Fate/imitation grail   作:ビリオン

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 二話目、三話目に後書き追加。

 読まなくても問題はありませんが、本編に関わりはします。


彼らは決して理解されず

 現代における魔術師の総本山――時計塔。

 魔術師の集まるこの場で、新たな聖杯戦争が噂となっていない訳がなかった。

 だが、開催者はオルグレン。協会内において最も嫌われている家。

 そんな場所に行くとは正気の沙汰ではない。ただ自らの魔術を盗まれるだけだ。そう考えた殆どの魔術師は眉唾(まゆつば)物である願望機を捨て置き、自らの日常へと戻った。

 時計塔の上位陣としても、あまり関わりたくないのだろう。僅かな監視者を派遣し、静観する事と決定した。

 

 そんな噂でありながら誰も知りたがらないこの話。飛びつく稀有(けう)な魔術師が(わず)かばかり存在した。

 その一つ。音を求め神秘を探求する家系――オールドリッチ。

 

 

 

「と言うわけで、聖杯戦争に参加する事となりましたー!」

「ベラ。その明るいのやめない?」

 

 女性の物であるとわかる個室にて、会話をする男女。女の名をベラ・オールドリッチ。男の名をセドリック・エイトケン。協会に属する魔術師である。

 

「えー? 別にいいじゃん。戦争だってついてるけど、お祭りみたいなもんでしょ?」

「いや、お祭りじゃないし……。死ぬかも知れないのだよ?」

 

 とにかく明るく楽天家なベラに対し、苦笑(くしょう)を浮かべているセドリック。彼らは幼少の頃から互いを知る幼馴染であり、婚約者でもある。両親が望み、本人たちも承諾した許婚。その関係性は魔術師でありながら、普通のカップルのように見える。

 

「だからー、()()()()()()()()()()()でしょ?」

「……もう何も言えないよ」

 

 セドリックはベラが頭にクエスチョンマークを浮かべる様を幻視した。魔術によるイタズラである方がまだマシであると思えてならなかった。

 聖杯戦争を()()()と言い、聖杯を単純なる景品としか考えていない言動。それでいながら死の危険を理解し、先へ進む事をまるで恐れない。見る者が見れば狂人にしか見えない。聖杯戦争の過酷さを憂いた自己暗示と言われれば信じるであろう。

 だが、彼女はこれでデフォルト(正気)なのだ。いつも相手をするセドリックは頭が痛くて仕方がない。

 

「まあ、あたしが死んだらゴメンね。セドリック」

「……付いていけないのが残念だ」

 

 ベラの聖杯戦争への参加は、彼女の家――オールドリッチ家からの指令だ。()()()は次期当主に箔をつけるためだという。参加して問題の解決を行うものである。だが、それが建前であることは誰もが知っていた。だからこそ、()()()()で行かせるようにとなっている。

 

「でも、本当に大丈夫かい?」

「大丈夫、大丈夫。父さんから触媒もちゃんと持たされたし。それに――」

 

 彼女の家には、二種類の子供がいる。正妻の子か、愛人の子か。ベラは後者だ。本来、魔術師としての才能のない者が愛人となるため、その子供の才能も弱いものとなる。オールドリッチ家においても、それは例外ではなかった。ベラの母親の魔術回路は無いも同じだ。

 だが、ベラだけが捨てるには惜しい程の才能を持って産まれてきた。それは諍いの火種となる。当然、正妻のにも才能のある子が生まれた。だが、ベラには及ばない。当主はベラを可愛がり、彼女に継がせようとしていた。当然、それを面白く思わない者がいる。

 それ故に、この指令だ。

 魔術に関わっている者である以上、家を継がなくとも養子に出され根源を探求するだろう。だが、我が子に継がせたいというのも親の情。それは時に恐ろしく残酷なことへと発展する。

 

「……それにさ、セドリック。どちらにしても、帰って来たらもう婚約者じゃなくなるんだよ?」

 

