ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター! 作:雨あられ
一通り台所の説明も終わり、今度はローゼンメイデンについて尋ねてみた。蒼星石はローゼンメイデンの7体のうち6体とは既に面識があるらしく、危険で好戦的な第1ドール以外とはそこそこ良好な関係になっていたらしい。てっきり姉妹と言ってもみんなが嫌いあったりしているのかと思った。
嫌いあっていると勘違いした原因はそのアリスゲームとやらにあった。アリスゲームは決着がつけばみんな元通りになったり、次また別のゲームをしたりする本当に遊戯か何かだと思っていたが実際は全然違うらしかった。ゲームなどと言っているが、ローザミスティカを奪うのはそのドールを殺すのと同義。つまり姉妹でお互いを壊しあうのがアリスゲームなのだ。とったローザミスティカを返したりはしないらしい。それに、壊れるともう2度と元には戻らない。仲良しの姉妹同士がそんなことするなんて。悲しすぎる気がした。
「そのアリスゲームはいつはじまるんだ?」
「ローゼンメイデン全員が目覚めたときです。僕はいつも翠星石という双子の姉と目覚めるのですが。今回は一緒じゃないようですね…」
きょろきょろと改めて辺りを見回す蒼星石。
「あぁ、ここに置いてあったのは蒼星石の鞄だけだったよ。それにしても、双子?皆が姉妹じゃないのか?」
「はい、皆お父様に作っていただいた姉妹です。ですが、皆別々の時期に、違うコンセプトを持って作られました。僕と翠星石だけは同時期に一緒に作られたから双子なんです。なので、作られて目覚めたときも、過去のアリスゲームで目覚めたときも、いつも一緒だったのですが…」
カップを持って、顔を曇らせる蒼星石。透明な液体を眺めている碧色の瞳に悲しい影がよぎった。
「どういうお姉さんだったんだ?」
「そうですね…翠星石は人見知りで、不器用で、でも本当は甘えん坊で…生き物に対する優しさなら、彼女が姉妹で一番だと思う。彼女は、双子だけど僕にないものをたくさん持っているよ」
そういうと少し蒼星石は笑った。
「蒼星石は、翠星石のことが好きなんだな」
「はい。大事な双子の姉ですから。」
「じゃあ、その、アリスゲームでもしも翠星石と戦うようなことがあればどうするんだ?」
「それは…いえ、そうですね。僕は、彼女と戦うでしょう。このローザミスティカをかけて」
胸の服を握り締め、悲しそうに語る蒼星石。こんなの、間違ってるんじゃないのか。
「なら戦わなければいいじゃないか」
「え?」
「その、ローゼンさんと言う人が蒼星石にとってはお父さんで、大切な人らしいけど、姉妹同士を煽って戦いわせようとするなんて、正直おかしいと思う。まるでゲームを楽しむ愉快犯だ」
「!」
蒼星石の目が、くわっと見開いた。綺麗なオッドアイには憤りの色が見える。
「あ、いや、すまん」
「いえ…確かに、客観的に見るとそうなのかもしれませんね。でもそれが、お父様の望みなのだとしたら。僕は。」
「蒼星石…」
俺たちは無言でカチッカチッという時計の音だけを聞いた。心配するほど大事な、好きだといった双子の姉さえも壊すといった蒼星石。それは、正しいとは思えない。でも、蒼星石はきっとやるだろう。あの目は、決意を秘めている目だった。ジレンマのようなものを感じて、俺の胸に出てきた白い霧みたいなのに、もやもやした。
くぅ~
シリアスな空気なのに、俺の腹の虫が勝手にないてしまった。そうだった。昼から何も食べていない。蒼星石は目をパチクリさせて俺のほうを見ていた。赤くなった頬をみられないよう目を逸してハーブティーを流し込もうとしたが。
きゅ~…ぅ
また今度はさっきより少し大きめに腹がなってしまった。顔を真っ赤にして蒼星石を見ると、もう先ほどのような悲痛な顔はしておらず。目を細めて微笑んだ。
貰ってきたスパゲティをレンジで温めて腹に押し込むとすっかり虫は治まった。蒼星石にも要るかどうか聞いたが、僕たちはそこまで食事を取る必要はないから、と言って断られた。何でも食べて味や食感を楽しんだりはするらしいがエネルギーを吸収する目的は無いらしい。マスターとなった人間から吸収するほうがよっぽど力が出るとか何とか。ただ、食事をとる行動自体に何か意味があると言っていた。…食べたものはどうなるのだろう。
空腹はなくなったが、お腹が満足すると疲労もあるのか睡魔が徐々に襲ってきた。目がしょぼしょぼしてきて、頭が上手く働かない。
「蒼星石。寝るときはどうするんだ?」
「はい、僕たちドールは鞄の中で寝ます。ですから寝床は不要です。」
「ん、そうか。その、悪いのだけれど今日はもう寝てしまって良いだろうか?」
「はい。」
元気に返事をする蒼星石。それを聞いて微笑で返すと歯を磨こうと立ち上がった。
「マスター!伏せて!」
と叫ぶと、突然席を立ち、ダッと俺に突撃して来る蒼星石。
力の流れ通りに俺は姿勢を崩し、右肘から地面に激突した。何をするのだと俺に覆いかぶさる蒼星石を見ようと、顔を起こしかけた、その時だった!
