りそうのポケモントレーナー   作:タスキじゃれつく大爆発メテノ


原作:ポケットモンスター
タグ:オリ主 クロスオーバー BW.BW2 Fate/staynight
『戦えるポケモン』 がいなくなれば負けと言ったな?

……なら、7体目のポケモンとして私(トレーナー)が戦ってしまっても構わんのだろう?



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12/02 短編に変更
07/07 少し改訂。でも誰が読むのやら


第1話

プラズマ団。

 

 

白と黒の盾に稲妻が落ちたような旗印が目印のその組織はイッシュ地方という決して狭くない世界で圧倒的な勢力を誇る秘密結社である。

 

 

『ポケモンの救済』という理想を掲げる彼らだがその実、行っていることは他人のポケモンの強奪や違法な取引などばかり。白黒どころか真っ黒もいいところ。

当然、構成員もそこらの不良やチンピラ等が多くを占め、統率も碌に取れていない。ただ、人数だけは多いので色々な所に顔が聞く。

その結果、内側からイッシュ地方を支配し暗躍の限りを尽くせている、という訳だった。

 

 

しかし、ここで一つの出来事が喰い違う。

 

というのも、プラズマ団は3年前に伝説のポケモンを従えた、たった1人のトレーナーに完膚なきまでに敗北し壊滅寸前まで追い込まれたはずではなかったのだろうか、と。

 

では何故、未だにイッシュを我が物顔で闊歩できるのか。それには理由があった。

 

 

1つは組織のボスである『ゲーチス』という男が捕まっていないこと。

良くも悪くも自己中心的な彼は当時の作戦が失敗したと分かった瞬間に部下達の事を置いて直ぐ姿をくらませた。

 

その徹底振りが幸いし、たった一人のトレーナーに組織が壊滅に追い込まれた為に統率を無くした多数の団員が通報を受け、集まってきたジュンサーに逮捕され検挙される中でも彼は捕まらなかった。

 

 

しかし、何故再びプラズマ団が元のような力を得られることができたのか?

 

それは凄腕かつ、権力のあるトレーナー……例えるなら『ジムリーダー』の様な、そんな表からも裏からも力を持つ様な人物がプラズマ団に所属しているからであった。

 

 

 

その人物とは各地にいたプラズマ団へと反抗するトレーナーを完膚なきまでに叩きのめし、プラズマ団を訝しみ調査しようとする有力者を脅し、黙らせ。時には 『調子に乗った』 団員にも処罰を与えるためプラズマ団員からも恐れられる存在 『ダークリユリオン』。

そして、影の者として記号名で呼び合う彼らの唯一の例外であり、誰よりも恐れられた人物。その名前はArther、ゲーチスからは ''セイバー''と呼ばれ、ダークリユニオンのリーダーとしてプラズマ団のNo.2の座に置かれた改造人間。

 

 

自分以外の人間を信じることのないゲーチスが唯一信頼している存在であり、与えられた全ての指示を成功させる。

その黒い西洋の甲冑に隠された銀髪の髪に黒いバイザーから覗く銀の目という童話に出てくる妖精の様な現実離れした麗しい外見に反して、ゲーチスの気に食わない者を彼女は全て『始末』した。それ故に、死神 暴君 魔王 と渾され、恐怖の象徴として君臨し続けている。

 

寡黙故に分からず、彼女の経歴すら知る者はいない。

そんな彼女について全団員が唯一共通して分かっている事、それはーー

 

 

彼女がイッシュ地方において

ポケモンチャンピオン(最強)』 だという事だ。

 

 

 

 

イッシュ地方最大の都市ミアレシティ。

その薄暗い路地裏に一人の男性が走っていた。高級そうなスーツには節々に汚れが付いており、息も乱れ、顔色は蒼白。ゴミ箱に躓きよろけながらも足を止めないそのなりふりの無さは何かから必死に逃げているようにも思える。

 

実際、彼はある者から逃げていた。

しかし年齢で言えば35歳ほど、平均と比べてもガタイの良く、まだまだ体力もあり、着ているスーツから判断するに社会的地位もそこそこある。そんな男性が何に対してあの様に凄まじいほどの恐怖を感じるというのだろうか?

