キャンプ最後の夜、今日も赤々と熾る焚き火を囲み、皆思い思いに過ごしている。
(ちょっとちょっとマスター)
つむぎがふわふわと寄ってきて耳打ちしてくる。
(キャンプ最後の夜だよ? このまま終わるの? 意中の子がいるなら最後のチャンスだよ?)
あー、うーん、そうだな。意中の子はさておき、みんなにお礼を言っておくか。
「あーみんな『みんなー、今からマスターが一人ひとりにお話があるってー!』
みんなにお礼を言おうとしたらつむぎがかぶせてきた。そして個別にということにされてしまった。
(言っとくけどマスター、ちょろっとお礼言う程度じゃ許さないからね!)
文句を言おうとしたが、逆に苦言を呈されてしまった。どうしろというのだ。まあ今回の旅の思い出トークでもしながらお礼を言えばいいか。
『それじゃ一人ずついこー! 最初はセリアさんね。他の子たちはテントで女子トークしてよー』
つむぎが皆を連れてテントの方へ行く。なんだこの流れは……女子トークが気になるぞ……
―――
つむぎ『ごめんねみんな。ちょっと強引だったかな? でもこうでもしないとマスターが腑抜けで……』
そう言って他の子達の様子をうかがう。
いずな『まあいいんじゃない? 面白そうだし。あのマスターが何を言ってくるか楽しみね~』
らら『せやな~。じゃあ折角やからウチらはウチらで楽しもか。最初はセリアちゃんやったね』
いずな『セリアさん、癒やしよね~。あたしたちの健康管理に加えてマッサージとかしてくれるし。優しいお姉さんよね。レイカと違ってツンツンしてないからついつい甘えちゃうわ~』
みこと『わたしはよく体調を崩すのでお世話になりっぱなしです』
らら『マスターもよくマッサージしてもらってるなぁ。もうセリアちゃん無しでは生きていけないんちゃう?』
ひびき『あら、じゃあセリアちゃんはマスターちゃんの一生のパートナーね♪』
女子トークに花が咲く。意外にもみんな乗り気のようだ。やっぱりみんな、マスターにどう思われてるのか気になるよね!
―――
セリアは今、俺の背中を撫でるようにマッサージしてくれている。正直たまらなく気持ちいい。
『マスターちゃん、今回も計画を詰め込みすぎて無茶をしたみたいね。背中が固まってるわよ~』
耳が痛い話である。猛省。
「でもセリアの健康管理のおかげでなんとか無事に終われそうだよ。ありがとう」
などと無難な言葉でお礼を言う。
『こんな無茶をするマスターにはこれからもず~っと体の心配をしないといけませんね~』
ずっとかぁ。そういえばつむぎが【長生きできるかもよ?】なんて言ってたな。
「そうだね。でもまあセリアがそばに居てくれる間は無用な心配だと思うよ」
マッサージが気持ちよくてついそんな事を言ってしまう。
『あらあら……じゃあマスターからはずっと離れることはできませんね♪』
背中の方から上機嫌な声色が聞こえてくる。なんか気の利いたこと言ったっけ……イタタ!ちょっと押す力が強いよ!
―――
つむぎ『セリアさん、どうだった?』
セリア『そうですね~、マスターとは一生添い遂げたいと思います♪』
つむぎ『えっ!? あのマスターが!?』
らら『あら~、いきなり本命やったか~』
いずな『あたしだってセリアさんとだったら一生添い遂げたいな~』
ひびき『あらあら、セリアちゃんとなんて、マスターちゃんは幸せものね』
みこと『おめでとうございます、セリアさん。マスターのことお願いしますね』
セリア『うふふ、そういうことじゃないんですけどね♪ 多分本命さんは他にいるんじゃないかしら?』
皆、意外そうな顔をしたが、セリアさんはそれを楽しんでいるようだ。なんかセリアさんの笑みにいたずらっぽいものが見えた気がするんだけど……この人、意外と人の心の操り方を心得ているんじゃないだろうか。あたしの目論見もバレていて、それでいて利用して楽しんでいるような気がしてきたわ……
―――
次に向かったのはいずな。
らら『いずなちゃん美人やし、一目惚れされやすいタイプやない? マスターそういうのに耐性無さそうやし』
セリア『頭の回転も早いわよね~、わたし、とっさの判断が苦手で。羨ましいわ~』
ひびき『しっかりもので、マスターにもビシッと言ってくれるわよね。わたしだとついつい甘やかしちゃって……』
みこと『自信家でみなさんをぐいぐい引っ張っていってくれる頼もしいところもありますね』
つむぎ『完璧超人ね……』
いずなを嫌いになる人は居ないだろう。アイドルタイプではないが、学生ならクラスに一人はいる才色兼備な女の子だ。やっぱりマスターはそういう子が好きなのかな?
