中華料理店織斑   作:ロドニー

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簪と業火野菜炒め定食

 

 クロエに散々な目にあった夫とその娘達は自宅に帰るなりリビングのソファで座りながら死んだ魚の眼になって放心していたが、妻の鈴と現在居候であるラウラは荷物をまとめてドイツ行きの準備をしていた。

 

 「鈴、クラリッサ大佐に頼んで黒兎隊の出撃準備をさせたが、お姉様に対してやり過ぎでは?」

 

 「甘いわよ!!

 

 クロエはあの束さんの愛娘でもあり、着せ替えと言った悪戯と逃げ足だけは人外規格よ!!

 

 それに、アンタの所にクロエの旦那から『ゴメンゴ』ってメールが来てたじゃない。

 

 って事はあの陸軍機甲戦車連隊の隊長のビットマンじゃない!!

 

 また、あの馬鹿が浮気したに決まっているじゃない!!」

 

 「そっ、そうだが、すっ、少し穏便に…」

 

 「えぇ、もちろん穏便に済ませるわよ。

 

 ビットマンをぶん殴ったらね!!

 

 ただ、クロエには謝りたかったから…」

 

 ラウラは鈴の怒りにたじろぎながらも、夫だったハンスが作戦中にも関わらず、ビットマンに酒場で女の口説き方や抱き方などを教えてしまった手前であり、ラウラは妻として罪悪感はあるらしく否定は出来ない。

 

 戦車乗りとしては超一流だが女癖が非常に悪い。

 

 それが、クロエの結婚式で鈴から見たビットマンの感想だった。

 

 それに、クロエの妹であるラウラには言えないがクロエが変わった発端はアタシにある。

 

 学生時代にはセシリア、ラウラ、刀奈、箒、シャル、簪、クロエなどが一夏に恋をした結果、みんなとの激しい話し合い(肉体的言語を含む)の末に抜け駆け禁止と約束して置きながら、アタシはまた一夏に置いて行かれたくないと思う一心から約束を破って抜け駆けをして、フリーランスとして頑張ろうとした一夏にアタシの全てを捨てて無理矢理付いて行った。

 

 一緒に暮らしてからは、みんなから邪魔されない嬉しさで沢山一夏に甘えたし、身の周りの世話や選手として頑張る一夏を支えてきた。その報いが救われたのか、やっとアタシを一人の女として認識してくれた。

 

 だけど、今思えば一夏に対して卑怯だとは思ったが、あの襲撃事件の時に『一緒に寝てくれたら許す』と言ってからはベッドに一緒に寝てくれたし、一夏の腕に抱き付きながら寝られるのは嬉しいが手を出してくれない事だけは不満だった。

 

 だから、アタシはあの時に恥ずかしい格好(下着を身に着けてない裸エプロン)してまで誘惑したのにあっさり流され、怒りからたまりに溜まった欲求不満から一夏を襲い一晩中蹂躙して、結果的にアタシはそれが原因で妊娠してしまった。

 

 妊娠が判り、選手から引退しなければならない事だけは流石に泣いた。

 

 だって、一夏の隣で競い合い歩んで行きたかったから…

 

 これは、みんなとの約束を破った事に対しての身から出た錆かも知れない。

 

 でも、正直に言えば全く後悔はしていない。

 

 だって、愛してやまない可愛い娘も愛する夫の両方を手に入れたから…

 

 だけど、一つだけ悔やむなら、みんなから一夏をアタシの夫として奪ってしまったことだけだ。

 

 だが、みんなは結婚式ではただ一人除いて祝福してくれたが、クロエだけは結婚式には参加してくれなかなった。

 

 そして、今度はレナスの栄養失調での一件だった。

 

 ラウラから聞いたが、クロエが夫との事がある度に妹であるラウラに甘えに来るらしい。

 

 今回はあの件で親子で日本に来ていた。

 

 そして、結果的にラウラの自宅に甘えに行ったら居なくて、甘えたい反動からあんな事をやったのではとラウラが分析していた。

 

