旅館の一室、重く何とも言い難い空気の中で、私達姉妹は千冬叔母さんの部屋で一家全員に囲まれ正座中だった。
一切無言で座るパパに怒り気味のママ。
そして、同じ顔に同じ目付きで怒る、マドカ叔母さんと千冬叔母さん。
「十夏、千秋。
さて、約束通りに一夏と鈴にサプライズでマドカも一緒に説教だ。
ん、どうだ?
嬉しいだろ?」
千冬叔母さんからプレゼントで、全く嬉しくないとも言える一家全員からの説教。
だけど、昨日はそれだけの事をしたのだと理解しているから、私達姉妹は何も言えなかった。
遡る事、今朝の出来事だった。
私が撃墜されて瀕死となってアテナと修行していた頃、千秋は私が死んだと想い込み女神アルテミスのもう一つの顔である女神ヘカーテを自分の身体に神降ろしをしてしまった。
そして、女神ヘカーテ化して暴走し旅館を襲った襲撃者達を皆殺しにしてしまった。私が復活してから、旅館へ急行して千秋を神降ろしから救ったが、意識が戻っていた事に気付かずに千秋をぶん殴ったのが原因で殴り合いの大喧嘩に発展して旅館付近のプライベートビーチや森林を破壊して更地化してしまった。
千冬叔母さんから殴り合いの喧嘩の最中にゲンコツを貰って気絶した。そして、目覚めたのが今朝であり、目覚めて着替えが終わって自由時間に部屋に来たのが自宅から来たママとパパだったのだ。
因みに、千秋とは未だに喧嘩中で、千秋は巻紙先生の部屋で謹慎中で私は千冬叔母さんの部屋で謹慎中だった。
そして、私を見付けたママは私へどかどかと歩み寄り
「この、バカタレがぁぁぁぁ!!」
ベッチィィィィィィン
ママからの突然、鳴り響く怒声と部屋に鳴り響く程の全力のビンタを貰い、私は本当に心配させたのだとママに謝るしか無かった。
「ママ、ごめんなさい…」
「本当、馬鹿なんだから…
でも、無事で良かったわよ…」
私はビンタを貰ったが、ママに泣かれながら抱き締められたが、身も心も痛いのを感じながら強く抱き返して声を押し込み泣いてしまったのだ。
ママが泣いたのも理由は判る。
私は今回の襲撃で電流を流され両腕両足と顔半分が炭化する瀕死の重症を負い、海に落ちて死んだと思われた。女神アテナに召喚されなければ死んでいたのも事実だったし、私はアテナからの施された治療で既に人間ではなく半神状態だった事も原因だった。
だけど、ママが泣き止んだ後が大変だった。
「そう言えば、千秋も見たけど十夏も成長してるじゃない!!」
「うん、女神アテナの所で十年ほど修行をしてたし、アテナが言っていたけど時間軸が違うらしくて、此方は30分程度でも向こうは十年も流れるらしいよ?」
ママとパパには撃墜されてから、アテナの下で十年ほど修行した事や魔界に行かされて狩りをした事など向こうで過ごした日々をママとパパに話したのだ。
「えっ!?
十年もなのか⁉
千秋は神降ろしの影響らしいが…」
とパパに驚かれ。
「でっ、そのデカい胸なのね…」
ママには胸を睨まれながら納得され。
(口では言えないが、ママは千秋と同じ胸のサイズはDカップで私はFカップだった)
「元が黒髪だから、千冬叔母さんに似たのかも?」
「えっ、千冬姉に?」
「義姉さんか…言えて納得ね…」
「あっ、ママ。私と千秋の分も入れて下着買って来て欲しいかも‼」
「何故よ?
