ヤンデレの病弱妹に死ぬほど愛されているお兄ちゃんは蒼星石のマスター!   作:雨あられ

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第20話

埃っぽい祭壇の上、その背後のレリーフからは冬の弱弱しい日差しが差し込む。しかし、暖かいなんてことはない、むしろ壁や天井に空いた穴から通り抜けていく冷たい風のせいで、この教会全体は外よりも寒いくらいだった。

 

しかし……落ち着く。どうしてここは、こんなにも落ち着くのだろうか?

 

孤独が?暗闇が?静寂が?それとも、私とめぐが……出会った場所だから?

 

違う。違うはず。遠い遠い、遠い記憶の中で、私は、確かにここに居たことがある…だから……。

 

「!ッ誰?」

 

「ひ!?か、カナかしら!金糸雀かしら~!わわわ!何でカナだってわかったのに羽をとめてくれないのかしらー!!」

 

「…っチ」

 

五月蠅い奴。ドアの陰から姿を現したのは、ローゼンメイデン、第2ドール…金糸雀。こちらが攻撃を繰り出すのをやめると、ひどいのかしら!と名前の通り、ピーチクパーチク、甲高い鳴き声をあげる。どうして、こんな奴まで誇り高い薔薇乙女なのだろう。折角始まると思っていたアリスゲームが起こらなかった現状に、あのぬるま湯のような姉妹たちの団欒にイラついていた私には、その鳴き声は煩わしい。

 

「…何?言っておくけど、今の私は機嫌が悪いから」

 

「むぅ~~!なんなのかしらその態度~!

折角わざわざ水銀燈のお弁当持ってきてあげたのに~!もう帰ろうかしら!」

 

「…?」

 

おべんとう?とてとてと、私の座っていた祭壇まで駆け足で近寄ってきた金糸雀は、背中に背負っていた緑色の小さなリュックの中から、黄色い包みを二つ取り出して自慢げに

 

「卵焼きが、たーっぷりは入ったローゼンメイデン弁当かしらー!」

 

そう言って笑う。何よ、ローゼンメイデン弁当って…

そのままふわりと跳んで、隣に断りもなしに腰掛けると、強引に、もう一方のお弁当を私に押し付ける。

 

「なんなのよぉ…」

 

「まぁまぁ、ほーら美味しそう…かしら?」

 

ぱかりと中身を開いてみて、固まる。

 

横から顔を出して覗いて見ると、お弁当じゃない、不思議な匂いがしてくる。金糸雀の誇っていた卵焼きは、まるで焼ける前の石炭みたいで、お米は何をすればこんな色になるのかわからないが紫色に変色をしている。野菜はしなびて、ミートボールからは腐った牛乳のような変なにおいが…

 

「なー!なななな何なのかしらこれ~~!」

 

「…誰が作ったのよ、これ。」

 

「めぐや真紅たちが一生懸命作ってたのかしら」

 

なら納得がいく。しかし、お弁当何て冷凍食品ばかりのもの、どうミスをすればこんなモノが作り出せるのだろう。ある意味才能があるのかもしれない。

 

「き、きっと見た目が良くないだけで味は良いって言うパターンなのかしら!」

 

「あ、まちな…」

 

「ギャーー!!」

 

フォークでぶっ刺した、その黒い卵焼きを口にした瞬間、喉元を押さえてのたうち回る金糸雀!毒物を飲み込んだ時の反応に近いそれは、少なくとも、食べ物を口にした時の反応ではない!一体、ど、どんな味が…!?

 

み、水、それよりも水を!!

