銃を抜きながら問い掛けた
すると、その人型
AGF天ミナは
『そう言われて、名乗ると思うかしら?』
と言いながら、ビームサーベルを出力した
「このっ!!」
その言葉に、提督は怒りながら拳銃を発砲した
だが、たかが拳銃でMSの装甲を傷付けることなど出来ず、空しい金属音を響かせるのみ
そして、跳弾した弾が、提督の足を貫通した
「があぁぁぁぁぁぁ!?」
『アララ、おバカさんね。この距離で撃って跳弾したら、自分に当たるに決まってるじゃない』
倒れた提督を見て、天ミナは呆れた声音でそう言った
そして、ビームサーベルを突き刺そうとした
その時だった
「そこまでにしてもらおうか」
と新たな声
天ミナが振り向くと、緑色の軍服に憲兵という腕章を着けた軍人が居た
すると提督は
「け、憲兵! 私を助けろ! こいつを、なんとかしろ!」
と痛みに悶えながらも、憲兵に命令した
しかし、憲兵は
「……気付いていないのか」
と呆れていた
「な、なに……?」
憲兵の言葉に、提督は思わず声を漏らした
その時、憲兵の腕章にあるマークが刺繍されていることに気付いた
そのマークを見て、提督は目を見開き
「ま、まさか!? 大本営の特務憲兵隊!?」
「そうだ……第三パラオ泊地提督……貴様には、艦娘運用第五項と第七項違反、並びに資材の横領……その他含め、貴様を逮捕する。貴様が買収した憲兵達も、既に我々が拘束した……諦めろ」
その憲兵がそう言うと、天ミナは通路を譲った
その直後、その憲兵の背後から数人の憲兵が現れて提督を拘束した
「くそっ! 放せ! あいつらは兵器だ! だったら、使い潰すのが筋だろ! 放せ、放せぇぇぇ!!」
提督は暴れるが、憲兵は無視して引き摺っていった
そして最初に現れた憲兵は、天ミナに
「……一応、君達にも話が聞きたい……いいかな?」
と問い掛けた
その問い掛けに、天ミナは
『その判断は、私達の旗艦……アークエンジェル艦長が下すわ……』
と言って、通路を歩き出した
憲兵はその後を、静かに追ったのだった