 ベラは頬を染めながら言う。セドリックも同じく頬を染め、二人の距離は縮まる。

 そして、どちらともなく二人の影は重なった。

 

 

 ***

 

 

 

「変な街ー」

 

 ベラがオータムサンドを眺めながら言う。街を覆う長壁はとにかく異様に思えた。

 ベラの目的はサーヴァントを召喚し聖杯戦争を勝ち抜くこと。さらには黒幕であろうオルグレンを捕まえれば万々歳となる。

 

「さーて? まずはー、ホテルを探さなきゃ」

 

 大型のキャリーバッグを引きながら、鼻歌を(うた)い歩くベラ。誰がみても、観光に来た旅行者にしか見えない。ついでに言えば、頭がお花畑で浮かれた旅行者であると思われるだろう。

 だが、彼女もまた魔術師が一人。魔術師らしからぬ性格や言動をしようと、その常識は持っていた。故に令呪を隠し、魔術に関することが口から漏れることはない。

 

「はてさて、うーんと」

 

 ベラは地図を覗き込む。

 既にホテルに予約入れてあった。問題は、そこがどこであるか。そして、地図を見た程度でベラはホテルの場所を知ることはない。自分の現在位置を知ることもできないだろう。ベラは方向音痴なのである。本人は()()と言う言葉を聞くと否定するが。

 ともかく、このままでは彼女がホテルに辿り着くことはない。さらには、知り合いの助けも得られない。

 では、どうするか。単純だ。

 ――他人に聞け。

 そう書かれたメモはセドリックからのものである。いつの間に入れたのか、ベラにはまるで見当がつかなかったが、現状を打破するきっかけとなった。

 

「すみませーん」

 

 コミュニケーション能力としては、ベラは優秀であった。すぐさま通りかかった黒髪の西洋人に話しかけ、道を聞く。

 

「……()()()

「三十点?」

「気にするな。こちらのことだ」

「じゃあ、気にしません。道を教えてくれますか?」

「いいだろう。どこだ?」

 

 ジロジロと人を見る男。清潔ではあるのだが、なぜか不衛生にも思えてくる。不躾な男で失礼な男。だが、ベラはまるで()()()()()

 男の説明は分かりづらいと言うべきだろう。人へ説明することを考えていない――自分が理解しているだけの説明。

 それを聞いて()()()()()()()()のは、ベラぐらいのものだろう。

 

「ありがとうございましたー」

「ああ」

 

 ベラが男から離れる。実際、ベラが説明を理解することは出来ていない。だが、男は理解させた気になり、ベラは理解した気になる。ある種似た者同士であり、最も生産性のない一時であっただろう。

 

「あ、ここに居たの?」

「なんだ? ()()()()

「帰るよ。仕事してよ仕事」

 

「弟さんかなぁ? いやそれにしては似てないし、なんか……」

 

 黒髪の西洋人に近づいた知り合いらしき金髪の西洋人。その二人の会話に、ベラは違和感を覚えた。大事な事を知らないような、思いつかないような。忘れていると言うよりは気付かないと言うべき、そんな第六感的なナニカを感じていたのだった。

 

「うーん。まあ、いっか!」

 

 すぐに気分を変えるのも彼女の強み。ベラは歩みを進める。まだまだ始まったばかりであると、自らに言い聞かせて。

 

 ちなみに、この後彼女は三回道を聞き、最後にホテルへと連れてってもらう事でようやく辿り着いたのだった。朝方に着いたのに、ホテルへは日が暮れた後である。

 

 

 

 ***

 

 

 ホテル。オールドリッチ家の当主たるベラの父親のコネを使った場所。

 故に、魔術的な物品を運び込むことも可能であった。およそ1日をかけて済ませた召喚準備。タイミングを見計らい、自身の全てをかけた召喚。

 この聖杯戦争内でここまでの準備をしていた者はいないと言える――それ程のものだ。

 ベラは丁寧に管理していた触媒を取り出す。知名度において最上位と言える英霊を召喚すれば、おのずと勝利に近くなる。そう信じて、父はこれを預けた。

 

