海上に現われたレジェンドルガに同族化された武装局員達をオトヤ達に任せ、トウヤ達は時の庭園へと転送して来た訳だが…。
「チッ!」
舌打ちしながらダークキバはシャイニングメモリとロストドライバーを仕舞いながら、襲い掛かってくるイヌ科の動物を思わせる貌に変わった武装局員を殴り飛ばす。
予想通り此方に送られた武装局員達も全員がレジェンドルガの同属と化していた。
イヌ科の動物を思わせるその顔は、トウヤが倒したオルトロスレジェンドルガによって同族化された者だとは理解できる。同時に騎士甲冑を思わせる貌に変わっている者達の存在は、トウヤの推測していたもう一体のレジェンドルガの存在を完全に裏づけていた。
「やれやれ、不法侵入に対する警備装置の作動は良いとして…。随分と物騒な警備装置だな、これは」
そう、トウヤ達は現在レジェンドルガ化した局員達と大量の機械兵達の戦いに完全に巻き込まれた形となっている。
「お前達は!?」
「お前は…クロノ・ハラオウンだったか? …お前は“まだ”まともな人間なのか?」
その中にダークキバトウヤ達の姿を見つけたクロノに対して挑発気味にそんな声をかける。
「くっ! これは…」
「どこからどう見ても、レジェンドルガによる“同族化”だ。既に“人”から“レジェンドルガ”と言う別の存在に変えられた。お前はそんな相手に向かってなんと言う気だ? まあ、こっちにはお前の言い訳を聞いている暇も興味も無いがな」
そう言い放つとザンバットソードの一閃で機械兵を数体纏めて真っ二つに切り裂き、周囲にいる局員達の貌を確認する。だが、その中にダークキバの探している相手の顔は無かった。
(…ダイルとか名乗っていた男が居ない…。…雑魚に構っている暇は無いか)
それ以上何かを言おうとしているクロノを黙殺しつつ、ダークキバの後ろで非殺傷設定の魔法で機械兵と戦っているなのはとフェイトやレジェンドルガに変えられた局員達と戦っているアルフとユーノへと視線を向ける。
「フェイトさん、この先…ミス・テスタロッサの居る場所への行き方は知ってる?」
「う、うん、知ってるけど…」
「雑魚に構っている暇は無い。一気にミス・テスタロッサを助けて此処から逃げる」
「ト、トウヤ君、どうするの?」
「フェイトさんに案内して貰って最短ルートでミス・テスタロッサを救出。それで此処から脱出する。流石にこの数の差じゃこっちが不利だ」
レジェンドルガ化した局員達を元に戻す方法は現時点ではレジェンドルガの君主ロードを倒す以外に方法は無い。幸いにも局員達はユーノの拘束魔法バインドで身動きが出来ない様にしているが。
(地球に戻れば父さん達が居る)
サガやルークやビショップ、次狼達魔騎士と言った実力者達の加勢が有れば、簡単ではないが数の差は覆せるだろう。少なくとも、最低限の戦力しかない現在の三つ巴の状況よりは何倍も楽になる。
(…ユーノが居てくれて助かったな…)
そう思わずにはいられない。もし、この場にユーノが居なかったらダークキバにはトドメを刺す以外の選択肢は与えられなかったのだから。
「待て、彼女達は…!?」
「ここはお前達の法が適応されるべきだろうが…。残念ながら、オレ達の世界とお前達の世界には犯罪者の引き渡しに関する条約は無いぞ」
「貴様…」
「文句があるなら…いや、そっちからオレ達の方に犯罪者を引き渡されても、それは迷惑なだけだな。“お前も含めて”な」
「ぐっ…」
ダークキバの言葉に思わず黙ってしまう。…そう、既にクロノはクロノ達の言う所の第97管理外世界『地球』では犯罪者とされているのだ。
付け加えるのならダークキバ(トウヤ)が『お前も“含めて”』と言ったのには他にも理由がある。
真っ先にレジェンドルガの仲間入りを果たしているであろう“この状況”を作り上げた、そもそもの原因となった者、または者達の事も含めての言葉。もっとも、ダークキバ(トウヤ)としても、そんな連中を引き渡されても扱いに困るだけだが。
