ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第1話

「まきますか?まきませんか?」

 

大学の帰り、ポストに入っていた郵便物を見てみるとそこにはそんなことが書いてあった。ただの広告のように思えるが、あて先も何も書いてないのでいたずらか何かのようだ。文面もそれしかかかれておらず、裏には何もかかれていない不気味なカードだった。かばんを置き、そう言えば書かなければならない書類があったのを思い出して、かばんの中からクリアファイルを取り出し、テーブルの上に置く。

 

季節は秋になったばかりだが冬並みの寒さで、茶色いダッフルコートを脱いでコートかけにかけると白いファンヒーターの電源をつけた。チチチチッチボッとすこし生ぬるい風が足を吹き抜けて行く。

 

柿崎忍は洗面台に立つと自分の情けない腑抜けた顔を見た。心なしか、黒い前髪もふにゃけている。大学に入るまではすごく充実した高校生活を送っていたと思う。難関大学に入るという目的もあって。一緒にスポーツをする仲間も居て。だが、一度卒業してちりぢりになると、皆連絡こそたまにすれど、会う機会は滅多になくなり最近はメールのやり取りすらなくなってきている。大学に入って楽しい活動や充実した勉強が出来るとも思っていたが、大学に慣れて来ると次第に真面目に講義も受けなくなり。今日もつい早退してきてしまった。

大学で出来た友達と話したり、飲み会に誘われたりしているが、どれも話をあわせるだけの知り合い。でしかない。

 

顔を水でばしゃばしゃと洗うと、活を入れるために頬を叩いた。しっかりしろ。

叩いた頬が思いのほか痛かったので、やめておけばよかったと思った。

 

 

 

書類にチェック事項を適当につけているうちに、ふと、さきほど置いた紙が目に入った。まきますか。まきませんか。なんてことは無い、ただの悪戯。紙を手に取ると、まきます。と油性ボールペンで大きく囲む。こんなことしたところで、まるで意味なんてないのに。それをぽいっとゴミ箱の方めがけて放ってみると、紙はしゃっと飛んだが、ふわりと浮かび、こてっと、ソファの隣に落ちた。ま、そんなに上手く行くはずが無いか。書類に再び目を通し始め、適当にチェックをつけて行く。今日もバイトがあるので、行かないとなぁ。チラッと時計を見たが、まだ相当余裕があるし少し寝てしまうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅刻しそうになった。あの後慌てて用意をして、飯も食べずにバイトに行った。お陰で動きが悪く、バイト先のパスタ屋の店長にも心配をかけてしまった。何とか乗り切ると、帰りにちょっとしたまかないを持たせてくれたので、それを持って帰ってきた。店長さんは優しい人だと思う。

 

マンションについてポケットからじゃらっと鍵を取り出すとそれを差し込んでひねった、が、妙な違和感があった。

 

開いている!?

 

まさか鍵をかけ忘れた?それとも泥棒に入られた?さっと嫌な予感で頭が白くなった。

直ぐにドアを開けて電気をつける。早速、違和感に気がついた。

 

大きなカバンが1つ、どんと机の上においてあったのだ。

 

他のところが荒らされていないかくまなく探してみたが、特にそういった様子は無かった。ただ、一つ、この大きな茶色い鞄を除けばいつも通りだ…

 

誰かが間違えて家に置いた?いや、そんなはずは無い。隣は空部屋だし、大家さんは荷物を預かったとしても、何も言わずに置いて行くような人ではない。嫌がらせ?悪戯?

 

悪戯。ふと、昼ポストに入っていた紙のことを思い出した。ソファの近くのゴミ箱付近に落ちていた紙はいつの間にかなくなっている。同一犯か?

 

 

しばらく鞄の前で腕を組んでにらめっこしていたが、もういっそあけてしまうことにした。もしかしたら誰か昔の知り合いが悪戯を仕掛けていて、この様子を隠しカメラで取っているかもしれない。おどおどせずに、堂々としておこう。

 

鍵つきのようだが、鍵のかかっていないその鞄を開ける。すると中には人間。いや、生きているような、綺麗なアンティークドールが入っていた。青いケープに膝まで伸びた青い半ズボン。白い袖の長いブラウスを着て、赤毛に近い焦げ茶の髪をショートカットにしてある人形。頭のあたりには黒いシルクハットのようなものもあった。まるで、王子様か何かのようだ。それが目を閉じて、静かに眠っていた。とてもよく出来ていて、今でも人形には見えない。それくらい精巧だ。

 