 今更だが、居ないラウラを探す為にクロエはインターネットを通じて衛星のカメラから見てしまったのだろう。

 

 甘えながら愛でるはずだったラウラとレナス親子が一夏とアタシの自慢の料理に餌付けされて可愛がられている光景と娘達と無邪気に遊びを学び楽しそうに遊ぶレナスの姿に…

 

 だから、今更だけど謝りたい。

 

 これはアタシの問題でもあるのだから…

 

 

 

 旦那と子供達三人が死んだ魚の眼をしたままのリビングでは放心状態の間に自宅から出てラウラを単車の後部へ乗せて横田基地へ向かったのだ。

 

 横田基地には既に到着し離陸準備中のドイツ空軍所属の六発式ジェットエンジン搭載の超大型戦略爆撃機ヨムンガルド(黒兎隊仕様)が二人の為に遥々ドイツから迎えに来ていたのだ。

 

 無論、ヨムンガルドならドイツまで早く尚かつ無補給で行けるしクロエの先回りして、浮気した旦那にやり返す事が出来るだろう。

 

 こうして、鈴とラウラは一路ドイツへ向かったのだ。

 

 

  

 

 正気に戻り、鈴とラウラが居ない事に気付いたが店を閉める訳には行かないので仕込みを始めたのだ。

 

 

 「鈴の出産以来だな…」

 

 と一人しか居ない厨房に懐かしみながら、仕入れで入れた大量の野菜が入ったダンボールを開けて野菜を刻み明日使う分を桶に入れて行く。

 

 夕飯までには人参、キャベツ、ニラ、白菜などを終わらせ、夕飯後には居酒屋として店番をしながらマドカと一緒に叉焼や日替わり定食で使う牛肉を細切りに刻んだりと仕込んで行ったのだ。

 

 

 翌日、三人娘とセシリアの娘オーロラは朝食を済ませて学園だったり小学校に登校する。

 

 俺は、開店までに残りの仕込みを終わらせて、現在進行形で居候で住み込み店員であるはずのセシリアとメアリーは未だに起きて来ない。

 

 ただ、マドカだけは別で閉店後もラーメン用のスープの仕込みと夜の部でもラーメンを出しているので部屋でまだ寝ている。

 

 「何時まで寝てやがる!!

 

 セシリア、メアリー起きろ!!」

 

 叫ぶが起きてこない為に部屋に行くが、部屋から聞こえるのは聞いてはイケナイ寝言だった

 

 「いっ、一夏さん…そこは…あはん♡…いけませんわ…」

 

 「アッふぅ!?

 

 らぁめぇ♡…吸っちゃイヤぁ…」

 

 二人揃ってどんな夢を見ているのか小一時間ほど問い詰めたいが藪から蛇に成りそうなので辞めておこう。

 

 埒が開かない為、部屋に突入して布団を捲り上げたが百合百合しい光景に頭を抱えた。

 

 「ささっと起きろ!!」

 

 「「きゃあ!?」」

 

 寝言を言いながら誰かとは言わないが勘違いしながらR18指定の絡み合う二人と色違いのグリネジェ姿と部屋に充満する女性特有の甘い匂いにドキッとして首裏をとんとんしながら急ぎ部屋から出たが、本来、起こし行く事になっていた鈴がいたら半殺しでは済まなかった。

 

 二人も慌てながら直ぐに起き上がり制服であるチャイナドレスを着て下りて来て用意した朝食を済ませた。

 

 

 開店直前にはマドカが覚めて開店となった。

 

 

 開店後はいつも以上に忙しく、学園からの常連やサラリーマンなどが多数が来店し、麺類担当のマドカに手の足りなさから厨房で日替わり定食である青椒肉絲を炒め鍋を振るう。

 

 「セシリア!!

 

 三番、十六番テーブルの日替わり上がったよ!!」

 

 「はいですわ!!

