「お兄ちゃん、起きて。」
なにやら声が聞こえる。
でも今日は日曜日だ。日曜日の朝くらいグッスリと気がすむまで眠っていたい。
だから俺は起きないことにした。
こうしてよりいっそう掛け布団に潜り込むと、突然上から何かが飛び込んできた。
「お兄ちゃん、起きて!」
ビックリして飛び起きると、目の前には妹のあこが頬を膨らませてこっちを見ていた。
かわいい。怖さなんてものは一切無い。
ただただかわいい。
「お兄ちゃん、お母さん今怒ってるよ。あこはしっかり起こしたからね!ご飯食べたら一緒にゲーム買いに行くって行ってたじゃん!」
あこが不機嫌な理由はそれか。
そういえばおととい、あこと一緒にゲームを買いに行くって約束してたんだった。
これは怒られても仕方ない。
「あこ、ごめんな。後で一緒にゲーム買いに行こうぜ。だからちょっと待っててくれ。」
するとあこはさっきまでの不機嫌そうな表情から一転し、天真爛漫な笑顔に変わった。
「わかった。お兄ちゃん、早く来てね!」
するとあこは部屋に戻っていった。
俺は洗面所で顔を洗って目を覚ましてから、リビングに向かった。
リビングのドアを開けて早々に、母である宇田川桜が鬼の形相で立っていた。
「優磨。アンタ、あこと約束してたんだよな?なのに何でこんな遅くまで寝てたんだ?」
「あの、母さん。今何時?」
「11時だよ!時計くらい確認しろー!」
うちの母親はめちゃくちゃ怖い。怒るとめちゃくちゃ怖い。普段はとても頼れる母親なのだが、怒ると鬼のようになる。
「すみませんでした。」
「反省したならいいよ。朝ご飯出来てるから速く食べてあこの部屋に行ってきなさい。」
でも反省したと分かったらそれ以上怒らない。
だから母さんに怒られた時は素直に謝れば良いのだ。
「キャー!桜!助けてくれ!虫、虫がァー!」
少し高めの男性の声が宇田川家に響き渡る。
これはうちの父親である宇田川当真の声である。
「まったく、当真はしょうがないなぁ。男だろ。」
母さんは父さんの部屋に向かっていった。
ちなみに小さい頃母さんに何故父さんと結婚したのか尋ねた所、母さん曰く
「当真は一人じゃ放っておけない」からだそうだ。
まぁ結局お似合いなんだろう。
俺はテーブルに並べてある朝食を食べていると、妹の巴がリビングに降りてきた。
どうやら今からバンドの練習のようだ。
「おはよう、兄さん。今起きたのか?」
「ああ、ついさっきな。起きてすぐ母さんの雷が落ちるとは、俺もついてねぇなぁ。」
「それは兄さんがもう少し早く起きてれば良かったんじゃないか?」
巴は容姿は完全に母さんに瓜二つで、性格もよく似ている。
たまに、どちらが歳上なのかわからなくなるレベルで頼もしいしっかりした妹だ。
「それもそうだな。練習頑張れよ、巴。」
「兄さん、じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。」
さて、早く食べよう。
この俺の皿に乗せられている大量のピーマンはあこのものだろう。
まったく、かわいい奴め。
あこのピーマン嫌いが克服出来ないのも、俺がこうやって甘やかし続けているからなのだろうけど。
実際俺はピーマンが好きなのでお互いの利害が一致しているから文句はない。
一つあるとすれば結局二人とも母さんに怒られることくらいだろう。
俺がピーマンの山を平らげた時、父さんがリビングにやって来た。
「ああ、優磨。おはよう。朝からついてなかったよ。換気のために窓を開けたら虫が入って来たなんて。優磨も桜に怒られて不運だったな。」
父さん、後ろ。後ろに居るから。母さん後ろでスゲー怖い顔してるよ?
「父さん、後ろを向いてみて。」
「なんだい?」
「当真もついてねぇな。アタシに朝から怒られるなんてなぁ?」
「優磨、助けて…」
父さんが震えて俺に助けを求める。
「イ、ヤ、ダ、ネ。」
笑顔で親指を立てる。
父さんは母さんに引きずられて行った。
その後、父さんのものと思わしき断末魔がきこえたのは、言うまでも無いだろう。
俺は朝食を食べ終え、あこの部屋に向かう。
ドアをノックすると、
「入っていいよ。」
と聞こえたので、部屋に入る。
「お兄ちゃん、遅い!早く行かないと売り切れちゃうよ~。」
「わかった。早く行こうか。」
こうして、俺達は玄関に向かう。
途中で泣きながら正座している父さんを見かけたのは内緒だ。
「あこ、どんなゲームを買うんだ?」
「えっとね~。何かゾンビがドバァ~って出てきてズババッって倒すゲームだよ!」
「それを買うのか。そういえばそのゲームって結構ネットで話題になってるよな。」
「そうなの?」
「ああ。グラフィックがめちゃくちゃ綺麗らしい。そんなにグロいのやって大丈夫なのか?」
「大丈夫だって!いざとなったらお兄ちゃんがやってくれるし?」
「いや何で俺やるの前提なんだよ!?」
「ダメ?」
それは反則だろう。
「良いに決まってるだろう?」
「わーい、お兄ちゃん大好き!」
守りたい、この笑顔。
あこが俺に抱きついてくる。
なにこのかわいい生き物。
何事もなくゲームを購入した俺達は現在家に帰る途中である。
「お兄ちゃん、家帰ったらすぐにやろう?」
「いいぜ。リビングでやるか?」
「ううん、お姉ちゃん帰ってきたら怖がらせちゃうから、あこの部屋でやろ?」
巴はホラー耐性が0で俺がホラゲーをリビングでやってると、めちゃくちゃ怒られる。
ただし顔を覆って震えながらだけど。
でもそんな所が凄くかわいい。
結局俺はシスコンなのか?
学校でもよくシスコンと言われるけど。
俺はシスコンではない。
ただ妹が大好きなだけだ。
こうして、俺達は家に到着するとすぐにあこの部屋に向かった。
買ってきたゲームをP○4に入れてゲームを始める。
するとタイトル画面からすでにゾンビが大量に居る。
なにこれ、スゲーリアルじゃん。
かなりリアルなゾンビに悪戦苦闘しながら、俺達はゲームを楽しんだ。
「ふぅ~、疲れたぁ。お兄ちゃん、このゲームすっごく面白かった!」
「ああ、そうだな。俺もかなり面白かったぞ。それにしてもこのゾンビ、リアル過ぎない?」
「確かに、でもそれがいいかも!何かゾクゾクするし!」
「俺もそう思う。」
すると部屋のドアが開いた。
「あこ、兄さん。ここに居るのか?ってヒィ!なにそれ、早く消して!」
そういえば巴ってこういうの苦手だったんだよな。
俺はすぐに画面を消した。
「巴、大丈夫か?」
「兄さん、ヤバい腰抜けた。」
「お姉ちゃん!大丈夫?」
「腰抜けたなら、手貸すぜ?」
「兄さん、ありがとう。」
宇田川家の日常は、凄くハチャメチャだ。
でも、飽きなくてそれが一番楽しい。