さて、緊急事態宣言再びである。世の中の飲食店が生き残りがやばい中、俺はお店を移転、改装中なのでそこまでダメージはない。
そして今は新居のキッチンで料理を作っている最中である。
俺の収入+美優の収入+美優の友人である飲兵衛お姉さま集団のカンパによって我が家はとても大きいものになっている。
するとどうなるか?
「兄ちゃん、飯はよ!!」
「お前もちょっとは料理しろよ」
リビングから飯の催促をしてきた周子に俺は突っ込む。すると周子の相手をしてくれていた美優がとても申し訳なさそうな表情になる。
「周介さん、いつもすいません……」
「美優はいいんだ、女神だから」
「どういう意味ですか……!?」
俺の言葉に驚愕顔を浮かべる美優であったが、理解している周子は俺と一緒にサムズアップ。
そして苦笑しながら俺達のやり取りを見ている新しい家族が一人。
「周介さんと周子ちゃんは相変わらずですね」
「いやいや、詩音さんも塩見家に入るからには塩見菌に染まってもらわないといけませんぜ」
「塩見菌とは」
「最近芸能界で囁かれているキチガイの元凶と言われる病原菌だ」
「ある意味でパンデミック……!!」
詩音も短いとは言え同じ故郷で育った身である。俺達の会話にも軽快に返してくる。
そして詩音は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「しかし、いいんですか? 新婚なのに私が一緒に住んでしまって」
「みろ周子。これが日本の伝統の遠慮ってやつだ。団地の建設が伸びたからって勝手に転がり込んできたどっかの愚妹にも見習ってほしいものだ」
「兄ちゃん、逆に聞くけど私が遠慮したらどう思う?」
「脳の病気を疑う」
「つまりそういうことや」
そういうことらしい。
さて、俺達塩見夫婦と昔からの友人である双海詩音が我が家で同居することになったのには理由がある。
イギリスにいた詩音は日本に帰ってくることになったのだが、父親も海外を飛び回っている関係で日本に滞在できる家がなかったのだ。
相談された俺は美優と相談し、クソほど部屋が余っている我が家で一緒に住むことを提案した。
だが、常識人である詩音は当然のように遠慮した。しかし、遠慮がないのは俺の友人達である。その情報を手に入れたキチガイ達は詩音の荷物を勝手に俺の家に送り、なおかつ空港で詩音を拉致って俺の家まで連行してきた。
最初は二週間の自主隔離期間が終わったら出ていくと行っていた詩音であったが、美優の「ぜひいてください」という善意1000%の言葉で出ていくことができず、我が塩見家の家族となることになった。
俺は作った料理を持ちながらリビングに向かう。
すでに空になったスピリタスの瓶が一本転がっていた。
「周子、お前またスピリタス飲んだのか」
「なんで私を疑うんや!! 美優さんか詩音さんかもしれんやろ!!」
「美優はスピリタス飲めないし、詩音はワイン派だ」
美優がスピリタスなんか飲んだらべろべろんに酔っぱらってふにゃふにゃになってとても可愛いことになる……ちょっと久しぶりにその姿見たいな。
「……美優、お水飲みたくないか?」
「火の点かないお水をください」
完全に先読みされたので黙って普通の水を出す。
その光景を見てクスクスと笑う詩音。
「相変わらず微笑ましいですね」
「そう言っててもお前の後ろに転がっているワインボトル三本は消えないからな」
そっぽを向きながら口笛を吹く詩音。その手のワイングラスにはすでに四本目が空になるワインが注がれていた。
「というかそれ柊さんが持ち込んでた奴だよな」
「あ、志乃さんに連絡したらフランスの知り合いに樽で頼むって言ってました」
「あの人この家を店だと勘違いしてないか」
美優の言葉に軽く戦慄する。だが、飲兵衛お姉さま集団はこの家ができて引っ越してきた初日に大量の酒と共に襲来し、俺につまみを作らせて徹夜で飲み明かしていた。
高垣さんは旭に迎えに来させたが、ほかの面々は当然のように家に泊まり、なんなら自分達の部屋割まで決めていた。
「申し訳ないんですけど、周介さんと美優さんにご相談があるんです」
「詩音さん、私には?」
「周子ちゃん、これは真面目は話だから」
「どういう意味や」
そのままの意味だろう。
真剣な表情のまま詩音は口を開く。
「何かお仕事を紹介してくれませんか」
「「あ~」」
割と切実な悩みであった。
「安心しろ詩音。俺にいい考えがある」
「……ダメです周介さん。前科が多すぎて全面的に信用することができません」
「流石に草」
詩音の言葉に周子が指差し嘲笑いをしてきたので軽く罵り合ったあと、真剣な表情で俺も口を開く。
「ハッカーの奴が詩音のパソコンにハッキングしかけたら面白いデータを見つけてな」
