でんこと行く「美し国、日本」   作:アベノ ミサキ

11 / 12
お姉ちゃんでんこと行く「東北キャンプツーリング」(3)

「よし、それじゃ出発しようか」

 旅程三日目。ここ【薬研野営場】で連泊することにしたため、テントは張りっぱなしでいいのがとても楽だ。

 天気は相変わらず快晴。今回は天気に恵まれたな。

 本日の目的地は3つ。1つ目はどこへ向かうかと言うと……

 キャンプ場から鬱蒼とした山道を南下し、川が見えてくる。

『マスター見えてきたよ、あれがそうじゃない?』

 つむぎが俺の肩から身を乗り出し、ウキウキしてるのが感じ取れる。風で煽られたツインテールが首すじに当たりこそばゆい。つむぎが指し示す先は目的地【恐山菩提寺(おそれざんぼだいじ)】だ。

 

 昨夜、どこに行こうかと調べていたとき、そういえば下北半島といえば恐山だよな~、などと考えていたらなんと今日5月1日が開山日だというのだ。

『あ、行きたい、絶対行きたい! いいでしょマスター?』

 そこに食いついてきたのがつむぎだった。つむぎはホラー好きという話は聞いたことがあった。まあ恐山は日本三大霊場といわれているらしいし。果たしてでんこに霊感はあるのだろうか!?

 

 まずは我々を迎えてくれるのは有名な【三途の川】である。川を渡る木橋もあるが今は通行止めで、隣の石橋を渡るようだ。

 橋のたもとにはこれまた有名な【奪衣婆(だつえば)】の他に、もう一つ鬼の像がある。説明書きを見ると【懸衣翁(けんねおう)】というらしい。どうやら奪衣婆が亡者の衣服を剥がし、懸衣翁がその服を柳に懸け、罪の重さを量るのだという。へー。

『ふんふん、最初からメジャーどころにマニアックなのを絡めてくるね、期待できるよ~』

 つむぎは興奮気味だ。菩提寺に入ったらどうなってしまうんだろうか。

『ウチ知っとるで。衣服を剥ぎ取られて船に乗せられるんやろ? 罪が重いといつまでも対岸につかないという話もあるなー。マスターは食べ物いっぱい持っていかないとあかんかもな?』

『マスターは大丈夫? 【さぁ、お前の罪を数えろ!】』

 ららといずなはナチュラルにキツイな……というかいずなは何を言っているんだ?

『衣服を剥ぎ取られるのですか? せっかく作ったお洋服なのでちょっと遠慮したいですね……』

『服を取られたら風邪を引いてしまいますしね。みことちゃん、マスターに代わりの服を用意しておきましょうね』

 みこととセリアの微笑ましい二人の天然トークである。罪の重さより服のことを心配するみこと。大丈夫だ、みことの服の重さは天使の羽より軽いだろう。

 

【総門】の手前には大きな似たような像が6体鎮座している。【六大地蔵】とある。地蔵については後ほど。

 総門で入山料を払い、門をくぐれば奥の院である。正面奥には【地蔵殿】があり、メインとなる【地獄めぐり】は左手に広がっている。

 と、その前に小さな掘っ立て小屋があり、【薬師の湯(男湯)】とある。入山したならば利用できる硫黄泉だそうだ。硫黄臭がきつく、でんこたちに悪影響がありそうなのでとりあえず俺だけ様子を見てこよう。

 脱衣所があり、全身浴もできるそうだが……やはり熱かったか。体も硫黄臭で臭くなりそうなので足湯にとどめておく。

 温泉を出たらいよいよ地獄めぐりである。草木の生えぬ景色を昔の人は地獄と捉えたのだろうか。塔や仏像がいくつか見える。ところどころ風車(かざぐるま)が刺さっているのが寂寥感を増す。ちなみにこの風車、硫黄ガスの風下に入らないための目印なのだとか。

 白装束でお勤めしている人たちも散見される。恐山の宿坊に泊まった人たちにはお勤めがあるらしい。

【無間地獄】【血の池地獄】などをめぐり、最奥の宇曽利山湖の【極楽浜】に向かう。そこには比較的新しい、堂に包まれた像が鎮座していた。その奥がいわゆる【賽の河原】である。目の前に広がる宇曽利山を望むと寂寥感がすごい。

