パラオ艦隊とスピリッツの反撃で、深海艦隊を撃滅して約一時間後。
「すいません、皆さん……ご心配をお掛けしました」
「祐輔さん……!」
「無事で何よりです、提督……!」
車椅子姿だったが、元気そうな祐輔の姿を見て、艦娘達は安堵した表情を浮かべた。その後祐輔は、何とか無事なエレベーターを使って、地下司令部に向かい
「それでは、最終報告をお願いします」
「はい……」
祐輔が促すと、大淀が語り始めた。そして数分後、聞き終わった祐輔は
「それで、僕の代わりに指揮を執っていたという中佐はどうしました?」
「それが、襲撃直後に我先にと逃げ出して、何処かのシェルターに向かったようなのですが……未だに見つかっておりません……」
祐輔からの問い掛けに、大淀も困惑した様子で答えた。
戦闘終了後、避難した非戦闘要員及び民間人に被害が出てないか確認する為に、開放した全シェルターに避難した全員を確認したのだが、その中には居なかった。
しかし、見つからなかったのも無理なかった。
中佐が向かったのは、廃棄予定のシェルターだったからだ。しかもそのシェルターの入り口は崩壊し、誰も入れない状況な為に、見つかるのは当分先か、最早見つからないだろう。
それはさておき、と祐輔は呟き
「スピリッツの皆さん、今回もありがとうございました……そちらの手助けがなかったら、もっと被害が大きかったでしょう」
と祐輔は、代表として来ていたエウクレイデスに頭を下げた。すると、エウクレイデスは
「今回の戦闘は、十分契約の範囲内よ。むしろ、少し遅くなってごめんなさいね」
と謝罪した。
遅くなった理由だが、スピリッツは海底で資源採掘をしていて、ソナーは採掘の際の作業音で飽和状態だった為に、気付くのに遅れてしまったのだ。
その採掘作業も、パラオとの契約内容の一つでもあった。
パラオの海底には、良質な鉱脈が広大に広がっており、今の人類の技術では、採掘するのは非常に困難だった。その採掘作業をスピリッツが代行して行い、パラオに渡し、幾らかを融通してもらう手筈になっていた。
「地上施設は、約5割が倒壊。主に、港湾設備に集中してます。只今、夕張と明石が優先的に修理してます。尚、資源貯蔵庫近辺はほぼ無傷でした。そこから、深海艦隊は当泊地を占拠する気だったのか、と予想してます」
「そして、トラックを背後から奇襲……という処ですかね……」
大淀の推測混じりの報告を聞いて、祐輔は呟いた。恐らくだが、概ねはその推測通りだろう。
パラオはトラックの補給線でもあり、更には後方の安全を確保する要衝でもある。
「……暫くは、復旧を優先しつつ、哨戒艦隊を倍に増やして、再度の襲撃を警戒します……」
「了解しました。後程新たに哨戒艦隊を編成し、対処します」
祐輔の指示を受けて、大淀は持っていたバインダーの紙に書き込んだ。そして翌日から、パラオ泊地は本格的に復旧を開始した。
幸いだったのは、パラオに居た艦娘には誰一人として轟沈艦娘が居なかったことだ。
このパラオ泊地だが、最前線では戦えなくなった艦娘を引き取り、療養してる艦娘も居たのだ。
その為、療養施設周りには特に防衛施設が展開されていた為に、何とか迎撃が出来て、療養艦娘達は無事だった。
「しかし、祐輔さんも無理をしないでください。まだ、傷が完治した訳ではないんですから」
「とはいっても、やらないといけない書類が多くて……中佐、まともにやってなかったですから」
吹雪が祐輔の体を心配して言うが、祐輔は書類を捌く手を止めることはなかった。
件の中佐だが、ろくに書類をやらなかった為に、数日間分の書類が溜まりに溜まり、祐輔の机の周りには段ボールが幾つか置いてあった。
それら全て、中佐が代理に指揮していた間の書類である。中佐は本来やるべき雑務を全て、艦娘に丸投げしており、書類は一切やっていなかった。
では、何をやっていたか。
実は資源の一部を強硬派の提督に横流しし、更に祐輔に罪を押し付けた後に新しい提督を据える計画の話をしていただけである。
そもそも中佐は、普段から自分の指揮下の陸戦隊の雑務の全てを副官に丸投げし、自身は賄賂を渡したりと、保身に走っていた。そして中佐は気付いていなかったが、監査部が中佐の戦果報告に違和感を覚え調査しており、近い内に逮捕状が出される予定だった。
閑話休題
それはさておき、祐輔はまだ完治していないが、書類を捌いていた。その時、一枚の書類を見て、動きが止まった。
「祐輔さん、どうしました?」
吹雪が問い掛けると、祐輔は呟くように
「……青葉さんと衣笠さんを呼んできてください……」
と吹雪に伝え、それを聞いた吹雪は頷いてから、部屋を出た。祐輔が見ていた書類には、こう記載されていた。
《ロシア連邦から、諜報員が入った可能性大》