ほっぺたのあたりを触ると、指がぷにっと弾力で跳ね返され柔らかい。本当はただ眠っているだけなんじゃないかと思えてきた。すっと腰のあたりを持ち上げると、顔の横のあたりに金色のゼンマイがあることに気がついた。もしや、と思い背中の辺りを探すと、案の定、螺子穴を見つけることができた。

 

「これで動いたら、SFかファンタジーだな。」

 

螺子の穴にゼンマイをさしこみ、きりきりと巻いて行く。動くわけ無いか、などと思い、螺子を鞄に戻し、人形を机の上にそっと座らせた。

 

すると。

 

「っ!?」

 

ぴくぴくっと体を動かして、カクカクとひとりでにおきあがり始める蒼い人形。まるで、宙に糸で吊るされて、誰かが起き上がらせている様だ。あまりの光景に腰を引かせて、イスから立ち上がってしまった。

 

ぴたっと垂直に足を伸ばし、少しずつ目を開ける。俺からみて左が碧色を、右が紅色をした綺麗なオッドアイだった。あまりの驚きに、声を出すことすら忘れ、見とれていた。蒼い人形はあたりをきょろきょろと見回し、後ろにある鞄からごそごそとシルクハットをとりだすと改めてこちらをみた。

 

「あなたが僕の螺子を巻いてくれたのですか?」

 

男にしては高い、女にしては少し低い、そんな声を発した蒼い人形。首をこくっと縦に振ると。向こうは目を瞑って頷き。シルクハットを胸にあてて、目を開けると言葉を続けた。

 

「僕はローゼンメイデン第4ドール、蒼星石です。」

 

口の端をあげて優雅に微笑んでみせる、蒼星石と名乗る人形。お辞儀をするその姿は一枚の絵画のようだ。少しだけ顔を上げると

 

「僕たちローゼンメイデンは、お父様に作っていただいた意思を持った人形のことで、人間と契約することで本当の力を発揮することができます。そこで、僕は螺子をまいてくれたあなたに僕のマスターになって欲しいのだけれど。」

 

どうでしょうか?と続ける。輝くオッドアイで俺の目を覗き込む蒼星石。

ようやく落ち着きを取り戻した俺は、渇いた喉でしぼった声を発することができた。

 

「契約って言ったって。全く何も分からないのに、結べるわけ無いじゃないか。」

 

そういうと、蒼星石は目を伏せ、眉をハの字にした。

 

「はい。申し訳ありません。説明が不十分でした。」

 

 

 

 

 

それから蒼星石は次々とありえないような話を始める。

 

7人の姉妹で行うアリスゲーム。ローゼンメイデンの行使できる様々な力。そして、7人の姉妹全員を倒して、ローザミスティカとかいうのを集めて真のアリスになるのが目的だとか。姉妹ということは女の子なのだろう。不用意に男とか言わなくてよかった。

 

契約を結ぶというのは、先ほども聞いたが、ローゼンメイデンは、持っている全ての力を引き出すには人間を通じて力を供給してもらわねばならないらしい。そうしなければ、アリスゲームではとても戦っていけないのだとか。

 

つまり、姉妹で遊ぶゲームといったところか。それで優勝をめざす。

 

「もし、仮に俺が契約を断ればどうなるんだ?」

 

「僕が別のマスターを探すことになるだけです。マスターには何のデメリットもありません。ですが、僕としてはレンピカが選んだ、あなたにマスターになって欲しいと思います。」

 

「レンピカ?」

 

「僕たちの持っている人工精霊のことです。出ておいで、レンピカ。」

 

くるくると蒼い発光体が蒼星石の周りを飛んでいる。もう多少のことでは驚かなくなっていた。

 

「僕は、見ての通り何も持っていません。ローゼンメイデンは少し特殊なので、人間のように寒さを感じたり暑さを感じたりしますし、食事を取ったり睡眠をとったり、人間のように生活しなければなりません。」

 

「ですが、僕はあなたに誠心誠意お仕えします。どんな命令にでも従います。できることならば何でも、出来ない事でも、出来るようになって見せます。なので、どうか、僕と契約を結んでくれませんか?」

 

片膝をついて、胸に手を当て、最初のときより激しい言葉で主張する蒼星石。まっすぐなそのオッドアイの瞳に、俺は気がついたら「うん、よろしく」とうなづいてしまっていたのだった。

 

 

 

「では、この薔薇の指輪にキスをしてくれませんか。」

 

すっと左手を差し出す蒼星石。その薬指には薔薇の花のようなものがついた指輪が嵌っていた。手を取って唇を当てる。

 

