私は織斑十夏、6歳。
千秋の双子の姉でマドカ叔母さんと同じく飛び級で学園に通う一年生です。妹の千秋も飛び級で同じく学園に通っている。
理由は言わなくとも判るよね?
えっ?
判らないだって!?
パパとママが現役時代でのISの選手として有名だったから安全を考慮しての強制入学だった。
学園には初等部はない。
だから、私と妹は頑張った。
束叔母さんや千冬叔母さんを家庭教師に四歳から高等部で着いて行けるだけの知識とISのパイロットとしての操縦技術を二年かけて叩き込まれた。
千冬叔母さん、マジで鬼だった。
パパが若い時の出来事が未だにトラウマレベルだったから安全面を考慮してママとパパが決断したのだから仕方ない。
一応、特例での自宅からの通学だ。
家に帰ると、昼間なのにお店は準備中。中に入れば、今日もパパが懸命に鍋を振るっていた。
イルカが奇麗に飛び跳ねるように複数のフカヒレが宙を舞う。
パパの十八番の一つでるフカヒレの姿煮だ。
あんな崩れ易い食材を簡単に返せるものだと見て惚れ惚れしてしまう。
まぁ、パパを男して認識したら絶対に夜叉(ママ)が出るから心だけに留めて置こう。
ママもママで点心料理である伊勢海老の蒸し餃子。メニューでの名前は翔龍餃子だったかな。大量の伊勢海老を中華包丁片手に下処理中で無口だった。あんな、下処理と膨張率の違う皮作りだけで神経がすり減る料理が出来ると内心関心してしまう。
最近、初めて知った事だけどママは凄かった。
あの狭き門である中国の国家資格である特級点心師の資格を取っていた。
パパもパパで近々、一年に合格者が一人出るか判らない特級厨師を取るらしい。
宴会だろうが、私には関係ない。
そして、居候のマドカ叔母さんは日本には居ない。
五年前の大会を最後に引退していて直ぐに中国に特級麺天師を取るために本場中国で修行中だったが、ママの話では特級麺天師が取れたらしく近々帰ってくるらしい。
引退理由はお兄ちゃんと競えないかららしい。
私はマドカ叔母さんが正直言えば嫌いだ。
私達姉妹がパパに甘えようと突撃するが
「お〜に〜ちゃ〜ん」
と既にソファで猫の様に抱き着き、ただ甘に甘えて居るのだ。叔母さんだって三十前なのにと思ってしまう。口にしてしまえば叔母さんの専用機であるサイレント・ゼフィルスによる蹂躙劇に巻き添えになるから口が裂けても言えない。
だから、ムカついてしょうがない。
それにプラスしてママがマドカ叔母さんに嫉妬して般若になっているので尚更近づけない。
あっ、苛ついてきた。
うん、決めた。
明日は副担任のティナ・ハミルトン先生を模擬戦に誘ってボコボコにしよう……
元イタリアの国家代表だか知らないけど、速さだけのテンペンスターマークⅢなんて私のアテナの拘束能力と妹のアルテミスのアルテミスの矢による一撃必殺だから敵じゃない。
絶対に泣かす。
ティナ先生もパパにトラウマがあるしく個人戦である第四回大会の初戦でギネス記録になる速さで負けたらしい。しかも、あのお玉で一撃だったらしい。
因みに試合時間はたったの3秒。
正に秒殺
試合を観ていたママが曰く。
空飛ぶお玉の被害者第一号だと。
意味が判らない。
二人共、良い意味と悪い意味でギネス保持者である事には変らないが…
やっぱり、辞めておこう。
ティナ先生が再起不能になるから…
私がティナ先生の事に考えていた時だった。
バッァァァンと勢い良く開く扉に粗暴な口調。
「一夏ァァァ!何か食わせr…」
「準備中が見えなかったのか馬鹿野郎!!」
何か食わせろと叫びたかったのだろ。
私の一年三組の担任(礼子先生)は最後まで言う事無く路上まで吹き飛ぶ。
それを私はハイパーセンサーで見えてしまった。
必殺の空飛ぶお玉を…
だが、ただで吹き飛ぶ先生では無かった。
パパが仕込んでいたフカヒレを口に咥え、額を擦りながら再び入店。
「また、腕を上げたじゃねぇか‼」
「だから、仕込中だ!!うるせぇ!!」
「フッギャン!?」
多分だけど、あのお玉にフカヒレの切れ端が入っていたのだろ。礼子先生の性格なら、あの瞬時にお玉に入ったフカヒレを意地で噛み付いたに違いない。
だが、二度目は無理だった。
二度目は青白く光るお玉が再び礼子先生の額に直撃して入口を塞ぐ形で気絶していたのだから…
「オータムも懲りないわねぇ…一夏も一夏でお玉に零落白夜を纏わせないの!!」
