空飛ぶ山猫と重巡洋艦 作:とある戦闘機好き
大海戦。
それは人類が霧の艦隊に屈した出来事である。人類側で生き残った艦艇は日本陸軍ミサイル駆逐艦「あきつ丸」だけであり、その他、戦闘に参加した艦艇は海へと身を沈めた。
その後人類は霧の艦隊による包囲戦略によって、シーレーンを失い島国は孤立。日本もその例外ではなかった。宇宙空間に上げられた通信衛星は破壊され、隣国との接触も難しくなってしまった。
圧倒的な資源不足に悩まされた日本は行政区画を函館、東京、長崎の三つの地域に分割。どこかの行政部が失われたとしても、統治が続く形へと変更された。しかし資源不足は変わらず、人々は日々の暮らしも安定しなくなってしまった。
東京行政府は横須賀海軍基地沿岸に大規模な防御稼働壁と地下ドックを建設、残った海軍兵力を温存することを決定。
その数年後、日本は霧の技術の一つである「侵食弾頭」を元にした新兵器「振動弾頭」の開発に成功したがー
(やはり、あの世界とは違う...)
彼はそこまで調べると、一度手を休める。
(
そう、彼は元々別世界の人間である。荒廃した地球で企業が資源を求めて争う、そんな世界を彼は傭兵として生きてきた。そんな彼でも自分の生きて来た世界の歴史は知っている。
だがその世界に「霧の艦隊」や「大海戦」はなかった。
(もう一度、生きるチャンスが来るとはな...)
彼はそう思うと少し眠りについた。
彼の過去の話をしよう。彼は人という存在と空を愛していた。
そして、何よりも戦闘機が好きだった。思想設計による可変後退翼やカナード翼、垂直尾翼の角度、そしてラファールの
だが、戦闘機は過去の産物。今の時代、空をそして戦場を駆ける物はアーマードコア・ネクストと呼ばれる人型兵器。でも彼は愛する空を駆けるために『企業連』の兵士となった。
そしてとある縁で毒舌だが優しいオペレーターとも知り合い、その人の教えで彼は兵士を辞め傭兵となった。
しかし、傭兵としてネクストを駆る
『このままでは人類はコジマ汚染によって絶滅してしまうのではないか』
彼が
彼は悩んだ。人という存在を愛する一人の「人」として彼は現状に悩み続けた。
その時、彼に声をかけた者達がいた。『ORCA旅団』。彼は現状を打破するためにそこへ入った。
組織の中核として行動し、しばらく経った頃、彼はリーダーにとある質問を受けた。
『お前は人類の為なら、命を落とせるか?』
彼は言った。
「自分は人という存在を愛している。その為なら命を落とすことさえ、厭わない。」
そこから彼の物語は大きく動いた。
組織の一機のネクストによるクレイドルの破壊事件。彼はそのネクストとして汚れ役を演じた。
自分の存在にヘイトを向ける事によって、『ORCA』と『企業連』に手を組まさせ現状を打開させる、その作戦を彼はリーダー、オペレーターと実行した。
罪なき人々を殺す、この事は彼の心を大きく傷つけた。だが、辞めるわけにはいかなかった。誰かが成さねば人類の絶滅は避けられない、それだけを考えた。殺した人々には贖罪の様に毎日祈りを捧げた。そしてー
企業連のインテイオル・ユニオンによるアルテリア施設襲撃依頼。そう、『騙して悪いが』の依頼。きっと戦場にはリーダーや企業連の高ランク、そしてオペレーターも来ているだろう。来るべき時が来た。自分の本心を知る者はあの2人だけでいい。彼は死へと赴いた。
ー機体をパイルバンカーが貫く。もう身体さえ動かない。ぼんやりする頭でAMSを使い、何とか生きている通信を2人に繋ぐ。
『すまない...』
彼女は顔を伏せ、泣きそうな声でそう呟く。
『これで世界は、人類は救われる...汚れ仕事を押し付けてすまなかった...』
リーダーはしっかりと此方を見て呟く。その顔にはいつもの覚悟に満ちた表情は無かった。
「本心を知っている人は...2人で十分です...
ここから先は...お願いします...」
彼は途切れ途切れにそう呟いた。そしてー
「幸運を...死にゆく者より敬礼を...
そして...人類に...黄金の...時代を...」
機体が爆発した。
ふと目を覚ますと、彼は見た事もない格納庫の中に横たわっていた。顔を上げ、身体の各部に異常がないか確かめる。
(おかしい。自分は爆発で死んだはずだ...)
ぐるっと格納庫を見回す。そこにはー
「これは...⁉︎」
見た事もない戦闘機が佇んでいた。見た所F-14の系譜を継いだ機体形状をしている、可変後退翼の戦闘機。しかし各部に小型のスラスターの様な物が付いていたり、カナード翼が増えていたり、エンジンノズルが3次元推力偏向ノズルになっていたりと普通ではない。だがー
「美しいな...」
彼は一目見てその機体に釘付けになってしまった。かつての戦闘機好きの血が騒ぐ。
これが数年前の出来事。
scpの名言を入れたかった。それだけ。