ドバッザザザッと居間の一番大きな窓から黒いカラスの羽のようなものが大量にこちらに向かって飛んできた。先ほど俺の居たところを通過して壁にサクサクサクっと、何十本もの羽が突き刺さる。
なお部屋中に黒い羽が舞っている。俺と蒼星石は立ち上がると蒼星石は俺を庇うように俺の前に立ち、窓の方を睨んでいた。
暗い闇だけを映していた行き違い窓、突然、パァアアと眩しいほどに輝きだし目がくらむ。右腕で目元を覆うと、その光の中からひどい猫撫で声が聞こえてきた。
「ウフフフフフ、随分と久しぶりね、蒼星石ぃ。」
さらに黒い羽がわっと舞って、光の中から出てきたのは銀の長髪、鋭い赤い目、白と黒で構成された逆十字が印象的な編み上げドレス。背中の真っ黒な翼から羽がぶわっとまい、光が消えると暗闇から出てくる小さい少女。その精巧に作られた外見も、人間にしては小さすぎる身長も、彼女が蒼星石と同じ、ローゼンメイデンの一人だと言う事を裏付けていた。
「水銀燈…!」
「ウフフ、元気そうね蒼星石。あら?今回は姉の方は一緒じゃないのね…。せっかく二ついっぺんにローザミスティカを手に入れられると思ったのにぃ。」
水銀燈と呼ばれたドールは居間のちゃぶ台の上にふわっと舞い降りた。口元に人差し指を当て、不適な笑みを浮かべている。
その様子をみて、蒼星石はいらついたように手を払い、声を張り上げる。
「水銀燈!君に渡すものなんて何も無い!」
「あなたは相変わらず色気がないわねぇ。あら、そこの冴えない男があなたのミーディアムかしら?」
「!マスターに手を出すのなら許さないよ。」
ぴかっと蒼星石の手元が光ると、蒼星石の背丈ほどもある、金色の鋏が出現した。それを右手で持つと、先端を水銀燈に向けて威圧した。
「一人ぼっちのあなたに一体何が出来るのかしら?ウフフフ。」
バサっと背中の羽を広げると、まるでダーツのようにひゅんひゅんと黒い羽を俺たちのほうへと飛ばしてきた!狭い場所だったが、蒼星石は金の鋏を両手で持つと、ぶんっと鋏を縦に振り下ろす。すさまじい突風がおこり、羽を全てはじきとばした。すごい威力だ。さらに羽を巻き上げたまま突風は水銀燈に向かって飛んで行く。が、黒い羽で自身を覆うことでそれを簡単に防いでしまった。すっと羽が開き、水銀燈は口端を吊り上げたまま甘ったるい声を出した。
「アハハハハ、慌てちゃって…まぁ、今日のところは挨拶だけよ。まだドールも全員でそろっていないもの…。
それまで私のローザミスティカ。ちゃ~んとしまって置くのよぉ?」
「っく、君は…!」
くるりとまわると、人差し指を唇に当てて、ウフフフフと笑いながら窓の中に飛び込んだ。光が彼女を包み込み、消えていった。まるで嵐のような奴だった。
「大丈夫ですか?マスター。」
鋏を消すと、振り向いて心配そうに尋ねる蒼星石。
「ああ、蒼星石のおかげで助かったよ。ところで、今のは…」
「はい。彼女はローゼンメイデン第1ドール、水銀燈…」
あいつが。ドールの中で最も好戦的で、最も危険な存在。蒼星石は彼女の消えた窓をただじっと見ていた。
それにしても。
「これ、やっぱり俺が掃除するんだよなぁ…」
「え?あ!」
部屋中水銀燈の飛ばした黒い羽が落っこちていて、蒼星石の起こした突風が棚にある本や書類を吹き飛ばしていた。寝るのはもう少し先になりそうだ。がくっと崩れ落ちると自身の不幸を呪った。
なんとか、掃除も終わった。蒼星石も甲斐甲斐しく手伝ってくれたので思ったより早く終わった。申し訳なさそうにしている蒼星石の頭を撫でて励ます。気づいたのだけれど、蒼星石は結構ネガティブなところがある。負い目を感じやすいというか、だからそういうときには頭をなでてやることにした。人形だからかなでられたり抱っこされると嬉しいのだと本人も言っていたし、問題ないだろう。めぐもごちゃごちゃ言い出した時に、頭をなでればおとなしくなるし。
掃除が終わると日が昇り始めていたが、大学も休みなので爆睡してしまうことにした。蒼星石にその旨を伝えると、大きくうなづき、起こさないと約束した。