とママが仕込みを中断して礼子先生を担ぎ上げ、席に着かせる。パパに苦言を言いながら苦笑する。バツが悪かったのか、パパの視線が私に向きこう告げた。
「オータムに何か作ってやれ」
と有無すら言わせない視線。
パパの性格だから拒否出来ないと諦め、野菜倉庫に向った。たしか、近所の農家さんが大量に持って来ていたはずだ。
案の定、段ボールに大量のチンゲン菜があった。
私は野菜倉庫からチンゲン菜を手に取り、厨房に入る。チンゲン菜を水洗いして、中華鍋に水を入れて沸かす。
私は鞄から竹筒に入れた秘密兵器を取り出す。
これはヒマワリから作った油だ。
それを数滴鍋に入れ、チンゲン菜を湯通しする。
湯通ししたら、チンゲン菜を一口大に刻み熱した鍋に入れて炒める。四川風にする為、鷹の爪を刻み投入して風味を出し蒋で味付けし塩胡椒で調えて完成だ。
副菜には自家製のザーサイと卵スープをお盆に乗せ、特盛ご飯をセットに礼子先生のテーブルへと運んだのだった。
丁度、礼子先生は復活していた。
「あん?まさか、織斑姉が作ったんじゃねぇだろうな?」
と言いながらきつい目付きで私を睨む。
私はパパを真似てみた。
「一口食べれば解る…」
全く、今日はツイてねぇぜ。
今日は久しぶりにバテるほど忙しかった。
更織の仕事にガキ共の授業。
まぁ、仕方ないか。
司法取引に応じて、刑務所暮らしはしたが身柄を引き取られたのは更織家だった。そして、まさかの新しい任務は織斑姉妹の護衛だった。
俺はふと思いだす。
あの一夏の誘拐から始まり、今は娘の護衛だ。
何かの縁すら感じる。
朝、昼と飯を食べ損ねたが一夏の中華料理店だけは毎日通っても飽きは来ない。だだ、飛んで来たお玉の中身に有り付ければだが…
で、今日は一夏にしてやったぜ。
まさか、フカヒレの姿煮に有り着けるとは幸運だったが二度目はあんにゃあろう。悔しかったのか零落白夜を纒わせやがって!!
って、気付けば目の前に飯が来てやがる。
織斑姉がニコニコ顔で見てやがるから、貴様が作ったんだろな。
見るからにチンゲン菜炒め。
湯通ししていないシナシナなチンゲン菜炒めだったらぶっ殺す!
だから、嫌味を言ってやる。
「あん?まさか、織斑姉が作ったんじゃねぇだろうな?」
キツめに睨みつたら、織斑姉は親父の真似をしやがった。
「一口食べれば解る」
ちっ、食えば良いんだろ!!
箸でチンゲン菜を掴み口に入れる。
「!?」
うめぇじゃねぇか!!
チンゲン菜特有の苦味は全く感じやしねぇ。ほのかな辛みは鷹の爪だな。普通なら、脂っこいのに全く感じねぇ。
ガツガツ食べながら、箸の乱舞が止まらない。
いつの間にか、チンゲン菜炒めが皿から消えていた。
だが、油っこさが全く感じねぇは何故だか気になる。
だから
「織斑姉!!チンゲン菜炒めが油っこく無いぞ!!」
「フフフ…礼子先生、実はこれを使ったからだよ」
出されたのは小皿に出された透き通った油。一舐めしたら、全くしつこさを感じない。
ってか、一夏の野郎…娘が会心の出来だからニコニコしやがって!!しかも、知ってやがる。
悪態を付いていたら、織斑姉がネタばらししてきた。
「これはねぇ、ヒマワリ油だよ。湯通しの時に使うラードの代わりに使ったんだ。だから、しつこくならないんだ」
ちぃ、段々一夏に似てきてやがる。
些細な気遣い。
個人に合わせた味付け
全く、親子似た者同士ってことかよ。
俺は飯を食べ終え店を出る。
何かを忘れていた様だが振り向けば、殺気を滲み出している相棒(スコール)がいた。
「あっ、やべぇ…」
「随分、美味しそうに食べてたわねぇ?」
スコールも同じ任務を受けていた。ニコニコ笑っているが、目が全く笑ってねぇ。
「お腹空いていたのに仲間外れは酷いわねぇ?」
そう、同じくお腹を空かせていたらしい。にじり寄る恐怖に後退るが問屋が許してはくれないだろ。
「ねぇ?あちらでOHANASHIしましょうか?」
「はっひぃ!?」
スコールが指差すのは裏路地。
その先の意味は解るだろう。
あまりの恐怖に声が裏返る。
正直、スコールを誘えば良かったと後悔するが後の祭りだ。スコールに引き摺られ、裏路地に入るなりボディーブローを喰らわされダウン。
「ふん」
と鼻を鳴らし、スコールは帰って行ったが正直、叫ばせて欲しい。
「ちくしょー!!全く、ツイてねぇ!!」
虚しい、俺の声が響いた裏路地だった。