 

15分ほど走り、漸く男は誰も居ない一角で壁に手を付いてゆっくりと立ち止まった。そしてそのまま寄りかかり、震える手で胸のポケットから携帯電話を取り出す。そして耳へと当てるが相手は一向に掛からない。苛立つ男は携帯を思わず壁へと投げかけて、留まる。

 

 

「……ッ!クソ!クソッ!!あの野郎、失敗しやがった!!」

 

 

今、電話を掛けていたのは用心棒として雇っていた元ジムリーダーだった。余りの素行の悪さにその職を辞めさせられただけあって粗野が目立ったが腕だけは確かだったので雇用してた、のだが。

 

それが出ないという事は……バトルに負けて、アレの足止めに失敗したに違いないという事だ。

 

思わず思いつく限りの罵詈雑言が口から出るが、その反面アレが相手では仕方ないという同情にも似た諦めがあった。

 

 

アレは何だ。

 

 

こんな仕事をやっている以上、ヤバい奴は何度も見てきた。育てたポケモンの首を絞めて殺すのが性癖だったり、逆に殺されかける事が快感の奴も居た。自分からポケモンの技を喰らいたがるド変態もいた。果てにはポケモン同士を比喩抜きでくっつけあって新しいポケモンを作ろうとしてる気狂いにも会ったことがある。どれももう2度と会いたくないと思わせる奴らだ。

ポケモンチャンピオンだった奴にも会った。確かにコイツはそうなのだろうと思わせる覇気があった。噂の賭け狂いにも会った。とにかく色々な奴を見てきた。

 

だが、アレはそのどれとも違う。

存在自体がもうオレらとは違う、別の何かと言われても納得が出来る。

 

どうやら、プラズマ団に化け物がいるという話は本当だった、と気付いた頃にはもう何もかもが遅過ぎた。まさかあれ程の怪物だとは思ってもいなかったが。

 

黒き騎士王。

あの恐ろしい黒に顔も体も包んだ銀髪の死神。鎌の代わりに剣を持ち、咎人を裁くプラズマ団最強の 『力』 。

トレーナーの癖にバトルに出てくる。それも下手なポケモンより何倍も強い。岩を砕く圧倒的な怪力。俊敏な動きを行う機動力。それがプラズマ団の敵対する存在に対して全力で振るわれる。

 

そこまで考えてしまうと当然、男は思い出してしまう。先の最悪の存在を。全身の寒気を誤魔化す為に煙草を取り出し、口へ運んだ……が、火が無い。思わず舌打ちする。

モンスターボールからヘルガーを出し、煙草に火を付けるように命令する。が、ヘルガーは何かに怯える様に首を振り命令を聞かない。苛立っていた男はヘルガーの腹を思い切り蹴飛ばす。

ヘルガーはキャン、と鳴いてそのまま壁へと転がり、衝突した。苛立った心はその様子に更に腹が立つ。

 

男が更に蹴りを加えるためにピクピクと動かないヘルガーへ近付こうとすると、隣にいた誰かがライターで煙草に火を灯した。

 

 

「では、火だ……どうだ、これでいいか」

 

「お、ありがとよ。全く、使えねぇな……あ?」

 

 

影だ。

男の隣には気が付けば影が立っていた。

 

いつの間に。どうして。馬鹿な。

そんな考えが男の中で生まれては弾ける。気付けば煙草を持つ右の手首がソレに握られていた。万力で挟まれているような途轍もない力に目の前に白と黒、火花が散る。自身の骨が砂の城でも壊すように、容易く砕けたのだと感覚で分かってしまう。あまりの激痛が全身に裂くように暴れ回り、声すら上手く出せない。

 

 

「あの程度で私を撒いたとでも思ったのか? ああ、全く、甘く見られた物だな」

 

「あッぐッ……ど、どうしてオレを狙う!オレは確かにプラズマ団に情報を渡していたはずだぞ……ッ!」

 

此方を虫でも見るかのように感情の無いその銀色の双眸を見つめないように、男は何とか言葉を絞り出す。一瞬でも力が緩まってくれれば幸い、しかしその思いは届かない。

それどころかもう一方の手で胸ぐらを掴まれ、倍近くの体格が有るのに自分の身体が持ち上げられていることに顔が青褪めていく。

 