明日はめぐの見舞いに行くくらいだがそれは昼の1時から。たとえ11時くらいまで寝ていたとしても余裕である。ふわぁとあくびをすると、ぼふっとベッドに体を倒し目を瞑って意識を手放した。
寝過ごした。今、時計は昼の4時を指しておりセットしてあった目覚ましは止まっている。蒼星石は俺の部屋の隅っこで正座して俺のことを見ていた。
「お、おお!?」
「おはようございます。マスター。その、料理を作っておこうかと思ったのですが、どれが使って良い食材だったのか分からなくて…」
「あ、あ、ああ。め、目覚ましがならなかったか?この…」
「え?ああ、マスターの眠りの妨げとなりそうだったので、止めておきました。」
ニコリと微笑む蒼星石。なんてこった。
まずい、まずいまずいまずい。まさかここまで爆睡してしまうとは思わなかった。昨日のどたばたがあったにしろ、寝すぎた。急いで服を脱ごうとし、
「きゃ、きゃぁ!ま、ままま、マスター!」
「え?ああ!?すまん。」
手で顔を覆い隠す蒼星石。しかし、本を読んだりテレビをつけたり色々することはありそうなものだが、じっと座って待っているだけなんて、忠犬ハチ公のようなやつだ。いや、台所は兎も角、テレビや娯楽系のことは何も教えてなかったからそもそも無理だ。俺のミスか。っく、どうせなら起こしてもらえば…いや、起こさないでくれって頼んだのか。…あぁ、考えても仕方が無い。
「蒼星石、すまん!俺はちょっと用事があるからはやく家を出ないといけないんだ。だから、その部屋を…」
「は、はい。マスター。」
そういうと、顔を覆ったまま、たたたっと蒼星石は部屋を出て行こうとしたら、わっとドアに衝突した。いててっとデコを抑えながらふたたび駆けて出て行った。何だあの可愛い生き物。
ああ、くそ、まずいなぁそれどころじゃない。このままだと4時間の遅刻だ。めぐのやつになんと言われるか。いや、何を言わされるか分かったものじゃない。とにかく、俺は着ていた寝巻きをぽいぽいっと脱ぎ捨てると、青いジーンズと黒いTシャツに着がえる、上にネルシャツを羽織り、どたどたと洗面所へと走った。
顔をばしゃばしゃっと洗うと、タオルでばばっと顔を拭う。急いで歯ブラシに歯磨き粉をつけるて口を高速で磨いて行く。蒼星石に、簡単にテレビの使い方や、食材は基本的に何を使っても良い、食べても良いことを伝えると、洗面所に戻り、口をゆすぐ。ダッフルコートを持って、財布をぽけっとにねじ込むと、行ってきます!と駆け出した。
後ろから。行ってらっしゃいマスター。という蒼星石の声が聞こえた。あぁ、何か良いなぁこういうの。
俺は妹のめぐが入院している有栖川大学病院行きのバス停まで休みなしに走ると、ちょうどバスが来たところだった。急いでそれに乗り込むと、荒れた呼吸を整える。大学が休みの土曜日には、バイトも入れずにめぐに会いに行くことにしている。時間があれば、他の日にも行くが。土曜日は絶対だ。妹は昔から心臓の病で何度も死の宣告を受けているほどの重病だ。…が凄まじい生への執着で生き残っている。お医者さんも本気で驚いていた。綺麗で人懐っこい可愛い妹なのだが少し怖いところがあると言うか…と、そろそろ病院に着きそうだな。バスを降りると、大きな白い建物へと足を進めた。足どりは、非常に重かった。
「め、めぐ具合はどうだ?」
めぐの居る病室にびくびくしながら入る。めぐは開け放った窓をじっと見ているだけで、何も言わない。夕焼けに照らされ、風がめぐの長い黒髪を揺らしている。俺は、思わず閉口してしまう。ああ、これ、めちゃくちゃ怒っているパターンだな。
「めぐ?そのご、ごめんな。」
ベッドの横まで行き、声をかけた瞬間。
ばっと身を乗り出し、俺の胸倉を掴まれた。
そのままほっそりとした細い腕なのに、凄い力で顔をぐいっと引き寄せられた。俺の目を、めぐの真っ黒い光沢の消えた目の中に入れんばかりの距離だ。目と目がくっつきそうなほどに近い。いや近すぎる!