―――
椅子の肘掛けに腰掛けるいずな。
『マスターお疲れ様。楽しい旅だったわね』
足をブラブラと揺らし、にこやかに語りかけてくる。
『でももうちょっと計画性を持ってほしかったなー、ちょっとひびきさんに迷惑かけすぎじゃない?』
しっかり釘を刺してくる。しっかりもののいずならしい。
「まあいずなが居なかったらひびきを始めみんなに甘やかされっぱなしだったかもな~。いずなが居てくれて助かったよ」
そうお礼を言うといずなは若干得意げな顔だ。いずなの特性は【本務機】であり、今回の個性的な編成を引っ張ってくれたのは間違いなくいずなだろう。
『まあマスターらしいけどね。旅の内容は面白かったし、これからも期待してるわ』
言葉のアメとムチの使い方が上手だなぁ、などと内心思う。まあそんないずなの期待に応えるためにももっと頑張らないとな。甘やかされっぱなしではマスターの沽券に関わる。どうしたものか。
「そうだ、今度いずなと二人で旅行へ行ってみようか」
そう提案してみる。シンプルなふたり旅ならプランニングも難しくならないだろう。しっかり計画を組むならリオナとかそら辺りと編成を組んだほうがいいんだろうけど、タイトで気疲れしてしまいそうだ。いずなならそのあたりのバランス感覚が良さそうだし、友達感覚であまり気負わず付き合ってくれそうなのでいい練習になるだろう。
『ふ、ふたり!? ……まあマスターとも短くない付き合いだしね……覚悟は出来てるわ!』
なんの覚悟だ? 声が上ずっていたぞ。なにか思案顔でウンウンとしきりにうなずいていたが、意外な一面を見れたのは嬉しく思う。
―――
つむぎ『いずなおかえりー……顔が赤いよ? 何かあった?』
いずな『……マスターと二人で旅行に誘われた……』
らら『マスターやるやん』(耐性のないのはいずなちゃんの方やったか)
セリア『あら~婚前旅行かしら、それとも新婚旅行かしら~♪』
みこと『おめでとうございます、いずなさん。旅行先は松山でしょうか』
ひびき『いずなちゃんなら安心してマスターちゃんを任せられるわね~。これからもマスターちゃんをよろしくおねがいしますね』
いずな『いやいや! 考えすぎだから! マスターに下心なんて無い……と思う……』
つむぎ『これはいずなで決まりかな~? みんな、がっかりしないでね~?』
いずな『だから違うって!』
慌てるいずなが可愛いのでついついからかってしまう。マスターがどんなつもりで誘ったのかはあとで問いただすとしよう。楽しみだな~
―――
つむぎ『ららさんかー、かなり強敵ね』
いずな『強敵って何よ……まあららさんお料理上手だしね。男の人は胃袋掴まれると弱いって言うから……』
セリア『ららちゃんのお料理とわたしの健康管理でマスター最近調子良さそうですしね♪』
みこと『ららさんのお料理、美味しいですよね。わたしにはちょっと多いときもありますけど、くにが結構食べるんですよね』
ひびき『ららちゃんとは一緒にお料理したりするんだけど手際が良いのよね~。味も見た目も完璧ですごいわ~。ちょっと量が多いけど……あと太陽みたいに暖かくて他の子たちに懐かれてるのよね』
