でんこと行く「美し国、日本」   作:アベノ ミサキ

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北海道でんこと行く「北海道横断ツーリング2017」(2)

 北海道上陸三日目。実はこの日の予定はぼんやりとしか決めていなかった。もちろん後々後悔することになるが、得るものも多かった日である。

 宿泊場所は釧路にビジネスホテルを取ってあるので、目的地は変わらないが経路はざっくりである。

1.北見を北上、サロマ湖を行くや行かざるや

2.なにかあるのかな?野付半島に行くや行かざるや

3.多分行きます、屈斜路湖(くっしゃろこ)摩周湖(ましゅうこ)

4.オートバイ乗りは端っこが好き! 日本最東端、納沙布岬(のさっぷみさき)

 このあたりをどうするか。立てた計画はおよそ1.5~2倍の時間を見積もらないといけないと後々学習するのだが、このときはまだわかっていなかったのである。そして試される大地では致命的であることも身を持って知るのであった……

『おいマスター、もう9時だぞ。北上は諦めて湖に迎えー』

 軽い疲労と、ホテルの朝食バイキングに時間を費やしすぎ、ふぶにどやされる。いそいそと出発準備をするのであった。

 

 

 昨日、石北峠より走ってきた北見国道にはもう少しお付き合いいただいて、すぐ東の【美幌町(びほろちょう)】へ向かう。ここから網走へ向かう北見国道とは別れを告げ【美幌国道】こと【国道243号】に接続する。誰でも耳にしたことはあるであろう【美幌峠】が最初の目的地だ。

 朝の時点の天気は快晴! しかし雨は降らないが曇りに移行する予報なのだが昨日よりはマシか。美幌峠に行く前にホクレンへ。ここはすでにブルーエリアだ。3本目のブルーフラッグをゲット!

 美幌町の周辺はやはり田畑が多いが、すぐに道路周りは木々だらけになる。いま狐がいなかったかな?

 

 ゆるい上りの快走路をゆけば、あっという間に【美幌峠】へ到着。ここは湖の西側【道の駅ぐるっとパノラマ美幌峠】になっており、駐車場には車はもちろんバイクも所狭しと並んでいる。

 案内板を見れば【阿寒国立公園】とあり、屈斜路湖は日本最大のカルデラ湖であると説明している。他にも美空ひばりの、その名も【美幌峠】と言う名の歌碑があったりする。

 レストハウス周りは森のある牧草地と言った感じ。一面の緑が爽やかで、地平の先には山の姿も見える。後で調べたら知床連山というらしい。では満を持してパノラマ展望台へ。

 足元の草原から、森に囲まれるように湖が見える。天気が良いので湖面は青色のさざなみが揺れている。

 景色の中央には湖に浮かぶ、その名も【中島】が見える。森になっているそれを見れば、男子は島を見ると上陸したくなるものだと俺は思っている。『師匠、あの島へ行くのか!?』行かないよ…コタンは男子発想なのか……?

 私感だが、並のダム湖などよりは比べ物にならないくらい大きいが、本当に北海道はスケール感が違いすぎていまいち感動を認識しづらい問題がある。

 

 

 美幌峠をすぎると、美幌国道から【パイロット国道】と名を変える。操縦士という意味ではなく、試験農場(パイロットファーム)からついたと言われている。左側は湖畔沿いに林があり、屈斜路湖がちらりと見える程度。湖の南端からは道道52号線【屈斜路摩周湖畔線】に接続。屈斜路湖の東側を北上していく。東側は林も少なく湖が見通せ、レジャー施設やデイキャンプをしている人なんかもちらほら。

 屈斜路湖北東端からは若干南下し、摩周湖へ向かう。途中、真っ白な山肌が見えてきたが

『主殿、なにか鼻を突く……これは硫黄の匂い。さては九尾の狐では!?』カタナを抜き構えるイムラ。その物騒なものをしまいなさい……大体、九尾の狐は那須だろう……

 臭いの元は【アトサヌプリ】という硫黄山のようだ。後で知ったが摩周湖と硫黄山の駐車場チケットは共用らしい。立ち寄ってみたかったが時間的な問題でスルーしたのは後々正解だった。

 いくつかのヘアピンカーブを上り、展望台駐車場へ到着。観光客もかなり居るようだ。駐車場より小高くなった丘、つまりカルデラの縁を登ればそこが摩周湖だ。

 

 摩周湖はその透明度が日本一、世界でもなんと二位という。【摩周湖ブルー】と言われる青さが有名で、また【霧の摩周湖】とも呼ばれ、年中霧が立ち込めている……というイメージだが、実はそうでもないらしい。霧が晴れていると晩婚……などと言う【噂】もあるらしいが、結構晴れていることも多いようだ。あくまで噂なので。

