さぁ、復讐を始めよう 作:ぷーある
硬っ苦しい話は今回で終わりで次回から日常パートに。
「思い出せ、一色双葉。お前のお母さんはそんな事を言う人だったか?お前を愛していなかったのか?」
「……うぅ、お母さん……は……」
(なるほどねぇ……廃人化を自殺に見せかけて更にその理由を育児ノイローゼにする、か。えげつねぇことするな)
紙芝居の様に移り変わる壁画を眺めながら思考する。ここは双葉のパレス。異世界ではあるが間違いなくここは双葉自身の心と記憶も眠っている。それを他人事の様に眺めるギンは苦しそうに頭を抑える双葉見ているだけだった。
こればかりは力は貸せない。ここは、これだけは双葉本人が乗り越えなければならない。例えこれがねじ曲げられ植え付けられた偽りであってもコレを乗り越えなければ復讐するだなんて笑わせるなという話だ。
過去と向き合い己と向き合えてやっと復讐が始まるのだ。少なくとも俺は1度足りとも忘れた事は無い、俺の人生を狂わせあまつさえ道具の様に扱おうとしたあのクソ野郎の事を。それを平然と容認する世の中もクソ喰らえだ。絶対に許さない、許してはならない。この復讐の炎を燃やし続けなければならない。そうしなければ俺はこの世界じゃ生きる事すら出来ないのだから。
いやもう死んでいるのかも知れないが俺の意思がこうして此処に存在している限り俺は死んでるだなんて認めない。言葉では適当に言っていても心の奥底ではそれは認めてはならない。実際存在がない時点で死んでいる様なものなのだろうがだからこそ奴を出し抜ける。だからこそ力が振るえる。
「な、なんだ?」
「これからだってのに野暮な事してくれるねぇ」
突然ピラミッド全体が揺れる。ゴゴゴ、と音を立てて何かが崩れ落ちる音がする。今から乗り越えようって言う時にこんな水を差す真似をする輩は一体どれだけ空気が読めねぇ奴なんだ。凄まじい音と共に天井が吹き飛んだ、暴風と砂煙が巻き起こり咄嗟に双葉の前に出て一張羅を広げ2人を守る。
「フタバァァァァァ、オマエノセイデェェ!」
「ひっ!?」
小さく悲鳴をあげて後ずさる双葉。俺はスフィンクスの身体に人面を取って付けたような化け物を睨めつける。巨大なスフィンクスの身体に人面とはこれはまた不釣り合いな組み合わせときたもんだ。
「なるほどねぇ、双葉。こりゃお前が創り出した認知上のお母サマだ。生き返って欲しいってのと殺しちまったって想いが混ざり合って出来た化け物って所か」
「うぅ……」
「まぁいいさ。お前さんのお母サマのお相手は俺に任せとけ、その間に双葉はしっかりと自分の記憶と向き合うんだ」
恐怖に怯えた双葉の頭をぽんぽん、と優しく叩く。それで幾分か落ち着いたらしいがそれでも少しの恐怖を瞳に滲ませながら不安げにギンを見る。確かに俺という存在は酷く曖昧で荒事の類は正直得意ではない。何かほんの手違いがあれば吹き飛んでしまうぐらい不確かな存在なのだ。だがそれでも、
「美人や美女にこんな悲しい顔をさせっぱなしじゃ怪盗の名折れもいい所だからな。俺の女に適当な事言って惑わさてんじゃねぇよ、ニセお母サマよぉ!」
地面を蹴る。1発の弾丸のように勢いよく飛び上がりあっという間にニセお母サマの目の前までいくとそのまま空中を蹴り一回転する様に蹴り上げた。綺麗なムーンサルトが顎に突き刺さりスフィンクスの巨体は思いっきり宙を舞う。
大きさ的に50分の1程度しかない人間が巨大なスフィンクスを蹴り飛ばすという不可思議な出来事にこれは流石に双葉も唖然となる。確かに争い事は不得意だ。しかし弱いとは一言も言っていない。
「うそ……」
「おいおい。自分の『カレシ』の事ぐらい信じろよ。俺は出来る事しか出来ると言わねぇ。その俺が出来るって言ってんだ、何より俺は怪盗アダムだ。ここじゃ最強無敵のイケメンなのさっ!」
「だから……さっさと乗り越えてこいっ!双葉っ!」
「フタバァァァァァッ、オマエガワタシヲコロシタァァァ!」
「うっせぇな。それしか喋れねぇのか?所詮は認知上の化け物だな」