つむぎ『いつも【ええんよ、ええんよ】って安請け合いしちゃうところもなんとなくホッとさせられるよね。ちょっと豊満な体型ももしかしたらマスターの好みかも……』
―――
『いや~、今回はウチの料理の腕を振るう機会は無かったな~、残念やわ』
俺の太もものあたりに座るらら。残念そうではあるが特に不機嫌な様子はない。しかし、太ももから感じるららの柔らかさがなかなか……
「ま、まあキャンプツーリングは初めてだったからね。調理道具を積み込む余裕と、時間的余裕も無かったからね……車でキャンプに行く時はお願いするよ」
太ももからの感触が気になるが、努めて平静を装ってそう言う。
『ん~、そんときはまかしとき! ま~とりあえず腕がうずくから帰ったらすぐになにか作ろか。なんでも作ったるで。なにがええ?』
腕まくりをして力こぶを作るらら。ぽよぽよとした二の腕にしか見えないが、料理の腕は折り紙付きだ。しかし食べたいものか。コンビニメニューに飽きた俺としては、とにかくシンプルで温かくてホッとするものが食べたい。ならばおのずと
「ならやっぱり味噌汁かな~、具材はららがその時の俺に合うと思うのにしてくれてるかな? きっとららの作った味噌汁なら体に染み渡ると思うんだよね」
そう言うと、ららは頬に手を当て、珍しく笑ってるような困ってるような顔をして
『あら~、マスター、それ意味わかって言うとる?』
あれ、なんかマズイこと言ったかな? 具材をお任せにしたのがよくなかったのだろうか? 具材くらいビシッと決めろって意味だろうか?
『まあええわ。味噌汁なんていつでも好きなだけ食べさしたるわ。楽しみにしててな~』
「それなら毎日お願いしようかな。ららの作った味噌汁が毎日食べられるなんて願ったり叶ったりだね」
そう言うと、更に困ったような表情になった気がする。でも伝わってくる感情はむしろ好意的なものだ。
『マスター、それを言うのはウチだけにしてな? ふつつか者ですが今後ともよろしゅーお願いしますわ』
そう言って頭を下げてくる。てっきり、【味噌汁なんかでええの? ええんよ好きなものを言ってくれて】くらいで済みそうだと思ってたんだが、どうも調子が狂うな。
『あとマスター、むっつりやなぁ♪』
ば、バレてる……
―――
つむぎ『ららさんどうだった? どうせマスターのことだから、【帰ったらあれが食べたいこれが食べたい】とか言ったんでしょ?』
らら『ん~、それがな。ウチもそう思ってたんやけど、【ウチの作った味噌汁が毎日食べたい】って言われて困ってしもうたわ』
いずな『えっ、それって実質プロポーズ……』
みこと『おめでとうございますららさん。ららさんの美味しい料理を毎日いただけるなんてマスターが羨ましいです』
ひびき『マスターちゃん、ららちゃんのお料理に慣れたら他のものを食べられなくなるんじゃないかしら、嬉しい心配ね~』
セリア『引き続きマスターの健康は私達で守っていきましょうね、ららちゃん♪』
どんな料理でマスターの胃袋を掴んでいるかと思ったら、まさかそれを逆手に取ってプロポーズとはね。……ん? マスター、一体誰が本命なの?