『主殿、独り身のほうが修行にはよいのではないか?』 『独身の方がフットワークが軽くてメモリー集めが捗るぞー』 『マスターにはレーノが居るから心配ないよ(はぁと)』お前たち……噂だって強調しただろ……

 

 展望台から摩周湖を見下ろす。美幌峠では晴天だったが、それほど離れていないはずの摩周湖は曇り空であった。空は白雲が垂れ込めているので一面真っ白に見えるのは少し残念か。だが屈斜路湖よりだいぶサイズが小さいせいかあまり波立ってなく、静謐なイメージを受ける。

『ふむ、屈斜路湖とは違って穏やかな湖であるな。見ているこちらの心も穏やかになるというものだ』 『霧が晴れてるねマスター、これはもうレーノを選ぶしか無いってことだよ!』レーノは飛躍しすぎだろ……

 

 この展望台にもレストハウスが併設されていて、なかなか綺麗で賑やかだ。オレンジの果肉のメロンがかなりお安い値段でワンカット売りしている。まあ値段なりかなと思って1ついただいてみる……甘い! この値段でこの甘さは北海道の恵みと言ったところか。『甘いもので気合を補充だーっ!』 『味見はさいかにまかしてね~』 なんか燃費の悪そうな二人のでんこがすごい勢いで食べてるけど……

 

 

 摩周湖を後に、少々南下して【ホクレン摩周】で最後の【グリーンフラッグ】をゲット! これでホクレンフラッグをコンプリート! ここは【(釧網本線)摩周駅』の最寄りでもあるので、今のうちにチェックイン。

 この先【国道243号線】に乗り東へ向かう。目的地は【根室市役所】だ。根室市は北海道、ひいては日本最東端の街だ。バイク乗りは端っこが好き、そして得てしてそういうところには【証明書】がつきものである。

 ともあれ摩周より東は、驚くべき風景が広がっている。とにかく農場しか無いのだ。北海道は開拓史とともにあり、その結果が目の前に広がっていると言える。先人たちの残した結果の証明なのだろう。

 『駅はないけどひたすら何も無い道をどこまでも行く……そういうのも燃えるな! 師匠!』 『どこまでも行くのは得意だよ! さいかにまかしてね!』

 さっきのメロンが効いたのか、やたら気合の入っている二人。モデル的には新旧の両端であるけど、方向性が一緒なのはなにか微笑ましいものがあるな。

 

『せ~んろはつづ……かないね、マスター』

 農場が続くこのエリアは【別海町(べつかいちょう)】が殆どを占めているが、鉄道は無いようだ。車必須なのは想像に難くないが、子どもたちはどういう生活をしているのだろう……などと考えてしまう。逆にこれだけの自然に育てられたなら立派な道産子に育つのだろう(なんかそんな漫画を読んだ気がするな)

 ……とにかくひたすら農場を進む。単調なツーリングというものは眠くなるもので、考え事や歌を歌ったりしないと睡魔が襲ってくる。『zzz……』まあレーノなんかは昼寝してるし、イムラもふぶも物静かなので起きているのか寝ているのかわからない。ふたりとも真面目だから多分起きてるだろうけど。

 

 国道243号線の終点は【国道44号線】に直交するT字路で、【(根室本線)厚床駅(あっとこえき)】の目の前であり、このあたりからすでに根室市であり、さらにここから東を目指す。しばらく進み【道の駅 スワン44ねむろ】で軽く休憩。【温根沼大橋(おんねとうおおはし)】を渡ると、地図で見る北海道の東の先っちょ、根室市に来たという感じがする。

 『マスター、時間がかなりギリギリだなー、いそげー』全く急かしていないような抑揚のない声でふぶが急かしてくる。先程言った【日本最東端到達証明書】の発行場所で最も近いのが【根室市役所】なのだが、市役所なので17時までには到着しないとマズイ(後で調べたら17時20分までだったようだ)。このときはまだナビを持っていなかったので移動中に到着予想時刻もわからないが、かなりぎりぎりになることは予想できたので絶対に道を間違える訳にはいかない。

 実際、市役所は44号沿いだったので間違えなかったが、到着は17時数分前だった、危ない危ない……

 市役所内に入ると、発行場所は2階のようだ。窓口で「すいません、証明書を……」と言うと「日付は今日でいいですか?」と聞かれたのだが、特にこだわりはないのでハイと答える(他の証明書でも日付の件は聞かれることはあった)。

