今回は哀れな被害者である美波ちゃんの弟の短編です。
美波ちゃんのキャラ崩壊があります。
新田は友人である和久井と一緒に呉の大和ミュージアムに来ていた。二人で大和ミュージアムを堪能し、ついでに鉄のクジラ館を見た二人は大和ミュージアムの隣にある喫茶店で『護衛艦の味再現カレー』を食べていた。
「実は和久井に相談がある」
「断る」
新田が開いた言葉に対して和久井の拒否は早かった。もう何を言われるのかわかっているレベルで早かった。
「まぁ、そういうなよ。アイドルを姉に持つ仲間じゃないか」
「貴様のその考えのせいで余計なことに巻き込まれたことが片手じゃ数えられないんだが?」
「和久井のおかげで今年も生き残れました」
「瀬戸内海に沈められればいいのに」
半眼で見てきた和久井を新田は華麗にスルー。これくらいのことを気にしていたら新田美波の弟はやれない。
「実はクリスマスライブの時のバカ姉貴の発言なんだが」
「一人で勝手に死ね」
「ははは、死ぬ時は思いっきり巻き込んでやるからな」
新田と和久井のガンのくれあいが発生したがおおむねいつも通りである。
和久井はため息を吐きながら水と一緒に氷をかみ砕く。
「で?」
「どうやったら姉貴のファンの同級生から殺されずに卒業できると思う?」
「諦めたら?」
「なんかいいアイディアを頼むよ! 今回はマジでやばいんだ!!」
「やばいのはお前だよ。なんで中学生まで姉と一緒に風呂入っているんだ」
和久井の言葉に新田はゲンドウポーズをとる。
「いいか? 姉貴は俺が小さい頃から超絶ブラコンだった。俺が物心つく前から『姉と弟がお風呂に入るのは当然』とか『夜一緒に眠るのも姉と弟だったら当然』とか『姉を持つ弟は初体験の相手は姉』という教育を俺に施してきた」
「待て、美波さんってそこまで末期なのか?」
新田の言葉にすかさず和久井が突っ込む。当然であろう。新田家の美波ちゃんと言えば品行方正で美人、まさしく優等生を絵に描いたような女性だったからだ。
そして新田は頷く。
「中学に入るまでその教育が真実だと思っていた俺も悪かったが、姉貴の俺に対する愛は異常だ。塩見兄妹が正しい仲良し兄妹だとしたらうちは姉の愛が重いおかしな姉弟だ。姉貴は俺の交友関係まで縛ろうとするからな」
「悪い、ちょっと用事を思い出したから先に帰る」
「悪いが姉貴に『今日は和久井と一緒に出掛けてくる』ってlineしといたから逃げられないぞ」
「貴様ぁぁぁぁ!!!!」
「ははは!! 一緒に悩んでくれ!!!」
和久井が新田の胸倉を掴んで持ち上げるが、週5で大和ミュージアムに通う二人と顔見知りの店員が笑顔でメニューを振りかぶっているのを見て大人しく座る。
「で? 今のところの問題は?」
「学校にある『女神・新田美波を崇拝する会』からの殺害予告が酷い」
「殺されたら?」
和久井の言葉に新田は笑顔で胸倉を掴む。その瞬間に店員からメニューが飛んできて机に刺さったので大人しく座りなおす。
「いや、マジでなんかいいアイディアくれ。今回ばかりはマジでやばいんだ」
「そりゃあ中学生まで一緒に風呂入ってたってばらされたからな。過激派で有名な『女神・新田美波を崇拝する会』だったら命で済めば安いもんだろ」
「……ちなみにお前が推しアイドルの高垣楓さんと結婚することになった神谷旭に対して何をしたい?」
新田の言葉に和久井はとても爽やかな笑顔で答える。
「とりあえず痛覚を持って産まれたことを後悔させる」
「お前が姉貴のファンじゃなくて良かったって心の底から思うわ」
和久井の爽やか笑顔から放たれた殺意に新田は心の底からドン引きした。
友人であろうが殺る時は殺る。長い付き合いで新田は和久井のことを理解していた。
和久井が机を指で軽く叩いている。これが和久井の考えている時の癖だと知っている新田は黙って水を飲む。
そして和久井が口を開いた。
「新田、お前クリスマスに美波さんからサンタコスの写真とか送られていないか?」
「妙に谷間が強調されたサンタコスの写真なら送られてきた」
「それだ」
和久井の言葉に新田は首を傾げる。クリスマスやハロウィンなどの仕事で着たコスプレ写真が美波から新田に送られてくるのは毎回のことだ。当然のように今回も送られてきた。
「そいつを『女神・新田美波を崇拝する会』の一人……いいか、一人だけに送るんだ。その後に俺が『女神・新田美波を崇拝する会の中にサンタコスの女神の写真をもらった不届き者がいる』という噂を流す。後はあの過激派のことだ。勝手に自滅するだろう」
「その時、俺に電流走る……!!」
新田は即座に写真を過激派に所属する友人の一人に送り付ける。そして和久井も即学校の専用掲示板に噂を流した。
「うお、速攻で燃えた」
「流石は美波さんファンだな」
効き目は一発だった。即座に学校の専用掲示板は燃え上がり、不届き者を炙り出そうとしている。
「でも和久井、これ写真が共有されたら終わりじゃないか?」
「ふぅ、いいか新田。お前がもしアーニャちゃんの似たような写真をもらったらどうする?」
「自分だけのものにする」
自分で言ってから新田は納得したように頷いた。
「なるほど、ファンの独占欲をつくわけだ」
「その通り」
そして新田と和久井はがっちり握手。
命の危険が去ったので後は世間話だ。
「和久井は寮に入るのいつ?」
「三月からかな」
