ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第10話

「こ、これ本当に蒼星石が作ったですか?」

 

「うん。口に合わなかったかな?」

 

「そんなことねぇです!ただ、蒼星石の料理が凄くおいしくなっていて驚いただけですぅ」

 

「そう?良かった」

 

あわてて翠星石が首を振って否定すると、蒼星石は安堵の息をついた。長いすとテーブルでシチューを囲む俺達。色々あったが蒼星石のクリームシチューも無事出来上がり、皆でおいしく頂いているというところだ。シチューと言えば付け合わせとして何を選ぶか悩む。隣の水銀燈は普通にバターロールパンを小さな口でかじるとシチューをスプーンで掬って口の中に入れている。そんで、たまにちょんちょんとパンをシチューにつけたりしながら実に大人しく食べている。水銀燈の食べ方は綺麗なのでみていて気持ちがいい。

 

俺もそろそろ、と席を立つと炊飯器の上にあった拳ほどの大きさのラップにつつまれた冷ご飯を手に取った。席に戻ると、それを熱いシチューの入った皿へと投入する。それを見ていた翠星石はぎょっと目を見開いた。

 

「げげ、忍、お前はクリームシチューとご飯を一緒に食べるつもりですか?」

 

「え、そうだけど。何かまずいか?」

 

「頭おかしいです!どう考えてもパンと一緒に食べるのが一般的ですぅ。それかシチュー単体!蒼星石も何か言ってやれです」

 

「僕もその、マスターがそうやって食べるならご飯と一緒に食べてみようかな」

 

「!!」

 

ぎろっと蒼星石には見えない角度から翠星石のやつが歯を剥き出しにして俺のことを睨む。どうも、翠星石のやつは蒼星石が自分より俺の意見を尊重したことが気に食わなかったらしい。そんなにダメなのか、シチューとご飯。

 

「っていうか、パンでも食べるし、ご飯でも食べる。そんな感じだよ」

 

「ありえねぇです」

 

「蒼星石の作ってくれたシチューはおいしいから、何にでも合うんだよ」

 

「あ、ありがとますたぁ」

 

照れるように、手をもじもじさせながら頬を赤くして顔を逸らす蒼星石可愛い。

翠星石がまた蒼星石の見えない角度から歯を噛み締めて俺を睨む。そんなに俺が嫌いか。言っても言われても俺のご飯が冷めるだけなので、スプーンでご飯をシチューの中でくずして口に運ぶ。うまいと思うんだけどなぁ。てか、腹にたまるんだよな。パンより。

 

 

 

 

「ところで翠星石、君がここにいる事を君のマスターは知っているのかい?」

 

蒼星石がナプキンで口を拭きながらそう尋ねる。確かに、目覚めた翠星石がここにいるという事は、翠星石を巻いた人間、マスターがいるということだ。連絡もなしに夕飯を一緒したのはまずい。俺の配慮が足りなかったな。そんなことをかんがえていたが翠星石はバツの悪そうな顔を浮べると

 

「す、翠星石にはマスターなんていないのです」

 

「え?巻いた人間と契約しなかったのかい?」

 

「してないですぅ」

 

そう言ってがつがつっとシチューの皿を傾けてがっついている。マスターが居ない…、そういえば、蒼星石も初めてあった時に巻いた人間が無理に契約しなくても良い、みたいなことを言っていた気がする。蒼星石もそうなんだ、と気に留めた様子は無い。むしろ、問題なのはその後の一言だ。

 

「なら、マスターと契約する?」

 

「「!?ごほっ!ごほ」」

 

二人同時にむせる。

 

「契約なんて二人同時に出来ないだろ」

 

「そんなことないですよ。現に、僕たちの過去のマスターは二人同時に契約していました」

 

「そういう問題じゃねぇです!だれがこんなご、人間と契約するって言うんですか!?」

 

第一、そんなことになれば今度こそめぐの奴が切れる。なら私だってここに住みます!とかいって部屋を切り離してでも移り住んでくる。てか、蒼星石との穏やかな日々がが

 

「そっか、ならしょうがないね」

 

蒼星石は口ではそんなことを言いながらも俺には何処か嬉しそうに見えた。悲しそうな表情に喜色の色が見えるというか、気のせいだろうか?