「プラズマ団は裏切り者を許さない。私達が気付いていないと思い込んでいたようだが、ポケモン対人の裏闘技場、貴重なポケモンの闇オークション、違法薬物の製造と密売……これで隠せていたと本当に思っているのか? 」

 

「ま、待てッ!誤解だ!!俺はアンタらから言われた通り何もしてない!ああ、証明も出来る!本当だ!」

 

 

ほう、と興味深そうに呟く声。男は無造作に投げられ、壁へと衝突する。肋骨がバラバラに砕け散ったように錯覚するほどの衝撃。肺から空気は溢れ上手く身体が言うことを聞かないが、もう一つのポケモンボールを悟られないように慎重に手に握る。

 

 

「では、どうするつもりだ? まさか何も知らない子供のように私はやってないと連呼し続ける訳でも有るまい。ほら、その証拠とやらを見せてみろ」

 

「ゲホッ、ッああ!お望み通り見せてやる、よ!」

 

 

ボールから紫色の巨体を持つ芋虫のようなポケモン、ペンドラーが男とその敵対者の間に現れる。アフリカゾウほどの大きさを持つ身体は男を守る為の壁のようにも見えるが、その血走った目や口からぼたぼたと垂れる唾液。どこから見ても様子が異常であり、何か薬物を使って極度の興奮状態に陥られさせられているのは明らかだった。

当然、そんな状態では男にもペンドラーへ指示を出すことは不可能。しかし今はそれで十分。

興奮状態からペンドラーは目の前の物を判別することすら出来なく、その巨体を彼だけが幻覚により見える減る事のない敵に向かって思い切り暴れさせる。

薬により感覚の麻痺が生まれ、生物ならば無意識のうちに付ける身体のストッパーすらも無く、ならばそれは暴れる自らの身体も傷つける。そしてその分、放たれる威力は爆発的に向上する。 当然違法薬品であるが、それを売り捌く男にとって入手するのは非常に容易い。

 

 

いくら凄腕のトレーナーと言えどもまだモンスターボールを出してすらいない状態ならば不意をつけば倒す事も不可能ではない。咄嗟にポケモンを出して対抗されたとしても少なくとも逃げる時間は確保出来る。男は自身がペンドラーの暴走に巻き込まれる可能性を考慮してもそう決断し、行動に移したのだった。

 

 

ペンドラーが言葉にならない叫び声で嘶き、その尾を振り回す。まるで天災のような紫色の暴風は見事にこの路地裏に破壊を齎す……かのように思われた。

 

 

「そのまま何もかもブッ壊せェ!!ペンドラー!!ははははは……は? 」

 

 

逃げる足を止めるという致命的な行動を取りつつも、男は思わず立ち止まってその光景を何度も凝視する。

嘘だ。あり得ねえ。

ただ目の前の現実を否定する言葉が口から零れる。それもそうだろう。100kgを超えるペンドラーの巨体、その体当たりをーー

 

 

「……興醒めだな。道化なら道化らしく最後まで踊り切ってみろ」

 

 

ーー たった一人の人間が軽々しく片手で受け止めているのだから。

 

 

「うそ、だろ……?」

 

 

間違いなく、何もポケモンは出していない。何の種も仕掛けも無く、彼女は完全に100kgの衝突の勢いを殺した。ペンドラーが加減したのか。いや、それは彼女の足元に広がるタイルが割れている事からそうではないことは分かる。分かってしまう。

この有り得ない状態に狂気に飲まれているはずのペンドラーの赤い目にすら困惑、混乱の色が走る。

 

そして時間が凍りついたような状況はペンドラーの腹に強烈な一撃が加えられたことで再び加速する。

打撃音としては信じられないような大きく弾ける音が男の耳にも伝わる。何が起こったのか。それすらも男には分からない。分かったのはペンドラーの誇る硬い攻殻を抜けて一瞬で『きぜつ』させられた事と、自分の選択がどうしようもなく誤っていたということだけ。

 

錯乱しつつも、余りにも理解出来ない光景を見たことで却って冷静さを取り戻せた男はペンドラーを戻す手間は無いと考え、せめて最後の一匹を出そうと腰元へかかっているボールを開く。