ぱあああっと蒼星石の指輪から蒼い光が部屋中に広がった。次に、感じたのは俺の左手の薬指が、燃えるように熱くなったこと。たばこの火を押し付けられているようなじゅうっとした熱さ。それから、蒼星石同様、神秘的な光が発光している。

 

しばらくすると光は収まり、薔薇の指輪が薬指に嵌っていた。契約が、完了したのだろう。指輪をじっと見ていたが、蒼星石に向き直ると挨拶も済んでいないことを思い出した。

 

「俺は、柿崎忍。改めて、よろしくな、蒼星石」

 

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

目を合わせて微笑んだ。何かが、変わる気がした。退屈だった毎日が、少し。

 

「じゃあ、早速蒼星石にお願いしようかな」

 

「はい、なんでしょうか」

 

ぴんと人差し指を立てて、机の上に立っている蒼星石に初めて何か頼みごとをしてみることにした。ずっと気になっていたことだ。

 

「その堅い敬語はやめないか?」

 

「え!?」

 

目を見開いて驚く蒼星石。

 

「いや、そんなにかしこまられると、これからここに一緒に住むんだから、かたっくるしくてしょうがないよ。だから、敬語は禁止」

 

「で、ですがマスター。」

 

「禁止」

 

「あ、う」

 

と歯切れの悪い回答が帰ってきた。思ったとおり、真面目な子のようだ。

 

「まぁ、はじめは敬語でも良いから、ちょっとずつ、リラックスしていこう。な?」

 

「はい。マスター。善処します。」

 

それが堅いんだけどなぁ。などと思いながら頭をかく。じゃあ、と口を開き。この西洋の生まれのような人形に出来そうなことをお願いしてみることにした。

 

「あったかいハーブティーを入れてくれないか?今日は寒くって。」

 

「はい、お安い御用です。マスター」

 

そういうと、今度は自分に出来る仕事だったので、少し嬉しそうに頷き、蒼星石は机から飛び降りると直ぐそこにある台所へと向かった。ハーブティーなんて、直ぐそこにあるポットとハーブティ缶、カップがあれば簡単に入れられる。高さも、ちょうど良いイスがあるからなんとかなるだろう。そう思っていた。

 

しかし、しばらくすると、蒼星石がすごすごと落ち込んだ様子で帰ってきた。もしかしたらハーブティ缶の場所が分からなかったのだろうか。

 

「ハーブティ缶ならポットの隣に…」

 

「いえ、あの…火をつける場所がなくて…」

 

「え。」

 

あぁ、なるほど、もしかして、

 

「ちょっとゴメンな」

 

「あ。」

 

そっと蒼星石をお姫様抱っこすると、台所の方へと向かう。

 

「えーっと、蒼星石が最後に目覚めたのって何年ごろかな?」

 

「はい、年、というのがよくはわかりませんが、小さな島で、ええっと、銃や剣で戦争をしていました。」

 

「ははぁ、なるほどな。じゃあ、この世界のことはわからないことが多いな。」

 

「すみません。」

 

「ううん、一個ずつ勉強していこう。まず、お茶の入れ方なんだけど、ここに、機械、っていう電気で動くメカがあるんだ。」

 

「電気で動くメカ?」

 

「そうだな。カラクリってところだ。」

 

「あ、はい、わかります。」

 

「それで、まず、ここにお茶のポットをおいて、ハーブティ缶を入れるだろう」

 

蒼星石を左手だけで抱っこすると、右手で次々と動作をこなして行く。

 

「それで、ここのスイッチをおせば。」

 

じゅぼぼぼぼぼ、とポットの中からお湯が出てくる。

 

「す、すごい!この中に、お湯を保存できるんですね。」

 

「そうそう。これからお茶をいれるときはこれを使えばいい。お湯が無くなったら、こうやって、上から水を入れるだけでいい。」

 

蛇口をひねって水を出すと、カップに水を入れ、ポットを開く。むわっと湯気がでたが、それをちょっと離れてかわすと水を注ぎ込んだ。

 

「なるほど、わかりました。」

 

「まぁ、とりあえず、色々教えたいことも有るけど、お茶でも飲みながらゆっくり話そうか。」

 

「え、は、はい、よろしくお願いします。マスター。」

 

初めて見たときよりも随分と明るい笑顔をしている蒼星石。つい、良い位置にあった頭を軽く撫でてしまったが、本人は文句を言わず、目を閉じると口元を緩めて受けてくれた。

 

退屈な毎日だったけど、これから少しづつかわって行くかもしれない。そう思うと、俺の顔も同じようにゆるんでしまう。

 

しかし、俺の生活が少しどころか、大きく変わってしまうなんてこと、この時は思いもしなかったのだった。

 

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