新田は電話をかけながら「早くでろ…!早く出ろ…!」と必死に願う。
電話の相手が忙しいのは知っている。テレビでもやっているし、日々のlineでもやりとりしている。
そして新田の願いが叶う。
『……なんだ』
「助けてわくえもん!!』
新田の叫びに電話相手である和久井は即座に電話を切った。
当然のように新田はそういう仕打ちをされるのはわかっている。むしろ素直に助けてくれたら偽物を疑う。
即座に電話をかけ直し、98回目のコールで再びつながった。
『今はキャンプで忙しい。つまりお前に関わっている時間はない。じゅあな』
「電話を切ったら貴様が姉貴からチョコをもらったというデマを過激派に流す」
『きさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』
「ははははははは!! 新人プロ野球選手とアイドルだったらリアルにあり得そうだからなぁ!!」
しばらくお互いに罵詈雑言を飛ばし合っていたが、電話相手の和久井はため息を吐きながら話題を始める。
『それで? 美波さんからチョコでももらったか?』
「ああ、うん。それなんだけどさ。とりあえずこの写真みてくれる?」
そう言ってから新田はスマホに撮っておいた姉から送られてきたものを和久井に送る。
そして和久井はそれを見たのか絶句していた。
「これ姉貴から送らてきたチョコなんだけどどう思う?」
『やばいな、ガッチガチの本命中のド本命のチョコだ』
和久井の言う通り、姉から送らてきたチョコはどう考えても、ラノベの主人公が持っている鈍感スキルを持ってしても絶対に気づくであろう本命チョコであった。
「しかもまだ続きがあってさ」
『嫌だ、聞きたくない』
「とりあえずチョコを割ってみたら中から指輪が出てきたんだよ」
和久井の反応を無視して新田は告げる。新田の言葉に和久井も絶句だ。
「和久井、助けて」
『無理だ』
「そこをなんとか!! いつもみたいに何かいいアイディア頂戴!!」
『無理だ……あ、山田さん。お疲れ様です』
和久井が電話の向こうで誰かに挨拶をしている。それが終わるのを待ってから新田は尋ねる。
「山田太郎選手?」
『そうだよ。今キャンプ中って言ったろ』
「知ってる知ってる。スポーツニュースでもやってるし」
ルーキーイヤーである和久井は入団した東京スーパースターズの春季キャンプに参加していたのである。
「どう? 開幕一軍でスタメンいけそう?」
『お前は岩鬼さんのポジションがそんな簡単に奪えると思う?』
「思わない」
『その通り』
高校時代は三塁手だった和久井は内野手として東京スーパースターズに入団していた。
「どんな感じ?」
『監督から打撃センスはいいって言われたな』
「流石」
高校時代から打撃センスがずば抜けていた和久井である。それはプロになっても通用するらしい。
『守備面の強化が指定されてな。あとはコンバートされた』
「へえ、どこ? セカンド?」
『どんだけ練習しても殿間さんの守備を超えれる気がしない。ショートだよ』
それは新田も初耳情報である。なにせテレビでは打撃練習のシーンしか映らない。
「練習は順調?」
『順調……いや、確かに順調なんだが……』
和久井にしては珍しく歯切れが悪い。
「何か問題でもあったの?」
『いや、新田は346どうでしょうに出てる塩見周介さんって知ってるか?』
「お~、知ってる知ってる。346どうでしょう俺大好き。その塩見周介さんがどうかしたの?」
『その人が守備の臨時コーチでキャンプに来てる』
「……んん?」
思わず新田も疑問の声をあげる。
「塩見周介さんってあの塩見周介さんだよな?」
『ああ、キチガイ行動で芸能界を混沌に叩きこんでいる塩見兄妹のお兄さんだ』
「……素人さんだよな?」
『いや、それがな』
新田の当然の疑問に和久井が説明を始める。
『まず塩見周介さんの守備の上手さが尋常じゃない。それこそ普通にプロレベル』
「素人とは」
『で、岩鬼さんが里中さんと山田さんのバッテリーに『おう! 甲子園での借り返してやれや!』ってことで四打席勝負することになった』
「塩見周介さんって甲子園出て明訓と戦ってたんだ」
『明訓五人衆の3年の時の甲子園は名試合が多いから見たほうがいい』
「悪いけどそこまで野球に入れ込めない」
新田の言葉に電話先で和久井は笑った。
「で、勝負の結果は? やっぱり明訓の黄金バッテリーの勝ち?」
『塩見周介さんがサイクルヒット決めた』
「……」
『……』
「……素人?」
『本人曰く『山田の配球とは相性がいい』ってさ』
「相性だけであの山田太郎と里中悟からサイクルヒット打てないだろ」
『だけど打ってんだよなぁ』
なんというか普通に説明できないのが塩見の血である。
『悪いがもう今日は寝るな』
「あ、悪い。それじゃあ頑張ってな」
それだけ言って新田は電話を切る。
そして自分の要件が終わってないことに気づいて再び電話をかける。
189回コールしてからようやく出た。
『……ち』
「危うく俺の要件を忘れるところだった」
開口一番に舌打ちされたが、新田はへこたれない。
「どう? このチョコをどう処分するか思いついた?」
『食べたら?』
「切った断面から髪の毛が入っているのが確認できましたが?」
『oh……』
和久井も思わずアメリカンになる。
それはそうだろう。弟のチョコにド本命でチョコの中に指輪と髪の毛をいれる姉。どう考えても駄目である。
「お願い……何かいいアイディアをください……」
『とうとう哀願になったな』
「そこまで追い込まれているんだよ……!!」
新田の心の叫びである。
しばらく無言の空間が広がる。新田の想像でしかないが、和久井がいつも考えているポーズをしている。
『はっきりいってこの方法は新田のお姉さんにとって厳しいぞ?』
「この際、姉貴には厳しいくらいがちょうどいい」
『父親に食わせろ。そのうえで美波さんには『あ、お父さんが間違って食べちゃった』って伝えろ』
「ナイスアイディア!!」
和久井の言葉に新田は笑顔になる。そして即座に姉に向けて『ごめん、姉貴のチョコ、親父宛てだと思って親父が食べちゃった』と連絡する。即座に既読がつき『そっかぁ、じゃあ今度の旅行を楽しみにしてるね』と帰ってきた。
それを見てさらなる爆弾が埋まっていたのを思い出す。
「ねぇ、わくえもん」
『聞きたくない』
「姉貴から大学受験失敗の慰安旅行に行くことになってるんだけど」
『家族で?』
「二人っきりで」
そして電話を切られる。即座に電話をかけなおすが300コールしても今度は出てくれなかった。
新田はスマホを放り投げて大きく叫ぶ。
「万策尽きたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
新田(弟)
姉からガチガッチ本命のチョコを送られて困っていたらさらなる地獄(二人っきり旅行)が待っていた
和久井(弟)
自分はプロ野球選手としての第一歩、そして姉が婚約発表でいい感じだったのが新田の相談で最悪になった。
塩見周介くん
守備はプロでも通用する居酒屋店主
新田姉弟のラブラブ旅行(美波視点)
コロナのせいで流れることになった
そんな感じでバレンタイン特別編です。
弟にガチガッチのド本命チョコを送るむぃなみぃ、そして受験失敗の慰め旅行という二段構えの装備で弟にリーチをかける。
ギリギリのところでそれを避けることに成功した新田くん。
彼は無事に大学に入学することができるのか……!?