実はこの和久井少年、今年のドラフトで東京スーパースターズから指名を受けプロ野球選手になることになっていた。そのために来年から上京し寮に入るのだ。
「いいなぁ……なぁ、和久井、俺と和久井って親友だよな?」
「親友? 誰が?」
「おいおい惚けるなって。一緒に死線を潜り抜けた仲じゃないか……!!」
「100%貴様の巻き添えだ……!!」
再び胸倉の掴み合いが発生したが店員が今度は包丁を取り出したので大人しく座る。
「で? なんだよ」
「仲井選手から塩見周子ちゃんと三船美優さんのサインもらってくれない?」
「お前は初手からなんで難易度を上げてくるんだ……!!」
「いいじゃんいいじゃん!! 来年からチームメイトになる人の嫁さんとお義姉さんのサインもらってきてくれよ!!」
「断る。それこそお前が姉に頼めばいいだろう」
和久井の言葉に新田は真剣な表情を浮かべる。
「あの人が別の女性のサインをもらうことを許してくれると思うか?」
「……すまん」
「謝らないでくれ」
「いや、マジですまん。仲井選手には頼んでみるよ」
「サインの件は嬉しいけど、なんで涙が出てくるんだろうな」
その涙はきっとブラコンの姉から逃げられない弟が流す涙だろうということは和久井は突っ込まなかった。
和久井にだって優しさはあるのだ。
「新田は第一志望は東京の大学だっけ? 合格したら一人暮らしか?」
「いや、姉貴の家に居候させてもらうことになってる」
「え?」
「え?」
和久井の『マジかこいつ』的な表情に新田は不思議そうに首を傾げる。
そして和久井は新田に言い聞かせるように口を開く。
「ブラコンの姉、愛する弟、二人っきりの一つ屋根の下、何も起きないわけもなく」
「俺の貞操がピンチ……!!!!」
和久井に言われて新田もその危険性に気づいた。猛獣のいる檻の中に自分から入っていくところだったのだ。
「え、ちょっと待って、マジでどうしよう。両親は完全に姉貴のところに居候させる気だし、姉貴に至ってはわざわざ大きい部屋に引っ越したんだけど」
「初めての相手が姉とか犯罪臭がするな」
「それがマジになりそうなんだよ……!!!」
本気で頭を抱える新田。哀れな子羊を見るような目で見る和久井。
「安心しろ、たとえ新田が美波さんに貞操を奪われても俺は友達でいてやるから」
「やめろぉ!! やめろぉ!!」
上京したら新田の運命は完全に決まっていただろう。だが、しかしまだ上京前である。
「和久井くん、僕は相談があるんだけど」
「コンビニか薬局でゴムは買っとけよ」
「そうじゃねぇんだよ!! その未来を回避する方法を教えてくれ!!」
「お前にとっては究極の選択だ」
和久井の真剣な言葉に新田も真剣な表情になる。
「自分の貞操を守るか横須賀の三笠に通う機会を逃すかだ」
「クソ!! 三笠はみたい!! でも貞操も守りたい!!」
今更だが二人は軍艦オタクだ。だから週5のペースで呉まで来て大和ミュージアムを見学したり呉に入っている護衛艦を見たりして楽しんでいる。
その二人が上京する理由。それは横須賀にある三笠を見たいからだ。あと機会があれば米軍の軍艦とかもみたいからだ。
「どうしようわくえもん!!」
「諦めたら?」
「他人事!!」
完全に追い詰められた新田。しかし、人間とは追い詰められた時に覚醒する人もいるのだ!!
「閃いた!!」
「自分の貞操どうやって姉に捧げるかをか?」
「違う!! まず第一志望はわざと落ちる」
「となると三笠を諦めるのか。安心しろよ、写真は送ってやる」
和久井の言葉に新田はにやぁぁぁと笑う。
「俺は第二志望に静岡の伊豆大学機械工学科にしてある。静岡なら一人暮らしでも不思議じゃないし、三笠にも行ける距離だ……!!」
「……おお、ギリギリのところで禁断の扉を閉じたな」
こうして姉の企みをギリギリのところで回避することに成功した新田弟。しかし、彼は知らなかったのである。伊豆大学に潜む悪魔の集団を……
「とりあえず護衛艦みにいくか」
「いまだったらかがいるんじゃないか?」
新田が全裸でいることが普通になるまであと少し……
新田
新田美波弟。軍艦オタクで姉の重すぎる愛をうける哀れな生贄。今回はギリギリのところで姉の企みを回避した。
和久井
和久井留美弟。小さい頃から姉に連れられてバッティングセンターに通い、プロ野球にスカウトされるレベル。新田の親友というより相方。学校では新田と和久井のBL本が腐女子の間で回し読みされている。
女神・新田美波を崇拝する会
地元広島でも有名な新田美波ファンクラブ(過激派)。最優先抹殺対象は新田くん。クリスマスライブでの出来事からその殺意は天井突破。新田くんが地元に残った場合、たぶんこの団体に殺される。
伊豆大学
漫画ぐらんぶるの舞台。新田くんは襲い掛かるPuBの魔の手から逃げ切ることができるのか……
そんな感じで新田美波弟の特別短編です。
クリスマスライブでぶちまけられた真実。当然美波ファンが黙ってないよね! ってことで弟くんはる~みんの弟くんと命を残すために頑張るお話でした。そして姉の魔の手から逃げても全裸の魔の手から逃げ切れるかはわからない弟くん。超頑張れ
今後はこの二人を出すから未定です。たぶん本編には出ずにこういう突発的な短編で出番があるかもしれません。
それもみなさんの反応次第ですね(訳:感想プリーズ