佐世保市内は、地獄と化していた。
佐世保鎮守府の敷地から、それぞれ3km程は建物は完全に倒壊し、燃え盛っていた。
しかし実は、人的被害は少なく、死傷者は100人にも満たない程度しか出ていない。
それを、佐世保鎮守府の執務室から見ていた綾坂は
「何が起きている……何故、人形どもの進軍が止まっているのだ!?」
と苛立っていた。
端末で確認するが、パペット部隊はある一定ラインで次々と反応が消えている。つまり、そのラインで全て撃破されているのだ。
綾坂は知らなかったが、スピリッツから出撃した量産型MS部隊が全力で攻撃していて、辛うじてだが防衛線を構築し、堪えていたのだ。
市民も必死に逃げて、そのラインを目指した。
その甲斐あり、死傷者100人足らずという少人数の犠牲に留まっていた。
「数はまだまだ居るんだ! 押し潰せ!!」
今も佐世保鎮守府の地下から、続々と現れるパペット部隊。その総数は、万を超える。密かに捕まえた深海棲艦や極秘に建造した艦娘を手当たり次第にパペット化した。
そして綾坂は、端末で攻勢を強めるように指示を出した。
出したのだが、遅すぎた。
綾坂は知らなかったのだ。数を上回る質を有する部隊が居る事を。そしてその部隊が、今佐世保に居る事を。
場所は変わり、最前線、
佐世保鎮守府正面ゲートから3km先にジムⅢの中隊が展開し、ビームライフルを撃ち、次々とパペット部隊を撃破していた。
一機が肩のミサイルポッドからミサイルを放ち、数体撃破した。しかし攻勢が強まり、パペット部隊が防衛線に食い込もうとしてきた。
しかし、ジムⅢは引かなかった。何故ならば、その背後では母艦から連れてきた医療妖精達が負傷して動けない市民を治療していたからだ。
今佐世保市に展開している各部隊に出されている最上位命令は、佐世保市民の安全確保となっている。
その為に、各部隊は奮闘していた。
だが、攻勢が強まったパペット部隊が損耗を上回る速度で前に出てくる。
医療妖精も一生懸命に市民を治療しているが、片足を無くした人を動かすには、最低でも止血をして、痛み止を施す必要がある。
医療妖精達は確実に治療を施しているが、止血帯が足りなくなってきていた。それが、負傷者の移動を困難にしていた。
そして、一体のパペットが家の屋根からジムⅢに取りつこうとした。だが、横からのビームに撃ち抜かれて倒れた。
ジムⅢが頭部を向けた先には、朱き不死鳥。フェニックスが居た。
『よく持たせた……スピリッツ全機、佐世保鎮守府に進撃! パペット部隊を掃討せよ!』
フェニックスは指示を下した直後、パペット部隊に突撃していった。
数では、ようやく大隊規模のスピリッツだが、全員が一騎当千のエース。通る過ぎ様に、10体以上を同時に撃破。両手に持っている武装で、次々とパペットを撃滅しながら進撃する。
『数は多いが……動きが単調だ!』
フェニックスは止まることなく、無人の野を駆けるが如く進む。一体のパペットをビームサーベルで袈裟斬りにし、後ろから接近してきた別のパペットをビームライフ撃ち抜き、いつの間にか投げていたビームサーベルが三体のパペットを切り裂いた。
そうして、フェニックスとフェニックス隊は進撃していく。
別の場所ではハイザックがマシンガンを連射し、弾幕を形成していた。その中を、ヴァルキュリア隊が進撃していく。
ハルファス・ベーゼがビームサイスで切り裂き、ウィング・ゼロがバスターライフルで撃ち抜き、エピオンが巨大なビームソードで切り裂き、デュナメスが狙撃していく。
一個小隊の進撃を、数千は居るパペットは止められなかった。
それほどまでに、スピリッツの腕は抜きん出ていたのだ。
それを見ていた市民は、徐々にだが、スピリッツに対する印象が変わっていた。
これまでは、天皇陛下は認めていたが、得体の知れない武装勢力という印象だった。
しかし、自分達を逃がす為に数多いる敵に突撃する勇猛果敢な味方という印象に変わっていく。
これが、日本に於いてスピリッツを友好的な存在にする切っ掛けになっていった。