 

 四番、五番テーブルに日替わり定食二つですわ!!」

 

 と料理店は戦場だ。

 

 そう、青椒肉絲定食が日替わり定食の日だけは何時もの倍は客がくる。シンプルに筍、ピーマン、牛肉だけだが、合わせ調味料に入れるのは熟れた渋柿のペーストを砂糖替わりに使うため、更に天然の甘みを引き出してくれる人気メニューである。

 

 そして、渋柿のペーストを作るにも仕入れと渋柿を熟成させるなど手間が掛かり、量が作れない為に限定の二百食分が限界だった。

 

 それでも、一時間もしないで完売となり、次に無くなるのはマドカ特製の焦がし醤油と鶏ガラスープの醤油ラーメンと鯛出汁ベースの塩ラーメンだった。

 

 漸く、昼飯のピークを過ぎた頃にはラーメンと日替わり定食は材料切れによりメニューから消えていた。

 

 そして、閉店となる三時を前に懐かしい人物が訪れた。

 

 その人物は更織簪。

 

 今では篠ノ之束博士の愛弟子としてIS関連では有名な人物であり、IS学園に研究所を移して研究している。

 

 だだ、簪は研究に夢中になると研究室に引き籠るため、気付けば寝食を忘れて過労で倒れている事があった。

 

 そんな簪もこの料理店の常連客であり、裏メニューの全てのメニューを知っている一人だった。

 

 だだ、鈴が苦言で言って注意はしていたが、ボサボサの髪型にズレた眼鏡に極めつけはヨレヨレの乱れた衣服。

 

 鈴ですら女を捨てたと言わざる得ない姿。

 

 師匠である束さんが見たら卒倒しそうな程だった。

 

 だが、今日はそれ以上に酷かった。

 

 顔は痩せ細り、目の下には酷い隈が出来て何日寝てないのか丸わかりな上、いつも以上に乱れた服装と完全に爆発した髪型だった。

 

 これを観て、俺は

 

 コレはアカンやつだ。

 

 と思った。

 

 「あっ、一夏くん、何時もの…」

 

 簪からは何時ものと言えば業火野菜炒め定食だった。

 

 更織メイド軍団の一人で元は刀奈のメイドだった虚さんは五反田と結婚して俺の師匠の店を夫婦で切り盛りしている。俺も修行時代に簪が姉の刀奈を連れて来て食べているのは見かけていたから知っているし、それしか注文しない。

 

 しかし、待ち時間まで研究とは…

 

 「忙しいのか?」

 

 「うん、日本国家代表用の専用機の製作依頼が3機も来てるし、その他に代表候補生の専用機まで…」

 

 鍋を振りながら聞いて見ればブラックな内容だった。

 

 千冬姉の優勝以降は日本は一回戦敗北ばかりで満足な結果を残せて居ないし、国家代表クラスの優秀な選手は早々とフリーランスになったり、自由国籍で他国に流れたり、終いには簪の様に研究者になっていたからだろうし、マドカも元は日本国家代表だったが俺が引退するなり引退している。

 

 それに、俺の娘は学園で千冬姉と束さんにより護られているが迂闊な事をすれば俺と鈴が出て来る事を理解しない日本政府。

 

 簪に業火野菜炒め定食を提供しながら考えてしまう。

 

 これで良いのかと…

 

 そんな時、店の扉が一斉に開き黒服の連中が雪崩込んだのだ。

 

 

 

 

 日本政府からの注文に頭が真っ白になった。

 

 理由はわかるだろ。

 

 国家代表用の専用機の製作と学園に通う代表候補生の専用機を合わせて5機を作れと注文が来たからだ。

 

 余りにも無茶な注文だった。

 

 そして、マドカさんの現役時代の専用機だった4世代型広範囲殲滅型射撃タイプの胡蝶は誰にも扱えないし、胡蝶は師匠が管理している為に手が出せない。

 

 打鉄弐式をベースにした近接型の疾風と砲戦型の烈風は3世代型でしか無く、4世代型やドイツの様に5世代型を作れる訳でないが、日本に6世代型と7世代型は存在するがあくまで個人所有だ。

 

 今、目の前にいる一夏君の家族が所有している。

 

 師匠謹製の機体だ。

 

 そして、日本政府は散々あの家族に手を出して来た為に師匠にすら見捨てられた。

 

