「Ⅱ世…」
「何も言うな…」
思わずトウヤは震えながらキバットバットⅡ世へと、そう呟く。
「なんで…オレ達は…」
「ああ、オレ達は、なんで…」
この世界では幸運にもチェックメイト・フォーのビショップさえも仲良く暮らそうと言う考え方を持っている事だけでなく、ファンガイアに代表される魔族の九割が人間との共存を望んでいる。
悪い事は一つ…魔族の中に最強種と名乗る『レジェンドルガ族』がやはり存在し、かつてのダークキバと他の魔族の代表となった戦士達の協力によってレジェンドルガ族を宝玉に封印し、長い時間を掛ける事になるが、魂さえも完全に消滅させる手段をとった事でレジェンドルガは完全に滅ぼしたとされているはずなのだ。
だが、何故か封印されていた場所に封印の宝玉が無くなって、探索中なのは別に良いとして…トウヤ自身がそれほど苦労する事ではないし…精々倒すのはトウヤが中心となる程度の事と割り切っている。戦うだけなら楽でいいらしい。
文献によれば、置いて有る場所から動かしてしまうと一日程度で封印が解け始めるそうで、存在その物を消滅させるレジェンドルガ族への裁きの手段は残酷すぎるという話から、既に方法は失われ、一度封印が解かれてしまえば全てのレジェンドルガを物理的に倒し尽くすしかないと在る。
だが、当のレジェンドルガ達は動き出している様子が無いのだ。
「平和とかけ離れた人生送る破目になるんだろうな」
「…諦めろ、そう言う星の元に生まれたんだろう…」
本気で泣きたくなるトウヤだった。小学生なのにここまで苦労してしまう現状に本当に心から泣きたくなる。
「…本気で王なんて辞めたい…。…学校に居るファンガイア族の教師には《様》付けで呼ばれそうになるし…学校のファンガイア族の生徒は普通に敬語で話してくるし…。それが原因で何も知らないみんなには避けられるし…」
一番哀れなのは人間として自分の種族の王の先生とクラスメイトになってしまったそのファンガイア族の人だろう。はっきり言って、ストレス溜まりすぎるだろう。
「だが、良かったじゃないか。学校では可愛い女の子達とは仲良くなれたんだろう?」
「偶然通りかかった所で、喧嘩を止める様に頼まれたのが切欠でな…。初めて…同年代の女の子と仲良くなれた」
「…言ってて悲しくならないのか…それ?」
「…オレの過去の人生…ってか前世じゃ、馬鹿共のお蔭で寂しい人生だったよ…。これで、王なんて立場じゃなかったら…何倍良いか…」
「それもそうだが、今は『キング』としての仕事だ」
キバットバットⅡ世の言葉にフルフルと下を向きながら怒りに震えている顔を前に上げて、目の前に在る異形の影を睨みつける。
サメの印象を異形の怪物…シャークファンガイアの足元に落ちる数人の人間の物と思われる衣服…目の前のファンガイアの犠牲となった人達だろう。
本来、ファンガイアを初めとする魔族がライフエナジーを奪う際に掟の中で許されているのは『正当防衛』のみ。魔族だけでなく武装したり魔族を害せる能力を持った人間も含まれるが、今シャークファンガイアに襲われた人々はその例外ではない。
「貴様…掟を忘れたのか?」
今までの砕けた態度は一切想像させない…見る者に威圧感を与える視線と口調でシャークファンガイアを詰問する。
「掟だと? 小僧、貴様も誇りを忘れたファンガイアか、あんな腑抜けた奴等と「黙れ、もう良い」な!?」
トウヤの背後に浮かび上がる異形の影…その影が発する威圧感に圧倒され後ずさるシャークファンガイア。
「お前に王の判決をくれてやる。」
「ガブリ。」
「変身!!!」
トウヤの手にキバットバットⅡ世が噛み付くとそこから浮かび上がるステンドグラスの様な模様。トウヤの腰に現れたバックルにキバットバットⅡ世が止まると、異形のオーラが重なり、今までの子供の姿はなくそこには闇の魔王『仮面ライダーダークキバ』の姿が有った。
「死刑だ。現行犯だ…弁護も無い」
「その通りだ。光栄に思え、絶滅タイムだ」
そこに自分達が生きた最後の証を残すように残る衣服。男物のスーツと女物の洋服…そして、兄弟なのだろう…子供服が二種類にシャークファンガイアに踏み潰されたであろう未開封の玩具の箱が落ち居ている。