「陣は書いた。触媒は用意した。時間も問題ない。じゃあ、あとは召喚するだけだね!」

 

 独り言でありながら、まるで誰かと話していると錯覚するその言葉。だが、彼女は確かに一人きりだ。

 

 そして、触媒。

 彼女の取り出せし触媒は、古びた紙の束。幾何学(きかがく)的紋様の書かれた年季の入ったものだ。

 触媒として成立する以上、それは英雄又はそれに類する者に所縁があることに他ならない。だが、それは本当に触媒と化すのか。

 英雄が文字を書かないとなどと言う気はない。戦うだけが英雄の在り方ではない。

 それでも、()()()()()()()()()英雄がいるだろうか。

 

 ――結論を言おう。ベラが取り出した物は触媒たり得ない。

 

 ――代わりに触媒と化すは部屋の一角にある、古びた映画のテープ。誰もが知る名作のタイトルが描かれているもの。

 

 故に、英霊(サーヴァント)は召喚される。ベラの思いとはまるで異なり、最弱となるかもしれない者。

 されど、最狂の者――狂人(バーサーカー)

 

「ああ! カメラを回せ! 俺が起こすは神話の再現! 見たい奴は見るがいい!」

 

 光り輝く召還陣から飛び出せしはガタイの良い男。肉体的な全盛期は過ぎているであろうが、その姿からは衰えをまるで感じさせない。

 

「えーっと? どう見ても――じゃないし。カメラとか言っているし。……失敗した?」

「失敗? 何を言う。成功だ! ああ、これでまた画が撮れる! 素晴らしいことだ!」

「あー。失敗だなぁ。バーサーカーって()()()()し」

 

 マスターはサーヴァントの情報知ることができる。人によっては本だったり、紙の束だったり、ディスプレイに映る画像だったりする。

 ベラにとってそれは――音だ。

 実に珍しいと言える。一目で全てを知ることができず、敵の攻撃に対して反応が遅れると言う不利(ディスアドバンテージ)を背負うことになり兼ねない。

 だが、彼女にとってはこれがとても心地良い。聴覚とは、視覚よりも遥かに信頼できるものであるとベラは思う。それ故だろう。

 

「まぁ、バーサーカーならバーサーカーでいいか」

「其処の少女! 画を撮ろう! 素晴らしく映える映画(ムービー)を撮るのだ! 英雄に護られるヒロイン。神からの試練を受けるヒロイン。ああ! どちらも素晴らしい! 再現しなければ、神の御業の再現を!」

「映画を撮る!? いいね! それ。じゃあ、取り敢えず契約しよー。バーサーカー」

()()()()だな! 良かろう。この場にはスタントマンがいないので、同意書にもサインせよ!」

「わかったー!」

 

 ……少なくとも、片方はバーサーカー。狂いし者だ。ただでさえ、マスターに理解されることが少ない英霊。その中でもとびきりに――意思疎通すら出来ないことも珍しく無いバーサーカー。

 それと意思疎通し、ましてや共感すら出来るマスター。魔術師から見れば――否、どの人間から見ようと異常というに他ならない二人。

 彼らは聖杯を求む二人組み。

 他者からの真の理解を得られる少女と全世界に真の理解をされない狂人(バーサーカー)

 もしかすると、最も仲の良い組み合わせとなるかもしれない主従の戦いが始まる。




「ここがオータムサンド。ベラじゃなくたって、変な街だって言うだろうね」

 アジアの世界遺産を思わせるような巨大さで、それでいて近代的な長壁に囲まれた街。その前に立つは時計塔の魔術師――()()()()()()()()()()

「でも……ここにあるんだ。万能の願望機――聖杯」

 右手に手鏡を持ち、左手に古びた紙の束を持つセドリックは言う。
 彼もまた、聖杯戦争に関わる者。この街の激動へと身を投じる者。
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