下着履いてるじゃない?」
「急に成長したせいで、下着が壊滅してて代わりに修行時代に作った紐パンを代わりに履いているし、今は合うブラが無いからノーブラで…」
朝起きて着替えようとしたら、持って来た下着類のサイズが全て子供用サイズで壊滅だった。
仕方なく、履いていた麻製の紐パンは直ぐに洗って乾かしたがブラだけが無く先生方から借りようとしたが、巻紙先生のはCカップで小さ過ぎて入らず、雨宮先生はノーブラ主義でブラを持たず、ティナ先生と御手洗先生のブラは少しブカブカだった。
正直、ゴアゴアした麻製よりシルクの下着を履きたかった。
そして、千冬叔母さんのは残念ながら少しだけ小さくて、出来ない事はないがブラがピチピチでワイヤーが当たって痛くて外してしまった。
「十夏が紐だと…」
パパからノーブラでたゆんと揺れる私の胸に視線を感じ、更に私が紐パンだと反応していてる辺りで殴りたかった。
「一夏があたしと一緒になって、さり気無く娘の下着の話を聴いてんのよ!!」
「りっ、理不尽だぁぁぁ!?」
ガッ、ガッシャァァァァァン
私より先にママに部屋から蹴り飛ばされ、庭にある燈籠に激突していた。
そして、パパを追い出してママが懐から出したメジャーでバストを測り、ブラと下着のセットを買ってもらい着替えたのだった。
そして、今に至る…
「まず、十夏と千秋は無断出撃の罰として、一週間の部屋での謹慎と反省文50枚の提出だ。
いいな?」
「「はい…」」
学園からの沙汰は一週間の自室での謹慎と反省文50枚の提出だった。しかし、パパとママからの罰は納得出来なかった。
「あんた達は、本来なら中国へ一緒に行く予定だったけど、夏休み中は学園で過ごす事。だから、あんた達は
い・の・こ・り。
判ったわね?」
「そっ、そんな!?」
「横暴だ!!」
「妥当だな。
無断出撃に加え十夏は死にかけ、千秋は暴れ過ぎだ。
夏休み中は学園で残って反省しろ。
それに、中国に行くのは俺が資格を取る為だ。
遊びじゃ無いんだ。
良いな?」
「うん、お兄ちゃんの言う通りだね。
セシリアが娘の編入の関係で日本に残るから、訓練内容を渡して置くから訓練しろよ」
「あぁ、中国の屋台での食べ歩きが…」
「うん、屋台が……上海蟹が…」
マドカ叔母さんまでもだった。
そして、私達姉妹の夏休み中での中国の屋台の食べ歩きライフは頓挫したのだった。
レナスも同様に、ラウラさんを交えて巻紙先生に説教を受けていて、レナスも無断出撃で一週間の自室での謹慎と50枚の反省文の提出を言われたのだ。
そして、唯一無関係だった、ボーデビィッヒ姉妹の長女と三女は夏休み明けから学園に編入となったが、専用機(封印処理とレナスの八号機用の修理用のパーツ取り中の一号機から七号機の内、ヴァルキリー一号機と二号機がドイツの研究所から消えて騒ぎになった)の関係でラウラさんとドイツに一度帰り、レナスと同じテストパイロット及び軍属として登録する必要があるらしい。
そして、学園へ戻るバスでは…
「凄い美人さんがバスに…」
「転入生かな?」
私達、五人がバスに乗り込むと騒ぎ出す生徒達。
「オメェ等、早く座りやがれ!!
織斑姉妹とボーデビィッヒ三姉妹てめぇ等もだ!!」
「「「「「はい…」」」」」
謹慎中なので一番前に座らせられた私達と巻紙先生の私達の名前を呼ぶ一言に固まり、クラスメイトの一人が巻紙先生が呼んだ名前から私達が成長した姿である事に気づき驚き叫んだ事で騒ぎ出したのだ。
「えっ、あれが私達のエンジェルズだと!?」
「「「「「「なっ、何だとぉぉ!?」」」」」」
「よっ、幼女が…びっ、美女に…」
「幼女のお持ち帰りの計画がぁぁぁぁ!?」
「十夏ちゃんのお胸がメロンに育って……ジュルリ…」
「私より、大きいだと…」
「騒がしいぞ、てめぇ等!!」
