佐世保動乱が終わってから、約二週間が経とうとしていたある日。
「……う……」
「雪原提督!? 私が分かりますか?」
その日の医務室の担当だった能代が、涼華が目を覚ました事に気付いた。そして能代は、すぐに内線で祐輔に連絡した。それから数分後
「意識が戻って良かったですよ、雪原提督。1ヶ月近く意識が無かったので」
「そんなに……あ! 綾坂大将はどうなりましたか!?」
「……いいですか? 落ち着いて聞いてください」
そう言ってから祐輔は、ゆっくりと語りだした。
聞き終わった涼華は、少し寂しそうな表情で
「……生き残ったのは……20人ですか……」
と呟いた。涼華の艦隊は当初250人居た。しかし、パラオに到着するまでに20人にまで減ってしまった。
「雪原提督……辛いでしょうが、今は回復に専念してください……」
祐輔はそう言うと、静かに医務室から出た。すると中から、嗚咽が聞こえ始めた。それを聞いた祐輔は、その場から離れて
「……しばらくの間、誰も近付かないようにしてください」
「わかりました……」
近くで待機していた大淀に指示してから祐輔は、執務室に戻った。なお、涼華が担当していた横須賀だが、今は元帥とその艦隊が入り、代理で担当している。
これは、横須賀鎮守府を任せられる人材が居ない為の一時的措置である。
なまじ、祐輔と涼華が優秀過ぎたのだ。
横須賀鎮守府だが、防衛の砦として機能しており、生半可な練度の艦隊では任せられなかったのだ。
なお、元帥が居た現海軍本拠地の呉には大勢の提督が在籍しており、元帥一人が離れても支障は無い。
そして佐世保だが、復興と並行して調査を進めているが、綾坂元大将は、やはりリボーンズと取り引きした事が判明している。
取り引き材料は、資源と艦娘建造技術を転用した肉体の成形技術。
つまりリボーンズ達は、人の体を得て、地上で動いている可能性が高まった。
それを聞いたアークエンジェルは、今判明している敵の人の見た目を教えた。
しかし、見つけても手出しはせずに、情報収集に徹するように念押しした。
「……ままならないな……」
祐輔は窓から空を見ながら、ポツリと呟いた。
僅かに時は経ち、8月。一年中暑いパラオでは分かりにくいが、日本も夏に入った。
あれからだが、涼華はパラオ第二泊地の提督として赴任する事が決まり、今は艦隊の再編を進めている最中になる。
残った20名を中心に、祐輔の艦隊と合同で哨戒、威力偵察、戦闘を繰り返している。
そして涼華の乗艦だったおおすみ型は廃艦となり、今現在は祐輔の艦を共同で使用している。
そんなある日
「なんですって? 通信が途切れた?」
「はい。第4哨戒艦隊が、ルートC3を航行中に」
涼華からの報告を聞いた祐輔は、海図を開いて、涼華が告げたルートを見た。
「確か、第4哨戒艦隊は後1時間で帰投予定でしたね……となると、位置は……大体この辺りか」
「恐らくは、ですが」
祐輔と涼華の艦隊は、日替わりで互いのルートを交代して担当しており、防衛線を5重に敷いていた。
そしてルートC3となると、第三防衛線になる。そこで通信が途切れたとなると、相手が防衛線のかなり内側に食い込んできている事になる。
祐輔は少し考え
「……念のために、二個連合艦隊を出します。そちらも、動かせる艦隊を出してください」
「わかりました、すぐに!」
祐輔の指示を受けて、涼華は無線で待機の艦娘達に指示を出し、祐輔は今日の秘書艦娘の矢矧に指示を出してから、受話器を持ち上げて
「アークエンジェルさんですか? もしかしたらですが、敵が現れた可能性があります。出撃準備を願います」
と告げた。