 

コロロモリ。空を飛ぶ大型の蝙蝠のようなポケモンも他同様、争奪品故にバトルでは役に立たないがその大きさは空からこの場を離脱するのには向いている。

 

あの黒い悪魔が来る前に、早く!!その一心で ''そらをとぶ'' ように命令するが、コロロモリは一切飛ぼうとしない。恐怖で身が竦んでいるのだ。男の後ろから放たれている、今までとは段違いの身体を突き刺すような殺気に。或いは、本来の主ならば助けなくてはという一心で忠誠が恐怖に打ち勝っていたかもしれないが……

 

ひっ、と男の喉から掠れたような声が漏れる。腰が抜けてボールや道具が床に溢れるのも構わずに尻餅をついたまま蛆虫のように手を動かして後ろへと下がる。

 

バキッ、バキンッとその黒い足にその道具は踏まれ砕け散る。それはまるで男の行く先を暗示しているようであり、ゆっくりと距離は詰められる。そして、遂に壁へと背中がぶつかる。その時、抑制を超えて口から飛び出した絶叫は奇しくも先ほど自身が捨て駒にしたばかりのペンドラーの嘶きに似た物があった。

 

 

「終わりか?なら、死ね」

 

 

あの黒い剣が抜かれる。男はその刀身から感じる禍々しさに気が遠くなるが、何もしなければあの刃がそのまま自分に襲い掛かる事を思い出し、どうしようも無い絶望感に呑み込まれる。

 

 

死にたくない。自分が食い物にしてきた奴らと同じ、あんな末路はイヤだ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 

それが目の前の絶対者を苛立たせるだけの行為という事にすら気が付けないまま、男は矜持も何もかも捨てて生へとみっともなくしがみ付く。

一歩、距離が縮まる。剣の刀身が振り上がる。

 

 

「た、助けてくれ!命だけは!!」

 

「命乞いまで三流だな。それを今更聞くと思っているのかーーせめて喚くな、黙れ」

 

「な、なんでそんな力があるならどうしてプラズマ団に入っているんだ!あんな小物ばかりの集団なぞお前の敵では無い筈だ。そうだ!あんな奴らより俺とお前で手を組もう!!そうなればイッシュを手中に収めるのだって簡単だろう!!なぁ!!」

 

「確かにプラズマ団は碌でも無い集団である事は認めよう。私もアレには心底吐き気がする。だが、悪役としても三流以下である貴様よりかはマシに違いない」

 

 

そう言うと何故か、死神は背を向ける。

理由は分からないがこれが最後のチャンスに違いないと男は胸から拳銃をその銀色の頭へと向ける。いくら化け物とはいえ、頭に直接喰らえば只では済まない筈。そんな何も根拠の無い希望に縋り付くことしか男には出来ない。彼の額から伝った汗は、顎へと落ちていく。

 

 

引き金を引く指に力が篭める。瞬間。

ぐじゅり。

突如得体の知れない音と共に視界が赤黒く染まる。自分の中から聞こえるこれは何の音なのか。骨の砕ける音か、或いは肉の潰れる音か……

 

 

「不本意ながら私の仕事は『掃除』だ。それは本来、私がやるべき事でも、その臣下がやる事でも無い」

「っ?ーー??あっ?あ?」

 

「その点、自分の用意した道具で自ら掃除するとは塵にしては殊勝な心掛けだ。この剣を汚さずに済ませた事は褒めておこう。そして、実に見事な忠誠心だったな」

 

 

黒き剣を鞘へと戻し、死神は立ち去る。残されたのは鼻から上の無い一つの死体と、それに噛み付く三匹のポケモン(忠臣)

 

炎が死体に燃え移り、黒い煙が街の一角に昇る。

ジムリーダーが通報を受けてその現場へと向かった時には床に飛び散る赤い血痕以外、何にも残っては無かった。

 

 

 

……男の携帯には一件、未送信だったメールがあった。

 

それは 『プラズマ団が伝説のポケモンであるキュレムを捕まえた』 という内容。

 