 

「まぁ、でもしばらく泊まってやってもいいですよ」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼星石、何をやってるですか?」

 

「これはね、マスターが僕にも買い物が出来るように取ってくれている、生協っていう家で出来るお買い物だよ」

 

得意げに説明する蒼星石可愛い。

 

「へぇ、こんなぺらぺらの紙で買い物が出来ちまうのですか、お、これなんて良さげですね。10個ほど買ったらどうですか?」

 

「ダメダメ、必要ないものをたくさん頼んでも仕方がないよ。ちゃんと使うものや食べる予定のあるものじゃないと。それに僕たちの家計のことも気にしてよね」

 

優しく注意する蒼星石可愛い。

 

「蒼星石、すっかりおばばみたいになっちまって…」

 

「おばば?」

 

「あ!?いや何でもねぇです。主婦みたいになったといういうことです」

 

「そ、そんな、マスターの主婦だなんて」

 

テレテレと照れる蒼星石可愛い。なのに、隣がああ

 

食事も終わり、俺はリビングのソファの上に座りながら、テーブルに居る双子の様子を観察中といったところだ。仲良く生協のカタログを見て談笑している二人の様子は実に微笑ましい。が、ところどころで蒼星石を独り占めしている翠星石がドヤ顔を向けてくるのがうざい。突然なでなでしたりハグしたりとそれはもう、キマシ。なんじゃないかと思うくらいの行動をとり、最後には蒼星石の見えないポジからドヤ顔。ぐぬぬ、そこは本来俺のポジションなのだが。いや、もともと向こうのポジションだったのが元に戻っただけなのか。

 

「ねぇ?ハゲのダーツとか言うものはまだ食べないの?」

 

「ハーゲ○ダッツだよ。水銀燈、食べたばかりだけど、大丈夫か?」

 

「当たり前でしょう?私を誰だと思っているの」

 

ふふんと胸に手を当てて隣の水銀燈が鼻を鳴らす。俺と水銀燈は二人がイチャイチャしている間、なんとなーく付けたバラエティ番組をぼーっと見ていた。さっきから何かそわそわしていると思ったらアイスクリームをずっと待っていたのか。

 

「食べたばかりだと太るんじゃないか?」

 

「な、そ、そんなことないわよ。そんなことあるわけ…」

 

そう言って水銀燈は自分の腹部を見てさわさわと確認し始める。そういえばローゼンメイデンもご飯を食べてるんだ。排泄している様子もないし、どこに蓄えられているんだ?

 

「まぁ、とにかく水銀燈がそういうのなら食べようか。3種類味があるんだってさ」

 

「!チョコ、チョコは有るの!?」

 

「ああ、ちゃんとあるのを選んだよ」

 

そういうと水銀燈は口の端をにまぁっと吊り上げて、それでいいのよぉと、お褒め下さった。俺は席を立つと台所の方へと向かい、人数分のハーゲンダッツとスプーンを取りに行く。その時、蒼星石がじっとこちらを見ていたのも気づかずに。

 

 

 

 

 

 

「ほー。このハゲのピーナッツとやらは中々おいしいですね、翠星石の好物リストに入れてやってもいいですぅ」

 

「ハーゲン○ッツだって。って言うか、結構高級品だからもっと味わって食べなさい」

 

居間のソファの近くに4人集まってアイスを頬張る。水銀燈はチョコ。翠星石はイチゴ。俺と蒼星石はバニラだ。どの味にするか聞いたところ、蒼星石はマスターと同じもの。と言ってきたのでこうなった。

 

「ふーん、ま、そこそこの味ね。この前食べたすーぱーかっぷと良い勝負しているわ」

 

と言いながらもスプーンでちまちまと、うすーく、うすーくスプーンにアイスをすくっては食べる水銀燈。本当に、驚くくらい繊細に味わってアイスを食べている。まるで砂場の棒倒しのぎりぎりのラインを取り崩すかのようだ。対照的に翠星石のやつはスプーンにイチゴのアイスを大きく掬うとばくばくとアイスを食べすすめている。あんな調子じゃすぐになくなってしまうだろう。

 

「マスター。とってもおいしいよ?」

 

「喜んでもらえてよかったよ」

 

こちらを見上げる隣の蒼星石。ああ、蒼星石は本当、素直だな。目の前のツンツンな二人を見ると改めてそう思う。その言葉が聞けただけでちょっと奮発した甲斐があったというもの。俺も目の前のバニラアイスをスプーンで掬うとぱくりと口の中へと。口の中から豊かな甘さとバニラの香りが。ひんやりとした感じと溶けていく感覚がまた良い。

 

 

 

そんな感じで和やかな空気が流れていた居間。ただ、俺はずっと気になることがあった。

 

「水銀燈、一口くれないか?」

 

「嫌よ」

 

そう言って慌てて持っていたアイスのカップを俺から遠ざける水銀燈。バニラもおいしいのだけれど、俺は水銀燈があんまりおいしそうにチョコ味を食べているのでつい欲しくなってしまったのだ。もともとバニラを選んだのも、蒼星石が全種類選べるようにしたためだったし。

 

「頼むよ、代わりにほら、バニラを一口あげるからさ」

 

「…バニラを?」

 

ぴくりと水銀燈の眉が動く。お?