 さて、17時も過ぎたわけだが、ここから納沙布岬を目指すのか……かなり時間がマズイ気がする。だがバイク乗りとして【端っこ】を目指さない訳にはいかない。マップに寄ると片道30分程度らしいので明るいうちには着けるだろうと言うことで向かう決意を固める(当然誤算である)。

 

 根室市役所を過ぎると国道44号線は終了、県道33号線で岬へ向かう。多少民家は見えるが自然も多く、曇り空のせいもあり一気に寂しい雰囲気になっていく。

 どんよりとした天気のせいか、重い気分でバイクを進めるが、ついに日本最東端【納沙布岬】へ到着した。

『ついにやりとげたな、主殿』イムラはなにか分かったような風にしきりにうなずいており、何かに浸っているようだが、まあ確かに日本最東端に来た、というのは一種の達成感がある。

 もう暗くなるがやはり何人かバイク乗りは居るみたいだ。まあお互い目的はわかっているので、気さくに声をかけ【本土最東端 納沙布岬】と書かれた碑の前にバイクと自分を配置し、お互い写真を撮る。

 辺りは当然のようにお土産屋などもあるが、【日本最東端ポスト】なんてのも設置してある。あいにく出すような手紙は無いが、もし再び訪れるようなことがあれば準備しておいても良いかもしれない。

 後は当然のように北方四島の方向を示した碑もあったが、曇り空が災いして殆ど見えなかったのは残念か。周辺には北方領土関係の大小様々なモニュメントがあったので一通り巡る。

 

 本日のスケジュールはすべて終了。あとは釧路市内にとってあるホテルへ向かうだけだが……到着時間大丈夫だろうか、というか距離がマズイ。マップで見ると145km、2時間半と出ている。これは根室市でホテルを取ったほうが良かったか……

 後悔しても仕方ないのでさっさとバイクを進める。『まあこうなるとはおもってたけどなー、ナビはしてやるから頑張れー』ふぶのドライなアドバイスがツライ!

 再び44号線を折り返し、243号線との交差点付近のセコマで休憩。時間は19時を過ぎており、マップで確認するがまだまだ距離がある。

『師匠! 気合だぞ!』 『夜が長いってことはそれだけレーノと一緒にいられるってことだもんね、安全運転で行こうね(はぁと)』感情と欲望に任せた素直なアドバイスがツライ!

 

 

 そこから少し進むがまだまだ農場エリアであるが、夜になると全く明かりもないので一転、不気味さすら感じるようになってきた。カエルの鳴き声が聞こえるのが救いか。

 だがしばらくしてなにか違和感を感じ始めた。

『ねえマスター、なんでカエルの無き声が止まないの? 怖い……』いつもはあまり深く考えてないような気がするさいかも気づいたようだ。

 そうなのだ、どれだけ進んでもずーっと耳元で聞こえるようなカエルの大合唱が響いているのだ。『れ、レーノも怖い、きゃー』さいかに感化されたのか、レーノも怖がってみせる。こいつ絶対演技だろ……

 ともあれ一つの結論を導き出す。おそらくカエルの数が【圧倒的に】多いのだ。そもそもこの辺りは湿地帯が近く、カエルが棲んでいて当然、そして北海道という規模なのでカエルの数も想像を超えるほど居る、ということなのだろう。

『よかったな主殿、首元に数匹カエルが紛れ込んで大合唱をしていた、ということではなくて』それはそれで怖いな!

 

 少し小高くなった道を進むと左奥手に赤い大きな帯状の光が見えてきた。あれが釧路か。時間は20時を回ろうかというところ。意外と早く着きそうだ。などと考えていたが……徐々に近づく光を見て、勘違いしていたことに気づく。

『マスター、あれは橋だな』ふぶのドライなツッコミがツライ!

 どうやら見えていたのは【厚岸町(あっけしちょう)】の厚岸大橋の光だったようだ……もうすでに体力も限界に近いのにこの勘違いで疲労がどっと押し寄せてきた。そこから先はほとんど山道でなかなかにツライ行程であり、釧路市に入ったときには嬉しくてたまらなかった。

 

 ホテルへチェックインし文字通り倒れ込むように大の字になった。ともあれアクセスだけはこなし……

『主殿、まずはひとっ風呂いこうではないか』 『今日の教訓を生かして早く寝ろよー』 『師匠、気合だぞ!』 『ここはさいかに『いやレーノに』

冷静と情熱のあいだか……今夜も長そうだ……

【本日の移動距離:390km】




ブルーエリアのフラッグの取得場所の記憶が無い…

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