やはり、想像通りに変態共は騒ぎながら絶叫していたのだ。中には隠し撮りした幼き日の私達の写真を抱き締めながら気絶したり、私達の胸が巨乳化している事に気付き胸を鷲掴みしようとする変態など、バスの中は混沌としたが青筋を浮かべた巻紙先生のが投げた必殺の出席簿ブーメランにより意識を刈り取られて強制着席となり沈静化したのだ。
私達の座席は巻紙先生は私達が謹慎中だと考慮し、千秋と喧嘩中だと言う事を知っている為に別になり、千秋はレナスと座らせ、私はレナスの姉であるアーリィさんと同席となった。残ったシルメリアさんは巻紙先生と座る事になり、ティア先生はナターシャ先生と座る事になった。
同席となったアーリィさんは初めて会う私に挨拶しながら話し掛けて来たのだ。ただ、アーリィさんの顔が怖いと思うのはマドカ叔母さんの様に強面であり、私は慣れていたのか全く気にならなかった。
「レナスの姉、アーリィだ。
編入後は二年生となるが、レナスをよろしく頼む」
「私は織斑十夏よ。
学園の生徒会長をしてます」
「ほぅ、確か学園の生徒で最強だと母上から聞いたな」
「まさか、生徒会長狙って私に挑みます?」
「フフフ…まさか、やらんよ。
だが、戦闘狂である事は認めるが、昨日のアレを見ては負けるのが明白だな。だが、負けるのが判っていても挑みながら戦いを楽しみたいとは思うがな」
私を見ながら獰猛な笑みを浮かべ、挑戦者の様に私を睨む。レナスも強かったけど、アーリィさんも只者ではない雰囲気を出す事に私は更に警戒する。
「私も半神化してるから感じるけど、アーリィさんまさか?」
「ふふふ…確かに、私は元女神だ。
第六級神で運命を司る女神三姉妹の長女のアーリィ・ヴァルキュリアだったよ。
散々、汚い事を妹達にやって来たがな…
レナスが前世の記憶を取り戻して創造神レナスとして目覚めたおかげで、私達三姉妹は人となって生を生きる事が出来た。
アテナに導かれし者よ、違うかな。
アテナに愛されしアテナの愛娘、十夏と言うのかな?」
「やっぱり、元女神でしたか…って、レナス…」
「どうした?」
アーリィさんが元女神だと驚くが、レナスが元創造神だったとは私だって驚く。確か、六級神で運命を司る女神は戦乙女のヴァルキュリアだと、アテナから修行の合間に北欧神話について学んだ記憶があった。
「いえ、少し驚いただけです。アーリィさんはアテナをご存知なんですか?」
「知っている何も、奴とは女神時代にポセイドンが妻が居るのにアテナに『抱かせろ』と叫び、アテナが『不潔が断る!!』と叫びながら殺り合って居たのを呆れながら見ていただけさ。
それに、ポセイドンは諦めずにアテナの寝込みを襲おうとしたがアテナに金的を蹴られて逆襲されて神槍を奪われ、神槍ネプチューヌを失った間抜けだと同じ海を司る女神いや、北欧神話では水の大精霊ウェンディーネが腹を抱えて笑って居たのを思い出しただけさ」
あぁ、アテナがポセイドンを彼処まで嫌うのかと納得し呆れる私。
「もしかして、神槍ネプチューヌってこれです?」
アーリィさんに神槍ネプチューヌを見せる。
「確かに、神槍ネプチューヌだ。アテナから授かったか?」
「はい、試練でアテナに一撃入れましたので…」
「一撃か…大変だったな…」
何故か、アーリィさんは遠い目をしながらアテナとの日々を同情していたのだった。
そして、私達二人は武器談義を楽しみアーリィさんの得物だった、地獄の業火を宿すと言う伝承がある魔剣レヴァティンを見せて貰ったが、神剣プラムと神槍ブリューナクが在るからと姉同士の友の証にと魔剣レヴァティンをくれたのだった。
巻紙先生と同席するボーデビィッヒ三姉妹の三女のシルメリアは拡張領域から出したティーポットでティーカップに手慣れた手付きで紅茶を注ぎ、王侯貴族の振る舞いの様に優雅に飲んでいた。
「なぁ、ボーデビィッヒ妹。
優雅過ぎないか?
様になり過ぎたが?」
カチャリとティーカップ皿にティーカップを置き、巻紙先生を見ながらシルメリアは可笑しそうに笑う。それも、王族の様に立ち振舞いの姿が様になるのだから巻紙先生は更にバツを悪そうにする。
「そうでしょうか?
