現代堕ちアリス   作:舞われ回れ

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5回目??

      

「こんにちは。『アリス・マーガトロイド』よ。こうして皆さんに会うのは何度目になるかしら??

私にとっては初めてなのだけど、貴方達にとっては5回目になるのかしら??」

 

 

『こん』『待ってぞ』『最近の癒やしキター』

『今日のアリスは不思議ちゃんだ』『雰囲気違うなw』『ツンデレに加えて不思議ちゃん属性も追加かな』『上海を胸元で抱きしめるアリス。尊いな…』『…わかる』『…分かりみがヤバい』

 

 

「あぁ。やっぱり見ているのと、実際にやってみるのは違うわね。カメラを通して人間達の反応が即座に返ってるのね。直接会っている訳ではないのに、まるで会話している様。それに一度に得られる情報は途方もなく多い。これは慣れるまで時間が掛かりそうね」

 

 

『アリス。…どうした??』『頭。打っちゃったのかなw』『今日は不思議ちゃんキャラなの?』『これはコスプレイヤーあるあるだな』『気分によって日毎にキャラが変わる的な?』『そうそれ!』『アリスちゃんは、今日は沈んだ気分なんだよ。つまり…分かるな、』『…OK。把握した』『…あっ、察し』『…触れるなよ』

 

 

「?。現代人の言葉は難しいわね。コメント?の流れも速くて反応しきれないし。

まぁ、いいでしょう。それでは今日の配信は、……何をしようかしら??」

 

 

『ズコーw』『アリスちゃん?w』『ホントに今日はどうしたんだ?』『俺達が企画を考えろと言う啓示では無いか?』『ドS属性も追加と』『質問コーナーとかどうよ?』『アリスとゲームしたい』『雑談したいな』『人形劇も良くね?』『いや、それは火愚闇姫でお腹一杯だ』

 

 

「火愚闇姫?…かぐや、輝夜?

あぁ。あの人形劇ね。いいアレは忘れなさい。アレは断じて私の人形劇ではないわ。断じてアリス・マーガトロイドの人形劇では無いのよ!!。えぇっとそうね。あの時私は、寝不足だったのよ。だから、ちょっと寝ぼけていたの。だから忘れなさい!!」

 

「ならそうね。今日は人形劇をしましょうか。貴方達に『本物』の人形劇を見て貰う必要があるもの。アレをアリス・マーガトロイドの人形劇と思われるのは少々、いえかなり不愉快だからね」

 

 

『情緒不安定だな。大丈夫?』『体調悪いなら中断しても良いんだよ』『ハイ!忘れました』

『調教されたアリス民』『久々の人形劇だ』『アリスちゃんと雑談したいです!!』『アリスちゃんと語らいたい』

 

 

「題目はかぐや姫にしましょう。突発的に決めてしまったけれど、以前のかぐや姫とは比べる事が出来ない程、貴方達を楽しませて魅せてあげるわ。雑談コーナーは、人形劇の後に少し時間を取りましょうか。それでいいかしら??」

 

 

『いいとも(^^)/』『真逆の2回目のかぐや姫だ』『自らハードルを上げていくスタイル』

『余程自信があるのかな』『今日のアリスは一味違うな』『楽しみー』

 

 

「では人形劇『かぐや姫』の始まり始まり。本物の魔法の人形劇をお楽しみ下さいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『88888』『8888888』『素晴らしい…』『何だこれ、涙が』『888888』『天才』『これが人形劇か』『88888』『感動した。言葉が出てこないけど感動したよ』『アリス。アリス。最高だ!』『ただ感動した』『8888888』

 

 

「どうかしら??

これが本物の人形劇というものよ。人形達の髪先から指先の一つ一つにまで感覚を張り巡らせ、自らの意思を感情を持ち、魂の有る生命かの様に魅せる。これが私の理想の人形劇なの。断じてただ人形を正確に操ればいい、というものでは無いわ!!

まだまだ完璧には程遠いけれど、少しでも観客の方々に伝わっていれば嬉しいわね」

 

「それでは約束通りここからは雑談コーナーと行きましょうか。…そうね。

私が配信を始めた理由なんてどうかしら??