1週間後。

古き良き歴史を重んじるリュウラセンの街はプラズマ団の攻撃により、文字通り凍りつく事となる。

 

 

 

 

 

 

(駄目だった、か)

 

目の前には折れた杖を抱くように、ただ呆然と打ちひしがれるゲーチスと、既にレシラムゼクロムとの同一化すら危ういほど傷付きたキュレムの姿。

 

そして勝負は決したというのに一分の油断もなく相手を見続ける原作主人公、キョウと、その親友であり好敵手のヒュウ、そして私とは別の、プラズマ団の王だった者。Nの三人がその先には居た。

 

 

(……完敗、だな)

 

 

素直にそう思えた。彼らは世界を救う、なんて信じられないような偉業を成し遂げたのだから。

確かに私もゲーチスの計画通り、世界を氷漬けにされるのは万が一にも起きたら困るので程々には手助けはした。

 

隊長であるという立場を利用して、改造され人間を超える力を持っていたダークリユリオンには彼らには直接攻撃しないよう命令していたし、リュウラセンの街を氷漬けにした際は外出した人が居ないタイミングに指示をした。

あとは頃合いを見て捕まらないように姿を眩ませれば良かったのだが……ゲーチスの信用を稼ぎすぎたのが仇となった。

頼れる存在のいなくなったゲーチスはあの杖でで操る事の出来る自分を側から離そうとせず、結果抜けるタイミングを見失い、ここまで来てしまった。アクロマの奴は何処へ行ったんだ。私にも声を掛けてくれれば良かったのに。

 

 

その後、世界を氷漬けにするほどの力を持つ伝説のポケモンであるキュレムが本来の力を取り戻すまでの時間稼ぎとしてゲーチスに命令され行ったポケモンバトル。

そして、私は初めての敗北を喫する事となった。

 

何回かのバトルを経て、彼らの力量は把握していたつもりだった。が、流石は主人公達と言うべきか、私が脳内で想定していたよりその実力は遥かに高く、輝くように磨きあげられていた。

その結果、初めは程々に手を抜きつつうまく負ける予定だったのが彼らのコンビネーションとその強さに予想以上に楽しくなって思わず熱が入っていた。

出す予定の無かった6体目、そして私自身が自ら戦ってしまう程には、彼らとのバトルに本気になってしまっていた。そして文句の付けようがないほど、綺麗に負けた……悔いは、ない。

 

 

 

ゲーチスの作戦の肝であった完全体キュレムが負けた以上、もうプラズマ団に出来ることは何もない。

ゲーチスが何か隠し札を持っていないのはあのうわ言を呟き、呆然として焦点の合っていない目を見れば明らかだろう。あの折れた杖がもう機能していないのは私のバイザーから何時ものように煩わしい電波が届いていない事より明らかだ。

 

よって、逃げる事は出来る。が、彼ら主人公勢が大人しく見逃してくれるとは思えないし、既に手持ちのポケモンは疲れ切っている。それで指名手配を受け、逃亡生活というのは流石に勘弁したい、流石に疲れた。

このまま私たちは捕縛され、ジュンサーに引き渡される。全国的なテロリスト集団のプラズマ団、その主犯として。

 

そして間違いなく一生独房で過ごす事になるだろう。未遂だろうが何だろうが、世界を滅ぼしかけた罪は大きい。

ゲーチスは勿論、社会的な体裁故に、他にも誰か一人くらいはけじめをつける必要がある。アクロマは既にいない。と、なれば私以外にはいないだろう。

 

それは、いい。

ダークリユリオンの一人として例に洩れず人体改造を施された身だ。プラズマ団に囚われる前とは姿は似ても似つかないし、既に家族には死亡届けが出されているから今更更に迷惑を掛けることは無いだろうから。

 

だが……満足にトレーナーとしての役割すら果たせなかった私に付いてきてくれたこいつらはどうなる?

 

こんな不甲斐ない私を信頼し、こんな今だって私の心配しかしていないようなお人好し達。彼らは一体どうなる?

