修学旅行編/バスガイドさんのみが、味方
朝のホームルームが始まるチャイム。のどかな朝日が差し込む席で欠伸を噛み殺しながら背伸びをする。
_____それと同時に、爆発音と共に勢いよく開くドア。
ツカツカと入って来たのは・・・・・・愛ちゃん先生だ。ビックリして思わず座ったまま飛び上がってしまったよ恥ずかしい。
さて、そんな愛ちゃん先生。なんであそこまで、ぜーはーぜーはー息切れしていて、尚且つ顔面蒼白なのだろうか?
僕が転校してきておおよそ一ヶ月。このような状態の愛ちゃん先生を見たのは初めてだ。
「皆さん! 突然ですが、明日から修学旅行です! 準備は整っていませんね! 今日中に急いでしましょう!」
そしてこれが第一声。おいおい。そんなに急に言われてもって奴だぜ愛ちゃん先生。
見ると良い。教室中、僕と隣の席の八重樫ちゃん以外全員口開けてぽっかーんだぜ?あの魔王のような雰囲気を持つ南雲君ですら、マヌケ顔晒してポッカーン、だ。僕はこんな間抜けな雰囲気で包まれた奇妙な風景を今まで一度も見たことが無いぜ。
「質問!」
そう口にしたのは八重樫ちゃん。さっきまで、何かを察したらしく天井を仰ぎ見ていたのだけれど、そこはっぽいポニーテール委員長キャラな彼女。直ぐに立ち直り、手をピシッと挙げて愛ちゃん先生にニッコリと笑いかけながら質問する。
「・・・・・・はぃ、八重樫さん」
「先生、洗いざらい、一言一句逃さず何があったのか懇切丁寧に吐いてください」
前言撤回。尋問だった。どうやらキリキリ吐けやオラァ、というわけらしい。
うん、僕も同じ心境だから是非とも聞かせて欲しいな愛ちゃん先生(にこにこ)。
「ええと、ですね。はい。実は・・・・・・」
今日僕は初めて、教壇の上で土下座する教師という珍現象を見た。
教卓ではなく教壇である。
そして、愛ちゃん先生が土下座をしつつ訳を語れば、どうやらこういう事であるようだ。
ーーーーこのクラス以外、修学旅行は終わってる。
ーーーー行方不明騒動、帰還者騒動のお陰で行けてない。
ーーーーあれ?マスコミにばれたらヤバくね?
ーーーーつーわけで愛ちゃん先生、予定無理矢理開けたからこの日に修学旅行へと行ってきてね? よろしく。
こんな感じで、上から軽く御達示があったのが二ヶ月ちょっと前。
イロイロと忙しくて忘れていたらしい。
うん、せめてそういう御達示は一週間前にしてくれ畜生ッ!
「先生質問です」
「はい。何でしょうヒロさん」
愛ちゃん先生にすらも僕が身分不相応な
「準備あるんで帰って良いですか。今日の授業全部休みで良いんで。出席日数はどうとでもなるので」
「・・・・・・確かに、彼はただの一般人ですから帰ってからの準備は無理ですね・・・・・・良いですよ。すみません。あ、これしおりです」
前半ゴニョゴニョと何を言っているのかサッパリだったが、許可は出た。しおりを奪うようにしてとり、荷物を抱え、さぁ、準備を始めようさようならッ!
*
翌日。早朝。
準備を死ぬ気で終わらせた昨日の自分を褒めて欲しい。
あの日の僕は何かトランス状態になっていた。お金その他諸々の面倒臭い処理のある作業と準備を僅か一日で終わらせるという偉業は僕の中で永遠に語り継がれるだろう。
それでも荷物を最低限しか詰め込めてはいないから、今、荷物は小さな旅行鞄一つ分と肩掛け鞄一つしか持っていない。修学旅行としては少ない荷物の量である。
「よぉ、ヒロ。間に合ったんだな」
「やぁおはよう南雲君。最低限だが、荷物の準備は整ったさ」
何やらビリビリと真っ赤な電気のようなものを発するワイヤーで後輩ちゃんを電柱に括り付けている装置を、ピカピカ赤く光輝きながら操っている南雲君と朝の挨拶を交わす。
御丁寧に、わーぎゃー騒いでいる後輩ちゃんに猿ぐつわを噛ませている。後輩ちゃんは涙目だ。
・・・・・・いや、待て。ちょっと待て。ちょっと。
「僕はまずこの異常な光景に突っ込むべきだった。南雲君、君はいったい何をしているんだい?」
「見ての通り、柱に不届き者を括り付けている最中だ。別に普通の、日常の朝の光景だろう?」
「いや全く普通では無いことを理解しろ!? 早朝から電柱に真っ赤に帯電するワイヤーでグルグル巻きに固定された状態で亀甲縛りにされて猿ぐつわを嵌められた女子高生を括り付ける光景が、何でもないごく普通の朝の光景だと言う君の感性と脳みそを疑うぞ!?」
「いや、後々面倒臭い事になりそうだったからな。そうなる前にちょちょいとやるくらい常識だろ?」
「ちょちょいと女子高生を縛り上げる常識があってたまるか畜生!!」
周囲のクラスメートが、「おお、英雄と魔王の合戦だ」「ヒロの野郎くらいじゃねぇか? 威圧喰らって、ああも食ってかかる奴」「流石はヒーロー、略してさすヒロ」と五月蝿いが、今はコイツだこの野郎。
今日こそその常識というもののネジがダース単位で欠落した脳みそにツッコミという名のドライバーで常識を捩込んでやるッッッ!
*
やるせなさと無力感に苛まれ、バスの折り畳み机に突っ伏す。
結論から言おうーーーーアレは、常識というネジ云々の話では無い。そもそも、ネジを捩込むべき場所に、穴が空いていない。そんな人間だ。
ば、バスガイドさんから同情の視線が送られている。
ああ、彼女だけが唯一の癒しだ・・・・・・!
僕は、穴が空きそうだった胃が少し救われた、そんな気がした。
そういえば今日、ため息をついてないという事に気がつく。
バスガイドさんの存在のおかげだろうか。やはり、バスガイドの存在は素晴らしいな。
もう後二話程、修学旅行編は続きます。