―――
つむぎ『みこと、大丈夫かしら。くにが居ないからマスターの魔の手からみことさんを守る人が居ないわ…』
いずな『つむぎ、マスターのことなんだと思ってるのよ……でもみことは守ってあげたいオーラが凄いわよね。マスター勘違いしなきゃいいけど』
セリア『みことちゃんとは健康診断の時に結構お話するけど、身体は弱いけど心の方は芯が通っていて献身的なのよね~。気がつけばそばにいてくれるのが当たり前になっちゃうから、庇護欲と独占欲を掻き立てられるの。結構魔性なところあるのよ~』
つむぎ『それって二人っきりにしたらマズイんじゃ……やっぱりマスターの魔の手が』
いずな『みことが危ない!』
らら『ふたりとも落ち着きや~。もうちょっと二人を信用してあげたらええんちゃう? まあマスターがみことちゃんに手を出したとしてもお互いが幸せならええとおもうで~』
あたしといずなはテントから飛び出そうとしたが、ららさんの説得により踏みとどまる。
まあそもそもこんなシチュエーションを用意した時点で誰にでもありえる可能性だったのだ。むしろあたしはそうなってほしいと思っていたのに、みことだけマスターから守ってあげたいという気持ちになってしまったのは、やはりセリアさんの言うようにみことの魔性ゆえのものなのだろうか? くにの気持ちがちょっとだけ理解できたかもしれない。
―――
『マスター、お疲れ様でした。今回の旅はいかがでしたか?』
やはり少し寒いのだろうか、みことは俺より少し焚き火の近くに浮いている。
「みんなのおかげでとても楽しむことができたよ。特にみことのおかげで快適に過ごすことができたんじゃないかな」
みことが衣服や寝具のチェックをしてくれたおかげでなんとか風邪も引かずに乗り越えられたのは大きい。
『いえ。わたしは当然のことをしたまでです。わたしの方こそ、くにが居ないのにこんなに遠くまで来れて……マスターがわたしを連れてきてくれたおかげです。ありがとうございます』
みことはいつも謙虚で相手を立ててくれる。気がつけばそばにいて支えてくれている気がする。
『あっ』
危ない! みことの姿勢が崩れる。俺はとっさに両手を掬うように伸ばし、みことをキャッチする。
「ふぅ……危ない危ない。大丈夫? やっぱり疲れが出た?」
心配になって顔を覗き込むと、みことの表情はちょっと上気したように見える。やはり疲れだろうか。
『いえ……焚き火に当たりすぎてのぼせてしまったようです……あの、マスター……』
みことの視線が俺の手のひらを見る。腕ではなく手のひらだが、お姫様抱っこの様相である。
「あっ、ごめん!」
とっさに手を離そうとしたが、みことが落ちてしまうのでそれはできない。
『いえ……それよりもう少しこのままで……』
いつの間にかみことの手は俺の指をギュッと掴んでいた。
―――
つむぎ『みこと……なにがあったの?』
帰ってきたみことの様子が明らかにおかしい。ぽーっとしていて上の空のようだ。
セリア『みことちゃん、体調が悪いの? 外は寒くて冷えちゃったかしら?』
みこと『いえ……マスターが抱き留めてくれたので暖かかったです……』
いずな・つむぎ『なんですってー!!!』
らら『ぽーっとしてるのはそういうことなんやね♪』
いずな・つむぎ『……』
黙って出ていこうとするあたしたちをららさんとひびきさんが止める。ええい、止めてくれるな。
ひびき『みことちゃん、無理やりじゃなかったんでしょ?』
ひびきさんがあたしを羽交い締めしながらみことに尋ねる。顔はニコニコと穏やかなのに、押さえつける力がえげつない。さすがディフェンダー随一の体力……
みこと『ええ。マスターはとても優しくしてくれました』
みことはうつむき気味にモジモジと、しかし嬉しそうな表情をしている。みことにこんな表情をさせるなんてマスターやるわね……
らら『これで実際に手を出されたのはみことちゃんだけやな~。これはわからなくなってきたで♪』
マスターが手を出すなんて……魔性のみこと、その恐ろしさの片鱗を見た気がする。
くにの気持ちがちょっとわかったかもなんて、とんだ勘違いだった。本当はくにはみことを守っているのではなく、人を惹きつけてしまうみことから皆を守っているのではないか、と。
―――
つむぎ『みんなのお姉ちゃん。ひびきさんね』
いずな『マスター・でんこ問わず激甘お姉ちゃんには誰も抗えないわ……』
つむぎ『別名【ダメマスター(でんこ)製造機】、またの名を【ひびき沼】』
らら『ひどい言われようやな……まあマスターにとってもお姉ちゃんみたいなもんだからある意味安牌やな~。面白いことは起きないかもしれへんな』
皆がうなずく中、一人だけ違う反応を示す。
セリア『でもそれって、裏を返せばひびきちゃんも【人に尽くしたい・頼られたい】という依存状態なのよね~。ひびきちゃんは不特定多数相手だからまだいいんだけど……』
みこと『わたしもくにと似たようなところがありますからわかる気がします。もしマスターとひびきさんが……』
マスターとの依存が深まり過ぎてしまった場合、二人はどうなってしまうのだろう?
