「……あの提督、本気で殴ってやりたいわね……」
と怒りを滲ませた声を漏らしたのは、エウクレイデスだ
そんな彼女の前には、数多の重傷艦娘達が乗せられたストレッチャーがある
どれも酷い傷を長期間放置されたために、酷い有り様になっている
一番近い艦娘
陽炎型の黒潮は、頭の半分を包帯で覆い、先に見た腕は紫色になって異臭を放っていた
不知火曰く、本当は朗らかな性格の優しい妹だとのこと
そんな黒潮のような重傷を負った艦娘が、優に20以上
その人数と傷に、エウクレイデスは特務憲兵達に連行された元提督に、殺意を向けた
そこに
「彼女で、最後よ」
と陸奥が、車椅子で長門を連れてきた
「……見た感じだと、目だけかしら?」
「ええ……」
エウクレイデスの問い掛けに、陸奥は辛そうに俯いた
すると、車椅子に乗っていた艦娘
長門は
「陸奥から話を聞いている……私は、長門だ……」
「初めまして、エウクレイデスよ」
長門が右手を差し出すと、エウクレイデスは握手に応じた
そして、小声で
「……単純な怪我じゃなさそうだけど……原因は?」
と陸奥に問い掛けた
その問い掛けに、陸奥は
「……強い光を当てられて、トラウマを刺激されて、目が見えなくなったの……」
と辛そうに答えた
それを聞いて、エウクレイデスは
「強い光……つっ……クロスロード作戦っ」
と長門の失明の原因に行き着いた
クロスロード作戦
それは、第二次世界大戦後に敗戦国たる日本から、アメリカは多数の艦艇を賠償艦として接収し、新型爆弾たる核爆弾の標的にしたのだ
記録によれば、長門は核の爆心地に居たというのに二発の核の直撃に耐えたという
その後、長門は燃えながら沈んでいったとされている
恐らく、その記憶を刺激されたのだろう
「となると、心因性……かなり厄介ね」
直接的な傷が原因ならば、その治療をすれば治せる
しかし、心因性となれば本人の気力と周りの人達の根気が重要になる
「……悪いけど、貴女の治療は後回しになるわよ?」
「構わん……駆逐艦や軽巡洋艦娘達を優先的に治してくれ……私は……ずっと……見送ることしか出来なかった……!」
エウクレイデスの言葉に、長門は頭を下げながら悔しそうに、アームレイカーを握った
戦艦長門
第二次世界大戦を最後まで生き残った戦艦で、ビッグセブンと呼ばれた戦艦の一隻になる
それ故に、幾多の仲間達が沈むのを見送ってきた
妹の陸奥や、数多くの駆逐艦、巡洋艦、空母を
それも、トラウマだった
(重症ね……一種の
戦争神経症
戦争や戦闘を経験した人物がなる精神病で、トラウマの一種だ
こうなると、戦線復帰は絶望的にすらなってしまう
「とりあえず、部屋を割り当てるわ……バーストフリーダム!」
『はっ』
エウクレイデスが呼ぶと、赤黒白の色合いが特徴の機体
バーストストライクフリーダムが、近寄ってきた
「彼女達を、士官室に連れてってあげて」
『了解』
エウクレイデスの指示を受けたバーストストライクフリーダムは、長門の車椅子を押していた陸奥の案内を始めた
それを見送ったエウクレイデスは
「さてと……全員治しますか!」
と気合いの声を上げた
そして、地下ハンガー区画
そこにエウクレイデスは、妖精達と一緒に重傷艦娘達を運び入れた
そこは本来だったら、MSの改修をする場所である
しかし今は、数多くのベッドが並んでいる
そしてエウクレイデスは、そのベッドの周囲に数人ずつ妖精を配置
エウクレイデス自身は、一段高い壇上に立って、頭に目元まで覆うマスク
そして両手の指には、指環を着けている
しかしその指環から、10近くのコードが繋がっている
「さあ……始めるわ……」
エウクレイデスはそう言って、両手を優雅に動かし始めた
すると、天井から数十本のアームが伸びてきて、先端から様々な手術器具を露出させた
それが、今のエウクレイデスの機能
以前はMSの改修機能だったが、今は数多の艦娘達を一斉に治療出来るという機能になっていた
「待ってなさい……必ず、治すからね……」
エウクレイデスはそう言いながら、治療を続けた
これから、数時間に渡る手術の始まりだった