 

犯罪者のポケモンとしてマトモな事にはならないだろう。恐れられて、傷付けられて、最悪、被害者達からの怒りの矛先が向いてしまうかもしれない。人でない以上、彼らを守ってくれる存在は少ない。私のポケモンなら尚更の事だ。

 

 

……ああ、それは嫌だな。

 

 

ふと、満身創痍のキュレムと目が合う。

理想と真実が混じり合ったその眼が私に問い掛ける。

 

この結末でいいのか、と。

これでお前は満足なのか、と。

 

決まっている。

 

 

「……そんな訳、無いだろう」

 

 

 

私だってもっと多くの世界を見たい!

この素晴らしい世界に居たい!なにより、こいつらと旅がしたい!!

 

ああ、そうか。分かった。

ならば私は私のこの欲望を満たすために。そしてお前の望む通りにしよう。

今から私は正義を斬り。理想を潰し。真実を消そう。

 

 

 

だから……私に力を貸せ!■■■■■■■■ッ!!!

 

 

 

 

 

 

初めに違和感に気付いたのはLだった。幻影を操るポケモン、ゾロアークと共にいた彼だけはキュレムの姿を見ていたために、その翼が仄かに発光し再び活動を開始し始めた事を一番初めに察知した。

 

慌てて彼が自分のポケモンに指示を送ろうとする。そこで漸く彼以外の二人も異変に気付いた。慌てて戦闘体制に入り、何が起きても良いように構える。

 

しかし、結果から言うとその警戒は無意味以外の何でも無かった。

キュレムの行為はただ一体化しているゼクロム、レシラムとの分離を行うためだけの行動であり、 別にそれ自体は何の問題も無いはずだったのだ。しかし、この瞬間、途轍もなく悪寒のした全員の視線は自然と傷付きながらも解放された白と黒のポケモンへと固定される。

 

 

「私を取り込めッ!キュレム!!」

 

 

だからどう行動しようともその結果を止めることは不可能。キュレムへと注意が向いてしまった時点で私達の思い通りに誘導されていたのだから。

 

私が最後の力を込めてキュレムの方へと走ると、同じく残り僅かな体力を使ってキュレムの尾から伸ばされた管が私の身体へと包み込むように巻きつかれる。

 

そして、何の皮肉か私の持っていた古の赤き龍の遺伝子がキュレムの、いや、■■■■■■■の持つ遺伝子の楔へと呼応する。取り込まれている間は何も見えないが不思議と何が起きているのかは理解できていた。そして、この新しい身体をどう動かすのかも分かっていた。

 

 

「……身体の操作権が私にあるのは、私への嫌がらせか?■■■■■■■」

 

 

かの気高き騎士王の力とその宿敵の力は身体の内から全能感と高揚感を湧き出させ、私を酔わせるように溢れ出る。

かつて互いに憎みあっていた赤き龍と白き龍が同じ中にいるというのに、そこは驚くべきほど静かで、その双つの力は私の思うがままに使うことを認めている。

 

 

「……な、何が起こって、いるんだ?」

 

「チャンピオンが……キュレムに取り込まれ……いや、アレじゃまるで……!?」

 

「騎士、王……ボクが、あの時部屋で見た伝承。その挿絵にそっくりだ……」

 

「おお、まさか取り込んだというのですか!あのキュレムの力を!!」

 

 

私が完全に一体化を成し、その膨大な力を確認しているとゲーチスが再び活気を取り戻し、近くへと擦り寄ってきた。

だが血とともに流れるこの闘争心を止めておくので精一杯なので気に止めない。時間は有限。そんな暇は、無い。

 

 

「素晴らしいッ!!素晴らしいッ!!

素晴らしいッッッ!!!!流石はワタシのセイバー!!このレシラムともゼクロムとも比べものにならないような圧倒的な力!!これこそがワタシの剣!!ワタシのチカラ!!」

 

「父さん!もう止めるんだ!!今の彼女は父さんのもう知っている人じゃーー」

 

「煩いですね、出来損ない。そうです、セイバー。あの鬱陶しい羽虫達を殺しなさい。いい加減目障りです……そして、そのチカラを用いて!!全ての世界をワタシの物にするのです!!今こそ!!このゲーチスこそが!!新しい世界の王になるので……ッッッ!?」

 

「……いつまで私の上にいる気になっている。いい加減、そのよく回る口を閉じろ。この(愚か者)が」

 