 私も研究所を学園内に移しても要請である為に作るしか無かった。

 

 寝食すら忘れる程に…

 

 師匠からはコアの作り方を教わっていたから、コアに困ることはない。ただ、結婚したクロエさんの方が何倍も上手く作り上げる。

 

 無茶な注文から徹夜続きで6日目。

 

 お腹も減り、体力も限界だった。

 

 機体も個人の仕様に合わせるだけまで完成させた4世代型のIS。

 

 頑張った私にご褒美だ。

 

 だから、学園内の研究所から私の癒やしのオアシスである中華料理店織斑へふらつきながらも、モノレールに乗り向かう。

 

 そして、私のオアシスに着き何時もの業火野菜炒め定食を注文する。

 

 一夏くんが心配しそうに私を見ながら鍋を振るう。

 

 鍋の中はキャベツ、人参、ニラ、玉葱、木耳、豚バラ肉、もやしとバランス良く入った野菜やお肉が香ばしい匂いを出しながら鍋で踊りを踊る。

 

 そして、胡椒と塩の雪が降り更に旨さを引き立てる。

 

 最後の仕上げはオイスターソースと蒋の合わせ調味料。これだけで食欲が更に増すような匂いを暴走させる。

 

 そして、完成し私の前に業火野菜炒め定食がやって来たのだ。

 

 最初は、卵スープからだ。

 

 ふんわりとした舌触りの卵に鶏ガラ…えっ!?

 

 今日は違って乾燥帆立から取った出汁をベースにした卵スープだった。

 

 もう、我慢出来ない。

 

 箸で野菜炒めを掴み、豪快に頬張る。

 

 やはり、何時もの味だ。

 

 そして、その余韻に余すことなくご飯を掻っ込む。

 

 行儀悪いだろうが関係ない。

 

 6日ぶりの食事に大好きな業火野菜炒め。

 

 それをひたすらに野菜炒めを頬張り、ご飯を掻っ込む。ルーチン化した作業。

 

 誰にも邪魔させない。

 

 そして、最後は卵スープで流し込み至福の時間。

 

 本当に生き返ると言ったとはこんな感じだろう。

 

 しかし、余韻に浸っていたらお店の扉が開いた。

 

 雪崩込んだ連中は更織ではお馴染みの日本政府の連中だった。そして、私を捕まえるべく店内で暴れた矢先に店主がキレた。

 

 「更織簪博士!!

 

 機体はどうした!!」

 

 「てめぇ等、誰の店だと思って暴れてやがる!!メアリー!!、セシリア!!、マドカ!!馬鹿共を片付けるぞ!!」

 

 「「「はい!?」」」

 

 と私に怒鳴り込む一人の日本政府の人だろうが、ここが誰の店か先に理解すべきだった。

 

 お玉が人数分である全八本が一斉に飛んでいく。

 

 全て連中の額に当たり、連中は悶絶している。

 

 そこへ…

 

 「えっ!?

 

 メアリーって、あのイギリスの女王様だよね!?

  

 なんで、『鮮血の戦姫』がいるの!?」

 

 と私は叫びツッコミを入れながらも、日本政府の連中はメアリーさんと一夏君により殺されはしなかったがボコボコにされて近所のゴミ置き場に出したのだった。

 

 しかも、ご丁寧にロープで縛り上げて『生ゴミ』と張り紙して出したらしい。

 

 私は再び、ヒーローを見る事が出来て嬉しかったが師匠からメールが来ていた。

 

 メールの内容は

 

 『ハローハローカンちゃん‼

 

 暫くは、いっくんの所でお世話になってね。

 

 今、帰るのは逆に危険だし

 

 クーちゃんが離婚して日本にまた来るからよろぴく』

 

 「「なっぁぁぁぁ!?」」

 

 シンクロしてハモる私と一夏くんの絶叫。

 

 一夏くんも鈴さんからメールが来ていたらしく内容を見て、何故か死んだ魚の眼をしていたのは何故だろうと聞きたいが止めて置こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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