「そ、その姿は…闇のキバ…。まさか…キング…ま、待って下さい!」
許しを請うシャークファンガイアの腹部へとパンチを打ち込む、ダークキバ。地面に転がると更に追撃とばかりに真上に飛び上がりそのまま飛び蹴りを放つ。
掟を破った物に慈悲を与える気は無い。ライフエナジーに変わるエネルギーの開発にも成功し、それを摂取し、魔族で有る事を捨て正体を隠し、人の中で生きていく。それが、この世界でのファンガイアを含む魔族の掟だ。
誰もがそれを望んだ訳ではないが、多くの物がそれを望んだ。だが、ファンガイアの一部の者達がそれに異を唱えた。
だから、同じファンガイア族として、共存する事を望む同属達の為に、平和に生きる人々を守る為に、トウヤは闇の王としてこの町の闇を守る。
何よりも目の前の相手は特に許すことは出来ない。
前世の自分が得られなかった。今世でも永遠に得られる事が無い…父が居て…母が居て…弟が居る…そんな光景。それを目の前の相手は奪った。ファンガイアの王の使命を抜きとしても許せる相手ではない。
「ウェイクアップ1!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
鳴り響くフエッスルの音色。上空に飛び上がったダークキバが放つ必殺のストレートパンチ『ダークネスヘルクラッシュ』がシャークファンガイアを打ち抜き、地面にキバの紋が浮かび上がり、爆散する。
「…なあ…Ⅱ世…」
「何も言うな。結局、オレ達のやり方では全てを守る事など出来ないのだから。」
全てのファンガイアが人を襲うわけではない。どうしてもこう言う場合は後手に廻ってしまうのだ。だから、被害者出る。そして、その被害者は自分達ファンガイアの存在を隠す為に行方不明とされて処理される。
今回出た被害者達の家族は…肉親は…生きている事を信じて待ち続ける。帰る事のない人々を…。
「無力だよな、オレ達…」
「その通りだ。そして、お前の…『王』の存在は抑止力になっている。だから、王を辞める等と言う物ではない」
「残念ながら、オレは何時かは絶対に王を辞めてやる。オレの…キバの力なんて必要としない世の中にしてな…」
トウヤの呟きが夜の闇に響く。
「…流れ星…流星群なんて有ったか? いや、流星群って言うには少ないか…」
「そうだな。21の流れ星か…確かに珍しいな。」
ふと見上げた夜空から落ちる流星を見上げながら呟くトウヤとキバットバットⅡ世。トウヤは知らない。それが、トウヤの運命を変える始まりの夜とは…。
「…彼女欲しい、彼女欲しい、彼女欲しい、平和欲しい、平和欲しい、平和欲しい!」
「行き成り願い事か!? って、しかも、消える前に二つも言い切った!?」
「ふっふっふっ…。二度目の人生でも今の現状…今度こそ平和を手に入れて楽しく生きる為に、星にでも何でも願ってやるよ!!!」
「…自慢することか…?」
少なくとも最初の願い事くらいは叶うだろう。彼の望んでいる平和は多分そう簡単には来ないだろうし。
「良いだろう…前世の経験のせいで早口言葉(こんな物)が特技になったんだから(泣) 所で、あの妙なUSBメモリの事は何か分かったのか?」
「ああ。どうやら、あれは魔皇力等とは違う未知の力を持っている事と…名前が解った様子だ」
「へー…。」
「ああ、何でも『シャイニングメモリ』と言う名前らしい。」
「『シャイニング』ね。」
そう言われて思わずあのメモリの事を思い出す。透き通るほど白い本体に光をイメージさせる『S』の文字。確かに『光輝シャイニング』と言う名前に似合っていると思うが。
「オレには似合わない代物だな。」
思わずそう呟いてしまう。闇の魔王である自分に『光』等は似合わない。
「…必死になって日頃から『彼女欲しい』とか、『平和欲しい』とか叫んでる奴が言うセリフか?」
「ほっとけ!!!」
「いや、『あれさえなければいい王なのにな』と嘆かれてるぞ…一族の全員から。」
呆れた様に呟くキバットに対してそう叫ぶトウヤ。やっぱりシリアスな空気が似合わないトウヤ君でした。
次の日…
(ん?)
放課後、頭の中に何かが聞こえる。
(声…気のせい…イヤ…罠か?)