―――
ひびきは肘掛けに立ち、上機嫌に鼻歌を歌っている。とても癒やされる時間だ。
「ひびき、今回の旅では準備から道中、色々気を使ってくれてありがとう」
ちょっとドジなところがあるので、しっかり者という点ではいずなに一歩譲るが、今回の旅の準備に最も腐心してくれたのはひびきだろう。
『あらあら、そんなにあらたまらって。マスターちゃんが無事に旅を終えることができればお姉ちゃんはそれだけで嬉しいのよ』
謙虚で懐の深いところもひびきのいいところだ。
「それにしてもひびきの歌はホントいいな。癒やされるよ。特に子守唄はてきめんだね。あっという間に眠りに誘われてしまうよ。ひびきならきっといいママになるんじゃないかな?」
姉妹でんこというのは居るけど、親子でんこってのは今の所確認されていないが、もしかすると娘でんこなんてのが居ないとも限らないよな。
『うふふ、それじゃ私、お姉ちゃんからママになっちゃおうかしら』
ひびきママ!なんと魅力的な響きだろうか。ひびきは私の母になってくれるかもしれないでんこだ!
『マスターちゃん、子供は何人欲しいかしら? やっぱり3人くらい? 名前は…シンフォニー、メロディ、ハミング……あら、女の子の名前ばかりになっちゃうわね♪』
ちょっと待て、ママって、俺のママではなく俺との子供のママってことか!? 飛躍しすぎだろ! しかもキラキラネームばかりじゃないか!?
『ちょっと不安だけど、マスターちゃんが一緒ならきっと立派なママになってみせるわ! 末永くよろしくおねがいしますね、パパ♪』
冷静になると【俺のママ】という思考になっていた時点でひびき沼にハマっていただろうことに気づくのであった。
―――
つむぎ『おかえりなさいひびきさん。上機嫌ですね、いいことありました?』
さっきのみこととセリアさんの心配が頭をよぎる。
ひびき『うふふ、私なら良いママになれそうだって言ってもらっちゃったわ♪』
まあそれにはみんなもうんうんと納得顔だ。
いずな『まあね~、ひびきさんなら間違いないわね。それにしても娘でんことか、将来協会から派遣されてきたりするのかしら?』
今の所、母娘でんこは居ないが、たしかに可能性はあるかも。ひびきさんの娘か~、どんな可愛い子になるんだろ? やっぱりお歌が好きなのかな?
ひびき『それでマスターちゃんには子供は何人欲しい? とか、名前は何がいい? とかそういうお話をしたの』
いずな・つむぎ『は?』
らら『あら~、ママってマスターの奥さんてことか。ええやんか~』
みこと『おめでとうございますひびきさん。子供は多いほうがいいと思います』
セリア『ひびきちゃんならきっと良いママになれると思うわ~。マスターも果報者ね♪』
依存どころか、一種の究極の愛の形、夫婦になってしまうとは……ひびきさんの無限の愛情があれば何人子供が居てもきっと大丈夫だろう。というかマスターとでんこの子供とかどうなっちゃうの!?
