私は今は学園で仕事をしている。
仕事内容は新米教師である姉さんの補佐である。
「はぁ……」
研究室の片隅、姉さん宛の書類を整理しながら納得出来ない事があった。
そう、未だに二人が結婚した事に納得は出来てはいない。
私も一夏を今でも好きだったからだろう。
しかし、私は二人の試合を全て観ていたから判ってしまう。タッグトーナメント大会で何度も姿を見ると二人の公私共にパートナーだと嫌でも理解してまう。
だけど、五年前の結婚式以降、二人をテレビから見なくなった。
理由は簡単だった。
鈴が妊娠して結婚したからだった。
無論、結婚式にも呼ばれた。
「嫌味か!?」
と叫びたくなる様に偶然にも鈴が投げたブーケをキャッチ(独身貴族を謳歌し、アラフォーの姉さんよりはマシだが…)して寮の箪笥の上に飾れる様にコーティングして置物化している。
時計を見ればそろそろ昼時。
「確か、姉さんが…」
確か、学園の側に二人が中華料理店を経営してると姉さんから聞いている。なんでも、学園の食堂より美味しいからと外出届けを出してまで食べに行く教師や生徒が居るのだと聞いた。姉さんや千冬さんも常連客らしいが……
「久しぶりに会いに行ってみるか……」
引き出しにある外出届けにサインして提出。スーツ姿のままだが問題無いだろう。
学園から出ているモノレールから隣街に向かう。駅から歩いて数分の所に三階建の中華料理店があった。
『中華料理店織斑』
真新しい建物ながら中国の中華飯店を思わせる純中国式木造建築。一階は店舗で二階以降は住居だろう。
扉を開き店内に入ると久しぶりに会った気がする。
私を見るなり
「いらっしゃいませ!って、箒じゃない。久しぶり!テーブルは一杯だから、カウンターでいい?」
チャイニーズドレス姿の鈴だった。
あの学生時代とくらべたらかなり成長したのだろう。
チャイニーズドレスが似合うほど、背は伸び(セシリア位)胸は私よりは無いが一般の女性よりある。当然ながら、娘を出産しているのだから胸に関しては当然だろう。
まぁ、鈴に有無を言わされずにカウンターへ案内されお冷とメニューを出される。お冷を飲みながらメニューを見た瞬間、叫んでしまったと同時に額に衝撃がはしる。
「なっ!?」
「うるせぇ!!さっさと注文しろ!!」
「痛ぁ!?」
額に当たり、飛んで来たのはお玉だった。
私は紅椿を未だに所持している。
絶対防御を貫く威力だと?
それよりも、値段が22万で満漢全席が食べれるって普通に叫ぶだろ!!
安過ぎだろ!!
他のメニューだってそうだ。
支那そばと餃子、炒飯セットが450円だと!?
他には、回鍋肉セットだってジャスト500円…
開いた口が閉まらない。
こんなんで採算は取れるのだろうかと不安になる。
だが、見たことある生徒や教師?
まさか……
端っこの座席には織斑先生と姉さんが額から煙を出したまま気絶していた。無論、注文しただろう二人が好物にしている肴が傍にあったが……
まさか、あのお玉でか?
戦慄を覚えながら私は見なかった事にした。
メニューを見て考え込んでいたら、一夏がお盆を片手にやって来てメニューにはない物が来たのだ。
一夏は
「俺からの再会の記念だ。代金は要らない。常連客にしか出さないメニューを一口食べれば、俺が願う気持ちが解るだろう。」
と言ったまま厨房へ戻って行った。
出されたメニューを見ると、卵炒飯に海老チリが掛けられた海老チリ餡掛け炒飯だった。
匙で炒飯と海老チリを掬い食べる。
「熱っ!?ハフハフ…」
口の中に広がるチリの辛み。
海老のプリプリ感が堪らなく美味しい。
海老チリだけでも美味しいおかずになると思う。
今度は炒飯だけを掬い食べるが、卵の甘みしか感じない。
何かがおかしい?
そうか!?
私は咄嗟にレンゲを掴み、海老チリと炒飯を一緒に掬い食べる。
「!?」
あぁ、そうか…
判ってしまった気持ち…
判ってしまった気持ちとは裏腹に海老チリと炒飯のハーモニー。
それは、チリの辛みと卵の甘み。
漣の様に襲われ、口の中で旨味が暴れ回る。
まるで、龍虎の様に…
だが、二匹は喧嘩をしない。
何かが友として繋いで居るかのように…
その、違和感を感じさせないのは海老チリソースに僅かに感じる爽やかな酸味。
そうか…
この爽やかな酸味は普段、何かで食べた記憶がある。
中華なのにイタリアンを感じる食材。
あぁ、トマトか…
トマトの酸味が手を取り合い、味を纏めていたのだな。
そう、一夏が願う気持ち。
あの時の気持ちには答えられないが友として居たいか……
あぁ、フラれたのだな。
その、気持ちに気付く前に二人が結婚した段階で気付くべきだったのだが今更遅かったな…
頬に温かい物を感じた。
あぁ、私は泣いているのだな。
だから、私は見られたくないがために皿を掴み、泣き顔を見せたくないから掻っ込む様にご飯を食らう。
一気に食べ終わると烏龍茶が置かれていた。
一気に飲み干すとカウンターから一夏が顔を覗かせていた。
多分、お茶を出したのは一夏だろう。
「気持ち、判ったか?」
と一夏が尋ねて来る。
「友としてか?」
「そうだ」
と言ったまま、照れくさそうに厨房の奥へと行ってしまった。だから、趣旨返ししてやろう。
食べ終わり、カウンターから立ち上がると鈴がいた。
「もう、帰るの?」
「あぁ、昼ご飯を食べに来ただけだからな」
「また、来なさいよね!!」
だから、これくらいは構わないだろう。
「あぁ、何度でも来てやる!!結婚したからって負けない!!」
そう言って、店からでるが
「ちょっと、箒待ちなさい!!」
鈴に呼び止められ振り向くと、鈴が酔い潰れた姉さんと織斑先生を担いでいた。
「忘れ物よ!!」
と道端に投げ捨てる。
二人から「ヘッギャ」と蛙が潰れた声がしたがお構い無しのだろう。
どうやら、二人を持ち帰れと言っているらしい。
そして、姉さんの額には約二万円の請求書が貼られていた。
メニューがかなり安かったはずだから、お酒も安かったはずだ。だから、どれだけ飲んだのかを小一時間ほど問い詰めたいが不味いだろう。姉さんと織斑先生の分まで支払い二人の襟を鷲掴みして引き摺りながら学園へと帰ったのだった。