其之銘『夢想実現之事』   作:鉤森

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難産。自分の文章を見失いそうになる。変になってないか何度も読み返してます。
沢山の評価に新しいコメント、本当に嬉しいし励みになります。ありがとうございます。



こっから設定こねこねです。


前兆の一夜。閉幕《伍頁目》

 

 

———色々あった、というには、あまりにもひと時の間に凝縮された一日だった。だが考えてみれば、そもそも「大変な一日」なんていうものは大抵そんなものだったかなとも思う。

そんな風に思いながら灯したタバコの煙を吸い込み、肺を潜らせ()ッと吐き出す。

 

 

素由狸(スュリ)ッ…。

 

 

「………。」

 

 

口から吐き出した紫煙がゆるーくくゆり(・・・)、拡がったり廻ったりとカタチを変えて天井にのぼる様子(サマ)が、なんだかとても懐かしい気がした。

 

自室———駒王町の外れに位置する、足洗邸の捌号室である———にて、ちょくちょく寝具の役割を果たす、くたびれたソファーに身体を沈めての一服。生きて帰れたという安堵感もあるのだろうが、とにかく纏わりついた気持ちの悪い疲労感に耐え切れず、帰宅して早々にオレはこうしてタバコの封を切った次第だが…身体を横たえてうっかり眠ってしまいそうで危ういことに気が付いた。

とはいえ今更身体を起こす気にもなれず、諦めて仰ぎ見た視線を天井にボンヤリ漂わせる。回転の緩い脳みそをうっかり眠らせぬように、気付けばオレは今日一番の激動を…先程の夜の一幕を思い返していた。

 

()ゥ…。

 

もう一度温かい煙を肺にため込み、ゆっくりと吐き出す。

 

**************

 

 

あの後、堕天使レイナーレはリアスさんの挑発に乗る事もなく、アッサリと引き上げていった。

 

いや、アッサリというにはだいぶ顔がヤバかったけど。げっちゃくそ呪詛(アクタイ)()いてったし。

だが、まあ、ともかく戦闘行為には移らずに、最後にオレ指さして「お前は絶対に殺す」という捨て台詞を残して、文字通り飛んで逃げていった。

リアスさんはその姿と羽ばたきの音が完全に消え果てるまでその方角を睨みつけていた。生徒会長、蒼那さんに勧誘された際に聞いてた通り、この子も悪魔なんだなと思いながら見事な赤い髪に覆われた後ろ姿を見つめていると、ようやく警戒を解いてオレの方にやってきて———

 

「本当に、遅れてゴメンなさい」、そう一言謝って、彼女は深々と頭を下げた。

 

———何も言えなかった。圧倒されたのだ。

突然の謝罪に驚きこそしたが、彼女(リアス)が「何に対して謝っているのか」を察せないほどニブイ訳ではない。まして以前、あの生徒会室で聞いていた話によれば、彼女はこの街を預かる管理者であるという(曰く「領主」であるらしい)が、そうなれば一誠の死をはじめとした今回の一件には、思うトコロがある処の話ではないだろう。無論、彼女の人柄あってのコトだろうが。

ある種の気迫さえ纏った重い謝罪の言葉に気圧されている内に、彼女は自分が現れた魔法陣…それの傍らに転がる一誠へと視線を移していた。

 

 

「彼…一誠、だったわよね。彼にも悪いことをしてしまったわ。」

 

 

「…兵藤がリアスさんを呼んだんですかね?」

 

 

「ええ。この配布チラシ、人間の「願い」に反応して悪魔(わたしたち)を召喚する仕組みになってるんです。今回は間に合わなかったですけどね。

あと敬語は不要ですよ、先生。私は生徒で、あなたは教師です。仮に学校の外で、今が夜だとしてもね?」

 

 

「…ハハ、せやな。ちゅうか、なんやねんソレ。怪しいやろ。…ああ、でも兵藤のヤツなら胸ぇツツかせろとか言いそうやなぁ…。」

 