―――
つむぎ『これでみんなマスターとはお話できたみたいね。それじゃ女子トークもお開きにして、みんなでマスターのところに戻りましょ』
と言ったところ、ガシッと羽交い締めにされる。
ひびき『だめよ、つむぎちゃんがまだ終わってないわよ♪』
ひびきさん、笑顔だが有無を言わせない力で抑え込んでくる……
らら『きっとマスターが待ってるで~』
つむぎ『あ、あたしはいいよ~、みんなが幸せになることがあたしの幸せなんだから~。大体マスターがあたしのことなんとも思ってるわけないって!』
いずな『そんなわけ無いでしょ。もしつむぎだけ行かなかったらマスター、つむぎに嫌われたかと思うかもよ?』
うっ、あたしはいいんだけどマスターが気に病むのはあたしの本意ではない。
らら『覚悟して行ってきや~、きっと悪いようにはされへんで♪』
みこと『きっとマスターもつむぎさんのことを大切に思っているはずですよ』
セリア『マスターのためにもいってらっしゃい♪』
さすがにみんなにそう言われては行かないわけにはいかない。渋々ながらマスターの元へ向かう。
らら『つむぎちゃんの鈍感さは、るるちゃんにも負けてへんな~』
いずな『他人の気持ちには敏感なのにね。一番ほっとけないのはあの子なんじゃないかしら』
みこと『つむぎさんが他の人に幸せになってもらいたいと思うのと同じで、わたしたちもつむぎさんには幸せになってもらいたいですからね』
ひびき『つむぎちゃん、とってもいじらしくて抱きしめたくなっちゃう』
セリア『マスターならきっとつむぎちゃんの気持ちに気づいて……無いかもしれませんけど、愛情があれば自然に良い方向に向かう思いますよ? わたしたちにしてくれたみたいに♪』
―――
『ま、マスターお疲れ様! 聞いたわよ~、やるじゃない! マスターにそんな甲斐性があるとは思わなかったわ!』
あたしとしてはマスターが心に秘めた相手とうまくいくか、そうじゃなくてもこれをきっかけに想い人(でんこ)ができたり、いい雰囲気に持ってけたらな~、くらいに思ってたんだけどまさか全員と親密な関係を築くとは。大成功どころじゃない。だけどなんだかモヤモヤする。なんで?
「なぬ、やっぱり何を話してたかは話題になってたのか……しかし甲斐性? 俺はただお礼とか言っただけだけど……まあ確かにみんな反応が妙だったな」
こういう鈍感なところもマスターらしい。やっぱりほっとけない。
「でもでんこ達一人ひとりにお礼を言えたのはつむぎのおかげかな。俺だったらまとめてお礼を言って終わりだったよ、ありがとう」
『で、みんなに良いこと言ってたけど一体誰が本命なのよ? ほれほれ』
などと言って頬をつついてくる。なんのことだ。
「本命って……もしつむぎだって言ったらどうするんだよ』
こういう質問はこう返したほうがつむぎをやり込められるのは実証済みだ。どうせ『あ、あたしはいいよ~』とか言い出すんだろうが。
ところがつむぎは、一瞬固まったあと俯く。
『ま、マスターはあたしのことどう思ってるのよ……』
モヤモヤの原因。ほかのでんこたちの話を聞いたあと、みんなマスターに愛されてるんだと思った。そしてさっき送り出してくれたみんなのセリフで、あたしはどう思われてるのか意識してしまった。確かめたい。勇気を振り絞ってマスターに問いかけた。
つむぎから予想外のセリフが飛び出した。いつものような軽いノリではないそれに決意を感じた俺は、真面目に答えなければならないだろうか。
白い髪、透き通るような肌が焚き火の炎を映し揺らめいている。エメラルドグリーンの瞳は闇の中で宝石のようにミステリアスに輝き、つむぎの美しさを際立たせてている。
人の幸せばかりを考える心優しいでんこ。でも気さくに話せる気安さも好ましい。気恥ずかしくはあるが、そう伝えた。
マスターの答えはあたしにとってとても好ましく、期待通りで、でも勘違いしてしまう。他の子達もマスターの優しさを勘違いしただけなのかも。でも、もしかしたらあたしだけを……一縷の望みを懸けて。
『マスター、いつか八重の雲まで……あたしを連れて行ってくれる?』
八重の雲? 一体何のことだろうか? 八雲? 八雲といえばレーノのホーム、函館本線の八雲駅だろうか。少し函館からは離れるが何かあっただろうか。確か去年の北海道ツーリングを羨ましがってたかな? まあ北海道にはまた行ってみたいし、行くつもりだ。もし冬に行くならば真っ白なひびきには雪景色も似合うだろう。
