君死にたまふ事なかれ   作:愛染 晴翔

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ネギあげます
鈴科家


転移、というか見た目的には転送されて驚いたことが二つあった。

一つ目は自分の体が赤子のそれになっていたこと。

 

完全に元の姿のまま転送されると思っていた俺は混乱し——すぐに眠った。当然といえば当然なのだが、赤子の体ゆえに考えすぎると限界を超えてしまいすぐに眠たくなってしまう。

 

一方通行の頭脳のせいか脳の機能が発達しきっていない年齢でも常人並の思考はできていたが、体が自由に動かさないうえにすぐに眠ってしまい考えが途切れてしまうので逆に辛かった。

というかこれ、元の世界に戻れたとして年代とかどうなるんだろうか。リアル浦島太郎は流石に嫌だ。

 

二つ目は性別が変わっていたこと。

今でこそ淡々と「変わっていた」なんて言えるが、発覚当時は呆然として、次に悲しみ、最後に激怒した。怒るべき相手が誰か、どこにいるのかもわからないのでどうすることもできなかったのだが。

 

そして三歳の時に自分の今生における名前が鈴科百合子だと知って、怒りも風化していた俺は本気で呆れた。まさかこの名前にするためだけに女にしたのか、と。

 

まあ原作では一方通行の性別は明言されていなかったし、もしかしたら一方通行が女で、引いたくじのキャラクターに合わせて容姿性別も変化するのかもしれないが。

 

 

名前を知るのが遅すぎると思うかもしれないが、実は俺は捨て子なのだ。

施設の前に捨てられていて、そのままそこで三歳まで育った。当然赤ん坊のことを苗字で呼ぶ奴などいないので、自分の名前が「ゆりこ」ちゃんだということはわかっていたが、三歳になって里親に引き取られるまでは自分の苗字を知らなかったわけだ。

 

そして俺の現在、つまり十七歳までの激動の人生がスタートする。

 

 

目を覚まし、24畳の広い和室の障子戸を全て開け、朝日を取り入れる。普段は紫外線は反射しているが、病気はベクトル操作ではどうにもならないので健康のために朝の15分だけ紫外線の反射を解除する。ビタミンDの生成のためだ。

 

白の絹で仕立てられた寝間着を脱ぎ、下着を履き、高校の制服であるセーラー服に着替える。初夏なので涼しげな白に半袖の上品なデザインだ。

他の兄妹たちは使用人にやらせているのだろうが、俺はプライベートスペースに他人をあまり入れたくないので自分でやる。

ドレッサーの前まで行き、寝癖を櫛でさっと直し、今度は姿見の前に立ち、身だしなみをチェックする。

 

豊満な胸にしっかりとくびれた腰、引き締まったすらりとした長い足。そして何よりも新雪のような白い肌にセミロングの白い髪、引き込まれるような赤い瞳が印象的な美少女だ。我ながら完璧。

 

原作一方通行はベクトル操作の能力に頼りすぎたせいで筋肉があまり付いておらず、ホルモンバランスが乱れ中性的な見た目になっていた。なので俺は歩く、走るなどの運動時は能力を使わず、その他悪影響がありそうな能力の使用は控えている。何よりも完璧を求めるこの家では外見だって重要だ。

 

襖を開け廊下に出る。長い廊下を抜け、何度も道を曲がり大広間へ向かう。いつも思うがこの屋敷は広すぎる。さっさと拠点を別に移したいものだ。

 

大広間にたどり着き、使用人が絶妙なタイミングで開けた襖を通り、

部屋の中に入ると、そこには最奥の席を除き、全員が揃っていた。

入り口から見て左の列に五人、右の列に四人、右の一番奥と左列と右列の間の一番奥の席は空席だ。

 

俺が部屋に入ると口々に挨拶を口にする。

 

「おはようございます」

 

全員が言い終わった後俺も挨拶を口にして、右の奥の席に座る。

ここに座っているのは全員兄、姉とその親だがこの鈴科家では功績の順に次期当主の優先継承権が与えられる。俺が座った右奥の席は継承権第1位の席だ。挨拶を最後に言ったのもこの中で最も位が高いから。

 

俺が席についてすぐにまだ入り口の襖が開いた。部屋がしんと静まり返った。

 

黒の着物を着ている。両胸とここからでは見えないが、背中に龍を模した家紋。70近いというのに白髪など一本も見当たらない丁寧に撫でつけられた黒髪、濃いまゆに意志の強い瞳を持った老人だ。

