スピリッツと日本が契約を締結してから、2日後のパラオ泊地。
「腕の具合はどうかしら?」
「……まさか、本当に2日で治るなんて……驚きました」
エウクレイデスからの問い掛けに、骨折した腕の調子を確認していた祐輔は、驚いていた。祐輔としては、寝て起きたら治っていたという感覚だが、日付は確かに2日過ぎていた。
スピリッツ側に祐輔を騙す理由が無かったので、本当に2日だと判断したのだ。
「まあ、これが私達の技術力ってことよ。あ、そういえば……」
「はい、なんですか?」
「確か、駆逐艦娘の……白露だったかしら……その子から、このメモを預かってるわ」
エウクレイデスはそう言いながら、祐輔に折り畳まれたメモ用紙を差し出した。それを受け取った祐輔は、一度エウクレイデスに視線を向け
「……内容は、見たんですか?」
「流石に見てないわよ、機密でしょう? まあ、内容は予想出来るけど」
祐輔の問い掛けに、エウクレイデスは当然だと言わんばかりに返答。そして、肩を竦めた。
「その予想は?」
「日本と正式に契約を締結。そして、それを国連に認証させた」
祐輔はメモを開きながら問い掛け、エウクレイデスは迷いなく告げた。その内容は、メモと完全に一致。ただし、追記として
《スピリッツと友好に接し、良き関係を築くように》
と元帥からの言葉があった。
その言葉が無くとも、祐輔としてはスピリッツとは友好的に交流しようと考えていた。そうして祐輔は、泊地の仮設司令部に戻っていった。
泊地の復興は少しずつではあるが着実に進んでおり、優先的に港湾施設と滑走路から修復されており、祐輔の見立てではあと数日で資源の受け入れが出来るようになるだろう。
「さて、問題は……」
祐輔は呟きつつも、仮設司令部に入った。すると、それに気付いた長門が
「おお、戻ったか。さっき入った報告なんだが……」
と言って、一枚のメモを差し出した。そのメモを一読すると、祐輔はそのメモをゴミ箱に捨てた。その内容は
《強硬派に不穏な動きアリ。注意されたし》
であった。そうして祐輔は、少し考えてから
「明石さんと夕張さんを呼んでください」
と長門に頼んだ。
それから時は過ぎ、祐輔は仮設宿舎の一つで寝ることになり、簡易ベッドで横になっていた。その時入り口がそっと開いて、黒い装備を身に付けた人影が滑り込んだ。
そのまま音もなくベッドに歩み寄ると、肩のナイフシースからナイフを抜いて、逆手持ちで振り下ろした。
確かにその凶刃は、頭に深々と突き刺さった。だが、血が出る様子は無い。それに慌てたのか、その人物はナイフを抜くと即座に布団を引き剥がした。
その下にあったのは、人形。
「マネキン!?」
「確認しなかったのが、お前の失敗だ」
「なっ、がっ!?」
慌てて振り向いた襲撃者を、祐輔が殴り倒した。不意打ちを食らい、一撃で意識を失った襲撃者。もう動かない事を確認した祐輔は、襲撃者の両手両足を縛ってから襲撃者が使っていたナイフと腰の拳銃を調べた。
とはいっても、製造番号部分は削られているために、何処の物かは分からない。
その二つは一旦置いといて、祐輔は無線機を取り出し
「回収をお願いします」
とだけ伝えた。そして、翌日の早朝。被害が無かったため、そのままだった地下の牢屋区画。
襲撃者は意識を取り戻したが、目は覆われていて手足は椅子に拘束されていて、身動きは一切出来なかった。こうなった時点で、奥歯に仕込んでおいた毒薬で自害しようとしたが、気付けばその奥歯が無い。どうやら見つかり、奥歯諸とも除去されたようだ。
「さて……目覚めたようだな」
その声に、襲撃者は僅かに体を震わせた。襲撃者は意識を取り戻した後、なるべく体を動かさないようにしていた。だが、見抜かれていたようだ。
「さて、手短に聞く……何故、パラオ泊地の提督の命を狙った?」
声からして男と分かるが、襲撃者が事前に聞いた祐輔の声とは違う。
「まあ、問い掛けても素直には答えないだろう……だから……少々強引に行かせてもらう」
男はそう言うと、襲撃者の耳にヘッドホンを装着した。最初は何の為に、と考えていた襲撃者だったが、不思議な音が聞こえ始め、頭がボンヤリとし始めた。
それが後催眠暗示だと気付く前に、襲撃者は質問した男。フェニックスの質問に答えていた。