「ちょっと待ってください」
俺の言葉に目頭を軽く揉む詩音。
「私のパソコンにハッキング?」
「ああ」
「……なぜ?」
「ハッカーのバカに理由を求めるのか?」
俺の言葉に黙り込む詩音。あのバカのことだからきっと誰かの弱みを握るためにハッキングを仕掛けたのだろう。暇つぶしと称してFBIの最重要データを盗み出してくるバカだ。
「とりあえず犯罪行為を友人にされていたのは珍しくないからスルーするとしまして」
「あ、そのあたりに慣れているのはあの町出身って感じですね」
「やめてください美優さん!! その言われようは一緒にされているようで不本意です!!」
「兄ちゃん、私らの出身地がボロカスのような扱いやで」
「日本政府が『あそこは治外法権の土地』って明言している時点でアウトなんだろうなぁ」
住所上は日本の京都だというのに失礼な話である。
「それで? ハッカーさんは私のパソコンから何を盗み出したんですか?」
「うむ、自作小説だ」
「ふぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺の発言に顔を真っ赤にして奇声を上げる詩音。
「ちなみに友人一同で回し読みした」
「鬼ですか!!」
「ちなみに私と美優さんも読ませてもらったで!!」
周子の追撃に机に沈む詩音。どうやら本人的には秘密にしておきたい趣味であったらしい。
「で、それの出来が良かったから勝手に新人賞に応募してみた」
「何をしてくれているんですか!?」
速攻で俺の胸倉を掴む詩音。その顔は真っ赤だ。
俺はその反応を無視してイイ笑顔で言葉を続ける。
「出版社から連絡があって書籍化したいってよ!! やったな!!」
奇声をあげることもできずに顔を真っ赤にして前衛芸術のような姿勢になる詩音。
「そんなわけで俺が提案するのは小説家ルートだ」
「み、美優さんは何かいい案はありませんか?」
俺の言葉に返答せずに詩音は美優に救いを求める。美優は少し考えていたが、何か思いついたのか嬉しそうな笑顔で口を開く。
「一緒にアイドルをやりましょう」
「……what?」
詩音の言葉に美優は言葉を続ける。
「武内さんが新しいアイドルを探していましたので、勝手ながら詩音さんを提案してみたんです。そうしたら武内さんが会ってみたいとおっしゃっていました」
「やったぜ詩音さん!! 私らと一緒にアイドルルートや!!」
「周子、お前がこの話を逃しているはずがないよな」
俺の言葉に周子は不適な笑みを浮かべる。
「当然や。詩音さんの大量の写真を提供したのは何を隠そう私や」
「周子ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
まぁ、予想できていたことである。
「さぁ!! 選ぶがいい詩音!! 俺の提案する小説家ルートか!!」
「それとも私と美優さんが提案するアイドルルートかを!!」
「詩音さんと一緒にアイドルやれたら楽しそうです」
無自覚に嬉しそうに詩音の退路をたつ美優。そんな美優も素敵である。
しばらく苦悶の表情を浮かべていた詩音だったが、絞り出すように口を開く。
「しょ、小説家ルートで」
「了解、出版社に連絡しとく」
詩音の言葉に俺が答える。
そしてどこかしょぼんとした表情をしながら美優が口を開く。
「残念です」
「大丈夫や美優さん。すでに詩音さんは346どうでしょうに出演決まっているから、そこからなし崩し的にアイドルにすればええんや」
「聞こえてますよ周子ちゃん!! やりません!! 絶対にやりませんからね!!」
「そういえば周子ちゃんの住む団地が建設伸びたのは何故ですか?」
「ああ、それは設計に噛んでいた博士の奴が地下のMS工廠を勝手に作っていてな。それの撤去で建設が伸びたんだ」
「博士さんにも困ったものやな」
「それだったら仕方ないですね」
「いえ!? 周介さんも周子ちゃんも詩音さんも納得してますけど、突っ込みどころしかありませんよ!?」
塩見周介
ついにマイホームを手に入れた居酒屋店主(尚、店は移転改装中
塩見美優
新婚なのに他の女性を同居することを許す女神。本人的に家族が増えて嬉しい模様
双海詩音
友人達の陰謀で塩見家に住むことになった
仲野周子
引っ越し予定の団地に兵器工場がみつかり、入居が伸びたために兄の家に転がりこんだ
周介くんの友人達
キチガイばかり
そんな感じで新年一発目は一年ぶり二度目の登場の双海詩音さんが塩見家に仲間入りしました。
周介くんと美優さんは知らないけど、裏では周子ちゃんが動いて正妻・美優さん、側室・詩音さん計画を実施した模様。そして見事に成功
そして明かされる塩見兄妹の故郷の真実!! なんと政府から治外法権扱いされていた!!
どんな町だ