興味がなければ他の事でも良いわよ。質問が有れば随時受け付けてるから、コメントを頂戴な」

 

 

『これが人形劇なのか』『いやいやどう考えてもな普通では無いだろう』『素晴らしかった』『人形の動きとアリスの声で進む人形劇。倒錯的な魅力だな…』『人間の様な人形の上海を操る、人形の様な人間のアリスちゃん』『それは気になるぞ』『何が目的で配信を始めたの?』『有名になりたいとか?』『人形劇を配信するのは新ジャンルだよな』『アリスちゃんの半生が知りたい』『結婚して頂けませんか?』

 

 

「私が配信を始めたのはね。アリスになりたかったのよ。アリス・マーガトロイドにね。勿論私はアリスなのだけど、皆に私がアリスだと分かって欲しかったの。皆にも『あの人間』にもね。

この家で暮らし始めてから、色々と見て覗いて調べた時に配信を知ってね、丁度いいと思ったの。これなら多くの人々にアリスを知って貰う事が出来る。アリスに『慣れる』と思ったの。私が配信を始めた理由はこんな所にかしら」

 

 

『つまりどう言うことよ?』『コスプレした自分を見て貰いたかった?』『アリスのキャラクターを知って欲しかったんじゃね』『沢山の人に知って欲しかったか?』『承認欲求?とはちょっと違うような』『そもそも今日のアリスはなんか違うな』『どうしたらアリスちゃんみたいに人形を操れる様になりますか』『…あの人間とは誰だろう』『へんな言い回しだな』『苦手な人とか友人かな』

 

 

「そういった理由で始めた配信活動だったけれど、こうして人形劇を沢山の人に観てもらえるのはとっても嬉しいわ。思わぬ誤算だったけど、こんなに楽しいとずっと続けて行きたいって思ってしまう。今までは多くても数十人にしか観て貰えなかったからね。いい技術というかいい時代になったものよね」

 

「出来る事なら、全部終わった後も配信を続けて行きたい。けどどうなるかしらね。

あら質問も来てるのね。…人形を上手に操る方法?人形を作りなさいな。作るのが難しいのなら既製品でもいいのよ。ずっと一緒にいたいと思える人形を見つけなさい。そうすれば自ずと人形は動き出すわ」

 

「魔法の類いでもなければ、人形が動くなんて起こり得ないと多くの人が思っているでしょうけど、それは違うわね。貴方が真に願い思うならあらゆるものは応えてくれるわ。自分を信じなさい。自分が信じた者を信じなさい。多くの力ある人がそうだった様に。私の様に。或いはあの人間の様に…ね」

 

「多くの人が今日の私を不思議に思うのでしょう。今までに見たアリス・マーガトロイドでは無い様に思うのでしょう?

けどね、これが私よ。

アリス・マーガトロイドなの」

 

 

『ホントにどうしたんだアリス??』『アリスちゃん?いえアリスさん?』『言動?雰囲気が違うな』『ミステリアスなアリスもイイね!』『はい!自分を信じて夢を目指します』

『ありス。程々に死なサい★』

『なんかいいな』『就活頑張ります!』

 

 

『……。あら、そろそろ時間みたいね。私はそろそろだけれど、配信はまだまだ続くから楽しんでね』

 

『けれどこうしてしていると、コメントを読んで雑談をするって案外手持ち無沙汰になるのね。続きはゲームでもしながら話しましょうか。上海。お願いね』

 

 

『?!上海がなんか持ってきたぞ』『上海の体積以上の物体を持って歩くだと!?』『話が飲み込めない内に新たな不可思議な出来事が?!ww』『仕掛けが知りたい』『本当にどうなってるんだ?』

 

 

「じゃっじゃっじゃぁん!!『オセロ』よ。これをしながら雑談をしましょうか。今までは1人でするばかりだったから、この機会にしてみたかったのよね!!

それでは私が『黒』…。いえここは『白』にしましょう。だから画面向こうの貴方達が黒。つまりは先手よ。これで遊びながら話しましょう。…話している時に突然代わったら戸惑うものね」

 

「黒と白の駒を中心に2枚づつ置いて準備完了ね。先手は貴方達よ。置ける場所に番号を振るからコメントで教えて。勿論何か聞きたい事、話したい事も受け付けてるからよろしくね。それじゃぁ、スタート』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『有利な後攻をとってあっさり負けるアリスwww』『思いの外弱いw』『まぁ仕方無いだろう…』『ぼっち』『…そうだよな』『丸で嘗ての俺を見ているようだ』『←今もだろ』『ここまであっさり決まるオセロは珍しい』『涙目のアリスちゃん…。イイ!』『序盤の笑顔のアリスちゃんだろ!』『中盤の困り顔も捨てがたいよ』

『返事も出来まちぇんの?アリスさぁん?★』『←言い過ぎ死刑』『死刑』『吊れ』『死刑』『アリスさん?』『急に真顔になった』

 

 

オセロ?

私は何をしているんだ?

目の前には酷く真っ黒なオセロの盤面。勝負は既に着いており白い駒は片手で数えられる程。顔を上げれば、そこには光を放つスマホの画面が見える。よく見ればコメントが流れているのを確認出来た。

どうやら配信をしている途中の様だ。視聴者とオセロをしていたのだろうか?

コメントを見る限り私が白。つまりは完敗した直後らしい。

今まで飲んだワインの影響で記憶が飛んだのか?それともまた別の影響だろうか?

