海軍大本営は、情報省から知らされた内容に揺れていた。
佐世保鎮守府から、艦娘と深海棲艦が大量に出現し、街に対して無差別に攻撃している。
「佐世保の綾坂大将は何をしている! 連絡はつかんのか!?」
「ダメです! 一切連絡はつきません!」
「こちらから、部隊を送れ! 何としても、市民の被害を最小限に食い止めるのだ!」
会議室は、まさに上へ下への大騒ぎだった。
情報省からの報告によれば、佐世保鎮守府から現れる艦娘や深海棲艦は一様に無表情で無差別に攻撃している。
深海棲艦はともかく、艦娘が人間側に対して攻撃するのはどう考えてもおかしい。
この段階に至っても、大本営幕僚の大半が綾坂大将が反乱を起こしたとは思っていなかった。
しかし、やってきた神林元帥が
「此度の事件、綾坂大将が原因と判断する。現時点を以て、綾坂元大将を反逆者として認定し、動かせる戦力で鎮圧を計る!」
と指示を下した。
「しかし、綾坂大将は長年佐世保鎮守府で国防を担っていた方です! 反乱を企てるとは……」
「これを見ろ」
一人の参謀がまだ綾坂大将を信じる発言をしていたが、神林は書類をその参謀の前に置いた。
「これは……」
「ある人物が命懸けで入手した、綾坂大将が企てていた計画書のコピーだ」
神林の話を聞いた参謀は、その書類を読み始めた。
「なっ……パペット化した艦娘や深海棲艦による国家転覆計画!?」
「なんだと!?」
その参謀が驚きの声をあげると、周囲に居た他の幕僚達も我先にとその書類を読んだ。そして、最後のページの下部に綾坂大将の名前と間違いなく綾坂大将の判子があった。
「その計画書を入手した人物は、綾坂大将からの追手により、艦隊は壊滅し、本人も重傷を負った……ワシも信じたくはなかったが、事ここに至っては信じる他あるまい……急げ! 手遅れになる前に、鎮圧する!」
『はっ!』
神林の指示を受けて、幕僚達は会議室から出ていった。
そして神林は、窓から外を見て
「……どうか、頼む……スピリッツ」
と呟いた。
少しばかり時間は遡り、佐世保近郊のある場所に人間の姿になっていたスピリッツ実働部隊が全員集まっていた。そこが、アークエンジェルから指定された座標だ。
「さて、そろそろかな」
とフェニックスが呟いた時、海中から白亜の巨艦が二隻現れて、そのまま頭上に来た。そして艦底部のハッチが開いてそこから数機のSFSが降りてきた。
スピリッツで運用しているトレイターだ。
「よし、行くぞ」
『了解!』
そして、それぞれの母艦に戻って機体に意識を戻してから、出撃準備に取り掛かった。
その頃、アークエンジェルの艦橋では
「佐世保市内の状況は」
「只今、UAVが入りました。映像出します」
メインモニターに表示されたのは、無差別に暴れてる艦娘や深海棲艦。そして、警官隊が必死に市民の避難誘導をしながら、艦娘や深海棲艦に対して拳銃で反撃している様子だった。
しかし、たかが拳銃程度でどうにか出来る訳がなく、一人また一人と弾切れを起こして後退していく。
「……先行投入が可能な無人機は?」
「はっ。先行生産したハイザックとマラサイ。それと、ジムⅢが中隊規模になります」
ジムⅢは海底基地を制圧した後、生産ラインの一つにあった機体である。ジムⅢの強みは、肩や腰部分に後付けでミサイルポッドが取り付けられる事で、様々な弾頭を用意しておけば、多用途な使い方が出来る機体である。
「先行投入し、市民の避難を補助。それと、出来るだけパペット部隊の数を減らしなさい」
「はっ!」
アークエンジェルの指示から数十秒後、アークエンジェルとエウクレイデスから次々とMS隊が出撃。
佐世保市内に入り、パペット部隊と交戦を開始した。
「本隊の投入は、後どれくらい掛かりますか?」
「一番早いのは、フェニックス隊が後60秒で可能です。全体では、360秒程かと」
副長からの報告に、アークエンジェルは黙考した。
最速を考えるならば、完了した部隊から次々と投入すべきだろう。しかしそれは、戦力の逐次投入という愚策になる。
特に相手の総数が分からない以上は、避けるべきだろう。
そう判断して
「全体の準備が整ったら、投入しなさい。それまでは、何とか先行部隊で足止めを徹底」
と指示した。
こうして、後に佐世保動乱と呼ばれる戦いが幕を開けた。