助けを求める様な声が聞こえたのだが、完璧に無視する事に決めたトウヤだった。第一何処に助けに行けば良いのかも解らないのだから。第一…変な事に巻き込まれたら、トウヤの望む平和が更に全力疾走で遠ざかって行く。
「紅くん、一緒に帰ろう。」
そう思いながら帰ろうとした時、喧嘩を止めた時に仲良くなった女の子『高町 なのは』がそう話しかける。
「うん、高町さ…っ!?」
「? どうしたの?」
彼女の友人の『アリサ・バニングス』と妙に自分達に近い物を感じてしまう少女『月村 すずか』と一緒に帰ろうと誘うなのはに返事をしようとした時、思わず驚愕を浮かべてしまうトウヤ。そんなトウヤを不思議そうに聞くなのはだが、教える訳には行かない。だって…
(に、Ⅱ世ィ!?)「な、なんでも無いよ、高町さん。ごめん、今日は用事が有って急いでるんだ!」
窓の外に自分を呼ぶキバットバットⅡ世の姿が有ったのだから。なのはにそう言って急いで教室を走り去っていくトウヤ。何故だろう、その表情は物凄く悔しそうだった。
トウヤが下駄箱を出るとそれを待っていたキバットバットⅡ世を掴み取り、人気の無い所まで走って行く。
「はー…はー…。何のようだ、Ⅱ世?」
「すまない、トウヤ。お前の癒しの一時を邪魔したようでな。」
「…そう思うなら、さっさと本題に入ってくれ。」
トウヤの言葉に(見ても解らないが)表情を引き締めると、キバットバットⅡ世は、
「ああ。それが…『サバト』が現れた。」
「なっ!? 嘘だろう!?」
キバットバットⅡ世の言葉にトウヤは思わず驚愕を露にする。
それもそのはず、サバトとは、死んだファンガイアのライフエナジーを集合させる事で誕生する、巨大なオーラ集合体。個別によって体色が違い、元になったファンガイア同様、ステンドグラス状の組織で覆われている。
「どう言う事だ? ライフエナジーを残して死んだ者が出たのか?」
「解らん。だが、ビショップ達が言うには、戦闘があった形跡は無いそうだ」
「どう言う事だ? まあいい、急ぐぞⅡ世!」
「ああ!」
トウヤを先導して飛ぶキバットバットⅡ世を追いかけてトウヤは表情を変えて走り出す。
「変身!!!」
キバットに案内された場所…幸いにも人気がない森の中で暴れまわっているサバトと対峙しながら、トウヤはダークキバへと変身する。
「くっ!」
ダークキバが接近しようにも、体から発する光弾と振り回す触手によって、阻まれて邯鄲には近づけない。
「どうする、トウヤ。」
「決まっている。絶対に此処で倒す。こんな物が町に出てみろ、被害は洒落にならないぞ!」
「その通りだ。ビショップ達が目撃されない様にしていてくれてはいるが、ルーク達が援軍に来るのは時間が掛かる。」
キバットバットⅡ世の言葉に仮面の奥で笑みを浮かべながら、トウヤはベルトから『ドランフエッスル』を取り出す。
「大物には大物で対抗だ。」
「ああ! キャッスルドラン!!!」
キバットバットⅡ世の吹き鳴らすフエッスルの音色に呼ばれ城にドラゴンの頭と四肢を持った巨大な城が現れる。
「来たか、シューちゃん。」
そして、咆哮するキャッスルドランに呼ばれる様にキャッスルドランよりも小型のドラゴンが現れ、キャッスルドランの背中へと止まる。それによって、キャッスルドランは今まで抑制されていた凶暴性が開放される。
「行くぞ、トウヤ!」
「ああ!」
そう叫びダークキバはキャッスルドランの頭の上へと飛び乗る。
光弾を放ちながらキャッスルドランへと近づこうとするサバトに対してキャッスルドランは口からの光弾と城の左右からミサイルを放ち応戦する。
「…妙だな…。」
「どうした?」
頭の上でサバトとキャッスルドランの怪獣大戦争を眺めながらトドメとなる一撃を放つタイミングを計っていた時、ダークキバへとそう話しかける。
「…あのサバトからは妙な魔力を感じる…。」
「『妙な魔力』? それがどうしたんだ?」
「…解らんが…あのサバトは妙な魔力が作り出している様だ。」
「…なるほど、下手をしたらこのまま倒すことは出来ないと言う訳か? シールフエッスルで封印できるか?」
「それは解らんが…やってみよう。だが、ある程度のダメージを与えて正確に妙な魔力の出所を確認する必要が有る。」
