その日、祐輔はパラオの市街地に来ていた。
パラオは日本の支援により、インフラや経済が活性化していた。祐輔が今居る料理屋も、日本本土の店を誘致し、支店を出してもらったのだ。
祐輔は私服で、そんな料理屋に居た。しかも、居たのは二階の奥の部屋。そこは限られた人しか入れない為、秘密の会話をするにはうってつけなのだ。
相手はスピリッツではない。スピリッツだったら、鎮守府の施設で事足りる。
では、会うのは誰か。
『お客さま。お待ちの方がいらっしゃいました』
「通してください」
祐輔が促すと、料理屋の女将が静かに扉を開けて
「どうぞ、お入りください」
「ありがとう」
女将に促されて、一人の小柄な女性が入った。
その女性が入ったのを確認した女将は
「御二階は貸し切りでございますので、どうぞごゆっくり」
と言って、扉を閉めた。
そして、女将の足音が聞こえなくなったのを確認してから
「……お久し振りにございます……朝日様」
と頭を下げた。
敷島型戦艦二番艦の艦娘で、天皇陛下のご意見番であり、更には時々新人に対する教師役も勤めている。
そして、祐輔に対して高い評価を出した一人でもある。
「久方ぶりですね、榊原提督」
「は……自分が訓練生時代でしたから、三年振りでしょうか」
朝日に返答しながら、祐輔は朝日のコップに飲み物を注いだ。
今から数日前、祐輔に私信が届いたのだ。
非常に遠回りな方法で、通常より日数を掛けてきた。それ程日数を掛けたのは、警戒しての事だと祐輔は考えて、今居る料理屋の二階を貸し切りにしたのだ。
更に言うならば、料理屋の周囲には鎮守府の陸戦隊から信頼出来る部隊を選抜し、配置している。
「して、朝日様……内密な話とは一体……」
祐輔の問い掛けに、朝日は少し躊躇う様子を見せた。
しかし、数秒後
「……今陸軍内部で、深海棲艦を鹵獲し、数を増やしている……という情報を入手したのです」
「なっ……深海棲艦を鹵獲!?」
深海棲艦を鹵獲なんて、どうやって。というのが、祐輔の最初の反応だった。しかもそれだけでなく、数を増やしているというのもあり得ないと言いたかった。
「信じられないのも、無理らしからぬ事です……私も、密偵から話を聞いた時は驚きました……もし本当ならば、海軍に協力している者が居る事になります……」
「……一体、誰が何の目的で……」
深海棲艦は時々、特異な個体が現れる事がある。
その特異個体に遭遇したら、撃破した後、沈む前に回収。海軍研究所に引き渡す事になっている。
「今のところ、皆目検討も付きません……しかし、ろくでもないのは確かでしょう……榊原提督……」
「自分に出来る事ならば、対処します……軍人として、民間に被害を出させる訳にはいきません」
朝日が最後まで言い終わる前に、祐輔は頭を下げながら宣言した。それは一重に、祐輔が善良な軍人だからだろう。
「感謝します、榊原提督」
「微力ながら、力を尽くします」
朝日の感謝の言葉に、祐輔は再び頭を下げた。