こうして、見たことない風景を観ながら紅茶を嗜むのも良いものです。巻紙先生も一緒に紅茶でもどうですか?」
「柄じゃねぇから、オレは遠慮するわ」
粗暴、乱暴が名前にまで付いて回る流石の巻紙先生でも、このシルメリアから漂う気品あふれる雰囲気には居心地が悪い。
それに、シルメリアがヴァルキュリアとして目覚める前の前世が神の怒りを買い神罰で国が滅び、運良く国王から悪戯のやり過ぎで城の地下牢に幽閉されてて落ち延びたお転婆王女のアリーシャ王女だったのだから様になって当然である。
そして、どうして自分とは真逆のシルメリアを相席させたのかを後悔しながら愛読中の週間ストラトスをアイマスクに眠ったのだった。
一方、千秋とレナスの二人はクラスメイトがカンパしたお菓子を食べながら座っていた。
ただ、千秋がかなり不機嫌なのは私が原因だろう。
「お姉ちゃんに助けられたのは事実だけど殴ること無いじゃん‼」
バリバリムシャムシャとカンパされ渡されたお菓子をヤケ食いしながら愚痴っていた。
「千秋、仕方ないと思うよ?」
レナスの一言に、どうしてと思う。
「レナスもお姉ちゃんの味方なの?」
「違うとも違わないとも言い切れないかな。
だって、私は姉でもあり妹でもあるから」
レナスには妹にシルメリアさんがいるし、姉にはアーリィさんが居た。
「だったら、私がお姉ちゃんに怒る理由だって!!」
「判るよ。
でも、経緯を知ろうとしないのはどうかと思う」
「うっぐぅ…」
見事なカウンターに黙ってしまったのだ。
「ねぇ、千秋ちゃん」
「なっ、何かな?」
「千秋ちゃんは前世を信じる?」
「急に何を?」
レナスの前世を信じるかと言えば信じるしか無い。現にレナスにはアーリィさんとシルメリアの二人の姉妹が居るし、お姉ちゃんに至ってはアーリィさんと談笑しながら魔剣らしき物を貰っている所が見えた。
「うん、じゃあ…とある少女の昔話しをしようかな。
昔、死が近付き病弱でいる一人の少女が居ました。
少女は幼馴染の少年に願いました。
大好きな鈴蘭の花畑に連れて行って欲しいと。
そして、願いは叶い鈴蘭の花畑に行けました。
ですが、鈴蘭には毒が有りました。
少女は病気では無く、鈴蘭の毒を吸い込み鈴蘭の花畑で亡くなりました。
そして、少女は女神に目覚ました。
蒼穹の鎧を纏いし銀髪の美しい少女、戦乙女であるヴァルキュリアとして…
ヴァルキュリアは人だった頃の記憶を全て失い、女神としての責務として世界を周りながら来たるべくラグナロクに向けて英雄達の魂を集める旅をしました。
少女はとある城で不死王ブラムスと出会い、戦いながら主神の真の目的を知りました。ですが、不死王が言っている事を信じられなかった少女は不死王から証拠として見せられたのが、主神に人々に手を差し伸べるべきだと意見しただけでクリスタルの中に封印された女神である少女の妹でした。
少女はクリスタルの中に封印された妹の変わり果てた姿に涙を浮かべて泣きました。
その時、少女は決心しました。
主神に叛逆すると…
そして、仲間を集めて主神と戦う道を選び、旅を続けました。
戦いは佳境を迎え、神樹ユグドラシルに向かい主神の力封印して倒す為の宝珠を取りに行きましたが、少女の前に現れたのは少女が女神としての姉が敵として現れました。
二人の姉妹の戦いは、激戦の末に姉を倒しましたが姉は最後の止めと少女に刺された槍で亡くなりました」
「…」
レナスが語る昔話し。
まるで、レナスの前世の記憶なのだろうか?
判らない。
だけど、涙を流しながら語るレナスを見て、私を見る目は昔話しの様に何かを願う少女の様に見えた。
「だから、千秋ちゃんには少女の様になって欲しくない。だから、十夏ちゃんと話して仲直りしよ?」
そして、レナスの願いは私とお姉ちゃんの仲直りを願っていたのだった。
お姉ちゃんとの仲直りの事を考えながらバスに揺られて見る蒼穹の空は、私には何も教えてくれなかった。