 

でもここには水なんて…川か公園までくみにいくとなると間に合わない……どうしようかと思っていると、メイメイとピチカートがチカチカと金糸雀のリュック赤い水筒のようなものを持ってきた。

慌てて蓋を開けて、コップにした蓋に中身を注ぐ。湯気は出ていて熱そうだが、どうやら、安全な紅茶のようだ。

 

「なぁにをやってるのよ、おばかさん!」

 

「あ、ありがとかしら!」

 

「あ、まだ熱…」

 

「~~!!」

 

今度は声にならない声を出して、べっべっと舌を出して熱そうにする金糸雀。全く、どうして、こんなに世話の焼ける…

 

「っち、かしなさいよ…ふーふー…ほら」

 

「ん…んぐ……ふぅ…死ぬかと思ったかしら…」

 

冷ました紅茶を飲み干すと、ようやく、金糸雀の顔からは苦痛の色が消えて、顔色も幾らかよくなる。そして、再びお弁当の方へと目を向けて、自らを苦しめていた黒い物質を苦い顔してフォークでつつく。

 

「う~、折角みんなが作ってくれたお弁当だけど、これは食べられないのかしら~。何だかじゃりじゃりして、ぱさぱさしてて、舌の上に乗せると刺激が走って思い出すだけで………そうだ!

今日の所は、三葉の所に行ってごちそうしてもらうかしら!それじゃあ、水銀燈。御機嫌ようかしら~」

 

「…もう来るんじゃないわよ!」

 

すくっと立ち上がった金糸雀は、お弁当のふたを閉じて封印を施すように厳重に包みをすると、それを置いて、傘を広げると、空いている教会の天井から何処かへと飛び去って行ってしまった。

 

「どうすんのよ、これ…」

 

めぐや、真紅たちが作ったと言われるお弁当。私の持っていた包みを開けると、やはり、そこには金糸雀と似たようなお弁当の箱が出て来て、蓋を開けると、腐敗臭が漂ってきた。こんなもの、テキトーにその辺に捨てて…

 

捨てて……

 

「捨てる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「金糸雀、大丈夫かなぁ」

 

「いくらあのおバカな金糸雀でも、あんな食べ物食べるわけねぇです。食べたとしても、勝手に勘違いして持っていた方が悪いですぅ」

 

淡い日差しが差し込む…午後15時。

騒々しいお昼ご飯を終えた僕たちは、片付けを終えて、食後のティータイムを行っていた。

今朝は、どこかへと飛んで行った水銀燈のためにお弁当を作りたいと言う、めぐさんの提案で、僕たちはみんなで力を合わせてお弁当を作ることになった。

 

基本的に、翠星石が料理の指揮を執っていたのだけれど…

……結局、レンジで大爆発を起こしたり、食材を駄目にしてしまったりして、納得のいくものはでいなかった。

失敗作をお弁当に詰めて、見た目だけでも…と思ったのだが、何を勘違いしたのか、お弁当作りに参加していなかった金糸雀は、出来たのかしら!?じゃあ持ってくのかしら!と、失敗作をかっさらって飛んでいってしまった。

 

その後、お昼は皆でカップラーメンを食べた。

めぐさんには、もっと体に良いものを食べてほしかったけれど、普段は食べられないカップラーメンの方が良いと言うのだから仕方がなかった。今は、薬を飲んで、ソファの上でブランケットをかぶってすぅすぅと眠ってしまっている。

残ったのは、僕と、翠星石と、真紅…

 

「蒼星石、初めからあなた一人で作って居ればよかったはずよ?なのに、私にまで手伝わせて…」

 

「まぁまぁ良いじゃねぇですか、結局上手くは作れなかったけれど、久々に姉妹みんなで料理を作って、なんだか楽しかったですぅ」

 

「うん、たまには、悪くないだろう?」

 

「…そうね」

 

そう言って微笑を浮かべて紅茶を口に含む真紅。マスターが出かけてから、第7ドールは、雪華綺晶は姿を現さない。おそらく、マスターの近くに居るのだろう。

…心配だったけれど、彼女は既にマスターと「契約」してしまった。その事実は変わらないし、マスターが今更彼女との契約を破棄するとも思えない。それに…マスターはきっと彼女を悪いようにはしない。僕がそうであったように、彼女を…

 

「蒼星石?」

 

「あ、ごめん、何かな」

 

「いえ…そろそろ、私達は帰るのだわ」

 

「そうですねぇ、思ったより、居座っちまったですぅ」

 

「え…もう行くのかい?」

 

「ええ、第7ドールや新しく現れたドールの事も気になるけど……のりやジュンが心配しているわ」

 