「…んで」
「え」
「なんで!遅れたりしたの!?私、朝からずっと楽しみにしてたのに!この一週間、ゲロみたいな病院食もお兄様に言われたとおり我慢して食べていたのに、ねぇ。なんで何でナンデっ!?」
「」
がっくがっくと胸倉を掴まれたまま首を体を前後に揺らされる。正直結構しまっていて呼吸が出来ない。とても病気を患っているとは思えない力だ。
「あ」
すっと左手でめぐの頭をなでてやると、次第に掴まれた手の力が抜けていきぱっと手を離した。
「ごめん。ごめんなめぐ。ちょっと、昨日色々あって疲れちゃって。本当、ごめん」
「……お兄様」
「本当にごめん」
「……」
暫く無言で俺の目を覗き込んでいためぐだったが、少しずつめぐの目は光沢を取り戻し、かわいらしい微笑みまで見せてくれた。さっきの今でここまで豹変するのだから。わが妹ながら恐ろしい一面を持っている。妹は、ちょっと、いや、大分寂しがりだ。昔から俺には懐いてくれていたが、他人に厳しいというか、冷酷な面があるというか。悪い奴ではないと思うのだけれど。とにかく、怒らせると怖い。
などと思っていると、あれ?そう、めぐが何かに気づいたかのような声を出した。頭を撫でていた左手をガシリと掴むと、目を見開いて尋ねてくる。
「……お兄様?なんで……左手の薬指に指輪なんてモノ?
お兄様は普段そんな無駄なモノをつけたりしないし、左手の薬指ってことはつまり……うふふ、何処のどなたか知らないけど、私のお兄様に手を出すなんて……」
あ、ぁぁぁ……!?
「ねぇ、お兄様。私、一度ご挨拶をしたいので是非、ぜひ!連れてきてください。うふ、うふふふふふふふふふ。でも、その前に、はやく、はやくはやくそんな汚らわしいモノはずして捨ててッ!!早くッ!!!」
「い、いてっててて!やめろめぐ!?」
ぐいぐいと俺の薬指を引っ張り出すめぐ。その瞳は狂気の色に染まっている。やばい、やばいぞ、これは蒼星石の話しでは、力技ではとても外すことの出来ない代物だ。が、めぐならこのまま指の肉ごと削ぎ落としかねない。こうなったら、適当にごまかすしかない!
「ま、ま、まて、めぐ!これは……」
「あら、でもこれ……?」
きょとんとした顔で、ぱっと手を離すめぐ。俺はじんじんする左手の指をぶるぶるっと振るうと、めぐは言葉を続けた。
「天使…!?お兄様のところにも!?」
「へ?」
そういうと、自らの左手の薬指を見せ付けるめぐ。そこには、俺と同じように薔薇の模様が入った指輪がついていた。
「ああ、よく見たら同じ柄。何だ、これは天使さんがお兄様と私のためにくれたエンゲージリングだったのね。ふふふふ。天使さん、とても可愛らしくて私、一目で気に入っちゃった。さすがは水銀燈、私の天使」
手を合わせて満面の笑みをうかべるめぐ。開いた口が、元に戻らない。めぐがローゼンメイデンと契約していた?しかも、それは昨日俺たちを襲った。
「あ、天使さん」
「え」
「…あ」
黒い、黒い羽を生やしたドールが窓の外を、夕焼けの空を飛んでいた。俺と目があうと、ぴたりと硬直して固まる。まさか、まさか昨日の今日でまたローゼンメイデンの第1ドール、水銀燈と再会してしまうとは……!