 

容易に目に浮かぶ鼻の下を伸ばした教え子のだらしない顔。ああ、間違いない。こいつならそう言っていただろうな。思い浮かべ、改めて一誠の死を実感し、そんな風に力なく、笑みを浮かべることしかできなかった。身体と頭の奥から拒絶するような感覚に、気を抜けば飛びそうな意識に頭がどうにかなりそうな気がした。

 

だから、

 

 

「そう、それくらいならいくらでも…ともかく。まずは生き返らせてからにしましょうか。」

 

 

「……へ?」

 

 

続いた言葉に、その意味するところに。今度こそ(・・・・)、驚愕に言葉も出なかった。

 

 

「人間としては無理でも、悪魔として…私の眷属としてなら蘇らせられる。」

 

 

「な、何ィイイイイイイ!?」

 

 

夜の帳に木霊する絶叫。別口で意識まで発射しそうになったのは言うまでもない。

そんなオレの絶叫にも動じずに彼女、リアス・グレモリーは淑女然とした所作をもって微笑みを浮かべている。彼女の言葉が、楽し気に躍った。なかなかイイ性格しとる。

 

 

「先生は「悪魔の駒(イーヴィル・ピース)」の説明についてはある程度ソーナから受けていますよね?ともあれ時間がないわ、急いで処置しますので、少しお待ちくださいな…先生。」

 

 

そう言って、彼女はざらざらとチェスの駒らしき物体を複数取り出した。そして煌びやかに輝く駒を手に、一誠の死体の傍らにしゃがみこみ———

 

 

 

**************

 

 

———そしてオレは帰宅し、現在(ぼうとう)に至るという訳である。だが、色々とクル(・・)ものが多すぎた。

 

 

「…もしかして死生観は転生なんかな。生きたまま悪魔になるというか…力を与える、「変じる」というより、いっぺん肉体的には死なせて丸々作り変えるカンジなんか?あー、河の水呑まんで転生する感じ…とは、ちょい違うなぁ…。」

 

 

「何ブツクサ呟いてんだよコエーな。っつかクセーな、寝タバコかよ。初心に帰って死ぬ気か?」

 

 

思考の現実逃避と、タバコの灰が半ばまで差し掛かったところで不意に投げかけられる声。視線を天井からずらせば、いつのまにか開いていた障子戸が開けられ、見知った顔が鼻をつまんで窓を開けている。他人の部屋という事を考えればあまりにも遠慮がない行為だが、この「足洗邸」という場所では珍しくもないし、気にならない。誰も気にしない。

 

 

保由(ホユ)か。死ぬ気ちゃうわ、疲れとるだけやって。また絵でも観に来たんかー?」

 

 

やや癖のある、ふわふわした白い髪を揺らした少女の後ろ姿へと声をかけ、重たく軋んだ身を起こす。名を呼ばれて振り返る少女の紅い瞳が、オレを捉えていた。

 

光前寺・保由。諸人の人生の分岐点・足洗邸の住人としては最も歳若い存在であり、参号室の住人である山犬の化生だ。

彼女は犬啼寺という駒王町の外に存在する寺(なぜか鳥居が存在するという、変わった寺だ)の社僧の娘であり、元・駒王学園の生徒でもある。もっとも卒業したという訳ではなく今は休学届を出しており、故あってこの足洗邸から出られない(・・・・・)状態だ。

保由は開けたばかりの窓枠に腰を下ろし、こちらを見つめている。最近は結構な頻度で出会った頃のような笑顔も見れていたのだが、今現在の少女の顔は真顔だ。その視線には、こちらの心情を逃さないという野生の感性のようなものを感じ取れる。

 

 

またか(・・・)。アンタもよくよく厄介ごとに巻き込まれる体質だな。」

 

 

「前に言ったやろ、呪われてるって。まぁ今回のは呪いとは関係あらへんけどな。」

 

 