「ああ。俺も(また)行きたいと思っていた。つむぎにはきっと純白のドレスも似合うんじゃないかな?」
北海道の某有名お土産は、創業者が言った【白い恋人たちが降ってきたよ】なんてセリフから生まれたらしい。白いドレスなんて言ってもいいだろう。ちなみにその製菓会社は【
『ばっ……ばっかじゃないの! マスターのバーカ!』
一瞬で顔が真っ赤になるつむぎ。もしかして見当違いの返事をしてしまって怒らせてしまっただろうか。
『あっ、ち、ちが……その……あーもう! 頭冷やしてくる!』
そう言うと林の方へ飛び去ってしまった。心配はないと思うが……まあこれで全員と話せたし、テントに戻っていよう。
―――
いずな『マスターおかえりなさい。……あれ、つむぎは?』
「それが【頭冷やしてくる】とか言ってどこか行っちゃったんだよ。すぐ戻るとは思うんだが……」
ひびき『あら、それは追いかけたほうが良いのかしら?』
みこと『マスターはつむぎさんになんと言ったのですか?』
「それを言わせるのか……まあみんなに言ったことはバレてるみたいだしな。それがさ、なんだっけな【八重の雲まで連れて行ってくれる?】って言ったから、【俺も行きたい。純白のドレスも似合うだろう】って……おそらく北海道のことだと思ってそう言ったんだけど……」
セリア『マスターったらキザね~、でもそうね、八雲駅って言ったら北海道よね~。どういうことかしら?』
みんな思案顔だったが、何人か何か気づいたらしい。
「なにかわかったのか?」
らら『ええと、ウチはちょっと和歌には詳しいんやけど……端的に言うと【八重の雲】は【八雲】を指しているんや。マスターの考えはそこまでは合ってるで。でもこの場合の八雲は……』
いずな『そういえば岡山から出る電車がつむぎのモデル【381系特急 やくも】だったわね。愛媛から近いから思い出したわ。たしか岡山から山陽線、伯備線、山陰線を経由して向かう先は……』
みこと『わたしたち姉妹の名字の【
らら『つまり八重の雲と意味するところは【出雲大社】だと思うで~』
「つまり八雲へ連れて行くというのは出雲大社に連れて行くってことか。出雲大社は縁結びで知られてるよな。神無月じゃなくて神在月に縁談をまとめるんだとか……ん?」
そう言うと、でんこたちは『にこ~っ』としてこちらを見る。
ひびき『あらあら、マスターちゃんたら、つむぎちゃんからのプロポーズを受けちゃったのね~』
セリア『純白のドレスってウェディングドレスか白無垢ですよね、マスター♪』
いずな『ロマンチックね~、つむぎが羨ましいわ』
らら『マスター、責任とらなあかんな~?』
みこと『おめでとうございますマスター。挙式はぜひ出雲大社で』
なんてこった、壮絶に勘違いをかましてしまった……
その後しばらくしてつむぎが帰ってきたが、ちょっとバツの悪そうな、照れた顔をしてこっそり『待ってるから……』などと耳打ちしてきた。
勘違いとはいえ、つむぎに期待させるようなことを言った責任はある。答えを出さなくていけないのだろう。いつか八雲の地へ向かうその時に。
さて、明日は夕方から降雨が予想されているので東北道に乗ってさっさと帰ることにするか。なかなかの苦行だが……
みんなと話せてなんだかほっこりした気分だし、明日のためにも今夜はぐっすりと眠るとしよう。でもその前に
「みんな、今回はありがとう。おかげていい旅になったよ」
シンプルかつストレートな気持で皆にお礼を言う。
『またお出かけしましょうね、マスター』
皆にっこり微笑んでそう返してくれた。
ちなみに、皆帰ってからも上機嫌であり、かなり甘やかしてきたため、くにからは『おまえ、お姉さまに何を……』とか言いがかりをつけられるわ、レーノは睨んでくるわ、その他のでんこたちからも『優柔不断』『シスコン』『やっぱりひびき沼からは……』『マグロ……』などいわれのない誹謗中傷を受けるのであった。俺が何をしたというのだ……
【本日の移動距離:444km】
【総移動距離:1173km】
活動報告【東北キャンプツーリング終了。】にあとがきを載せていますのでよろしければお読みください。