ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第13話

「ここが、マスターの通っている…いっぱい建物があるけれど、どの建物がマスターの大学なのですか?」

 

「この敷地内の建物を全部ひっくるめて大学っていうんだよ」

 

「え!?これ全部が…」

 

「キャンパスだけは無駄に広いからなぁ。はぐれたら困るし、あんまり離れるなよ、蒼星石」

 

「……あ…はい、マスター」

 

蒼星石をぐっとこちらに引き寄せると、もじもじと照れくさそうにキャスケットを深く被りなおし、その小さな手で控えめに茶色いコートの裾の部分をつまんでくる。もっとくっついていいのに。

 

ちょうど大学の正門に来たのだが、思った以上に人、人、人と人の森。小さな声など、まわりの騒がしいがや音にすぐにかきけされてしまう。やはり、めぐは連れて来なくて良かった。本当は誘ってあげたかったがこれだけの人だ。何があるかもわからないし、行くならもう少し静かな場所だろう。それにしても、大学生くらいの人物が多いのは確かだけど、子供から老人まで幅広い世代の人間がこの今日の学園祭には集まっているようだ。規模が、高校とは全然違う。おかげで子供連れの家族も多いので、蒼星石ほどの大きさの子を連れていても目立たないのは幸いだが。

 

「お、おい誰だよあの娘、すげー可愛くないか」

 

「美人さんだねぇ…外国の人かな。って、たっくん何処見てるのよ!」

 

これだ。もうこのまま蒼星石と人ごみにまぎれてデートしちゃおうかとも思ったがそうも行かない、軽く迷子になっているであろうその人物のほうを向き、軽く手を挙げると向こうもこちらに気が付いて慌てて近寄ってくる。

 

「ちょっと、何で勝手にぶいぶい歩いて行っちゃうのよ」

 

「ごめんごめん」

 

青いデニムジャケットに、白いワンピース。大学でもよく見かける服装なのだが金髪青目の整った顔の三葉が着ているだけでまるで別物だ。はっきり行って隣を歩くには俺なんかじゃ釣りあわなさ過ぎる。よくラブコメ漫画とか、ドラマでよくあるであろう幸せ物の代名詞みたいなこの状況は、今の俺には目立つ三葉の副産物として蒼星石たちのことがばれないかヒヤヒヤさせるだけの精神負担でしかない。周りのちくちくとした視線が痛い。って、あれ。

 

「三葉、水銀燈は?」

 

「え、一緒じゃなかったの?てっきり忍たちと居るのかと」

 

……いきなりか!?辺りを見回して水銀燈を探す。バスには一緒に乗っていたし、さっきまでは確かに近くに居た。そこそこ背の高い俺だが、これだけの人の群れ。見回してみても水銀燈らしき人影は……

 

「マスター。あそこ」

 

と、蒼星石の指差した方を見てみると、いつの間に上ったのか、入ってすぐの校舎の屋上に立っている、茶色い探偵服と帽子を何時もの黒い編み上げドレスの上から身にまとった、水銀燈。確かに、今日に限ってはあの服は目立たない。くんくんが来る事はみんな知っているし、現に歩いている子供に似たような格好の子はちらほらと居る。しかし、水銀燈の格好は目立たないようになったにしろ、4階ほどの校舎だ。今はまだ誰にも見つかっていないようだが、小さな子供があんなところに居たら嫌でも目立つ。

 

「僕に任せてください。出ておいで、レンピカ」

 

「ちょ」

 

ピカピカと光る青い発光体がびゅーんと空目掛けて飛んでいく。すごい、今のは何!?なんて嬉しそうに訊ねてくる三葉。俺はもう今日まともに過ごせるのか心配で胃が痛くなってきたというのに…。みんな目立ちすぎだろ……

 

 

 

 

 

ついに、学園祭の開かれる日が来た。敷地いっぱいに、学生主催の屋台が並んでいて、看板や広告を持った学生が客引きをしていたり。ステージの上で司会が何かを喋ってギャラリーがわいたり、ハッピの学生が入り口のテントの下で笑顔でパンフレットを配っていたりと楽しい雰囲気でいっぱいだ。しかし、これだけの人混み、団体行動は必須。

 

「水銀燈、ダメじゃないか勝手に離れたら。約束しただろ」

 

「隠れた犯人を捜すのに一番手っ取り早いのは上から探すことよ。そんなこともしらないのぉ猫警部?」

 

「誰が猫警部だ」

 