『これが有名な賽の河原か~、一つ積んでは父のため~』

 などといいながら小石を積むつむぎ。本来は地獄なのでホラーではあるが、むしろ楽しんでいる様子だ。満足したようなので、湖を背に別のルートに向かおうとしたところ

『ひっ!』

 悲鳴を上げつむぎが俺の首元に飛びついてくる。少し震えているようだ。

『ま、マスター、あれ……』

 目を伏せたまま指差す方向を見ると、先程の像の背中、正確には堂の裏側が見えるのだが、そこには無数の手形がつけられている。と言っても彫ったものだが。

 後で調べたところによると、恐山の本尊は地蔵菩薩、いわゆるお地蔵さんであり、広く道祖神として旅の守り神であることはよく知られていると思う。

 また地蔵菩薩は【子供の守り神】とされており、賽の河原で子供を獄卒から守っているのであると言う。

 この像は東日本大震災犠牲者追悼の為に建てられたのだという。つまりあの手形はそういうことなのだろう。

「ただの手形だよ、つむぎ」

 確かに無数の手形というのはホラーでは定番である。突然のことでびっくりしたのだろう。そう言って慰めるが怖がり方が尋常ではない。

『う、ううん……見えたの……』

 み、見えた!? 一体何が……そう思うと嫌な汗が吹き出てくる。

『あらあら、つむぎちゃん、びっくりしちゃったんね、ほら、こっちへおいで~』

 そう言ってつむぎを抱きしめるらら。

『あったかい……おひさまの匂い……』

 しばらくららに抱きしめられていると段々と落ち着いたようだ。まさに太陽の化身ららである。

 

 続いて【重罪地獄】や【金掘地獄】など聞き慣れない地獄を巡り、霊場と宇曽利山湖を一望できる【五智山展望台】というところにたどり着く。そこから望む景色にあらためて恐山の非現実感を目の当たりにする。

 その後は【どうや地獄】【修羅王地獄】などまた聞いたことのない場所を巡って入口付近に戻る。帰り道、【イタコの口寄せ】の看板があったのでちらっと様子を見て総門を出る。

 

 そういえば入るときに見たが、総門の隣で【霊場アイス】なるものが売っていた。結構暑かったし興味本位で買ってみる。

「つむぎ、あーん」

 キョトンとした様子のつむぎだったが、差し出されたスプーンを舐める。続いて俺も口に運ぶ。

『……味、しないね』

 つむぎは微妙な顔だ。

「うーん、ブルーベリー味を頼んだんだけど、言われれば風味を感じる……かなぁ?」

『なにそれ~』

 と言って笑うつむぎ。すっかり霊障(?)も治まったようだ。

『あらあら、うふふ』

 ひびきが子供を見守るような優しい微笑みを投げかけてくる。う~ん、なんだろう、照れくさいぞ。

 

 

 時間は10時半。今日はまだまだ廻るところがあるので早々に恐山をあとに次の目的地へ向かう。

 下北半島の北側、海沿いの道を東へと進む。あまり他の車とすれ違うこともなく、途中に採掘場があるだけで薄ら寒い気分になる。

『あら、マスターちゃん、お馬さんですね』

 ひびきが手をかざし遠くを見やっている。灯台へ続くゲートを越えると広い草原地であり、近くに3頭の馬が見えた。このあたりにだけに生息・放牧されている【寒立馬(かんだちめ)】という、ずんぐりむっくりした馬だそうだ。

『ねえマスター、ちょっと遊んできていい?』

「馬を驚かせないように気をつけるんだぞ」

 聞いてきたのはいずなだが、許可を出すと6人とも飛んでいった。みんな興味津々だったのか……

 3頭の馬にそれぞれセリア・ひびき、いずな・つむぎ、みこと・ららの組み合わせで背に乗ったようだ。路肩に停車し、しばらくその様子を眺める。

 セリアとひびき、おっとりお姉さんペアは大人の余裕を感じるが、若干ポンコツなところもある二人だ。見ているだけなら尊い絵面なのだが。

 いずなとつむぎはキャッキャとはしゃいでいる。女子高校生のノリかなぁ。花も恥じらう乙女たちである。一体なんの話をしているのだろうか。

 みこととらら。なんだか陰陽、月と太陽といった感じのする組み合わせである。穏やかな二人からはほんわかした空気が醸されている。近寄ったらうっかり眠ってしまいそうだ。

 

