許して
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「光の槍」。
天使にほど近い神の力の欠片、堕天使が扱う極々標準的かつポピュラーな通力(魔力や妖力といったものの総称)兵装。標準武器。
威力、大きさはそのまま担い手である堕天使の実力を表し、通力という生体エネルギー兵装であるが故に形状や数にも応用が利く(雷光のバラキエルなどがその一例だろう)。特に「属性」が共通の出典元である悪魔には絶大な優位性と効力、そして視覚からでも不快感を覚えさせるほどの強烈な毒性のような働きを持ち合わせている。無論、武器や凶器としては対人間においても有効であり、その特徴から教会戦士、
故に恐らくは天使にも類似した力の使い方があり、標準兵装となっている可能性は想像に難くない。
何故、属性的には悪魔の方が近いであろう堕天使が未だに天使系統の技をそのまま振るえるのかという疑問やらは多分真っ先に浮かぶが、今は置いておこう。
問題は、多くの堕天使にとって「光の槍」は自らの実力を映し出す証であり、最も信頼をおく武器であるというコトである。
だから言うまでもないことだが、レイナーレの様な自尊心が高く、人間や悪魔を見下す傾向の強い堕天使の手合いにとっては「格下に自らの槍を防がれる」などあり得ないことであり、まして———
ガキンッ
「…へ。ハ、な、ぁあああっ!?」
———もしも「ただの人間」程度に防がれたならば、それは自己の全てを否定されたにも等しい…途方もない屈辱なのである。
**************
硬い手ごたえ。痺れる手首。意図せず上がった腕。目下に存在する存命の標的…否、存命どころではない。
レイナーレの自我が一瞬、全てを白へと塗りつぶされる。だがレイナーレの自我の有無に関係なく、重要なのは結果だ。
「よし…!」
標的…福太郎の、安堵の混じった確かな呟きがレイナーレの形のいい耳にまで届く。見ればその手には大ぶりのペンの様なものが握られており、その足元には彼らを覆う大きな
そこには、こうあった。
『結界』
「…へ。」
「ハ、な、」
「———ぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
———神器さえ持たない、「ただの人間」に防がれたという純然たる事実。許しがたき、現実である。
レイナーレの視界が、赤く染まった。
**************
「にんッ、ににに人間!ただの、神器もない人間が!私の槍を、そんッ、子供だましみたいな手で、防いだ…!?何を…何をしてるのこの下等生物がぁぁぁあああああああああッッ!」
屈辱と憤怒に張り裂けそうなレイナーレの叫びが夜の帳に木霊するのを即席の結界の越しに聞きながら、冷や汗を垂らしながらも福太郎は次の手段を考えていた。
「
後述されるその性能は応用力こそ侮れないものの、癖がありすぎるが故に決して「万能」には届かないという、頼りにはなるが困った福太郎の相棒だ。
故に取れる手段と言っても、選択肢は限られている。ようは「いかにして逃げるか」「いかにして凌ぐか」というコトだ。
「(一誠の死体はどうにか守り抜きたいとこやねんけど、抱えて走っても追い付かれて死ぬ。そも抱えたら両手塞がっとんねんし、っつか結界解いた瞬間多分死ぬわ。㒖念筆使おうにも手元には運悪くなんもないしな…)。」
忘れかけていたが、福太郎はほとんど着の身一つの状態である。そもそも食後にタバコを買いに来た帰りであり、こんな事態になるとは微塵も想定していなかったのだ。手元には財布程度しかなく、唯一の武器と呼べる㒖念筆の真価もこれでは十全に発揮できない。
ならば福太郎が単身レイナーレを倒すという手だが———
「(死ぬだけやな)。」
福太郎はただの人間である。ついでにいえば武人でもなければ鍛錬を積んでるわけでもない絵描きである。武器があっても正面から突っ込めば、たちまち死ぬのは目に見えていた。というかこんな状況三秒も持たん。
そうなると、とれる手段は結局「一つ」しかない。
「死ぃぃィねええええええええッッ!!!」
「ッ!!」
そこまで考えたところで、ひとしきり叫んでもなお怒り狂ったレイナーレがこちらを見据え、思い出したかの如く光の槍を手に、先程の比ではない猛攻を不可視の結界の上から浴びせてきた。福太郎のイメージの元に半球状のドーム型に張られた結界は激しい音を立てながらも堅牢にそれらを防ぐが、防ぎきっているハズの福太郎の顔色には微塵も余裕がない。
「(ゴーレムみたく詳細な情報を書き込んだわけでもない。オレのイメージ主体の簡易的な
「人間!人間が!私を阻むな、時間をかけさせるな、私に歯向かうなァ!下等で!脆弱な!奇怪な術を使うだけの!人間風情がァ!」
レイナーレの動きは尚も止まらない。薙ぐ、突く、打つ、振り下ろす、巻き付ける、斬りつける。攻撃手段は槍の一本だが、がむしゃらに見えて技から技へと繋げに繋げて終わりが見えず、武術を嗜まない福太郎の眼からすれば竜巻さながらに治まる様子を見せない。
不可視の結界が次第に軋んでいくような錯覚に陥りそうになり、本当に壊されないためにもすぐに集中を改める。
「どうする…!?」
考えなくてはいけない。だが考えている時間はない。そして諦めることは選択肢にない。故に、ともかくイメージの切れない内に何とか結界の下から新たな結界を描こうと㒖念筆を握る。
更なる
「そこまでよ。堕ちた天使の木っ端さん。」
透き通る様な声が響き、刹那、夜の闇を赤い光が染め上げる。その場にいた全ての視線が光の先、その根源へと向かった。それまで続いていた猛攻が嘘のように収まり、一転。警戒態勢に移り変わる。
一誠の骸、その傍ら。血染めのチラシから、黒く乾きかけた血を塗り直すように迸り、脈動する苛烈な輝き。そしてその赤き輝きに負けないほどの質量を持った「赤」が弱々しい夜風にも大きく広がり、靡く。
その光景、その美貌が、否応なしに周囲全てを威嚇するのように、目にする者へ「圧」を振りまいていた。
脈動する「紋章」が指し示すのは一つの「血統」。
背側から広げられた翼が指し示すのは一つの「種族」。
そして、その表情が指し示すのは———明確なる「憤怒」。
その登場、その正体に、堕天使レイナーレがここにきて初めてその表情に焦りの色を見せ、その名を口にする。
種族としての怨敵の一角。最初から警戒していた強敵。その登場に幾重もの憎悪と呪詛を籠め、言の葉に乗せて吐き出した。血走った眼光、その先———。
「グレモリィー…!!」
「消し飛ばすのは前提、でも今
黒く赤い「滅び」を迸らせ、憤怒と贖罪に濡れた宣言が響き渡る。無断の領地侵入者、加えて下手人を目の前に、意図をもって見逃すという領主として更なる失態を犯すことを、彼女は恥じることなく宣言する。
余りにも遅すぎた登場。その不始末を、確かな形で償うために。
学び舎に身を置く一生徒として、貴族としての「グレモリー」ではなく、一人の「リアス」として。
福太郎たちの前に躍り出た彼女は、決意をもって———その全霊をもって、己の在り方を指し示す。
文章力…ホント、しっくりくる文章が難しい