「Ⅱ世、大技で行くぞ」
「ああ、ウェイクアップ!」
ザンバットソードから出現した金色のフエッスルをキバットバットⅡ世に吹かせ、刀身が魔皇力で真紅に染まったザンバットソードを横凪に振るう。
「ファイナル、ザンバット、斬!!!」
ザンバットソードの前に存在していたレジェンドルガ化した局員、機械兵と区別無く真紅の斬撃が薙ぎ払い、進むべく道を空ける。
「す…凄い…。って、幾らなんでも遣り過ぎだよ、これは!?」
「まあ、レジェンドルガ化した連中については…死んで無いだろう。…多分」
「一応温存の為に最低限に力は抑えたからな…」
ユーノのそう答えるダークキバとキバットバットⅡ世。流石にレジェンドルガ化しているとは言え、無闇に人の命を奪うのには躊躇がある。そう言う事には慣れて居ない女の子を二人も連れているこの状況では特にだ。
彼の罪人以外には甘い所は、レジェンドルガを相手にするには弱点としか言い様が無いだろう。レジェンドルガの個々の戦闘力以外に脅威になる無限に近い圧倒的な『物量』。
それの元になっているのは彼等にライフエナジーを捕食された、一応とは言え救う方法も有る犠牲者達なのだから。
必殺技で無理矢理開いた道をなのは達を先に進ませて殿しんがりをダークキバが務めながら先に進む。後ろで尚も喚いているクロノに関しては全面的に無視している。
………明らかにレジェンドルガ勢力から攻撃受けていない時点で、どう考えてもレジェンドルガ達から『味方』と認識されてる訳だし。
(…それにしても…何で奴らは此処を襲撃したんだ?)
先に進みながらダークキバ(トウヤ)はそんな疑問を思う。
明らかにレジェンドルガの動きは『時空管理局』と言う隠れ蓑を完全に脱ぎ捨てて行動している。この一点から考えても、時の庭園への襲撃には『時空管理局』の『犯罪者の確保』や『ロストロギアの確保』と言う表向きの理由以上に、『レジェンドルガ』としての真の理由が存在している可能性が高い。
(…ジュエルシードが目的と言うのは…理由としては弱い。だとしたら、何が目的だ? それ以外に奴らにとって魅力的な何かが此処に存在しているのか?)
そう、ジュエルシードが目的とするとそれは表向きの理由に合致する為、態々レジェンドルガとしての正体を露にした上で地球にまで送り込むと言うのが、ダークキバ(トウヤ)にはどうしても納得出来ない。既に存在を知られているとは言え、態々こうして向こうから確信を与える必要は無いだろう。
次に思い付くのは、レジェンドルガに同族化されてトウヤの手で封印されたアリシア・テスタロッサの存在だが、此方はジュエルシード以上に弱い。態々同族化した兵隊一人を確保する戦力としては被害が大きすぎる。連中レジェンドルガの考え方は理解できないが、それは単純な引き算だ。
三番目は、純粋にトウヤ達魔族に対する宣戦布告。これも一番有り得るが理由としては弱い気がする。それだとすれば戦力を送り込むのは地球だけで十分な筈だし、投入されている敵戦力から考えて明らかに本命の目的は此処にある。
四番目は、単なる開き直り。既に自分達の存在が明らかになっているので、存在を隠す事を辞めた。これは一番有り得ないと即座に考えの中から切り捨てた。流石にトウヤもレジェンドルガの事をそんなバカとは思っていない。寧ろ、逆の印象……非常に狡猾と考えている。
(…何だ…? 奴らの“本来の目的”…それを知らないとこの先恐ろしい事が起こる。そんな予感がする)
『本来の目的』、そこへと考えに至った瞬間、巨大な影に心臓を鷲掴みにされる様な嫌な予感を感じる。そして、その予感が示す相手はこの先の未来で間違いなくトウヤを待ち受けていると確信できる。
(…今は考えていても仕方ないか…)