あれだけ苦労したのに、周りは水銀燈を一瞥するものの、基本的にはそのまま無関心で通り過ぎていく。目立つ銀色の髪も赤い目も、水銀燈より目立つコスプレをしている人物らの前では無駄に等しい。男なのに、どこぞの魔法少女のコスプレしている奴や、とあるインフレ戦闘漫画の戦闘民族の格好をしたお笑い芸人みたいな人までいる。そういうサークルもあるし、不思議じゃないがあれだけ悩んだのに、まさかくんくんの服を上から着るだけでオーケーだなんて…。あんまり水銀燈が堂々としているものだからみんな気にも留めないのだろう。

 

 

 

三葉は本当は水銀燈に似合う現代風の服を作るといった。水銀燈は冗談じゃないといって断った。くんくんをチラつかせてみたが、ダメだった。

 

俺は羽を隠すために穴の開いたリュックでも背負えばいいんじゃないかと提案した。のだが鼻で笑われて水銀燈に却下された。

 

昨日、三葉が冗談でくんくんのコスプレを作ってきた。ショー目的の子もいるから目立たないわよなんて言っているのだから苦肉の策なのだろう。だが、水銀燈は誰がそんなもの。着るわけ無いじゃない。ありえない。などと散々三葉に罵倒を浴びせて拒絶していた。勿体無いので蒼星石に着せてみたら。くんくん…匂うぞ、わかった!謎は解けたよマスター…!などと言って真剣にくんくんのものまねをしていて可愛いかった。その後ものまねの出来を気にして照れているのも可愛い。

 

しかし、今日。学園祭の当日。朝、重い瞼をこすりながら起きてくると、水銀燈は、このクローゼットにしまってあったくんくんの服を着ていた。何事も無かったかのように…

 

 

 

「まぁいいじゃないの、無事に見つかったんだし。それよりもショーまでまだ時間もあるし、敷地内を見て回しましょうよ」

 

「そうだな。折角の文化祭だしな」

 

辺りを楽しそうに見回す三葉にぐいっと腕を引っ張られる。そうだよな。うん。見つかって何だって言うんだよな。いっそ開き直って今はこの文化祭を、全力で楽しむことにしよう。じゃないともたない。それに、くくく、くんくん推理ショーは兎も角、絶対行っておきたい場所があったんだ。段々と心のおくから気分のもりあがる何かがふつふつと湧いてくる。待ってろよ、蒼星石…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蒼星石、あなたは何も感じていないの?」

 

「え?何がだい?」

 

「……まぁいいわぁ。せいぜい私に見つからないように逃げ果せることね。うろちょろ走る鼠のように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、何だか適当に歩いていたら面白そうな建物があるぞ」

 

「…え?マスターは随分的確な足取りでここに来た様な…」

 

「すごいぐうぜんだー」

 

ひゅ~ドロドロドロドロ。というお決まりのBGMが安っぽいCDラジカセから流れてきている。黒い、黒い建物。ぐにゃぐにゃと曲がりくねった人の列が並んでいるが。集団で入っているのでそこまで待ち時間はないであろう。そう、ここは。

 

「お、おおお、お化け屋敷じゃない、忍?やめて置きましょうよ」

 

「お化けぇ?何よそれ」

 

そう、お化け屋敷。誰もが一度は入ったことがあるであろうあのお化け屋敷だ。俺が今日一番行ってみたかった目的地。とある校舎の入ってすぐのところ、そこは普段教室になっているのだけれど今日は誰がどう見てもお化け屋敷になっている。黒をイメージした外装も、全て閉じられたカーテンも、血塗られた文字も中々本格的な雰囲気が出ている。さすがに、ホラー研究会が作っただけはあるな。

 

「まぁ、折角だから入ろう」

 

「はぁ?何でこんなところにわざわざ」

 

「怖いのか?水銀燈」

 

 

 

 

 

 

 

 

「四名様ですね。はい、ではドアを開きますので、こちらが閉めたのを確認してから足元に気をつけてゆっくりお進みください。後、中では明かりの付く携帯電話やライトなどの使用はお辞めくださいね。勿論、お化け役の人達に暴力を振るったりするのも無しです」

 

「わかりました」

 

包帯をぐるぐると巻いた案内係の話を聞く。水銀燈は挑発してやると、良い度胸じゃないの!この私を驚かそうだなんて!とか言ってやる気まんまんだ。にしても、このミイラ男さん、ところどころに赤い血の塗料が出ていて明るいのに中々怖い。やがて、色々な説明を早口で言い終えると、この係員は蒼星石と、腕を組んで顔を逸らしていた水銀燈の方へと屈みこみ