そうだ。彼女たちにも、守るべき場所、帰るべき場所があるんだ。ここに居てくれたのは、あの第7ドールや謎の白薔薇のドールを警戒してのこと…。事実、彼女たちが居てくれたおかげで、僕は久しぶりに張っていた緊張がとけていた。

 

「すまねぇです蒼星石…翠星石が居てやらないと、きっとおじじたちも心配するですぅ」

 

「そうだね…うん、じゃあ、また…」

 

「ええ、めぐにもよろしく言っておいて頂戴」

 

「また暇になったらお菓子でも持って遊びにくるですぅ」

 

「うん」

 

去り際にそう言い残し、2体のドールは椅子から飛び降りると、洗面台へと足を向け、鏡の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静かだった。

 

彼女たちが居なくなってからは、ただの一つも音が聞こえてこないような、そんな静かな空間に思えた。

そこで、いつものように家事を淡々とこなしていると、次第に夕方のオレンジ色の光が窓から差し込んできていた。いつもよりも、時間の流れが速い。

ソファに目をやると、そこには変わらず、めぐさんが規則正しい呼吸を繰り返しているだけで、他には暖房や、時計の音くらいしか、聞こえては来ない。

 

「マスター……」

 

霜のついた窓に軽く手を触れて、外を眺める。学校帰りの高校生や、自転車に鞄を乗せて走る小学生。日が沈むと、みんな、帰るべき場所に帰って行く。そして、マスターも。アルバイトのある日だからいつもよりも遅かったけれど、もう、そろそろ……。

 

「…蒼星石?」

 

「あ、はい」

 

めぐさんが、起きた。

窓から手を放して振り返ると、手の甲で眠そうに瞼をこするめぐさん。金糸雀のほっぺをつっついて遊んだり、翠星石の作るトンでも料理の助手などをして楽しんでいた彼女だったが、疲れが溜まったのか、今の今まで目を覚まさなかった。だから、今のが、彼女と交わす久しぶりの会話である…。

 

「窓、開けてくれない?」

 

「…窓ですか?しかし、今日はよく冷えます。お体に障りますから…」

 

「だからじゃない、うんと気持ちが良いわよ?きっと」

 

「…わかりました」

 

彼女の考えていることは、よくわからない。言われた通りにすれ違い窓を開けると、冬の凍てつくような冷たい風がびゅうっと、入り込んできて、カーテンを揺らす。こんな寒い日に、自分から窓を開けるだなんて…。

 

「網戸もよ、蒼星石」

 

「…はい」

 

このままでは、彼女は風邪を引いてしまう。それどころか、病状を悪化させるのは目に見えている。せめて暖かいハーブティーでも飲んでもらおう。

彼女の横を通り過ぎようとした、瞬間!

 

「いいえ、いらないわ。それよりも…」

 

「…あ」

 

不意に、彼女に持ち上げれられて、抱きしめられた。

初めてだった、彼女が僕を抱いてくれたのは……。

膝の上に僕を乗せると、白い透き通った手で、僕の頬に手を当てる。まるで、包み込むように…

 

「蒼星石が暖めてくれれば、いいわ」

 

「僕なんて、暖かくは…」

 

「そう。じゃあ…私が暖めてあげる」

 

「あ…」

 

確かに、今までブランケットを被って寝ていた彼女は僕よりも暖かい。しかし、これでは僕が彼女の体温を奪ってしまう…

 

「あの、暖かいお茶をお入れしますので」

 

「だーめ」

 

「でも…」

 

「ありがとう、蒼星石。でも、今日はとても調子が良いの」

 

「それは…何よりです。ですが…あ」

 

僕の被っていた帽子を外して、手渡されると、今度は優しい手つきで僕の髪を撫で始める彼女。本当に、調子が良いみたいだった。それに…僕は、今まで彼女に拒絶されていると思っていたから、この行動はある意味、予想外であった。

 

「…綺麗な髪ね、お兄様が…梳いてくれているの?」

 

「はい、時間がある時に…」

 

「へぇ…」

 

今度は、指の腹で髪を梳くのではなく、撫でる。少し、頭が揺れて、揺れる前髪に入らないようにと目を閉じると、心地よい。

 