それは今考えるべきではないと判断し、ダークキバ(トウヤ)は目の前の目的に集中する事に決める。先頭は目的ではなく、最重要の目的はプレシア・テスタロッサの保護と戦場からの離脱。
これから始まるのは過去以上の規模となってしまうであろう、レジェンドルガとの新たな戦争。その前哨戦…それに敗北する訳には行かない。ファンガイアの王ダークキバとしても、トウヤ個人としても。
(まったく、何処まで行っても平穏な暮らしとは縁の無い奴だな)
ベルトに座しながらキバットバットⅡ世は前世からの相棒にして父でもあり兄でもあるそんな関係の少年に対してそんな事を思う。だが、それでも…
(ふっ、オレはお前に最後まで付き合う。前世まえからの約束だからな)
彼は何処までもトウヤの決めた道に付き合う。それはあの時に既に決めていた事だ、今更迷う必要は無い。
そう考えながらこの三つ巴の戦場から真っ先に抜け出していくのは、最も数の上で最小の勢力だったダークキバ達だった。
「待て!」
取り残されたクロノが彼等を追おうとするが、ダークキバの一撃が切り開いた道は直ぐに機械兵達によって埋められてしまう。
???
「好都合ですね、エウリュアレイ様」
ダイルが一人の女を前に肩膝を着きながら言う。女の服装は一般的な管理局の制服だが、彼女の纏っている空気は普通の人間の物ではない。
更にダイルのとっている態度が彼女との地位の差を顕著に表している。明らかに上位者に居るのは彼女であり、ダイルは彼女よりも下に位置していると。
「ええ、彼らの案内に従えば、大魔導師プレシア・テスタロッサの居場所まで迷わずに行けそうね」
「はっ!」
「それと…彼が『候補者』の一人ですか」
ゆっくりとクロノへと視線を向けながらエウリュアレイと呼ばれた女は呟く。
「ええ、検査に於いてはシステムと一番の適合率を出しました。何より……強く『時空管理局』と言う組織を信じております」
「クスッ。なら、彼は一番の候補者ね…。私は賛成しておくわね、ダイル…いえ、『 』」
微かに呟いた名が戦闘音で掻き消えたその言葉と共に女の姿が蛇の下半身と背中に翼を持った異形の姿へと変わる。それこそが、彼女の本来の姿、
それはギリシャ神話に於けるゴーゴン三姉妹の一人、メデューサの姉の一人である『エウリュアレイ』の伝承の元となりし伝説種レジェンドルガ『エウリュアレイレジェンドルガ』
「ダイル、貴方はダークキバの足止めを」
「はっ!」
ダイルの言葉に満足げに頷きながら、エウリュアレイレジェンドルガはゆっくりと背中の翼を広げ、ダイルは己のデバイスを起動させ、レジェンドルガ化した管理局員達の側からダークキバ達の後を追う。
エウリュアレイレジェンドルガが今まで姿を見せなかったのは、ダークキバ(トウヤ)が気付きかけていた直接その目的を果たす為。
その範囲にレジェンドルガの故郷である地球が存在していると知った時から、万が一他の魔族に存在を気取られない様に特に細心の注意を払って己の存在を隠蔽していた。
「『プロジェクトF』…あの計画は私達レジェンドルガにとって何より重要なのですから」
「はっ! 全ては我らが
その為に念には念を入れて部下として乗り込んだ二人と違い、飢えに耐えながらもライフエナジーを吸収する事はしなかった。
現にレジェンドルガの宿敵とも言える当代のキバと出会った以上、飢えに耐えながらも己の存在を隠しておいたのは幸いだった。そう思わずには居られない。
(…当代のキバ…。先の大戦で死んだ姉さんの仇も有りますが、優先すべきは親衛隊の一人としての任務。ダークキバを八つ裂きにするのはその後です)
心の中で静かに、だが大きく強くダークキバへの憎悪を燃え上がらせながらエウリュアレイレジェンドルガは心の中で静かにそう呟く。
《全ては我らが
静かに今まで影で蠢いていた