 

この家の人間は全員そうだが、老人も背筋をピシャリと伸ばし気品を感じる完璧な歩き方で上座に座った。

 

この男こそが鈴科家22代目当主、鈴科源十郎だ。

 

 

俺は三歳の頃にこの鈴科家に引き取られた。

苗字が変わらないのが何となく嬉しかったから喜んでいたのだが、そんなことを考えていられるのは初日だけだった。

 

この鈴科家は室町幕府が栄えた時代に生まれた大名が現代まで発展し続けた家だ。時代に合わせいろいろな会社を立ち上げ、第二次世界大戦時もあの手この手で財閥解体を回避、現代まで生き残り続けた由緒正しき世界的大富豪だ。

 

他家が次々と廃れていく中、鈴科家だけが発展し続けられた理由はただ一つ。絶対的な実力主義だ。

血筋、無視。親子の情、無視。国の意向、無視。

東に優秀な頭脳の子供がいると聞けば養子にとり、西に傾国の容姿を持つものがあれば嫁にとる。

 

分野を問わず、血筋を問わず、優秀者のみを優遇し続け取り込み続けたのだ、この家は。当然教育することによって適性を発揮するものだっているため、教育はするが、この家は現時点での優秀さをこそ重視する。

 

ゆえに年齢は関係なく、三代目当主が当主の座についたのは六歳の時だったそうだ。現当主が鈴科に与えた利益を継承権を持ったものが上回れば即座に当主は交代する。

 

そして俺は容姿、頭脳の優秀さを見出されこの家の養子になった。

つまり何が言いたいかというと—————

 

「行平さん、先日お百合子様の援助を受けて豊島自動車を吸収合併したそうですね。さすがですわ。(百合子様の援助を受けておいて成果は豊島自動車だけ。お里が知れますわね)」

 

「いえいえ天音さんこそヴィエニャフスキコンクールで準優勝したそうではないですか。一年で準優勝とは恐れ入りました。(準優勝?完璧の家系たる鈴科の者が一年もかけておいて準優勝だと?私なら恥ずかしくて家に帰ってこれませんね)

 

————ギッスギスなのだ。全員自身の力に絶対の自信を持っている上に当主の座を得るために功績を打ち立てなければならない。

和やかな空気になどなるはずもない。

 

全ての言葉に裏の意味が付属する。まあ矛先は俺には絶対に向かないので実害といえば胃痛くらいなのだが。勿論引き取られた当初は俺にもガンガン攻撃してきた人はいたが、能力と一方通行の頭脳をもつ俺に太刀打ちなどできるはずもない。

 

 

小学校に入学する前にはミレニアム懸賞問題を全て解き、700万ドルを獲得。小学4年生には将棋タイトル七冠達成。小学校卒業時には将棋タイトルを一つも落とさずに囲碁七冠達成。一方通行の演算能力はスパコン並みなのだ。学園都市の。人間とやって負けるなどあり得ない。

 

 

このあり得ない偉業と完璧な容姿でメディアも狂乱の渦、俺はすでに世界規模で有名人だ。

 

 

スポーツ系統は能力を使えば簡単に総なめにできるだろうが、専門家が見れば動きの不自然さにすぐに気付くだろうから出なかったし、芸術系はそもそもさっぱり理解できなかったのでそれも出場しなかった。音に感情を込めるとか意味わからん。

 

 

あとはそれらで得た金を株で転がすだけだ。一方通行の演算能力は(ry

まあそんなこんなで俺はぶっちゃけ個人の総資産だけで鈴科家と同じくらいあるのだが、会社経営はしていないので人脈もないし、お爺様との契約もあるので継承権一位にとどまり、当主にはついていないというわけだ。

 

 

ちなみに毒を盛ってきたやつは口に入る前に自動で反射され、俺の残念な姿と引き換えにお亡くなりになっていただいたし、狙撃してきたやつは反射された銃弾でリアルアンパンマンになった。

 

 

ちなみに言いふらしてはいないが別段能力のことは隠していない。

バレたところでどうこうなる能力ではないし、抑止力になるならば知っておいてもらったほうがいい。

 

 

そして朝食を食べ終え、使用人からスクールバックを受け取り、学校に向かうべく玄関に向かった。

 

 




妙に代替わりが多いのは功績によって当主が入れ替わるので同じ人物が一代挟んで二代やることがあるからです
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