上空から急降下し叩き付けるように振り下ろされた前足を飛び上がって回避する。空中で何度もジャンプし挑発するようにスフィンクスの周りを跳び回る。羽を振り回し振り回す様に前足をギンに向かって振り下ろすがまるで宙に浮いた羽が風によって掴もうとする手を避けるようにギンにはかすりもしない。
意思ある人間ならまだしも認知上の生き物であれば万に一つも負ける要素は存在しない。
ギンの一張羅の両裾からワイヤーが伸びてくる。ギュィィィ、と音を立てて何処までも伸び続けるワイヤー。にぃ、とまるで悪戯が成功した子供のように笑いながら手を真っ直ぐ振り下ろす。ワイヤーは意思があるかのような綺麗な曲線を描きあっという間にスフィンクスの巨体を通り過ぎ、ギュイン!という音と共にその巨体に巻き付き地面へと叩き付けた。
「人面スフィンクスのワイヤー巻き、いっちょあがりってな」
言葉にならない悲鳴のような鳴き声とも取れる声を発しながら地面で暴れるがワイヤーは軋む音すら発さず切れる様子もない。
当たり前だ、そのワイヤーは彼の認知から生まれたワイヤーなのだから彼自身が『絶対に切れない』と思っている限り切れる事は絶対にない。意思ある人間なら此方の『認知』を上回ればその限りではないが同じく認知上の存在でしかないモノに打ち破れるモノでは決してないのだ。
空中を蹴れるのも常識を覆すような動きが出来るのも全て自分なら出来ると思い込んでいるからこそ出来る技だ。
もちろん異世界にいるからって普通はこんな事は出来ない。
(気分はスーパーヒーローってか?まぁそうなんだがな。常に想像するのは最強の自分ってな、某有名な正義の味方さんの教え様々だぜ)
認知をある程度操作出来るが故に戦う上で想像するのは正にそれであった。アニメやゲームも捨てたもんじゃないなと思った瞬間でもある。望んで手に入れた力ではないが使い勝手の良さは抜群だ。
「絶対、絶対っに……許すもんかっ!」
燃えている復讐の炎が。怒りをエネルギーに燃え上がっている。ずっと目を逸らし続けて見て見ぬふりをしていた。だが今は。
(期待通り、いや期待以上だな)
元から素質はあった。だが少女は目を逸らし続けていた。これが本来の少女であれは少女の反逆の炎。
「ペルソナ、だな。けどアイツほんとUFO好きだよな。どんだけだよ」
UFO型のペルソナに引き込まれるのを何とも言えない表情で見送る。これが円盤じゃなくてカップ麺であれば顔が引き攣っていたかもしれない。
「聞こえるか?ギン」
「あぁ、聞こえてるよ。だが一応この姿じゃアダムって呼んでくれな」
「おぉ!なんだそのカッチョいい一張羅と仮面は。なんだか闇の炎に抱かれて消えろとか言いそうだな、てか言ってみてくれ」
「言わねぇし。まぁ確かに厨二っぽいけど深く触れないでくれ」
ともかくこれで後はこのスフィンクスをぶっ倒すだけって訳だ。本来なら本人に倒して貰いたかったがどうやら双葉のペルソナは戦闘タイプのモノではないらしい。それが珍しいのか珍しくないのか自分と双葉以外のペルソナ使いは1人しか知らないので分からないがまぁこれはこれでいい。元よりそういうサポートの方が双葉には向いているとは思う、だからこれは嬉しい誤算でもある。
「これで、チェクメイトだ」
懐に手を伸ばし取り出したのは大型拳銃であるワルサーp38。これは認知で生み出したモノではなく正真正銘本物である。
引き金を引く。ただ普通に弾を撃つだけじゃ威力はたかが知れている。だからそこは認知を操作する。
頭部を貫いた銃弾はそのまま大爆発。さながら戦車の砲台級の一撃だ。スフィンクスは爆発四散。これでミッションコンプリートである。
「さようなら……お母さん」
「ばっきゃろう。あれがお前の母さんなわけあるかよ、ほれ見てみろ」
「……えっ?」
あれが双葉のお母さんであってたまるかよ。あれはクソッタレな大人共に植え付けられた真っ赤な偽物で本物はしっかりとお前の中で生きてたんだよ。
「双葉」
「っ!?お母さんっ!」
「こっちに来ちゃダメっ!」
あぁけど双葉の母さんは勿論死んでいる。この人だって認知のソレと変わらないが俺には分かる。きっとこの母さんは双葉にとって本物なんだ。ねじ曲げられて歪んでいた愛がこうして正されて形として現れた、んだと思う。