状況はイマイチ分からないが一先ずなにか反応しないと。

 

 

「えぇっと。負けてしまったようね。これでもオセロには自信があったのだけれど。学生時代は負け知らずだったのに」

 

 

『アリスさん…?』『見栄を張るでない』『彼女は記憶が混乱しているのだ』『あぁ、察し』『…悲しい嘘をつかないでくれ』『ヤメロ。やめてくれ』『JS JC JK幼馴染アリスとオセロしただけの人生だった』『勝って嬉しがるアリス。負けて涙目のアリス。どちらがいい??』「学校の図書室で制服アリスとオセロォォ!!』『こいつ一瞬でこれだけの妄想を!?』『雰囲気戻ったな』『アリスさん、ちゃん?』

 

 

「えぇ?!

…もう1時間近く配信しているのね。今日はそろそろ終わりにしましょうか。オセロ楽しかったわ。またやりましょう。今度は負けないわよ」

 

 

『もう終わりー?』『1時間が早いよ』『2回目のかぐや姫最高だった!また人形劇期待してるぞ』『またね』『涙拭いてね』

『くやちぃのよね、アリスさぁん?★』『←死刑』『しつこいな』『マジしつこいわ』『アリスちゃん気にするなよ』『何処にも馬鹿はいる』『きっとアリスちゃんに嫉妬してるババアだな』『婆婆アク禁』『バイバイ』『アリスまたね〜』

『……ぐすん★』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

配信を終え、アプリを閉じスマホを机に置く。

目の前には真っ黒な盤面のオセロと、こちらを伺う様に首を傾げる上海が残った。

 

「ねぇ上海。私は今日何をしていたのかしら。いつの間にか日も暮れているし、朝からの記憶が全くないの。私はどうしちゃったのかな?」

 

 

「シャンハーイ?」

 

 

「もしかして、本当のアリスが朝から身体を動かしていたの?

私はこのままアリスになっちゃうのかな?

少し前までは、それもいいと思っていたのに今は怖いの。おかしいよね。上海。

アリスになりたい(・・・・・・・・)。そう願った筈なのに」

 

上海は一瞬動きを止めて、返事をした。

 

 

「…シャンハーイ」

 

 

「どうしたらいいんだろう。アリスになりたい。けれど全てアリスになりたい訳ではないの。

だってそうでしょう。身体も記憶も魂も、全てアリスになってしまったら、それは私ではないじゃない。こう思うのは我儘なのかな」

 

上海の動きがまた一瞬止まる。

 

 

「……シャンハーイ」

 

 

「上海は優しいわね。こうして私の話を聞いてくれて、『本当の友達』ってこういった感じなのかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ねぇ上海。今気がついたのだけれど、いえ今までも何度も違和感は有ったのだけれど、その正体が分かったわ。

上海。貴方、どうして動いているの?

…私は、私は、何もしていないのに?どうして1人で動いているの?

突然踊りだした事もあった。ワインを用意してくれた事もあったわよね。今もこうして貴方は私と会話している。私の言葉を理解しているのでしょう?

 

…ねぇ、貴方は本当に人形?

それとも、それとも、もしかして、人間…なの?」

 

 

 

 

 

「…………シャンハーイ」

 

 

上海の腕が上がり始める。

人形の小さな腕はゆっくりとゆっくりと上がり、そして上海の頭の高さで動きを止めた。

 

 

「シャンハーイ」

 

 

上海の人差し指が、指差す先は私の右手の様だった。

身体が骨董品の機械人形になった様だ。その癖汗は吹き出し、心蔵が大きく鼓動し血液が全身を巡るのを感じる。

10分か1時間かそれとも1日が経ったのか、時間感覚が狂う程の時間を掛け、私の首は動きだす。

 

私の右手。

白くて、細くて、均整の取れた陶器の様に艷やかなアリスの手。

だがそこにはあってはならない物があった。

 

私がよく使うもの。最もよく使う魔法。

 

だけれど、無意識起こり得る筈が無いものが。

 

 

右手の小指。

そこからは注視しなれけば察知する事が出来ない程、極小の魔力で編まれた薄く細い魔法の糸が伸びていた。

 

 

「シャンハーイ!!!!」

 

 

上海の声と共に、頭に強烈な痛みを感じた私は意識を失った。

 

 

 

「…」

 

 




    
『アリス・マーガトロイド』不思議ちゃん属性を獲得した。

『本物』偽物も悪く無いよ。きっと。

『かぐや姫』真逆の連続公演。けど内容は別物。

『あの人間』特別な人間。勿論彼氏ではないよ!!

『慣れる』誤字に非ず。アリスになれる。

『オセロ』恥ずかしくて友達を誘えないアリス。1人遊びは飽きました。

『黒』悪役みたいで選ぶのが嫌だったアリス。

『白』勝つ為に有利な後攻を選んだアリス。

『本当の友達』いつもは要らない。弱った時に欲しくなる。

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