 

「こわいよぉ~!」

 

と声色を低くして、軽いジャブを仕掛けてきた。これでびびったら入るのは遠慮してもらおうという配慮なのかもしれないな。しかし、蒼星石も水銀燈も真顔で包帯男の方を見ているだけで、しらーっとしている。この反応はちょっと可哀そうだ。

 

「こ、怖いんですって。やめておく?蒼星石?」

 

「いえ、僕は大丈夫です」

 

一番びびっているのが三葉かよ……もっとこう、蒼星石がキャー!とかいってくっついてくれるギャップ萌えを期待しているのに、こりゃ期待できそうにないな。しかし、俺はこの時、気がついていなかったのだ。腕を組んで平気な顔をしている水銀燈のおみ足がぷるぷると震えていたことに…

 

 

 

 

 

 

 

「それでは。いってらっしゃいませー」

 

そう言って俺たちが4人、入り終えるとしゃっとドアが閉まり、差し込んでいた明るい光もなくなり、視界が一気に暗くなる。暗い、本当に真っ暗な部屋を青白いライトがところどころについて道だけを示している。しかし、逆にその不気味な光が恐怖心を煽る。それに、原理は分からないが、足元にはひやっとしたお化け屋敷独特の冷気とドライアイスみたいな白いもやもや。分かってはいるものの、俺も少しばかり緊張の糸が張る。たまに聞こえてくる先行組みの悲鳴も…雰囲気出ているな。

って、あれ。

 

「は、はやく行きましょう。しのぶ…」

 

「う、うん、マスター。行こう」

 

めちゃくちゃくっついてくる左の三葉と控えめにコートの裾を掴んでくる後ろの蒼星石。少しばかり動きにくい。まぁ、それは良いとして、さっきあれだけ元気の良かった、水銀燈がさっきからやたら大人しい。ちらっと見てみると。

 

気の毒なくらい、顔色がよくない。そしてぶつぶつと、私はお父様の作った最高傑作…だの、今の私にはくんくんの力が…だのと呟いて身を抱いている。ちょ、ちょっとびびりすぎじゃ…

 

…いや、これは、これでありな気がしてきた!

 

「水銀燈。一番前を歩いてくれないか?」

 

「!?は、はぁあああ!?何言ってるのよ、あんた男でしょうが!あんたが一番前に決まってるじゃないの!」

 

いつもの余裕のある猫なで声はすっかり消え去っており、激しい言葉をそのままぶつけてくる水銀燈。すまぬ…すまぬな、男だからこそ見たいものもあるのだよ。

 

「今日の水銀燈は俺たちのリーダーだろ?それに、水銀燈ほど勇気があって、強くて、美しいドールが、まさか俺の後ろに団子になって引っ付いて歩くわけ…」

 

「え?り、リーダー?そうだったのね…」

 

「ああ。リーダーってのは先頭に立って導いてくれる存在だ。いわば、究極の少女であるアリスに近いものがある。そう思わないか?」

 

「あ、アリスに?リーダー、究極の…わかったわよ。ま、せいぜい後ろかえらびくびくしながら付いてくることね。ウフフ」

 

すっと俺たちの前に出て、歩き始めた水銀燈。水銀燈の扱い方が段々とわかってきたぞ。左腕にがっちり引っ付いている三葉になるべく安心させてやるよう一度大丈夫だぞと呟くと、三葉の腕の力が、少しだけやわらかいものになった。蒼星石も、さっき歩いていた時より強めにコートの裾を引いているが俺が歩き始める同じように、歩み始めた。蒼星石は結構平気そうだな。離れないようにといった感じか。

 

 

 

 

 

 

 

 

ひゅ~どろどろどろどろっとさっきも聞いていた音楽が聞こえてくるのだが、怖さがさっきまでの比じゃない。胸の奥のどくんどくんという心臓の音と同じような速さでシンクロしてくる。人の不安を煽る、特別な力でもあるのだろうか。

 

「な、何か居るわ」

 

墓などの飾りつけられた道を抜けると、コケが生えた木で出来た格子の端っこで体育座りをした、黒い髪の長すぎる、白い装束を着た女の幽霊。それが、なにやらぼそぼそと…

 

「…のぉ…な…のぉ…ど…に…たのぉ…」

 

呟いている。自分の手のひらが、軽く汗ばんだのが分かった。

 