 

 

 

首輪のように付けられていたバイザーを投げ捨て、私は殺意を込めて睨む。それだけで、声を上げる間も無くゲーチスは泡を吹いて倒れた……レシラムやゼクロム、キュレムと比肩するほどの威圧は流石に人には耐えられないようだ。まぁ、これまで受けた所業も加味したのに命まで取らないだけ有情だろう。

 

 

「と、父さんッ!!?」

 

「安心しろ、殺しては無い。最も……どうなっているかは知らないが、な」

 

 

Nがゲーチスへと駆け寄り、必死に呼びかけているがその意識は戻らないのを一瞬確認しつつ、前に立つ二人を見る。

ヒュウは私やキュレムとの戦いで持っているポケモンは全てきぜつしてしまったので戦うことは出来ない。

 

つまり……たった一つのボールを構えるキョウだけが再び私と戦う事になる。

 

その眼にはあの殺意と威圧を間近で見たというのに全く戦意は衰えておらず、手持ちは一匹というこの絶望的な状況の中でもあの時の様に、燃えるような熱意と力強さで此方を見る。

 

その態度に私もポケモンこそいないが、一人のトレーナーとして昂ぶる感情を抑えきれない。

……ならば今は、この人物に全力を出し切り、ただ、勝つ。それだけだ。

 

彼の相棒がヒュウにくすりを使われるのを黙って見ている。薬では傷こそ回復しても、疲労までは抜けない。しかしそれを全く感じさせない様子でポケモンは此方へとその蛇のようなしなやかな体を向ける。流石だ、とその姿には尊敬の念すら抱いた。故に手加減はしない。

 

 

何時もより軽い黒き剣を引き抜く。

偽者には認められず、出せなかった星の聖剣の最高出力。何故か、今なら出せると確信していた。

 

 

是は、共に戦う者もまた勇者であるーー

否。私一人による闘争である。

 

是は、心の善い者に振る力ではないーー否。心の悪しき者は私だ。

 

是は、己が剣に誉れ高き戦いかーー

否。一度負けた者が再び勝負を挑むなど騎士道に反する行為でしかない。

 

是は、生きるための戦いであるかーー否。これは只の我儘。それ以上でもそれ以下でもない。

 

是は、己より強大な者との戦いかーー否。しかし彼は己よりも決して弱くもない。

 

是は、人道に背かぬ戦いであるーー

否。彼こそが光を背負う者であり、それに対する私が人の道である筈が無い。

 

是は、真実のための戦いであるーー

否。真実は既に全てが白昼の元へと晒されている。

 

是は、邪悪との戦いであるーー

否。間違いなく彼らこそが正義で、私は邪悪だ。

 

是は、私欲なき戦いであるーー

否。私が彼と戦いたい、それだけの理由だ。

 

是は、世界を救う戦いである。

否。既に世界は救われた。

 

では聖剣の解放を諦めるか?

否。貴様らの承認など要らない。

 

 

無理矢理黒い鎖を引き千切ったような感覚と共に、金属の何かが床にバラバラと落ちる音がした。

そして確信した。今ならこれを放つ事が出来ると。そして、初めから全力で行かねば負けるとも。

 

 

「……待ちに待ったリベンジだ!君に決めた、ジャローダ!思い切りリーフプラント!!」

「これは、私の最後の戦いだ。そして私が勝つ。卑王鉄槌、行くぞ。エクスカリバー……モルガァーーーンッ!!」

 

 

緑の波動と黒の光線が衝突し、地面を揺るがすほどの衝撃を生む。

彼らにとって伝説との戦いなど前哨戦に過ぎない。

 

ここに(チャンピオン)救世主(主人公)、その最後の戦いが始まった。




悪役がチャンピオンって設定って無いですよね。
かつ、そのトレーナーはポケモンでGETは出来ないけれどイベント戦とかで一時的に主人公の指示を聞いて戦ってくれるとかいう設定が思いついて、なんか勢いで投稿してました。連載したかったけど面倒だったのでやめました。

あとは絶対急所アブソルとかトレーナーのてだすけバフとか色々ネタはあったけど、お蔵入りです。そもそも主人公ポケモン出してないし……ね。


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