 みな満足したようなので先へ進む。正午を回った頃、2つ目の目的地が見えてきた。下北半島北東の端にある【尻屋埼灯台(しりやざきとうだい)】である。

 灯台は岬の先端にあり、辺り一面は草原が広がっていて寒立馬もちらほら見える。空の青、海の黒、草原の緑に浮かぶ白亜の灯台は絵になる。

「ところでつむぎ、この灯台にはこんな話があってだな……」

 事前に仕入れていた情報で【まぼろしの灯台】というのがある。戦時中、灯台守が殉職し灯台も破壊されたのだがその後、灯台が光を放っていたという目撃情報が相次いだと言う。実際灯台のおかげで漁船が遭難を免れたという話まであるそうだ。そしてそれは仮の灯りを設置、点灯すると同時に無くなったという……

『ひぇ~っ、なにそれ、それって多分亡くなった灯台守さんの霊の仕業なのでは……』

 怖がる素振りをするつむぎだが、顔はいかにも興味津々といった感じだ。

「いやいや、灯台の霊かもしれないぞ? 付喪神というのが居てだな……」

 などとホラー考察を始めてしまうのであった。

 寒立馬の粗相に注意する標識があったので注意しながらしばらく付近を散策する。海風強く、ここでもまた寂寥感、サイハテ感を感じてしまうのであった。

 

 散策を終えたら本日3つ目の目的地、【大間崎(おおまさき)】へ向かう。海岸沿いをひたすら西へ。バイクを1時間半ほど走らせ到着。

 駐車場には結構な数の車両があり、観光客も多そうだ。近くには小さいながらもテントサイトがあり、いくつかテントが建っている。海風が強く煽られているので少し心配になってくる。

 到達証明書を発行しているレストハウスへ向かう道にはたくさんの【タコ足】が干してある。確か大間崎で有名なのはイカだったような……?

 話を聞くとこの年はイカが不漁のためタコを売っているそうだ。イカの代わりはタコになるのだろうか……?

 レストハウスで無事【本州最北端到達証明書】を手に入れたあとは散策と写真撮影だ。どうも【端っこ】にはモニュメントが乱立する傾向がある。【本州最北の地~】の碑の他に【天童よしみ歌謡碑】なんてものもある。

 その中で異彩を放っているのが【マグロと向かい合う太い腕】のモニュメントである。説明を見るとマグロ一本釣りの意匠らしい。これはぜひ写真に収めねば。

 誰かに写真を頼もうと辺りをうかがうが、ライダーたちは身内で完結させているようだ……そこに手隙そうな女性二人を発見したので声を掛ける。

『マスター、ナンパ……』

 つむぎが何か言っているが気にしてはいけない。こういう縁も大事だろう?

「実はですね~、このモニュメントは面白い撮り方があるんですよ~」

 片方の女性がそう言ってニヤニヤし、もうひとりの女性が先程撮ったという写真を見せてくれる。

 それを見て俺は絶句した。マグロの方のモニュメントの手前に波の意匠があるのだが、そこにうつ伏せになり、まるでマグロのような姿で写っているのだ。

 若い女性がするポーズではないが、旅の恥はかき捨て。俺もこんな面白いチャンスをふいにするわけはない。

「撮りますよ~」

 件のポーズを取り無心に笑顔を作る。いずなとつむぎは爆笑している。絶対帰ってから他のでんこに言いふらすつもりだ……セリア・らら・ひびきは困ったような笑顔を浮かべ、やんちゃな弟を見る姉の視線を送ってくる。みことは俺の醜態にオロオロするばかりである。俺の威厳はストップ安だ。俺はマグロだ。マグロになったんだ……シャッターはまだか。

 

 時間はまだ14時過ぎ。もう帰ってまたかっぱの湯に入ってもいいのだが、キャンプ場の管理人さんに教えてもらった、帰りがけにある温泉施設に寄る。源泉かけ流しの温泉で、なんでも露天風呂から北海道を望めるというのだ。

 でんこたちには女湯に行ってもらう。申し訳ないが一人の時間も必要なのだ。

 露天風呂からは簡素な柵を隔てて津軽海峡を望む。その先に見えるのは夜景で有名な函館山だそうだ。いつだったか函館山には一度登ったことなどを思い出す。

「また行きたいな、北海道……」

 今度はどんなプランで、どのでんこ達と思い出を作りに行こうか。

 

 温泉から上がり休憩所で食事をしたあとはまったり過ごす。

 だいぶくつろいでしまったが、暗くならないうちにキャンプ場へ帰ろう。

 

 今夜も簡単な食事をして、焚き火のそばでコーヒーを飲む。名残惜しいが明日は帰路だ。

 

【本日の移動距離:160km】

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。