「ななな、何を言ってるのよあ、あ、あんた」

 

お化けに声かけてどうするんだよ。さっきから後ろで見ていたが水銀燈の腰が引けまくって、格子からめちゃくちゃ離れた場所をじりじりと歩いている。だが何回かお化け屋敷に来たことのある俺には、この幽霊が何をしてくるか。大体予想できていた。そう

 

水銀燈の足が、曲がり角に差し掛かった瞬間。

 

「ないのよぉ……私の目があああああ!!!!」

 

「「「きぃいいいいやぁぁああああ!?」」」

 

ダンと大きな音を立てて立ち上がると、ガシガシっ!!っと一気に近づいてきて格子を揺すり始める女の幽霊。目が、無い!目のところがくぼんでいて、抜き取られたみたいに見える。分かってても、わかってても怖いぞこれ!?水銀燈なんかはさっきまでの調子も失くし、数歩、はじけるように戻って俺の膝元にくっつき、ぐいぐいと膝の裏を押して進め進めと促してくる。てかみんな押しすぎだ!

 

ばくばくとした心臓で押されるがままにして格子と幽霊女から遠ざかる。まだ格子を揺らしている女がこちらをずっと見ているのがまた怖い。

 

「は、はは、早くでましょう?お兄様ぁ…」

 

ビクビクと震えながら精一杯俺の膝を押す、水銀燈。ごめん、めちゃくちゃ可愛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、数々の罠(トラップ)が俺たちの行方を阻んだ。釣られたこんにゃく。突然地面から出てくる男。最後尾だからと安心していた蒼星石を後ろから追いかけてくる謎のゾンビ男。執拗に狙われる水銀燈。その度に悲鳴が俺の鼓膜にダメージを与え。腕はバキバキになるんじゃないかというほど締められる。だが内心、平気な顔をしていたのに涙目になった蒼星石に大変満足した。

 

「あ、もうすぐゴールよぉ…」

 

「う…わ…あああぁああ!」「まて…ぇぇぇええ!」

 

「「「きいぃいいやあああああ」」」

 

謎の声とともに、壁を突き破って出てくる複数の腕。それがうねうねと左右の道から飛び出して暴れ狂う。それから逃げるようにして俺たちはお化け屋敷を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かった。悪かったって。少しは機嫌直してくれよ水銀燈」

 

「水銀燈、あれはああいう恐怖を楽しむ施設だったんだよ。別に良いじゃないか」

 

「冗談じゃないわよ!もう二度と!二度と行かないわ!今度会ったら、あいつらただじゃおかない…!」

 

中庭を抜けた教室。普段授業をするこの場所も。今日はいくつかの教室が解放され、お客さんのために休めるスペースとなっている。そこに、色々と屋台のものを買い込み、俺たちはくんくんのショーまでここで待つことにした。焼きそばに、フライドポテトの定番品から、トッポギやチュロスと言ったマイナーなものまで色々と売っていた。しかし、あいつら、というのはお化け役の人達のことだろうか。うーむ、実際にお化けの方が出てきたら、ただじゃすまないのは水銀燈だろうに。それくらい、本当に迫力があった。周りがあれだけ騒ぐから逆に冷静になれたが俺一人だけだったら、そりゃもうびびりまくってただろう。怖すぎてリタイアする人も居るそうだし。

 

「マスター。それは?」

 

「これか?これは揚げパンだよ。食べてみなよ」

 

俺の持っていた小さな揚げパンの袋を広げると、蒼星石のほうへと向けてやる。まじまじと興味深げに見た後、すっと一本もって行き。小さな口でかぶりついた。俺の隣に座っている水銀燈にも袋を広げて渡してやると、向こうは一瞬こちらの顔色を見たがぷいっと顔を逸らして机の上のフライドポテトを食べはじめた。こういう素直な勧め方じゃ絶対食べないんだよなぁ。

 

「へぇ、カリカリッとしてて、おいしいね。マスター。」

 

「だろ?揚げパンが給食で出たときはみんなのテンションはマックスだからな。三葉もいるか?」

 

「うん」

 

きな粉のかかった、揚げパン。シナモンとか抹茶とか、学生なりに色々と工夫して種類が揃えられていたが、素直に砂糖ときな粉のかかったものを買った。カリカリッとした外面と、ふわふわっとした中身との調和が良い。みんなでわいわい食べ物の食べ比べをしながら、くんくんのショーが始まる30分前まで俺たちは束の間の安息を過ごしただった。

 

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