「そうかよ。…こまさんが心配してた。マサライさんもな。」

 

 

「あー…そらアカンな。」

 

 

こんな自分の身を案じてくれているという住人たちの言葉に嬉しいと同時に、少々のむず痒さと申し訳なさを感じて、思わず苦笑してしまう。…いや、感じていることは、苦笑の理由(ワケ)はソレだけではないだろう。

やはりなれない(・・・・)。克服はある程度できたと思っていたのだが、身近に感じすぎる距離感に対して「恐れ」をオレは抱いている。タバコの煙よりも根強くシツコク染みついて、それを良し(・・)としてきた感情であるならば、それも当然だろう。

 

 

「ま、何があったか知らんけどな…ちょうどいい。抱え込んで不審火出されないように、面白そうだから私が聞いてやろう。」

 

 

「あんま面白い話しちゃうぞ。っつか笑い話ちゃうし、オレも眠いねんけどな。」

 

 

「そんなもん私の主観だ。人の不幸も関係ないなら甘い蜜にだってなるし、キモイ絵だってグロテスクな芸術性を見出せる。絵描きのアンタが一番わかってるだろ?見ていない以上、或いは見ていたとしても、他人同士が物事に抱いた心象は同一のものには絶対になり得ない。見る目が違って、感じる心と保存する脳が違うんだからな。」

 

 

したり顔でのたまう彼女に笑顔が灯り、腕を組む。その姿勢はもはや引く気がないという様子を容易にうかがわせた。

不思議なことに、その何とも言えない気安さが、己の中の凝り固まったシコリをほぐしていくような気がした。

 

 

「自慢じゃないが「家から出られない」って状況は暇すぎるしな。」

 

 

「…ああ、そんなら話したるか。せやな、まず兵藤ってヤツがいてやなー。」

 

 

そんなふうに、そんな感じに、二人は静かな夜を語り明かした。

お互いが本格的な眠気を憶えて解散し、各々が部屋に着くころには…オレ、福太郎の身体にべったり纏わりついた疲労感から、少なくとも不快な気持ちの悪さだけは消えていた。

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面白いヤツなのは認めるけどよく捕まってないな、ソイツ。女と法の敵でしかないだろ、天使とかなら悪意なしに普通に殺してそうだぞ。」

 

 

「まあ否定できへんな!」

 

 

 

 

 

 

**************

 

 

 

 

一方、その頃。某部室では。

 

 

 

 

「部長の新しい眷属の「兵士(ポーン)」が、変態で有名なあの先輩ですか…色々不安なんですが。具体的には()眷属の継続を検討するくらいに。」

 

 

 

「アハハ…ソレは多分、部長が泣いちゃうから止めてほしいかな。僕個人としても寂しいものがあるし。」

 

 

 

「そうそう。それに案外可愛らしいと思いますわよ?自分と欲に正直である、というのは、悪魔にとっては重要なことでもありますし。」

 

 

 

「私は悪魔じゃないので。まあ、まだ抜けるつもりはないので冗談ですが…。」

 

 

 

「ならひとまず安心だ。頼れる仲間がいなくなるのは心苦しいし、僕も君からはまだまだ学びたいことが多すぎる。なんなら今から手合わせしないかい?」

 

 

 

「嫌です。気分じゃないです。」

 

 

 

「ところで、やっぱり正式な眷属にはなりませんの?白音さん(・・・・)。」

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。部長や皆さんの事は嫌いじゃないですし、無理な協力をしていただいて感謝はしていますが…魂を悪魔にだけは(・・・)売り渡すわけにはいかないんですよ。血肉を分けてくださったあの人の為にも(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

私の目的は姉様を探し出すこと。その身体からアイツの「悪魔の駒」を取り除き、塗りたくられた不名誉な汚名を払拭する…また二人で過ごすために、私は今もここにいるんです。」

 

 

 

 

 




次回から色々動きそう…いやもう動いてる、のか?

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