ま、暫く2人にしてあげますかね。そうやって俺は2人から距離を取った。
「貴方は……」
「俺のとこに来て良いのか?紛れもなく双葉にとって本物のアンタだがあくまで双葉のパレスの中での認知存在でしかない」
「ええ、わかっているわ。もうすぐ私はこのパレスと一緒に消える。けど私と同じ様な存在の貴方はどうして何事もなく現実に存在出来てるのかしら?それとも……」
せっかく気を利かせて遠くに離れていたというのに。にしても流石は第一人者、俺の存在をはっきりとどういうモノか認識しているらしい。
「きっとそれで凡そあってるさ。俺は死んでいて世界は腐って歪んでいる。だからこそ俺はまだ足掻ける」
「そう……貴方は強いのね」
「強い、ねぇ。」
俺は……俺は強くなんてない。俺が弱いからこうして此処にいて必死になって足掻いている。俺が強かったら人生を狂わされる事も家族が殺される事も利用される事も無かった。全部、全部俺のせいなんだ。
ドクン
心臓が跳ねる。
苦しい、苦しい。酸素を求めて呼吸が荒くなる。
「うっ、がはっ……」
「ちょ、ちょっとっ!?」
駆け寄ってくる双葉母を手で大丈夫だと押し留める。
俺はまだ死ねない。
燃やせ。燃やすんだ、復讐の炎を。思い出せ憎しみを。俺は止まれない終われない。存在を刻め。俺という存在を世界に示せ。
俺は……あの
「だい、じょうぶだ。もう落ち着いた」
「そうみたいね。けどやっぱり貴方は強いわ、普通は世界から認められないで存在を保つだなんて不可能だもの」
「不可能じゃないさ、現に俺はこうして此処にいる。誰一人として俺を認めないで世界すら俺を認知しなくとも、俺自身が強く自分を信じていれば何も問題ない」
「なるほどね、世界から存在を除外されても強い認知で存在を認知上の存在として留めているのね」
あぁ全くその通りさ。俺はあくまで認知上の存在でしかない。信じられない話だが世界から存在を忘れられた俺は文字通り世界から消えた。だが己自身が自分を強く信じる事で俺は自分を認知上の存在としてこの世界に繋ぎ止めた。だからこそあんな反則みたいな技が使えるし存在が何かの拍子で消し飛ぶ程不安定だ。こまめに世界に
生きてたら全身くまなく調べさせて貰うのに、と此方を見る双葉母の目は何だか捕食対象を見る肉食獣のようだ。そういうキャラ変わる所は親子そっくりだなぁと苦笑いする。
「そろそろ時間だわ。娘を助けてくれてありがとう」
「おうよ」
「ちゃんと構ってあげてね、あの子ああ見えて寂しがり屋さんだから」
「分かってるさ」
「それからご飯もちゃんと食べさせてあげてね、あんなに痩せちゃって見てられないから」
「任せとけ」
「それとお風呂にもちゃんと入れてあげて」
「もちろん」
「それから……」
「分かったからさっさと逝けや!」
どんだけ心配なんだよ。まぁ気持ちは分からんでもないが。
「泣かせたら化けて出るから」
「おぉ〜、そいつは怖い。善処するさ」
正直それは自信が無い。というよりまだ子供なんだそのうち他の男になびくだろうし問題は無い。
「今どうせ子供だから、とか思ったでしょ?」
やべぇエスパーかな?
降参だ、と両手をあげて肯定する。
「今はそうだろうけどね、必ず貴方はあの子を愛するわ」
「へぇ。その根拠は?」
いつの間にか近付いてきた双葉母はそっと俺の頬に手を当てて5本の指をそれぞれ使って滑らせる。まるで俺の全身を舐めるように少し上から流し目を向けてくるその姿にゾクッと背筋に何かが走る。全身に女を感じて動けずにいるとゆっくりと耳元で呟かれた。
「私の娘だもの、絶対良い女になるわ。娘のこと……お願いね…………」
それだけ言い残し光の粒子となって消えていった双葉母。登っていく光を見上げながら俺はそのまま大の字に床に倒れ込む。
「あれはやべぇわ……人妻の色気マジパネェ。というか若葉さんパネェっすわ…………双葉にねぇ……まさかな」
取り敢えずロリコンにはなるまいと意思を固めるのであった。
ロリコンチャレンジ。