マスターは、何度か僕の髪をクシで梳いてくれたことがある。いつもみたいに、ぶっきらぼうに撫でられる時とは違って、ほとんど何もしゃべらずに真剣に髪を梳くマスターが、何だかちょっとおかしかったのを覚えて居る。

 

「お兄様…昔は下手だったのよ」

 

「下手?マスターが?」

 

「そうよ、私をいっぱい傷つけて、上手くなったの」

 

「でも、めぐさんの髪はとても綺麗です。僕よりも長くて、女性らしい、素敵な髪だ」

 

「…」

 

「きっと、めぐさんの事が大切だから、マスターも一生懸命髪の梳き方を覚えたのだと、僕はそう、思います」

 

「…うん」

 

と、そこで、彼女は髪を梳くのをやめて、僕の事を、強く、強く抱きしめはじめた。

その力は、次第に増していき、どんどんと…強く……く、苦しい…

 

「あの、少し、痛い…です」

 

「…私って、馬鹿ね」

 

「え?きゃ」

 

今度は、痛く…はない。だけど、横になった彼女は、狭いソファの上で、僕に腕枕をするように、ぎゅっと、抱きしめて、めぐさんの顔が、ちょうど、僕の隣へとやってきて、本当に、近い。

めぐさん…どうしたのだろう?

 

「可愛い。蒼星石、あなたって、本当に可愛い」

 

「あ、あの?」

 

「……蒼星石」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまー」

 

うー寒。バイトを終えて、約束通り、甘いスイーツを洋菓子屋で買ってきた俺は急いでドアを閉めると身体を震わせた。雪華綺晶のやつが何を気にいるかわからなかったので、タルトやらモンブランやら手当たり次第選んで、奮発してきたのだ。って、寒いなぁ。部屋の中。それに、もう夜だというのに部屋の電気が付いていないじゃないか。もしかして、もう寝ちゃったのか?いや、そんなはずは。

 

「ただいまー?」

 

返事がない。もしかして、隠れてるのか?いつもなら、蒼星石が駆けて出迎えてくれるし、めぐが居たら、すぐに返事の言葉が帰ってくるのに。って、窓、空いてるのか。道理で寒いと…ぱちっと、電気をつけると、そこには。

 

「あ…」

 

ソファには、何故か、手を握って寝ている。二人の姿があった。この組み合わせは、何だか珍しいな…しかも

 

「良い笑顔だなぁ」

 

めぐも、蒼星石も今まで見たことがないほどに良い笑顔を浮かべていた。

二人は何かしら仲が悪かったわけではないが、こう、あんまり絡みが無かったような気がしていたから、新鮮な感じだ。

 

『マスター。…マスター』

 

「雪華綺晶」

 

ぶるぶると、携帯が震える。もう、すっかり雪華綺晶がこの画面の中に居ることに抵抗がなくなっていた。まぁ、バイト中はあれっきり静かにしてたし、割と聞き分けは良い…のか?

 

『マスター、約束通り、お話して、デザートを食べましょう?』

 

「ん、まぁ、もう少ししたらな。先にご飯にしよう。用意は…してないみたいだし、準備しないとか…」

 

スマホに映っていた雪華綺晶と話をしながら、がらがらと窓を閉じる。しっかし、なんだよなぁ。この、画面の中に居るって言うのは色々と不便で仕方がない。いや、好きでいるわけじゃないんだよなぁ。

 

「身体か」

 

『マスター?』

 

「いや…雪華綺晶、何か、食べたいものなんかある?」

 

『食べたいもの…?それより、マスターと、お話…』

 

「お話は後で」

 

『…マスターの手料理』

 

「ん。あー、オムライスで良いか?」

 

『オムライス?』

 

「おう、旗付きだぞ」

 

『はた…?』

 

疑問符を浮かべる雪華綺晶を画面越しに撫でる。ま、説明するより、見せた方が早いか。ふと、冷たくなった窓に手を触れて外を眺めてみると、黒い空間には、白い雪が、ちらちらと降り始めたところであった。

 

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