 

「いや、バニラも凄くおいしいんだよ?バニラの良い香りがするし、さっぱりしていてそれでいて濃厚。でも、しつこくない奥が深い味でさ」

 

ぴくぴくっと一言一言に反応する水銀燈。もう一押しだな。

 

「こんなバニラに敵う味があるとは思えなくてさ。チョコはどの程度の味なのかなぁって思っただけだよ。ま、食べ比べできないことにはどちらが優れているかなんてわからないよなぁ。バニラの勝ちだろうけど」

 

「そんなわけないでしょうが!チョコ味が味も香りも最強なのよ!何なら、一口食べてみなさい」

 

よっしゃ、かかったぞ。挑発に乗った水銀燈がスプーンにのった黒いチョコアイスを俺に突き出してくれる。遠慮なく、頂くとしよう。と思い口を開くとぐいっとスプーンを押し込まれて一瞬、やばかった。何とかアイスを入れてもらうと口の中でその冷たい塊を転がす。チョコ独特の甘いにおいとほどよいカカオの風味。

 

「おお、チョコもやっぱりおいしいな」

 

「あたりまえでしょう」

 

はいお返し。と水銀燈にスプーンに載ったバニラアイスを突き出すとぱくりと口に入れて、ま、中々だけどチョコには叶わないわね。と言い捨てた。チョコとバニラは合うからな。続いてバニラをすくって口に入れると二つの味がマッチしてそれはもう……

 

…………うおお!?と、と、隣に座っていた蒼星石が見たことないような悲しみを背負った顔をしている。僕は今、深い悲しみ包まれています、と言わんばかりに蒼星石は俯きながら、カップとスプーンを持った手はだらりとたらし、碧と赤のオッドアイは今にも洪水を起こしそうなほどに揺らいでいる。い、一体何故…

 

「蒼星石?」

 

「僕も、チョコアイスにすればよかった」

 

ぽつりと、そんな声を発するのが聞こえた。そして気付く。蒼星石の手には俺と同じバニラアイス。もしかして、蒼星石は先ほどの俺と水銀燈のやり取りを見て

もしかして、もしかすると羨ましい、なんて思ったのか?味の違うアイスの交換、もしも蒼星石がチョコを食べていればそれこそ水銀燈に頼まなくても蒼星石に頼んだだろうし、仮にイチゴアイスでも交換は可能だ。同じ味のアイスを選んだがために起こった悲劇。まさか、そんなことを考えているんじゃ…

 

俯いたままの蒼星石を見ていられなくて、つい、蒼星石のカップを持っていた小さな手を持ってしまう。すると、驚いたようにこちらを見返す。

 

「その、蒼星石のバニラアイスも食べてみたいなぁ、なんて」

 

「で、でも同じ味だし」

 

「俺は蒼星石のが食べたい」

 

そう言って口を開けて待っていると、蒼星石は色々と考えた末にあーんっといいながら口にアイスを入れてくれた。

 

「ど、どう?」

 

「甘いよ、蒼星石」

 

「ますたぁ……」

 

「なぁにが甘いよ!ですか気持ち悪い!姉の目のまえで大事な妹をたぶらかすんじゃねぇ!ですぅ!」

 

ごふ、斜め前に居た翠星石の渾身の右ストレートが俺の左頬にクリーンヒットする。翠星石、おいちゃんと一緒に世界を目指そう…

 

「ま、マスター!?翠星石!なにをするんだい!」

 

「しらねぇ、です。大体、蒼星石だって

ますたぁ

なんて甘い声だしちゃって!おかしくなっちまったですか!?」

 

「ち、ちが、それは…」

 

真っ赤になって 慌てる 蒼 星  せき か わい……

鼻の下伸ばしてんじゃねぇです!ぶおっと飛んできる追撃の一撃をかわすことができずに顎にもろに直撃し、ぐわんと揺れる頭、シャットダウンしたかのようにそこで意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の事はよく覚えていない。ただ、次の日に起きると、顔には翠星石の拳の形が付いた、まっかな頬。翠星石は次の日には居なくなっていた。なんでも本当はおじじとおばばとかいうマスターが居て、ちょっとした家出で家に来ていたとか何とか。

 

はた迷惑な話だが、蒼星石がごめんねマスター。といいながら白い手で俺の頬を擦ってくれただけで、殴られたかいがあったというもの。まぁよくわからないがとりあえず、姑、翠星石を追い返すことができたようだ。

 

しかし、まだまだ俺と義姉さんの聖戦は始まったばかりなのだと、その時の俺は気付きもしなかった。

 

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