「了解だ。」
キバットバットⅡ世の言葉に仮面の奥で笑みを浮かべながら答えるダークキバ、ベルトから外すウェイクアップフエッスル。
「行くぞ!」
「ウェイクアップ2!」
鳴り響くフエッスルの音色によって夕方の風景は月の昇る夜へと変わる。
ダークキバは空高く舞い上がりそのまま飛び蹴りを放つ。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!! キングスバーストエンド!!!」
放たれたダークキバの必殺技『キングスバーストエンド』、それによってサバトの体表にキバの紋が浮かび上がり、その部分が一瞬だけ霧散する。
「今だ!」
「ああ! …よく解らんが、封印だ!!!」
飛び蹴りを放ち離れながらシールフエッスルを咥えさせ、吹かせるダークキバ。その音色によって、サバトの姿は消えてサバトが存在していた場所にはシマウマを連想させるファンガイアが倒れていた。
「おい! 大丈夫か!?」
ダークキバは慌てて倒れているファンガイアに駆け寄り声をかける。
「あ、あなたは、キング!? オ、オレは何を…これは一体何が…。」
「覚えてないのか? それなら良い。(サバトと化して暴走していたが教えない方が良さそうだな。)」
周囲を見回して驚愕を露にするファンガイアにそう問い掛けると、暫く考え込み…。
「それが…あの宝石を拾ってから…。」
「宝石?」
そう言ってファンガイアの指差した場所へと視線を向けると、そこには一つの宝石らしき石が落ちている。よく見てみると何か数字も書かれていた。
「トウヤ、どうやら、それが妙な魔力の出所のようだ」
「っ!?」
Ⅱ世の言葉にトウヤは伸ばしていた手を慌てて引く。迂闊に触れて自分が暴走してしまったら、その被害は想像を絶する物になる事は容易く予想できる。
「心配ない、シールフエッスルによる封印は上手く行った様だ。だが、何時解けるか分からない。隔離しておく必要が有りそうだな。」
「そうだな。それに…番号が書いてある上にそれは『0』でも『1』でも無い…」
キバットバットⅡ世の言葉に答え、ダークキバは落ちていた宝石に視線を向ける。
「最低でもこの番号の数だけ…この危険物が町中にばら撒かれた可能性がある」
「ああ。ビショップ達を通じて一族の者にこれに迂闊に触れない様に至急連絡だ。…町に下手な被害が出る前に全て回収するぞ。」
「良いのか、ファンガイア族のキングの仕事ではないぞ。」
キバットバットⅡ世の言葉にダークキバは周囲の焼け跡に視線を移しながら、
「関係ないな。この石がたった一つでこの惨状だ。二つ以上同時に…しかも、町中で発動されたら、あの町に暮らしている人達が…。」
トウヤ自身、自分達の暮らしている町は大好きな場所だった。正体を隠しながらとは言え、人と魔族が仲良く暮らしている場所。そして、二度の人生で初めて仲良くなった友達も居る。そして、何より…
「全てはオレの平和な人生の為に!!!」
「って、結局それか、トウヤ!?」
高らかと叫ぶトウヤに対して思わず突っ込みを入れるキバットバットⅡ世。…結局、シリアスな空気は長続きしない二人だった。
「それ以外に何が有る。(…犠牲になんてさせないよ…。ファンガイアも…人も…な。)」
胸の奥に宿した決意を隠しながら、トウヤは戦いの場所へと赴いていく。
「…それは良いとして…。トウヤ、まさか、昨日の流星がそれと言う事は?」
「…まさか…。…だとしたら、全部で21個か…これ?」
「…考えていた方が良いだろうな。最悪は、最低でもあと二十個は存在していると前提で動いた方が良さそうだ。」
「そうだな。」
その日の夜…
「リリカルマジカル、ジュエルシードシリアル21封印!!」
トウヤの知らぬ所で、トウヤもよく知る一人の少女『高町 なのは』が一匹のフェレットと出会い魔法の力を手にしていた。
これが、闇の魔王トウヤと三人の魔法少女達の物語が交わる瞬間…その全ての始まりの時だった。
取り合えず…これから先、王様は辞められないし、平和とは程遠い人生を送る事となるが、少なくとも、恋人くらいは出来るので頑張ってくれ…トウヤくん